コラム
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人的資本経営の実現に必要な「リスキリング」とは

人的資本経営が重要視され、リスキリングが注目を集めています。しかし、ビジネスパーソンはこれまでも学ぶことが求め続けられていました。なかには、いったい何が違うのかと混乱している方もいるのではないでしょうか。

流行に左右されない本質的な理解を得るには、さまざまな視点でリスキリングを問い直すことが必要です。そこで本コラムではリスキリングについて、一段深く解説していきます。

資料ダウンロード「リスキリング推進と育成プログラム設計のポイント」

 

第1章 
リスキリングとは、
今後生まれる仕事に必要なスキルを獲得すること

リスキリングとは「企業が従業員に対して、全く異なる業務や職業に就くために、必要なスキルを獲得させること」です。

リスキリングの重要性が初めて提唱されたのは、2018年の世界経済フォーラム、通称ダボス会議の場です。その年のダボス会議では「リスキル革命」に関するセッションが開かれ、第4次産業革命によって数年で8,000万件の仕事が消滅する一方で9,700万件の新たな仕事が生まれる、との予測が報告されました1)。そして、今後生まれる新たな仕事に対して今のスキルセットでは対応し切れないため、社会全体でリスキリングに取り組む必要性に迫られている、との訴えがなされました。

日本ではそれから4年後の2022年10月、岸田首相が今後5年間で1兆円をリスキリングに投じると発表2)して一気に注目を集めました。この発表をきっかけに、2023年現在、国内でもリスキリングの認知が一気に広まりましたが、その始まりを見るとリスキリングは単なる”学び直し”ではないことがわかります。

では、具体的に”学び直し”と何が違うのでしょうか。

第2章 
今”ではなく”将来”を見据え、
リスキリングに取り組むべし

リスキリングは単なる“学び直し”とどう違うのでしょうか。押さえておきたいポイントは次の3つです。

2-1. 今の役割に必要なスキルを強化する、ことではない

リスキリングとは、変化に応じて生まれる新しい業務・職業に対して、新しいスキルを各自が獲得することです。従って、現在担っている仕事を果たすために、必要なスキルを高めることはリスキリングとは言いません(後述の通り、今の仕事に必要なスキルを高めることは”アップスキリング”と言います)。

2-2. 実施責任は企業にある

リスキリングは、環境変化に合わせて企業が変革を進めるために、従業員に新たなスキルを獲得してもらう取り組みです。従業員の自主性に任せているだけでは、変革もなかなか進みません。企業が実施責任を持ち、推進していく必要があります。

2-3. スキル獲得後、新しい業務や職業につくことが望ましい

研修等を受けたものの、目の前の仕事はこれまでと同じ、という取り組みはリスキリングとは言えません。新しいスキルを獲得した後、従業員には新しい業務・職業にチャレンジしてもらうことが必要です。そのため、企業は学習機会の提供と同時に新しい業務・職業も作り出し、配置転換などを通じて従業員にチャレンジを促すことが重要です。

第3章 
リスキリングは、
企業主導で取り組む戦略である

リスキリングの理解を深めるために、今度は類似概念である”アップスキリング”と”リカレント教育”と比較することで、その本質をより一層理解していきましょう。

図1:リスキリングと類似概念との違い
図1:リスキリングと類似概念との違い

まず、アップスキリングとの違いです。アップスキリングもリスキリングも、提供主体は勤務先にあります。一方で、両者の違いはスキル獲得後に取り組む仕事内容にあります。

アップスキリングは「今の仕事に必要なスキルを高めること」です。しかし、リスキリングは「新しいスキルを身につけ、新しい業務・職業に就くこと」であり、これまでと異なる仕事に取り組む点に違いがあります。例えば、セールス職に就く従業員がプログラミングを学び、エンジニア職に転身するのはまさにリスキリングです。他方で、プレゼンテーションやファシリテーションを学んだものの、取り組む仕事はセールスのまま、というのはリスキリングではなくアップスキリングになります。

では、リカレント教育とはどう違うのでしょうか。リカレント教育とは「就労と就学を繰り返すことでスキルを習得すること」です。違いは、その提供主体が教育機関であるという点にあります。

例えば、一時的に職場を離れて、大学などの高等教育機関にフルタイムで通い、卒業後に同じ分野でキャリアアップしたり、新しい職業にジョブチェンジしたりするなどです。残念ながら、日本では長時間労働や評価の難しさなどの問題から、リカレント教育はあまり浸透していませんが、欧米では会社に勤めている人が再度学習することは一般的なこととされています。

これまで、「アップスキリング」と「リカレント教育」の違いについて見てきましたが、改めて「リスキリング」で大事なのは、勤務先が主体となって取り組むことです。現在、環境の変化によって多くの仕事が消失するなかで、あらゆる世代のビジネスパーソンがリスキリングに迫られていると言えます。しかし、日本でリカレント教育が浸透しなかったように、個人に学び直しを委ねるだけでは限界があります。

企業が生き残っていくためには、戦略として、今後成長する分野のスキルを従業員に身に付けてもらうことが不可欠と言えます。そのために、企業が主体となって従業員のリスキリングを進めることが重要なのです。

第4章 
自社にリスキリングが本当に必要かどうかを、
内外環境の変化から問い直す

さて、リスキリングへの理解を深めたところで、改めてリスキリングが昨今注目されている背景も見ていきましょう。

図2:リスキリングが注目される背景
図2:リスキリングが注目される背景

まずは社会環境の変化から見てみましょう。昨今、市場のグローバル化やテクノロジーの進化に伴って、顧客の価値観の多様性が増し、また、カーボンニュートラル宣言やSDGs、ESGなどの重要性が高まっています。企業はこれらの変化に対応するため、DX(デジタルトランスフォーメーション)、SX(サステナビリティトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)などの対応が求められています。

こうした変化は、企業のポリシー、プロセス、リソースに影響を及ぼします。特に、必要な人材の変化に対応することが企業の経営課題となっています。変化に伴って、企業は必要な人材を内部で育成するのか、それとも外部から調達するのか、という点を検討する必要があります。

内部育成の場合、リスキリングの取り組みを進めていきます。内部育成のメリットは、計画的な能力開発がしやすく、必要な人材の需給も把握しやすいという点です。ただし、育成には時間と費用がかかるため、戦略のスピード感と合うかどうかが問題となります。

一方、外部調達の場合、必要な能力を持った人材を労働市場から新規採用する方法が主流ですが、状況によっては、事業体を丸ごと買収して取り込む方法もあります。メリットは、即時かつ必要なスキルに焦点をあてた即戦力を調達することができることです。ただし、調達した人材が企業文化に馴染めるのに時間がかかる可能性があるのが問題です。

人事はこうした点を踏まえ、内部育成・外部調達の双方から戦略実現に必要な人材を適切に確保していくことが求められます。そのためには、社会環境や企業経営の変化を把握し、戦略を実現するために必要な人材を定義し、内部からどの程度の人数を何年かけて育成するか、外部からどんな人材をどれぐらい調達するかを計画することが重要です。

第5章 
リスキリング推進の目的を見失ってはいけない

ここまでリスキリングの内容や背景を見てきました。最後に改めて、企業がリスキリングに取り組む目的を確認していきましょう。

(図3:「攻め」と「守り」のリスキリング)
(図3:「攻め」と「守り」のリスキリング)

リスキリングに取り組む企業にとって、その目的や期待する人材の内容は、事業変革か業務変革かによって異なります。図3では、事業変革を進めるためのリスキリングを「攻め」、業務変革を進めるためのリスキリングを「守り」と表現していますが、まさにリスキリングを行う前に、まずは企業が何を実現しようとしているのかを把握することが重要です。

昨今リスキリングが注目され、多くの企業で集合研修の拡充やeラーニングの導入などが加速しています。能力開発の機会が広がることは喜ばしい一方で、施策ばかりに目が向いてしまうことで、いつしか手段が目的化し、本当に取り組むべきことを見失ってしまうことがあります。

人的資本経営時代において、企業は変革の方向性を見据えて新たな業務や職業を用意し、従業員に新しいスキルを学んでもらうことが重要です。しかし、その流れの中で経営課題や必要な業務を見失ってしまうと、リスキリングの効果が半減してしまいます。

自社が事業変革か業務変革か、何を目指してリスキリングを行うのかを明確にし、その目的を把握することが重要なのです。

資料ダウンロード「リスキリング推進と育成プログラム設計のポイント」
引用/参考情報
1)参考:“WEF The Global Competitiveness Report”、2023年6月に内容確認
2)参考:“日本経済新聞2022年10月12日 10:37更新記事”、2023年6月に内容確認
参考:後藤 宗明(2022)『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』日本能率協会マネジメントセンター
参考:小林 祐児(2023)『リスキリングは経営課題~日本企業の「学びとキャリア」考』光文社新書

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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