上級管理職とは、経営の意思や方針を組織全体に浸透させ、複数部門や組織単位を横断しながら成果創出を担う管理職層(主に部長クラス以上)を指します。単なる業務管理に留まらず、経営と現場をつなぐ立場として組織の方向性を示し、人と仕組みを通じて戦略を実行していく役割を担います。
上級管理職は、経験を積めば自然に育つポジションではありません。現場で成果を上げてきた人材であっても、経営層に近い役割を果たすためには非連続的な成長が求められます。自然な役割転換に委ねるだけでは従来の成功体験に基づいた思考から脱却できず、期待される経営上の成果を創出しにくいのが実情です。
また、企業が上級管理職を確保する方法としては「外部採用」と「内部育成」という2つの選択肢がありますが、いずれも容易ではありません。なかでも、自社の固有の価値観や組織文化を深く理解し、かつ高度なスキルで成果を創出できる人材を外部から獲得することは、多くの企業にとって非常に困難です。仮に採用できたとしても、固有の企業風土や行動規範への不適合が生じるリスクを考慮すれば、「外部採用」に期待を寄せるよりも、社内の人材を計画的に育てる「内部育成」こそが、最も現実的かつ確実な道だと言えるでしょう。
この記事では上級管理職に求める役割を起点に、どのような視点で育成を設計し、どのような機会を通じて成長を促していくべきかについて解説します。
1.上級管理職とは?
上級管理職とは、会社全体の方針や戦略を自部門の方針に落とし込み、組織としての成果創出につなげる責任を担う役職を指します。日本企業では一般的に、部長・事業部長・本部長といったポジションがこれに該当し、経営層と事業部門の間に立つ中枢的な役割を担います。
経営層から示されるビジョンや戦略は、多くの場合抽象度が高く、そのままでは現場の行動に結びつきません。上級管理職は、それらを自部門の方針や重点課題に紐づけて翻訳し、3~5年先を見据えた事業構想を描き、仕組みや構造(組織デザイン・評価・資源配分など)を駆使して間接的に組織を動かす立場にあります。
上級管理職の役割は、会社のフェーズや組織構造によって最適解が変わります。育成の全体像やプログラム設計の例を確認したい方は、下記のサービス資料をご覧ください。
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1-1.中間管理職との違い
中間管理職から上級管理職へとステージが変わる際、マネジメントのあり方は大きく変化します。現場の運営を担う中間管理職に対し、上級管理職は「判断の複雑性・時間軸の長さ・組織への働きかけ方」の全てにおいて、より高い視座からのアプローチが求められるようになります。
多くの場合、管理対象は一人の人間が直接把握できる範囲を超え、場合によっては50名から100名規模に及ぶこともあります。この規模になると、個々のメンバーの行動や進捗を自ら直接把握し、判断・介入するスタイルのマネジメントは現実的ではなくなります。このため、上級管理職になると、複数の管理職層や組織の仕組みを通じて成果を生み出す間接的なマネジメントへと役割が切り替わります。
この切り替わりは、業務量の増加だけには留まりません。課長クラスまでは既存の選択肢の中から正解に近い施策を見極める判断が中心となる一方で、上級管理職になると、正解のない問いに対して決断を下し、その結果に責任を持つことが求められます。
時間軸も目先の成果だけでなく、中期的な事業構想や組織のあり方を含めて考える必要があります。上級管理職では、誰の立場で、どの時間軸や範囲から物事を捉えるのかという「視座」が高まり、それに伴って、考慮すべき範囲である「視野」も大きく広がります。
<上級管理職と中間管理職の違い>
| 上級管理職 | 中間管理職 | |
|---|---|---|
| 定義 | 経営方針(ビジョンや戦略)を自部門の方針・戦略に落とし込み、組織全体に間接的に浸透させて成果を創出する | 部門方針(部のビジョンや戦略)を現場メンバーに直接落とし込み、チームの成果と人材育成を担う |
| 主な役職 | 部長、事業部長、本部長など | 課長、グループ長、チームマネージャーなど |
| 特徴 | ・経営視点での意思決定や方針策定、組織の方向性づけ、人材配置・組織設計を担う ・3〜5年後の事業構想や中期的な成長シナリオを描き、大規模組織を間接的に動かす ・正解のない問いに対して決断し、全社・全体最適の観点からトレードオフを調整する | ・現場の運営やメンバーマネジメントを中心に、チームとしての成果創出を担う ・部門方針をメンバーに直接伝え、今期の売上や短期目標の達成に責任を持つ ・用意された選択肢から正解に近い方策を選び、部門の全体最適を意識しながら自部署の成果最大化を図る |
また上級管理職は、単に機能として組織を動かすだけの存在ではありません。経営の意図を体現し、自部門における判断や振る舞いを通じて、組織のあるべき方向を示す「公的な立場」としての側面も持ちます。例えば、人材配置や組織設計といった意思決定はその象徴であり、全体最適の観点から、限られた経営資源をどこに配分するかを判断する役割を担います。
このように上級管理職とは、経営視点と事業視点を兼ね備え、組織を間接的に動かしていく存在と言えます。
上級管理職への移行は、役割や判断軸、マネジメント手法の切り替えを伴う大きな転換点です。しかし、多くのリーダーが「自ら直接関与したい」という欲求や、プレイングマネージャーとしての過去の成功体験から脱却できず、この変化に適応することに苦慮しているのが実情です。他社が上級管理職の育成をどう設計し、どのような変化につなげたのかは、事例が参考になります。
2.上級管理職の主な役割は?
上級管理職は現場の業務を直接統括する立場ではなく、経営と部門をつなぐ中核として、組織全体を動かします。具体的には、経営層の意思や戦略を受け取り、それを部門の方針や行動へと転換することで成果につなげていくことが求められます。上級管理職が担う役割は複数ありますが、特に重要となるのが以下の4点です。
<上級管理職の主な役割>
2-1.経営戦略の部門への落とし込み
上級管理職の重要な役割の一つが、経営方針や戦略を部門レベルの目標や実行計画へと落とし込むことです。経営層から示されるビジョンや戦略は抽象度が高く、そのままでは現場の行動には結びつきにくいのが実情です。そこで上級管理職は戦略の真意を汲み取り、自部門の状況に合わせて再定義することで、現場が動けるレベルまで具体化します。重要なのは、中間管理職と「背景」や「優先順位」を共有し、部門として重視すべき判断基準を確立することにあります。
2-2.経営視点での意思決定
上級管理職には、部門最適ではなく全社最適を前提とした意思決定が求められます。短期的な成果や個別の利害だけでなく、中長期的な成長や組織全体への影響を考慮し、複数の選択肢の中から適切な判断を下します。
また、現場と経営、短期と長期などの相反する要請に直面する場面も多いため、どの判断が組織全体にとってポジティブな意味を持つのかを見極める姿勢も必要です。このような正解が定まらない問いに対して決断し、その結果に責任を持つことが求められます。
2-3.部門全体を統括する間接マネジメント
上級管理職は、複数の中間管理職を通じて、50〜100名規模の組織を間接的に統括します。この規模になると、個々のメンバーの行動を直接把握・管理することは現実的ではありません。
そのため、役割は個別対応から、組織構造や目標設定、権限委譲、人材配置といった「仕組み」を通じて成果を生み出す間接マネジメントへと切り替わります。これに伴い、限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ)をどの領域に投下するかを正しく判断することも、上級管理職の重要な責務となります。
中間管理職が存分に力を発揮できる環境を整え、組織を構造的に成果を出せる状態へと引き上げること。こうした「仕組み」と「資源配分」の両面から組織全体を最適化することが、上級管理職に課せられたミッションとも言えるでしょう。
2-4.組織文化・行動規範の形成
上級管理職の判断や振る舞いは、本人の意図に関わらず、組織の方向性に影響を与えます。
上級管理職は、組織内では公的な立場として受け取られやすい存在です。ここでいう「公的」とは、公式な肩書きを指すのではなく、その言動や意思決定が組織の「当たり前」として受け取られ、文化や行動規範を形づくる立場にあることを意味します。
このため、企業のビジョンや価値観を部門の文化として浸透させる能動的な行動だけでなく、上級管理職自身がどのような志や価値観、意図を持って意思決定を行うのかということが、組織の意思決定の軸を形づくっていきます。日常の判断や姿勢を通じて、何を重視すべきなのかを示すことが、組織全体の行動を方向付けていくのです。
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3.上級管理職に求められる能力・スキル
上級管理職に求められる能力は多岐にわたるため、全体像を捉えるには一定の枠組みが欠かせません。管理職に必要なスキルを体系的に整理する考え方として、カッツ・モデル(*1)が挙げられます。
また、上級管理職には、とりわけコンセプチュアルスキル(*2)が重要です。ここでは、コンセプチュアルスキルを上級管理職の文脈で具体化した4つの観点から整理します。自社の上級管理職の実態と照らし合わせて言語化することで、役割定義や育成施策の検討が進めやすくなるでしょう。
*1:カッツ・モデルとは、管理職に求められるスキルを
・テクニカルスキル(業務遂行に必要なスキル)
・ヒューマンスキル(人間関係を築くスキル)
・コンセプチュアルスキル
の3つに整理する考え方です。上位の管理職になるほど、コンセプチュアルスキルの重要性が高まるとされています。
*2:物事の本質を捉え、全体を構想・判断するスキル
<上級管理職に求められる能力・スキル>
3-1.高い視座
上級管理職には、経営方針や事業戦略の意図を正しく理解し、自部門の戦略や実行計画へと変換できる高い視座が求められます。これは、自部門最適に留まらず、事業全体の構造を見渡しながら、全社最適を目指して大規模組織を間接的にマネジメントする役割を担うためです。
また、売上や利益、投資額といった数値を判断基準として使いこなし、限られた経営資源を全体最適の観点からどこに再配分するかを見極める力も重要です。会計・財務の基礎知識に裏打ちされた意思決定こそが、全社最適を実現するための客観的な根拠となります。
| 能力 | 概要 |
|---|---|
| 経営方針を自部門の戦略へと翻訳・構築する力 | ・経営の意図を正しく理解し、自部門の方向性・戦略・目標に変換する ・全社最適の視点で優先事項を整理して実行計画を描き、部門全体が向かうべき軸を明確に示す |
| 間接マネジメントによって大規模組織を動かす力 | ・課長クラスなど、複数の中間管理職を通じて組織成果を高める能力 ・仕組みや役割設計で人の動きを最適化し、個別管理ではなく「構造」で大人数をマネジメントする |
| 他部門・経営層と合意形成を進める力 | ・関係者と協働し、組織横断で物事を前に進める ・利害の異なる相手とも目的を共有し方向性をそろえ、影響力と調整力を発揮して全体最適の合意形成を主導する |
| 数値に基づき事業の収益性や投資対効果を判断する力 | ・売上・利益・投資額などの定量情報を踏まえて、事業や施策の収益性を評価する ・投資対効果やリスクを勘案し、どこに経営資源を配分すべきかを判断する |
3-2.最新の経営知をキャッチアップして具体化するスキル
上級管理職には、経営環境や市場環境の変化を踏まえ、最先端のテクノロジーや地政学リスクなどの新しい経営テーマを継続的に学び続ける姿勢が求められます。
重要なのは、「知っている」状態で終わらせず、知識を経営層の抽象的な意図や優先順位を読み取る際や、課長以下が迷わず動ける実行計画に翻訳する際に活用し、現場で機能する形に落とし込むことです。このように、上級管理職は学びと実行を往復しながら、組織の変革や成長につなげていく役割を担います。
| 能力 | 概要 |
|---|---|
| 最新の経営知を学び、具体的な計画に落とし込む力 | ・時代の動向やニーズに応じて、常に新しい知識を学び続ける ・絶えず変化する最新テーマをいち早くキャッチアップし、自部門の具体的な戦略やアクションプランへと落とし込む |
3-3.組織や企業文化を形成するスキル
上級管理職には、短期的な業績だけでなく、中長期のスパンでどのような組織や人材ポートフォリオ(*)を築くかを設計する視点も必要です。具体的には、採用・配置・育成・評価を通じて部門の人材力を高めると同時に、自部門はどのような価値観や行動基準を重視する組織なのかを明確に示すことが重要です。
上級管理職は、自らが良き規範となり、文化をつくる起点となる立場です。そのため、一つひとつの言動や判断は、公式な指示でなくとも、組織の「当たり前」として受け取られていきます。
*人材ポートフォリオとは、経営戦略を実行するために、社内のどこに、どのようなスキルやマインドを持った人材が、どの程度在籍しているかを整理・可視化したものです。
| 能力 | 概要 |
|---|---|
| 人材ポートフォリオを最適化する人材マネジメント力 | ・採用・配置・育成・評価を通じて部門の人材価値を最大化する ・短期と中長期の両視点で必要な人材を見極めて強化し、部門の成長と組織能力の向上を両立させる |
| 組織文化・価値観を発信し浸透させる力 | ・部門として大切にすべき価値観を言葉と行動で示す ・文化をつくり行動規範として根付かせ、組織の一体感を生み出す ・環境変化の中でもブレない基盤(判断の拠り所)を確立し、揺るぎない組織体質を築く |
| コンプライアンスと労務の健全化を通じて組織基盤を整える力 | ・法令や社内規程の徹底遵守を通じて、不祥事・ハラスメント・労務トラブルなどのリスクを未然に防止する ・働き方・人間関係・評価への不安を抑え、メンバーが安心して発言や挑戦を行える心理的安全性の高い組織環境を整える |
3-4.多様な意見や環境変化に対応する知性
不確実性の高い環境において、上級管理職には従来の成功パターンにとらわれず、自らの思考や行動を更新し続ける姿勢が求められます。多様な意見や情報に触れながら、曖昧で答えの出にくいテーマに対しても論点を整理し、本質を捉えて判断する力が必要です。
経営と現場、短期と中長期などの相反する要請を抱えた状況下で、全体を見渡しながら判断を重ねていくことができるかどうかは、「知性」に左右されます。この知性を磨くには、必要に応じて過去の成功体験をいったん手放し、判断の軸そのものを点検し直す姿勢も欠かせません。これらの能力は自然に身に付くとは限らず、意図的に学習の機会を設ける必要があります。
| 能力 | 概要 |
|---|---|
| 状況に応じて自分をアップデートする力 | ・周りの意見や環境変化に合わせて自身の思考や行動を柔軟に変化させる力(自己変容型知性) ・固定化した価値観や過去の成功体験を客観的に捉え、必要に応じてこれまでの正解を手放すことで、新たな役割にふさわしい自分へと進化し続ける力 |
| 複雑で不確実な課題の本質を捉える思考力 | ・曖昧で不確実な状況から論点を抽出して問題の核心をつかむ力 ・状況に応じて判断軸を切り替えて適切な解決策を導くとともに、幅広い視点で情報を捉え、抽象度の高い課題にも対応できる思考力 |
上級管理職に求められる役割は、企業の戦略や組織風土によっても異なります。研修企画の際に押さえたいポイントやプログラム例をまとめた資料を、ぜひご活用ください。
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4.上級管理職の抱えるよくある課題と難しさ
上級管理職は、組織規模の拡大や環境変化に伴い、役割の重さと複雑さが一気に増します。この立場に求められるのは、増加する業務量への対応だけではなく、視座・判断・責任の質を切り替えながら組織全体を動かすことです。
しかし、このような転換は自然には起こりません。上級管理職ならではの構造的な難しさが本人の思考や行動を縛り、役割の実行を難しくする場合があるのです。
4-1.管理範囲の拡大に「視座」が追いつかない
上級管理職になると、管理の対象が「個人」から「組織全体」へと広がります。また、管理の対象範囲が拡大するにつれ、組織の細部までを直接管理しコントロールすることは物理的に不可能となりますが、多くの上級管理職がこの「見えない範囲の拡大」と自身の視座のギャップに苦慮しています。
管理範囲が拡大しても視座が低いままだと、リソース配分の優先順位を誤ります。本来、上級管理職は全社最適の追求ですが、中間管理職時代の成功体験が大きいほど、慣れ親しんだ「現場の問題解決」に意識が向いてしまいがちです。かつての成功の源泉だった現場対応力が、上級職としての進化を阻む足かせとなり、経営層の期待する役割を担いきれなくなることがあります。
4-2.労務リスク対応の複雑化に伴い、上級管理職の対応に係る責任が増大する
評価・処遇・ハラスメントなど、労務に関わる課題は多様化・複雑化しています。これらは現場任せにしにくく、上級管理職自身の判断と関与が強く求められる領域ですが、大規模な組織を統括する立場ゆえの難しさがあります。一人ひとりの状況を直接把握することが困難な結果、事態が深刻化するまでハラスメントや勤怠の不備に気づけないといったリスクが発生します。
また、初動対応が遅れると、部門内に留まらず組織全体の信頼を揺るがす火種になりかねません。このように、労務リスクの複雑化に対し、上級管理職は「見えにくい現場の実態」を仕組みや風土への働きかけを通じて管理しなければならないという、極めて難易度の高い責任を担っています。
4-3.不確実性の高い環境で、意思決定の難易度が上昇する
環境変化が激しい中で、上級管理職は情報が不完全なまま判断を迫られる場面に多く直面します。このような正解が見えにくい状況でも、意思決定を先送りせず、方向性を示さなければなりません。
将来予測が難しい環境下では、戦略策定や変革推進の難易度も高まります。経営の意図を読み取り、現場が実行できる施策に落とし込む過程で、判断の重さと責任の大きさが負荷として蓄積していくことになるでしょう。
4-4.中間管理職層の育成が後回しになり、権限委譲が進まない
上級管理職には「中間管理職を育てながら、成果も出す」という二重の負荷がかかっており、中間管理職がメンバー育成やマネジメントを十分に担えない場合、上級管理職が判断や業務を巻き取ってしまう状況が生じやすくなります。こうした巻き取りが続くと、上級管理職自身に巻き取る癖がつき、間接マネジメントへの移行が進みにくくなります。
この背景には、「直接のマネジメントを手放すことで現場からの情報に抜け落ちが発生し、判断の精度が落ちるのではないか」という不安もあります。課長から上がってくる情報の精度を信じきれず、自分で確認したほうが早いと感じてしまうと、介入が増え、権限委譲は停滞します。「とはいえ放置して良いのか」という葛藤も生じ、現場の問題解決を優先した結果、育成が後回しになるリスクが高まります。
4-5.上級管理職自身のストレス・負荷が増大する
上級管理職は公的な存在として、その言動や判断が組織全体に影響を及ぼします。何気ない振る舞いであっても、そのまま組織の行動規範として受け取られるため、「良き規範」であり続けなければならないというプレッシャーは、時に大きな重圧にもなります。
これに加えて、組織運営や意思決定、部下育成といった責任が一身に集中することで、心理的負担はさらに大きくなります。その職位ゆえに相談相手が限られることから孤独感を抱えやすいとも言えるでしょう。部下のケアと自身のコンディション管理を同時に求められる点も、上級管理職特有の難しさの一つと言えます。
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5.上級管理職を育成するためのポイント
上級管理職の育成を考えるにあたり、まず押さえておきたいのは、このポジションが「経験を積めば自然に育つ」ものではないという点です。現場で成果を上げてきた人材であっても、その延長線上で上級管理職の職責を果たせるとは限りません。個人の資質や自然な成長に委ねるだけでは、組織が期待する役割を遂行することは困難です。
そこで上級管理職に求める役割を起点に、どのような考え方で育成を設計し、どのような機会を通じて成長を促していくべきか、5つのポイントで整理していきます。
5-1.上級管理職の役割を言語化し、必要なスキル・マインドを明確にする
上級管理職育成の出発点は、単なるスキルの習得ではなく、自社の未来のために「どのような役割を果たすべきか(あるべき姿)」を言語化することにあります。スキルの習得から検討を始めてしまうと、自社の上級管理職に求められる役割や行動と乖離が生じ、期待した成果に結びつかない恐れがあるためです。まずは、外部環境と内部環境の分析から「目指すべき組織像」を導き出し、それに基づいた上級管理職への期待値を言語化することから着手しましょう。
また、この際、中間管理職の役割とは区別し「どこからが上級管理職の判断領域か」という共通認識を組織内で共有することも重要です。役割分担が不明確なままでは、過度な現場介入や判断の属人化が起こりやすくなります。
役割が定まったら、それを実践するための具体的な行動を描き、さらにその行動を支えるスキル・マインドを整理します。スキルやマインドは独立して存在するものではなく、求める役割と行動に基づいて定義されるべきものです。
5-2.経営的視座を体系的に育成する
上級管理職には、経営全体を俯瞰する高い視座が求められます。この視座は、断片的な知識の積み重ねによって自然に身に付くものではなく、計画的・体系的な学習を通じて醸成する必要があります。
また、日本の企業では、上級管理職に至るまでに正式な経営教育を受ける機会が乏しいという実情があります。人事ローテーションで複数の部署を経験していても、全組織を網羅的に経験してきたという例は稀です。むしろ、特定の専門領域を一筋に歩んできた上級管理職も多く、その専門性は強みとなる一方で「経営的視座を持ち戦略家として振る舞う」という本来の上級管理職の役割を果たすうえでの障壁となることがあります。その結果、組織にさまざまな不都合をもたらす要因にもなり得ます。したがって、経営資源である「ヒト・モノ・カネ」を横断的に捉え、全社戦略を自部門の判断や行動に落とし込めるマネジメント基盤を整えることが重要です。
あわせて、いかなる局面でどのような判断を下すのか、その支えとなる内的な軸としての「志」を育てていく視点も欠かせません。「志」は単なる学習テーマの一つではなく、不確実性の高い状況において判断に迷った場合に、上級管理職自身が何を基準に決断するのかを定める拠り所となります。経営的視座の育成は、知識や思考力の習得に留まらず、この「判断軸」もあわせて磨いていく取り組みとして設計する必要があります。
5-3.最新の経営知を学び、経営環境の変化に対応できる力を身に付ける
経営環境が大きく変化する中で、上級管理職には学び続ける姿勢が求められます。DXや人的資本といった新しい経営テーマについても知識を更新し続け、自社の文脈でどのような意味を持つのかを考え続ける必要があります。
重要なのは知識を蓄積すること自体ではなく、経営の意図や優先順位を読み取り、自部門の判断や施策に反映させていくことです。変化する環境に対応するためには、既存のやり方を前提とせず、判断の前提そのものを見直す姿勢も求められます。
5-4.実践と学習で意思決定力を鍛える機会を提供する
上級管理職に求められる意思決定力は、知識の習得だけでは十分に鍛えられません。正解のない不確実な状況下で、不完全な情報をもとに判断を下し、その背景や結果について考え抜く経験を重ねることが不可欠です。
そのためには、実際の経営課題や難易度の高いケースメソッドに向き合い「自分とは異なるロジックを持つ他者」と徹底的に議論を戦わせる場が有効です。他者の視点を取り入れ、自らの判断に潜む偏りや死角を客観的に見つめ直すことで、独りよがりではない、多角的な意思決定のあり方を学んでいきます。
研修での学びを現場で試し、その手応えや失敗を再び研修の場で振り返る。この「現場での実践」と「深い振り返り」をセットで設計することが、再現性の高い判断力を段階的に高めていくことにつながります。
5-5.一度の研修で終わらせず、継続して学ぶ機会を提供する
上級管理職育成は、単発の研修で完結するものではありません。役割の変化や環境の変化に適応し続けるためには、学びを継続的に提供する仕組みが不可欠です。継続的な学習が必要とされる背景には、おもに3つの理由があります。
第一に、「常に進化する経営テーマへの対応」です。新たな経営テーマが次々と生まれる現代では、過去の経験則が通用しづらくなっています。上級管理職は常に最新の経営知をキャッチアップし、自部門の戦略をアップデートし続けなければなりません。
第二に、「組織風土への影響」です。上級管理職が学びを止めてしまうと、組織全体に「現状維持で良い」という停滞感が広がりかねません。部下の挑戦意欲を引き出し、自律的なキャリア開発を促すためには、まずは上級管理職自身が新たな知識を吸収し、成長し続けるロールモデルとして背中を見せることが不可欠です。
第三に、「実務への定着」です。研修で得た知識も、時間が経てば忘却し、形骸化してしまいます。知っている状態から実務で「使える」状態へと昇華させるためには、研修後も現場での実践と振り返りを繰り返すサイクルが必要です。研修はあくまで成長のきっかけや土台づくりに過ぎません。組織を導き、成果を出し続けるためには、「学び→実践→振り返り」のサイクルを回す設計が鍵となります。
上級管理職の育成を検討されている企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。

6.まとめ
上級管理職は、経営と現場をつなぐ中核として、戦略の具体化や意思決定、組織運営、文化形成などを担う重要なポジションです。その役割は中間管理職の延長線上にあるものではなく、視座・判断の質・時間軸が大きく異なる点に特徴があります。
しかし、その重要な役割を果たす過程において、職位特有の壁に突き当たることが少なくありません。例えば、管理範囲の拡大や不確実性の高まり、権限委譲の難しさなど、上級管理職特有の課題や負荷が存在します。これらは役割設計や組織構造と密接に関係しており、個人の資質や努力だけで解決できるものではありません。
そのため、上級管理職を「経験を積めば自然に育つ存在」と捉えるのではなく、求める役割を明確にしたうえで、意図的に育成していく視点が重要です。役割・行動・スキル・マインドを分断せず、一貫した設計として捉え、学習と実践を往復できる機会を継続的に提供することで、判断力や視座が磨かれていきます。
上級管理職の育成を見直すことは、個人の成長に留まらず、組織全体の意思決定の質や持続的な競争力を高める取り組みでもあります。まずは、自社の現状と照らし合わせながら、どのような上級管理職を育てたいのかを改めて問い直すことが、次の一歩につながります。
グロービスでは、上級管理職に求められる視座・意思決定・組織運営につながるスキルを、体系的に育成する研修をご提供しています。全社で設計しやすい集合研修に加え、経営視点で学びを深めるグロービス・エグゼクティブ・スクールもご用意しています。自社の課題や対象者に合わせた最適な育成の進め方については、まずはお問い合わせにてご相談ください。

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