管理職研修を外注/外部委託する前に知っておきたい「5つの選定ポイント」

2023.05.19

管理職は組織の中でも、特に経営と現場をつなぐ役割を担うと同時に、現場の成果創出やメンバー育成を担う中核的な役割を担っています。だからこそ、管理職の能力を向上させる研修の機会は重要です。ただ、重要な取り組みだけに、研修を外注/外部委託をするべきか、もしする場合、どのようなポイントで選べばよいのか迷うものです。そこで本コラムでは、研修会社に管理職研修を外注/外部委託するときに役立つ「5つの選定ポイント」をご紹介します。

執筆者プロフィール
太田 昂志 | takashi ota
太田 昂志

DX推進・内製化支援を行うテックカンパニーにて最高人事責任者(CHRO:Chief Human Resource Officer)として戦略人事全般を管掌する。同時に、公的機関や急成長スタートアップの経営・人事アドバイザーとして事業開発や組織変革等を支援する。グロービスでは論理思考・人事組織系科目の教鞭を執る他、教育プログラム開発も担う。
大阪大学人間科学部卒業、グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(成績優秀者表彰)。


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第1章 
そもそも研修会社に外注/外部委託する理由は
明確になっている?

本題に入る前に、そもそも今回の管理職研修は社内研修(内製)か外部研修(外注/外部委託)か、どちらで行うかのコンセンサスは取れているでしょうか?

こう問い掛けをしてみたのは、現場ではこんなことがたびたび起こりがちだからです。

例えば、管理職研修の要件をまとめ、複数の研修会社から提案を募り、関係者で議論してようやく一社に絞る。そして、稟議書を作成して上申したところ、上長から「そもそもこれは内製できないのか?」と指摘が入る・・・といったことです。せっかくの企画が振り出しに戻ることがないように、同じ部門の関係者はもちろんのこと、最終決裁者とも合意を取り、研修会社に外注/外部委託する理由を明確にしておくことが大事です。

では、社内研修か外部研修か、どちらが適切かをどう判断すると良いのでしょうか?

例えば、双方のメリット・デメリットを洗い出すという方法が典型的ですが、おそらくこれだけで決めるのは難しいでしょう。というのも、メリット・デメリットを洗い出すのは良いのですが、論点が多過ぎると、関係者それぞれの重視したいポイントが散逸してしまい、かえって決められない事態が起きるからです。

そこでお勧めしたいのが、論点を洗い出した上で、「今、ここで議論すべき論点は何か?」と論点を絞り込むことです。その際、マトリクス表を活用して方向性を決めると良いでしょう(図1)。

ここでは「人事部門の業務はひっ迫しているか?」「内容は自社で出来る難易度か?」で整理していますが、これはあくまで一例です。絞り込んだ論点に対して、今自社はどういう状況なのかを関係者間で認識を揃え、社内研修・外部研修の方向性を決められると良いでしょう。

図1 内製か外注/外部委託かを判断するときのマトリクス表(例)

図1 内製か外注/外部委託かを判断するときのマトリクス表(例)

第2章 
研修会社を選ぶときのポイントは
「QCDDM」

社内研修か外部研修かの判断ができ、研修会社に外注/外部委託するというコンセンサスが取れたら、管理職研修の要件をまとめて各社に提案を募ります。その際、事前に「どうやって選ぶのか」の決め方も決めておくことが望ましいでしょう。ただ、いざ考え出すと、どんな視点で選べば良いのかと迷うものです。

その際、役立つのが「QCDDM」というフレームワークです。

これは、もともと製造業において、経営者や発注担当者が供給者(サプライヤー)を決めるときの評価基準を作成するときに用いられるものです。「Quality」「Cost」「Delivery」「Development」「Management」の5つの視点から構成されています。

内容を簡単に解説すると、製造業が生産管理において大事にしたい品質(Quality)、費用(Cost)、納期(Delivery)という視点に加え、今後の商品・サービスの開発状況(Development)、仕事を任せて安心かどうかという経営状況(Management)の5つの視点から、押さえるべき評価項目を定めます。場合によっては、定量的に判断できるように評価項目の採点方法も決めておけると良いでしょう。

この「QCDDM」は、管理職研修をどの会社に任せるか決めるときも活用できます(図2)。各項目で特に押さえておきたいポイントを見ていきましょう。

図2 研修会社を選ぶときのポイント「QCDDM」

図2 研修会社を選ぶときのポイント「QCDDM」

2-1. Quality:研修の品質を決めるのは講師“だけ”ではない

最初の視点は「Quality(品質)」です。つまり、目的達成に必要な条件を備えているか、という「研修の品質」の視点です。

「研修の品質」に影響を与える要素の一つが「講師」です。

特に管理職研修に登壇する講師は、実務・教育経験ともに豊富で、自社の業界にも精通しており、ビジネスパーソンとしても優秀で、なおかつ人柄も良い実務家講師を選びたいものです。ただ、全て兼ね備えた講師はなかなか見つからないでしょう。その場合は、講師に求める要件は明確にしつつも、今回はどのポイントを重視すべきかを決め、最終決定すると良いでしょう。

また、講師“だけ”が研修の品質を決めるものではないということも注意しておきたいところです。一例ですが、講師以外だと「教材の質」や「研修会場のロケーション」など様々な要素も影響を与えます。どれだけ素晴らしい講師に教えてもらっても、他の要素が適切でなければ、目的達成は難しいでしょう。「研修の品質」を考える際、講師だけでなく、他の要素も含めて全体的な視点で検討することが大切です。

2-2. Cost:「費用」の比較ではなく、「費用対効果」で検討したい

次に「Cost」という視点を見てみましょう。

「Cost」とは「費用」のことですが、研修においては、単純に金額の高い・安いで決めてしまうのは危険です。研修は同じテーマでも、講師や教材などの様々な要素が組み合わさることで、中身は全く異なるものになるからです。こうした中で、同じテーマであれば中身も同じだと捉えて、「費用」という視点で安易に比較するのは無理があります。

では、どんな視点で比較すると良いのでしょうか?

お勧めしたいのが「費用」ではなく「費用対効果」で比較することです。具体的には「研修を受講した管理職がどの程度行動変容する想定なのか」について、研修会社の講師や営業担当者からの説明を聞き、その効果に対して費用が納得できるかどうかで評価することです。

ただし、テーマによっては研修後すぐに効果を測りにくい場合もあります。また、研修そのものはきっかけでしかなく、学んだ内容を現場で実践することで徐々に効果が表れるものもあります。例えば、特定の知識を得られたかどうかの視点であれば、アセスメントなどを通じて効果測定は容易にできるでしょう。一方で、チームのエンゲージメント向上を狙いとした場合、効果が表れるのは一定の時間を要することもあります。

従って「費用対効果」で各社の提案を比較するときは、同時に「この研修を通じて、いつまでに、何が実現できれば成功と言えるのか?」と成功の定義をしておくことが大切です。

2-3. Delivery:希望日にできるかは勿論、その後の対応力や柔軟性も確認しよう

3つ目は「Delivery」の視点です。

一般的な「納期(依頼した製品を期日までに届けられるかどうか)」と違い、研修における納期は少し複雑な一面があります。

まず押さえたいのは「研修希望日に研修が実施できるかどうか」という点です。管理職研修は、忙しい管理職の日程を押さえなければならないこともあって、意外にも候補日が限られています。こうした中で、希望候補日の中でできるかどうかは大事な要素です。またリアルで開催する場合は、併せてその日に会場が手配できるかどうかもポイントになります。

次に押さえたいのは「使用教材を余裕を持って納品できるかどうか」という点です。学習管理システムなどを通じてデジタル配布できるならともかく、書籍やワークブックなど紙配布しかできない教材がある場合、事前に納期を確認しておくと良いでしょう。受講者である管理職は忙しい仕事の合間を縫って事前課題に取り組んでもらう訳です。直前で慌ただしくならないように、少なくとも研修開催1ヶ月前には教材が受講者の手元に届いている状態にしておきたいものです。

最後に押さえたいのは「研修会社の対応力や柔軟性があるかどうか」という点です。研修は、計画通りに進むとは限りません。例えば、受講者の人数やスケジュールに変更が出たり、急遽代理の講師を立てないといけなかったりする場合があります。こうした状況でもしっかり対応できる研修会社なら、安心して任せることができます。逆に、対応力や柔軟性がない研修会社は、納期だけでなく研修の品質や効果にも影響が及ぶ可能性があります。

2-4. Development:期待する能力開発ができる教育プログラムかどうか

4つ目は「Development」の視点です。

本来のQCDDMにおける「Development」は、新商品・サービスや新技術への対応度合いを評価します。この観点をそのまま流用すると、「研修会社は、年々生まれてくる新しいテーマや内容にどの程度対応しているのか?」という視点で評価することになります。ただ、それよりもここで見た方が良いのは「能力開発のアプローチ」という視点です。自社に必要な教育プログラムを提供してくれるかどうか、と言い換えても構いません。

さて、ここで陥りがちなのが、「こっちの方が日数が少ない」「教育方法が目新しい」など、部分的な評価で教育プログラムを決めてしまうことです。それが目標達成において重要なポイントであれば問題ないのですが、もし目に付いたところに飛びついてしまっているなら、一歩立ち止まって、教育プログラムを評価するための全体像から把握したいところです。

提案される教育プログラムが適切かどうかを評価する際、役に立つのが「教育プログラムを構成する7つの要素」です(図3)。これらの視点を持って、今回解決したい課題に対して本当にこの教育プログラムが適切かどうかを見定める必要があります。

図3 教育プログラムを構成する7つの要素

図3 教育プログラムを構成する7つの要素1)

2-5. Management:管理職研修を任せて安心な運営体制かどうか

最後は「Management」の視点です。

ここで見るべきは「管理職研修を任せて安心な運営体制かどうか」という視点です。

委託する会社として経営状態に問題がないかどうかはもちろんのこと、研修実施に向けた運営体制も確認しておくと良いでしょう。例えば、研修会社の担当者は、事前ヒアリングや研修後のフォローなど、自社のニーズに応えてくれるかどうかは大事なポイントです。また、研修開催に向けた段取りなどのサポートも確認したいところです。

更に、複数の講師が登壇したり、数カ月に渡る長期間の研修になる場合は、講師間の連携や各研修のテーマのつなぎが重要になります。その際、講師に任せ切りにならず、研修会社の担当者がハブになってもらえるかどうかを確認しておくと良いでしょう。

第3章 
管理職研修は経営的に大事な取り組み。
だからこそ、任せる先はこだわりたい

これまで管理職研修を任せるときに役立つ「5つの選定ポイント」を見てきました。こんなにも各項目を丁寧に見るのか、と驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ただ、管理職研修開催にはそれなりの費用が掛かります。また、忙しい管理職を一定時間拘束し、なおかつ事前課題の準備や移動・宿泊の手間などの負荷(見えないコスト)も掛かります。研修中は実務がストップするので、機会損失も出てきます。それだけの投資をする訳ですから、研修会社の選定はこだわりたいところです。

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引用/参考情報

1)参考:「カリキュラム概念の整理とカリキュラムを見る視点 : アクティブ・ラーニングの検討に向けて」京都大学高等教育研究 (2006), 12: 153-162を基に筆者にて加筆

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。