JAM島津労働組合

人的資本経営の知見を深め、経営と対等に議論して社員の働きがいを育む労働組合を目指す

業種
  • 精密/医療機器
サービス
  • 企業内研修
研修対象
  • 一般社員層
言語
  • 日本語
JAM島津労働組合

労使が協調して経営を進めるために、労働組合の執行役員が人的資本経営について学ぶ取り組み(以下、本研修)を行っているJAM島津労働組合様。本研修は、労働組合執行部に加え、労使協調のパートナーである人事部のメンバーも参加して行われました。その取り組みについて、お話を伺いました。(部署・役職はインタビュー当時)

【JAM島津労働組合様】
写真左:副組合長 村田 匡様

【グロービス担当者】
写真右:緒方 美穂

導入前の課題
  • 非専従執行役員の任期は1期2年と短く、それゆえに生じる経験不足が課題
  • 経営協議において、経営陣の言葉の意図や背景を理解できず、議論がかみ合わなかった

研修内容
  • 人的資本経営に関する知見を深めることを目的に、会社と労働組合のメンバーが合同で受講
  • 組合執行部と人事部メンバー間での信頼関係を構築するため、対面での開催にこだわった

成果・効果
  • 人的資本経営の考え方や、評価や報酬といった人事制度の知識を身につけられた
  • 研修後の議論では、制度の本質や時代の潮流を見据えながら踏み込んで議論できている

背景と課題

経営協議の際、経営陣の言葉の意図や背景を理解することができなかった

村田さん: 
我々は、株式会社島津製作所と島津産機システムズ株式会社の2社における労働組合です。組合の執行部は17名おり、そのうち、労働組合の仕事に専念する専従執行役員が4名、業務と兼務の形で携わる非専従執行役員が13名という構成です。

執行部の大半を占める非専従執行役員の任期は1期2年と短く、それゆえに生じる経験不足が課題でした。団体交渉や春闘など、経営と十分に議論するだけの経験を2年で積むことは難しいものがあります。

私自身は専従執行役員になる前に4期8年組合役員を務めており、専従執行役員になってからは1年半ほど経ちました。それでもなお、自分のスキル不足、経験不足を感じる場面があります。社長をはじめ経営陣と議論をすると、圧倒的な視座の違いを目の当たりにするのです。

経営陣はグローバル視点を持ち、あらゆる社会情勢を踏まえて自社の戦略を語る一方、労働組合側は現場の観点に重きを置いた意見を伝えることが多いです。現場の意見を伝えることが我々の役割とはいえ、これまでの経営協議などにおいては、経営陣の言葉の意図や背景を理解することができずに、ただただ議論がかみ合わず、交渉の後は徒労感を覚えることが多くありました。

また、近年は若手社員が労働組合の執行役員に任命されるケースも増えてきています。職場経験の少ない若手社員が、会社の組合員3,400名を代表して経営との交渉の場に臨まざるを得ない状況になっていることも大きな課題と感じていました。

こうした状況のままでは近い未来、労働組合が経営をモニタリングし、時には経営陣に効果的な提言をしながら、組合員の労働条件を改善して経営の方向性を修正するという役割を果たしきれなくなるかもしれない、という危機感を抱えていました。

そこで、組合執行部の経験不足を少しでも補うための疑似体験の場として、本研修を企画しました。学ぶテーマを人的資本経営としたのは、経営との交渉における重要テーマになることを見据えたためです。我々が経営と同じ土俵に立って議論できるよう、知識を蓄えておきたいと考えました。

プログラム概要

グロービスにお声がけしたのは、私が以前GMS(グロービス・マネジメント・スクール)に通学した経験があり、経営スキルをしっかり身に付けられるだけでなく、議論を通じて受講者同士が切磋琢磨しながら学べる環境であると感じていたからです。本研修も議論中心のスタイルで学ぶ場を作りたいと考えたため、企画段階から相談を持ちかけました。

「経営と労働組合が共通言語を持つ」ために、合同での研修をスタート

村田さん: 
当初考えていたゴールは、執行部のメンバーが人的資本経営に関する知見を深めることでしたが、緒方さん(グロービス担当者)と打ち合わせを重ねる中で、「経営と労働組合が共通言語を持つ」状態を目指すことにしました。労働組合と会社側がただ対立するのではなく、前向きに議論し協働できる状態を作るためです。これは、まさに私が目指したい労働組合の姿でした。

新たに設定した「共通言語を持つ」というゴールを踏まえ、本研修の参加者として会社側にも声をかけることにしました。人事部長に掛け合って、人事部の若手メンバーにも参加してもらうことにしたのです。

また、コロナ禍で対面コミュニケーションの機会が激減していたため、本研修は対面での集合研修で行うことにしました。この数年間、研修はオンラインで行うことがほとんどでした。今回は受講者全員の能力や強みを引き出しながら議論し、組合執行部と人事部メンバーとの交流を深め、信頼関係を構築するためにも、対面での開催はこだわったポイントの1つです。

検討プロセスと実施内容

会社側の理解を得るために、本研修のメリットを丁寧に説明。「ぜひ受講してもらいたい」との声も

村田さん:
 最も不安だったのは、受講者に本研修の意義を理解してもらえるだろうか、という点でした。執行部のメンバーは説明すれば納得してくれると思っていましたが、労働組合が開催する研修に人事部のメンバーが参加することに、会社側の立場である人事部から理解を得られるかが気がかりでした。

一筋縄では納得を得られないだろうと思い、人事部長や人材開発室長、さらには受講者の上長にも本研修の意義や参加するメリットを丁寧に説明することを意識しました。組合が行おうとしている施策についてしっかり理解してもらうことが大事だと考えたのです。

人的資本経営についての学びを得ておく必要性や、受講者同士で信頼関係を築く意味合いを伝えると、「それなら、ぜひ受講してもらいたい」と言ってもらえて安堵しましたね。

人事部としても、特に若手メンバーが現場を知る機会を作りにくいという課題感を持っていたのです。今回は研修という場ではありますが、現場で働く組合執行部メンバーとの繋がりを作っておくことで、今後、何か困った時に現場に声をかけられる状態にしておくのは有益だと感じてもらえたのだと思います。

成果と今後の展望

研修後は、制度の本質や時代の潮流を見据えながら踏み込んだ議論ができている

村田さん: 
このような取り組みは一朝一夕に成果が出るものではないと思っているものの、人的資本経営の考え方や、評価や報酬といった人事制度の知識はしっかり身に付けられたと思います。

また、現在進行中の人事制度改定の議論において、本研修で学んだネゴシエーションスキルを執行部メンバーの多くはさっそく活用しています。従来、人事部と労働組合との話し合いでは互いに現場感覚や感情論が先行しがちだったのですが、研修後は、制度の本質や時代の潮流を見据えながら踏み込んだ議論ができていると感じます。

本研修のような取り組みをせずに執行部の運営をしていた頃とは異なり、研修で学んだことを実践してみるという行動変容も皆に見られています。

ここまでの状態にできたのは、緒方さんの力添えがあったからです。我々の曖昧な構想から目的を明確にし、具体的なプログラムを設計していただきました。研修名も、緒方さんにアイデアをいただいて決めましたね。

さらに、研修の設計だけでなく、現場にも足を運んでいただいて我々を理解しようと努めてくださった点にも信頼が置けました。今回の取り組みを自分事として捉えていたただき、緒方さん自身も楽しみながら企画していたことが印象に残っています。今後の施策についても、緒方さんに相談しながら検討を進めているところです。

組合役員は組合のことだけではなく、経営全般のスキルについても理解を深める必要がある

村田さん: 
労働組合として経営と様々な話をする中で、学ぶべきことはまだまだあると、強い課題意識を持っています。移り変わりの激しい時代ですから、組合役員は組合のことだけではなく、経営戦略や管理会計をはじめとする経営全般のスキルについても理解を深める必要があると考えています。社内のことだけでなく、政府の産業政策などマクロな知識も求められますね。

こうした知見が不足していると、例えば春闘の交渉においても「連合や上部団体がこう言っているから、何%賃上げを要求します」といった、根拠に欠けた主張をしがちです。そうではなく、労働組合は、財務面も含めて経営状況を理解したうえで、しっかりとしたロジックで会社と協議ができるカウンターパートであるべきだと思っています。

これからの時代における労働組合は、社員の労働条件の改善に留まらず、働きがいを育む取り組みもしていけるとよいですね。SDGsやダイバーシティ、キャリアデザインをテーマにした活動などにもチャレンジしています。会社と労働組合を明確に区別するようなセクショナリズムは捨てて、社員の働きがいを高め、社会課題解決へのアプローチを労使で一緒に模索していきたいと考えています。

いずれは、我々島津労働組合だけではなく、社会全体の労働環境の改善につながる活動もしていきたいです。そのためにも、JAM島津労働組合が先駆けて多様な取り組みを行い、産業を超えた多くの労働組合にとってのモデルケースになれればと考えています。

グロービス担当者の声

緒方:
「人的資本経営を考える研修」というタイトルからは最先端でトレンドに乗った内容をイメージされるかもしれませんが、自社の事業環境や人事制度の意図や運用について考え抜くという、当然のことに地道に向き合うプログラムを提案させていただきました。

私自身も過去に人事担当の経験があるのですが、「この人事制度が真に成果を上げるのか?」という問いに、企画段階や運用途中で自信を持つことができず、定量化も難しく、いつも苦悩していました。人的資本経営という言葉を毎日聞くようになりましたが、分かりやすいノウハウ・正解があるものではなく、人事・労働組合が自分達の企画する人事制度・人事施策について考え抜き、運用にもこだわりぬく、その営みこそが人的資本経営だと思っていたので、そこに向き合う研修にしたいと考えました。

今回のインタビューで、村田様が開催に向けて、参加者の上司の方一人ひとりに直接説明に行かれていたことを知りました。研修現場の現実では時にやりきれていないことですが、この村田様の行動もまた、地道で骨が折れるが本質的な営みであるとハッとしました。

本企画はすべての労使パーソンに受講いただいて損はないと思える内容ですが、地道で4日間にもわたる研修となりました。このようなご相談をお受けし実現するチャンスは、頻繁に巡ってくる訳ではありません。村田様の熱意や行動があるからこそ、私も本企画でご一緒できており、このご縁に改めて感謝しています。

これからもJAM島津労働組合様、島津製作所様のチャレンジが前に進まれるよう、精一杯支援させていただきます。

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