学びたいという社員の期待に応え、教育機会を拡大。エンゲージメントが16.5ポイント向上、離職率も5%改善
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- コロナ禍によって多くの社員が自宅待機となり、社員のエンゲージメントが大きく低下。離職率も高まった
- 会社の経営方針と教育制度がエンゲージメントに影響を与えていることがわかり、教育制度の拡充を決断した
- 社員が自ら学び成長することで、社員の不安を前向きな課題や目標に置き換えることを目指し、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)へ派遣
- GMSのハードなプログラムを通して、自分の閾値を超えるような体験を多くの社員にしてほしかった
- 人材育成施策の結果、エンゲージメント(eNPS)は16.5ポイント上がり、退職率も5ポイント改善
- GMSを受講した社員が周囲のメンバーに勧める様子が見られており、受講を志望する社員は継続的に多い
- 今後は、次期経営者候補の社員にグロービス・エグゼクティブ・スクール(GES)の受講を検討中
コロナ禍によって大きく落ち込んだ社員のエンゲージメントを向上させる施策のひとつとして、公募型でグロービス・マネジメント・スクール(GMS)への派遣制度を取り入れている株式会社ユナイテッドアローズ様。その取り組みについて、同社の執行役員 CHRO 山崎万里子様、人材開発部 教育課 課長 松橋和久様からお話を伺いました。(部署・役職はインタビュー当時)
背景と課題 コロナ禍によって社員の不安が募り、エンゲージメントが大きく低下
山崎さん:
2020年からのコロナ禍によって、アパレル業界である当社は長期間の休業を余儀なくされ、社員のエンゲージメントが著しく低下するという課題に直面していました。
中でも店舗スタッフは完全に自宅待機となり、会社からの情報をほとんどお伝え出来ない状態に陥りました。
「この先、会社はどうなってしまうのだろうか」「私たちの仕事がなくなってしまうかもしれない」といった漠然とした不安が生じ、後に実施したエンゲージメント(eNPS)調査の結果も大きく落ち込んでしまったのです。
この調査結果を詳しく分析すると、社員のエンゲージメントに影響を与える要素が、コロナ禍前後で変化していることがわかりました。コロナ禍以前は、上司のマネジメント、仕事のやりがい、仕事量といったものがエンゲージメントに寄与していました。とりわけ仕事量の負荷が大きくなることがエンゲージメントにマイナスの影響を与えていたのです。
ところがコロナ禍に入ってからは、社会不安を反映するかのように、会社の経営方針や教育制度がエンゲージメントに影響を与えるようになりました。社員からも「会社が何を考えているのか、どのような状況なのかを教えてほしい」「会社の経営再建のために学びたい」といった声がダイレクトにあがるようになったのです。このような意見を持った社員の期待に応えることでエンゲージメントを再び向上させ、さらには業績の立て直しに繋げられるのではないか、ということを調査結果から発見しました。
そこで、私から全社員に対して経営に関する考えや状況を定期的に発信するとともに、教育に大きな投資をすることを意思決定したのです。
グロービス・マネジメント・スクール(GMS)の受講を通じて、‟自分の閾値を超える”経験をしてほしい
山崎さん:
新たに実施する研修は、社員が自ら学んで力をつけていくことで、コロナ禍で社員が抱いた不安を前向きな課題や目標に置き換えること、およびそうした自律的な社員が増えることをゴールにしました。その結果として、コロナ禍で低下してしまったエンゲージメントを回復していこうと考えたのです。
松橋さん:
これまで当社が実施してきた研修は、今の役職や職種に役立つ内容が中心でした。エンゲージメント調査の結果をふまえてこの方針を変え、今の仕事にダイレクトに役立つ研修ばかりではなく、将来の自己投資になるような分野を、社員の意思で学べる仕組みもつくることにしたのです。
山崎さん:
具体的な施策としては、アパレル業界に直結する分野の社内研修を実施するとともに、一定の階層以上の社員を対象に、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)への通学を取り入れることにしました。いずれも公募型とし、学びたい社員が、学びたい内容を自ら選ぶことを大切にしました。その中でGMSの受講者は、志望動機を自分の言葉にして提出したうえで通学することにしています。
社外で学ぶ場としてGMSを選んだのは、過去に私自身が受講し、予習を前提にクラスが進む緊張感と、答えがないテーマを真剣に議論する経験が貴重だと感じたからです。受講したのは20年も前のことですが、頭が痺れるくらい考え抜いて議論し、自らの努力で自分を大きく変えるという、‟閾値を超える“ような体験ができたことを鮮明に覚えています。また、5年前には現在の役員3名がグロービス・エグセクティブ・スクール(GES)に通学し、やはり「本当に大変だったが、とても役に立った」と口を揃えて言っていたのです。
このような、正解がない世界で意思決定をする体験を多くの社員にもしてほしいと思い、当社の研修は、手軽に学んで知識を得るのではなく、将来にわたって仕事のパフォーマンスを高めるための筋肉をつくるような学びが得られることを目指しています。
松橋さん:
私もGMSの受講経験者です。クラスがとても大変だったという点には同感です。だからこそ「この3か月間の大変さを無駄にしたくない」という気持ちが強くなり、実務で活かそうとする意欲が自然と湧くスクールだと思います。
実際、受講した社員に共通する感想は「とても大変だったが、とても良かった」なのです。
検討プロセスと実施内容 公募型にすることで、失敗を恐れず自らチャレンジする社員を見極める
山崎さん:
GMSを含む当社の研修は、公募型にすることにこだわっています。自ら学びたいと思う人に学習機会を与え、リスクを取って行動できる人は誰なのかを見極めるという意味合いがあるのです。研修以外の人事制度としては、社内でオープンポジションを作って公募をすることがありますが、選ばれないリスクがあってもこのような機会にチャレンジする人には、重要な仕事をやり切れる素養があると思うのです。失敗を恐れず自ら行動できる人を見極められるのが、公募型の良さだと思っています。
ただ、人材育成に大きな予算を確保したものの、応募者が少ないのではないかという心配がありました。しかしながら、公募を始めてみると多くの社員がGMSを受講したいと手を挙げてくれて、私の心配は杞憂に終わりましたね。
社員の中では、特に若手の一般社員が学ぶ意欲を強くもっています。店長や管理職など階層別研修は豊富に用意されている一方、一般社員に不足感があるのか、この機会を逃さず学ぼうとする気持ちが芽生えやすいのかもしれません。
松橋さん:
職種別では、特に店舗スタッフからの受講希望が多いです。コロナ禍に仕事を失うリスクに直面したことで、自分の市場価値に向き合わざるを得なくなった経験が、成長意欲につながっているのだと思います。また、将来は本社の仕事をしたいと考えるメンバーが今から学んでおきたいというニーズも感じられます。
山崎さん:
コロナ禍は、エンゲージメントが低下しただけでなく、離職率も上がってしまっていました。アパレル業界に危機が訪れ、賞与も出なかった時期があっても当社に残った社員は、この会社を立て直すのは自分の役割だと思ってくれているのだと感じています。
当社研修の大前提は‟閾値を超える”こと。ハードなプログラムだからこそ、社員へのフォローもしっかり行う
松橋さん:
GMSはハードなプログラムなので、業務と両立しきれない社員が多くなってしまうかもしれないという心配もありました。そこで、私から受講者の上司に対し、「3か月間は大変な時期になると思うので、サポートしてほしい」とお願いしています。すると、かなりの確率で上司から「しっかりサポートするので安心してください」など丁寧な返信があるのです。これは当社の良い文化だと思っています。
それでも、3か月の受講途中で欠席が出てしまうケースがあることも事実です。そのような社員には、勤務状況や業務面で問題がなさそうであれば、「何か困っていることはある?」と声をかけるようにしています。無理に責めることなく、最後まで受講を完走できる方法を一緒に考えるスタンスでケアするよう心がけています。
ただ、途中でドロップアウトする社員の割合はかなり低いです。受講が始まる前に志望動機を書いてもらうことで、最後まで学ぼうとする意欲につながっているのでしょう。さらに、我々が用意している人数枠を超えた応募があることも多く、全員が受講できるわけではないので、受講できている社員は「大変だけれど、せっかくの機会だからがんばろう」という気持ちになれるのではないかと思います。
成果と今後の展望 エンゲージメントスコア、離職率ともに大きく改善。業績への好影響も出始めている
山崎さん:
GMSをはじめとする教育機会を豊富に設けてから、エンゲージメント(eNPS)は16.5ポイント上昇し、退職率は5%下がりました。これらの数値はコロナ禍以前の水準に戻っており、業績も回復しつつある段階です。社員のエンゲージメントとお客様のロイヤリティ、そして会社の業績は循環するといわれます。当社はコロナ禍で悪循環に陥ったところから、好循環に転換できた手応えを感じているところです。コロナ禍のエンゲージメント調査で社員が本音をぶつけてくれたおかげで、そうした気持ちに寄り添う教育投資をする意思決定ができたと思っています。
松橋さん:
GMSの受講者数は継続して多く、受講した社員が他のメンバーにも勧めるケースが多く見られます。社内で口コミを広げる仕掛けをやっているわけではなく、自然発生的にGMSの認知が社内で広まっているのは非常に良い傾向だと感じています。
個人の受講履歴から、チャレンジできる人材の発掘・登用につなげる
山崎さん:
明示的に昇格要件にはしていないものの、GMS受講に手を挙げる人はチャレンジ精神がある証だと捉えており、職責登用時やサクセッションプランの人材プールを形成する際、受講履歴を確認しています。業績評価のデータには表れない「意欲があり、リスクを取れる人は誰なのか?」という点において、公募研修への応募歴から挑戦する意欲を見ています。
こうして、GMSを受講した人が実務でチャレンジの機会を掴み取っていく事例が積み重なることで、学びの風土も醸成されてきているように思います。
当社がイノベーションを創出するにあたり、GMSで学ぶ機会をつくり、新しい行動を起こす基礎体温を社内で少しずつ上げられていることは大きな成果ですね。チャレンジする人が多くいる職場になり、社員の雰囲気も明るくなりました。
今後は、次期経営者候補の育成を検討中
山崎さん:
サクセッションプランの中で、次期経営者候補の社員にグロービス・エグゼクティブ・スクール(GES)を受講してもらうことを計画中です。その検討にあたり、まずは私がGESを受講する予定です。GMSも自分の受講体験があるからこそ自信を持って社員に勧められたので、今回のGESもまずは自分が受講したいと考えています。
グロービスの担当者には、当社の人材戦略上の課題をふまえて、ソリューションを提案いただけることがありがたいです。おおよそ半年に一度のスパンで課題をお伝えし、必要なときに必要な情報を丁寧かつクイックにいただいており、とても満足しています。
グロービス担当者の声
会社や社員の皆さまへの熱い想いに感銘を受けながら、インタビューをさせていただきました。
コロナ禍の逆境において様々な苦悩や葛藤を抱えつつも、常に社員の声に耳を傾け、漠然とした不安を前向きな目標に転換しながら施策を進めてこられた姿勢に、改めて敬意を抱いております。
ここに、社員の皆さまの愛社精神や学びへの意欲も重なり合い、現在の会社の姿が作られているのだと強く感じました。
「グロービスの研修はとても大変だったが、とても良かった」という皆さまの感想からも、熱心に学ぶ姿勢や多くの学びが得られている様子が伝わり、大変嬉しく思います。
また、受講履歴が会社からの評価や配置に結びついていることで、社員の皆さまのモチベーションが向上し、意欲的に学び続ける風土がしっかりと根付いていると考えています。このような風土があるからこそ、日常会話の中で自然に研修の話題が出る環境が生まれ、社員同士の口コミによる受講の促進が進んでいるのだと感じます。さらに、受講に対する上司の理解も得やすくなり、組織全体として、業務と受講の両立をサポートする文化が確実に育まれていることがうかがえます。
ユナイテッドアローズ様の貴重な施策に関わらせていただけるご縁に、改めて感謝しています。
現在ご検討されている次期経営者候補の育成も含め、今後もユナイテッドアローズ様のチャレンジが前に進まれるよう、精一杯ご支援させていただきます。