人材育成の観点から考える、ジョブ型雇用の導入

2021.06.26

本コラムを読んでいる方の中には、「ジョブ型雇用に合わせた教育を考えるように」と言われて困っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。そのためにやることは多々ありますが、筆者は大きく2つの論点に整理できると考えています。1つ目は、さまざまな施策とのねじれをどう解消するか。2つ目は、ジョブ型雇用の推進を後押しできているか、です。

 

本コラムでは、1つ目の論点を主に解説していきます。2つ目の論点については、動画で解説していますのでそちらもぜひご覧ください。

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ジョブ型雇用がもたらす教育への影響

 

なぜ日本企業では、ジョブ型雇用の導入が難しいのか

ジョブ型雇用の導入に当たり、まず考えるべき点は他施策との矛盾(ねじれ)です。特に日本企業では、ねじれが発生しやすいと言われています。

なぜかというと、日本の雇用システムの総体が、ジョブ型に適合したものになっていないからです。日本型雇用による新卒一括採用・終身雇用という世界観は根強く、低い人材流動性と人材情報の閉鎖性の原因となっています(図1)。

図1:日本企業のジョブ型導入困難さー止められない日本型

図1:日本企業のジョブ型導入困難さー止められない日本型

 

日本の社会環境が、日本型雇用と親和性がある点も理由の1つです。たとえば日本の大学教育のカリキュラムは、職業観・キャリア観を日本型雇用と結びつけて考えやすい構成になっています。

一方欧米では、長期で自分の専門性を磨く仕組みが整っています。たとえば公的な職業訓練制度やインターンシップ制度。さらに前提として、幼少期から自律したキャリア観を持つよう教育されている、という点も見逃せません。

企業としても社会としても、欧米と日本では環境・仕組みが異なっているため、日本社会におけるジョブ型雇用の導入は難しいのです。

ジョブ型雇用の導入によって生じるねじれ

一方でマクロ環境の変化に対応するため、ジョブ型への転換を余儀なくされる企業も多いでしょう。その結果日本では、ジョブ型の部分導入が加速すると考えられます。

部分導入、すなわち「項目」「階層」「職種」のいずれか一部に、ジョブ型雇用の考え方を導入するというものです(図2)。

図2:ジョブ型の一部導入

図2:ジョブ型の一部導入

 

たとえば項目であれば、評価・処遇だけでもジョブ型の思想に合わせる。階層であれば、管理職だけでもジョブ型にしていく。職種であれば、技術職だけでもジョブ型にしていこう。このように、まずは一部分だけ導入していく企業が増えていくのではないでしょうか。

部分導入が進んだ結果、ねじれが生じます。なぜかというと、ジョブ型というのはエコシステムであり、すべてがつながっているからです。一部分だけ導入しようとすると、他の部分と矛盾・ねじれが生じてしまうのです。

このねじれを解消するようなサポートこそ、人材育成の観点から手を打たねばならない施策です(図3)。

図3:一部導入に伴うねじれの例と、その解消に向けた教育サポート例

図3:一部導入に伴うねじれの例と、その解消に向けた教育サポート例

 

【項目へ部分導入する場合】

たとえばジョブ型の思想を導入しつつ、新卒一括採用と定年退職は継続したとしましょう。

新卒一括を継続した結果、社員の即戦力化は達成できず、新入社員のリソースがだぶついてしまいます。また定年退職を継続すると、社内で成果主義志向が高まらず、生産性が上がりにくいというねじれも考えられます。

このねじれを教育でサポートする場合、たとえば自らの専門性を考えるようなキャリア教育、適切なOJT推進のためのマネジメント教育、ライン責任者とメンバーが志・キャリアを丁寧にすり合わせるための対話教育、といったものを用意することが考えられます。

【階層へ部分導入する場合】

たとえばジョブ型を管理職層のみ導入し、一般社員は日本型を継続したとしましょう。

いくら管理職層とはいえ、今まで日本型で働いてきた人が突然、「あなたは管理職なので、これからはジョブ型で働いてください」と言われても戸惑ってしまうでしょう。また管理職層に昇進すべき人を見定めにくくなる、という弊害も生じます。

このねじれを教育でサポートする場合、たとえばジョブ型が必要な背景・理由を身につけるための経営視点の教育、マネジメントスキルを身につけるための選抜教育、といったものを用意することが考えられます。

【職種へ部分導入する場合】

たとえば技術職のみにジョブ型を導入し、他の職種は日本型を継続したとしましょう。

すると、異なる文化が同じ会社内に存在することになり、会社としての一体感や社員の帰属意識・エンゲージメントが高まりにくくなります。

このねじれを教育でサポートする場合、矛盾を社内に内包することの説明責任とジョブ型推進をやりきるための経営者の事業理解・胆力強化プログラムや、エンゲージメントを上げていくための社員向けのキャリア教育・ライン責任者向けの教育、といったものを用意することが考えられます。

おそらく日本において、ジョブ型雇用の部分導入は加速するでしょう。そのため、人材育成担当者に求められる役割は、部分導入によって生じるねじれを事前予測し、教育でサポートする体制を整えておくことなのです。

最後に

本コラムでは、ジョブ型雇用の導入による他施策との矛盾(ねじれ)について解説するとともに、ねじれ解消に向けた人材育成の打ち手を考察してきました。

日本企業において、ジョブ型の部分導入は避けられないことかもしれません。であるならば、その影響を予測し、事前に手を打っておくことが重要です。皆さんの会社で何ができるか、ぜひ一度考えてみてください。

なお、ジョブ型の導入にあたってもう一つの論点となる「運用推進を人材育成の観点からどう後押しするか」については、動画で解説しています。ぜひご覧ください。

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ジョブ型雇用がもたらす教育への影響

 

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【第1回】 【第2回】【第3回(本コラム)】

執筆者プロフィール
杉橋 諒輔 | Sugihashi Ryosuke
杉橋 諒輔

早稲田大学社会科学部卒業。グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA)修了。
大手金融サービス会社にて、企業のコスト・業務削減を支援する法人営業を経た後、営業本部・全社の企画業務を担う。その後グロービスに入社し、現在は、企業の人材育成・組織開発支援を行う法人営業部門のマネジャーとして、組織マネジメントに従事すると同時に、リーダーシップ領域のプログラム・教材開発にも携わる。
講師としては、思考領域・リーダーシップ領域を担当する。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。