オンライン時代のリーダーと組織開発のあり方(前半)- 陥りがちな組織づくりの罠

2021.02.16

昨年2020年はCOVID19の影響も大きく、日本ではなかなか進まないと言われたリモートワークも大きく進んだ年でした。その結果、オンラインを活用したコミュニケーションが増え、組織をマネジメントするリーダー/マネージャーは、メンバーとの円滑なコミュニケーションや育成について、相当難しさも感じた1年だったのではないでしょうか。

 

筆者もマネージャーとしてこの数年チームを率いていますが、今年ほど難しいと感じた年はありませんでした。

 

そこで年も改まり、この環境とも継続的に付き合っていくことが必要になっている今、リーダー/マネージャーが、環境に惑わされず、本質的に取るべき行動とは何かについて、再考していきたいと思います。

「流行りの言葉」に惑わされてませんか?

2020年の大きな環境変化を受け、世の中を見渡すと「オンライン環境下でのリーダーシップ」に関する記事を、多く見かけるようになりました。そこで語られていることは、以下の趣旨が多かったと感じます。

  • ・オンラインツールを使ってコミュニケーションを取ろう&オンラインツールの使い方はこうだ
  • ・期待役割をしっかり伝えよう
  • ・メンバーの感情のケアをしっかりしよう
  • ・ジョブ型にしよう など

これらの内容はとても大切です。しかし、コンサルタントとして”人・組織の課題”に日常的に触れたり、私自身チームマネジメントをする中で、これだけで本当にこの環境を乗り越えられるのか、という不安は拭えませんでした。

例えば、オンラインコミュニケーションの方法論について。ツールを上手く活用しコミュニケーションをとることは、最低限やるべきことで、組織力をものすごく高めるわけではありません。同様に、メンバーの感情のケアについても多く取り上げられています。

 

もちろん不可欠なものの、(後述の通り)私自身の経験・悩みでは、感情のケアは一つの側面に過ぎず、これだけでは本質的なマネージャーの役割を果たしているとは言えません。

そして、最近耳にすることの増えた「ジョブ型」。シンプルにいうと人事制度を変えることですが、これには相当なパワーと時間が必要ですし、現場マネージャーにとっては権限外の方が多いのが現状ではないでしょうか。またジョブ型(≒職務制度)に変えることのデメリットも含めた説明がない記事も多く、企業として取り入れるにあたっての懸念があるとも感じます。

以上のように、「流行りの言葉」に引っ張られ、リーダー/マネージャーが本来とるべきことを見失わないためにも、改めてリーダーのあり方を考えたいと思います。

リーダーの本質的役割は、ミッション達成と組織コンディションにあり!

まずは本質に立ち返るためにも、リーダー/マネージャーの役割を整理したいと思います。


定義は様々あるものの、本来の役割は大きく2つあると考えます。その二つとは以下です。

  • ① Maintenance(M)軸を高める
    =組織のコンディションを良くする(関係性やモチベーションを高める)
  • ② Performance(P)軸を高める
    =組織のミッションを達成する(組織力や人の能力を高める)

ただ、「この2つの軸のどちらか」を高めればよいかというと、もちろんそうではありません。なぜか。それは、何れかに傾倒することでの罠があるからです。

その罠・課題について、自身の失敗体験や、私が見てきた多くの企業・組織で起こっている事例をもとに考えていきたいと思います。

【タイプ①】組織コンディション(M軸)を重視しすぎる組織とその罠

この数年、組織コンディション(M軸)へ配慮する組織が多くなっています。


その背景には、これまでと異なり、「採用も売り手市場」になっている傾向や、「ハラスメントへの厳しい世間の目」、また「モチベーションサーベイやエンゲージメントサーベイなどで、組織の状態が簡単にいつでもどこからでも測れるようになったこと」が影響をしています。

組織の状態がWebサイトなどでオープンデータとして公開されるようになり、企業としては従業員重視の姿勢はますます強くなっているように感じます。

 

さらには、様々な調査で、「エンゲージメントの高い組織は、そうでない組織よりも収益性が高い」という優位性を裏付ける結果も出ており、エンゲージメントなどの組織内部の指標を高め組織コンディションを良くしよう、という動きが加速しています。

私達グロービス・コーポレートソリューション部門でも「エンゲージメントスコア」を定期的に測定し、組織コンディションを良くするための働きかけをおこなっている経験から、これらの取り組みの重要さを理解しています。

一方で、この働きかけは一歩間違えると組織の弱体化を促すことにつながりかねないとも感じています。

エンゲージメント重視は、受け身社員を増加させる!?

具体的に多くの組織で見られる現象としては、受け身の社員の増加です。エンゲージメントそのものは組織を強くする上で有効な指標であることは間違いないのですが、組織診断のスコアへ配慮しすぎる姿勢、何かあればリーダーが働きかける姿勢が加速すればするほど、メンバー層は与えられることに慣れてしまいます。


結果として、以下のような現象を引き起こしかねません。

  • ・個々が主体的にストレスを克服する力や、高い目標を掲げ続けやり抜く力が弱まってしまう(特に、経験の浅いメンバーやもともとのストレス耐性が強くないメンバーへのケア一辺倒の対応は注意が必要です。)
  • ・エンゲージメントスコアは高いが、難しい業務へ目を背けたり、スコアを維持するためにあえて挑戦しにくくなっている

【タイプ②】組織のパフォーマンス(P軸)を重視しすぎる組織とその罠

【タイプ①】の対極がパフォーマンス(P軸)を重視しすぎる組織です。


この組織の特徴は、リーダー/マネージャーがメンバーへ期待役割を伝え、週次で達成度を確認。課題を明らかにして、課題を克服するように強くアドバイスを行う。これを早いサイクルで回し続ける。

一見、良い組織のように見えないでしょうか?しかしこちらにも罠があります。

COVID19の影響などで、求められる成果が出にくい状況や、未成熟なメンバーが多い組織では、向き合う課題は、どうしてもその当人の能力を超えた課題になりがちです。

また仕事だけでなく家庭状況も複雑に絡む中で、ストレスは計り知れないものとなり、メンバーにとってアドバイスを受け止めきれない傾向になります。特にストレス耐性が高くないメンバーは、耐えられず戦線から離脱することも起こりかねません。

また、【タイプ①】のように組織コンディションを重視する世間の空気感では、【タイプ②】のような結果を重視した行動を極端に取るリーダーは悪者(人の気持ちに疎いためリーダーとして資質を疑われる)とみられ、メンバーの信頼を損なう傾向にあることも付け加えたいと思います。

私自身も、マネージャーになりたての頃は典型的な【タイプ②】P軸重視で、チームメンバーからの信頼を失いかけた苦い思い出があります(苦笑)。

リーダーの2つの大きな役割は、二律背反するから難しい

ここまでをまとめると、

  • ① M軸を志向しすぎると、組織の全体的な自立性や強さが損なわれ、
  • ② P軸を志向しすぎると、短期的成果は出るが、メンバーが離れリーダーも信頼を失うなど中長期的な組織成長に課題が残ることになります。

では、この二律背反する課題をどう乗り越え、どう統合していくのか。ここに本質的なリーダーが取るべき行動のポイントがあると考えます。



後半では、私の失敗経験なども踏まえながら、この課題をどう乗り越えていくか、考えていきたいと思います。(後半に続く

執筆者プロフィール
池田 章人 | Akito Ikeda
池田 章人

大学卒業後、外資系人材サービス会社にて金融機関を中心とする法人向け採用戦略コンサルティング、およびキャリアカウンセラーとして1000名以上のキャリア支援に携わった後、グロービスに入社。
グロービスではスクール部門を経て、現在は法人部門・製造業チームのマネージャーとして、化学・金属・機械・製薬・食品など幅広い企業に対する、人材開発・組織開発のコンサルティングに従事。
人材マネジメント・組織行動研究グループにも所属し、研究やコンテンツ開発、講師を務める。

グロービス経営大学院経営学修士(MBA)修了。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。