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2024年11月20日(水)無料
【人材育成ご担当者さま向け】
グロービス受講体験セミナー~クリティカル・シンキング編~ スピーカー:奥 康訓
DX(デジタルトランスフォーメーション)カンパニーへの転換、ジョブ型雇用の推進などの全社的な変革を前に、新役員陣の結束を固めることを目的として、2泊3日の役員合宿(経営方針の討議)を実行された富士通株式会社様。その内容について、本合宿に参加された同社の執行役員常務 総務・人事本部長 平松浩樹様にお話を伺いました。(部署・役職はインタビュー当時)
※集合写真は密閉空間を避け撮影し、インタビュー写真はソーシャルディスタンスを取り撮影しております。
時田が社長に就任した2019年以来、当社は変革に向けてチャレンジを続けています。当社のパーパス(社会における企業の存在意義)として制定した「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」は、変革への決意の表れであり、変革への方向性を示した道標といえます。
パーパス実現の一環としてDXカンパニーへの転換を掲げ、繰り返し社内外に発信をしています。しかしDXカンパニーへの転換は、従来の延長線上の成長では達成できません。当社全体のカルチャーやビジネスの方向性を根本から変える、大きな変革なのです。そのため、経営層から指示が降りてきたので一部の部門だけデジタルを導入する、といった対処療法ではなく根本的な変革が絶対でした。
大きな変革を前に、変革をリードする役員層が一枚岩になる必要があると感じていました。役員層が同じ方向を向き、腹を割って議論できる。そのような役員体制が必要だと。
一方で当社の経営会議は、変革をリードできるほど活性化できていないのではないか、という懸念がありました。表現が適切か分かりませんが、皆良い人なので、場をわきまえてしまっていたのでしょう。従来の経営会議では、踏み込んだ発言を遠慮する空気が、社長を含めてあったのではないかと考えています。
このような状態に対して、時田から本質的な解決を促されました。参加すべきメンバーが集い、全体視点で活発に議論を交わせるような会議体に変えねばならない、と。
会議体の活性化に向けて様々な取り組みを行いました。その施策の1つが、役員合宿だったのだと認識しています。
役員合宿を通じて、役員が一枚岩になれることを期待していました。そのためには、本音でじっくり議論できる場が必要です。当社の存在意義から言葉を交わし、参加者全員が共感を得られるような場、のイメージですね。
また一枚岩になるためには、外部からの意見を柔軟に受け入れられる雰囲気が必須でした。というのも2020年4月1日付で、役員層を外部から3名招へいすることが決まっていたからです。外部の方々とプロパーである我々が、チーム時田の仲間として共に当社をリードしていく。そのような役員の関係性を、迅速に実現する必要がありました。
外部から招へいされた役員とプロパー役員の間で、議論が成り立つのかという心配はありました。対立構造ができてしまわないか、お互い様子見してしまって表層的な議論になりはしないか、などは懸念事項でしたね。
ですが実際に役員合宿が始まると、懸念は杞憂だったことが分かりました。役員合宿の構成が素晴らしかったからでしょう。初日の昼食にはプロパーの役員から「あのような方々に来てもらえるのはとても良いことだ」という声が上がる程、お互いを認め合えていました。
特に印象的だったのは、外部から招へいされた役員からの率直な発言「外からは富士通はこのように見えている」「良いところもあるが悪いところもある」に対して、プロパー役員が「参考になる」「そこに対してはこういうことをやりたい。一緒にやろう」と前向きに反応していたことです。
合宿のような非日常の場で、皆が胸襟を開いて話せるような雰囲気を作れたからこそ、互いの発言をポジティブに受け取る関係性ができたのだと思います。
役員合宿では随所に、役員を「同じ船に乗せる」ための仕掛けが施されていたと感じます。
たとえば合宿の最初に時田から話がありました。時田が考える富士通の存在価値や方向性が示され、それに対して経営陣で目指そう、という内容です。その話の最後に、この方向性に異論がある場合は、船を降りてもらうしかないと言われたのです。
一瞬緊張が走りましたが、チーム時田として同じ船に乗るんだという高揚感も芽生えましたね。ここまでドライなことを言える日本企業の社長はそう多くないでしょう。あえて口にすることで、我々に期待していることが明確になりましたし、信頼感にもつながりました。
その後の議論も、非常に活発に進みました。時田が最初に思いをぶつけてくれたこともあり、心理的安全性が高まったのでしょう。自分の考え・想いを発言しても良いのだという雰囲気のもと、肩書を外したフラットな場で本音を話す。皆の気持ちが少しずつ変わっていったことを、私自身も体感しました。
話しやすい場の形成という点では、テーマ設定と順番も良かったですね。もし最初のアジェンダで中期戦略の討議をしていたら、何をどこまで言えば良いか、みんなが警戒しながら議論をしてしまっていたでしょう。しかし富士通の存在意義とは何なのだろう、というテーマが最初にくれば、新入社員でも社長でも“想い”があり、その想いを語りたい・共有したいという欲求があるわけです。
皆が熱く語れるテーマでそれぞれの思いをまずは吐き出し、それらを少しずつ現実的な話にブレイクダウンさせていく。そのような順番、ストーリーの作り方も有効だったのだろうと思いますね。
一方、あるテーマで自由に語らせて、それを深めて形にしていくというのは、中途半端なファシリテーターにはできません。その点は、西さん(グロービス マネジングディレクター)がファシリテートされていたことが功を奏したと思います。ファシリテーションの技術はもとより、経営のバックボーンがあることが良かったですね。
私の過去の経験では、コンサルタントがファシリテートをすると対話に重きを置きがちです。一方で大学の講師がファシリテートをすると、講師の理論やナレッジを聞く場になりがちです。
西さんのファシリテートは、両者の良いところをバランスよく取り入れていました。ニュートラルな立ち位置で、我々が想いを吐き出しやすい雰囲気を作り、議論を俯瞰しながら傾聴する。あくまでも我々が言ったことを整理し、深堀すべきキーワードを上手く拾いあげ、そのキーワードを起点にまた議論を深めていく。このような進め方のおかげで、我々が主役なのだという感覚を、常にキープできたのです。
役員間で信頼関係を構築できたことは、とても大きな成果でした。チームビルディングの大切さを改めて感じましたね。
たとえば役員合宿後、すぐにコロナ禍になってしまい、経営会議もオンラインになりました。ですがオンライン会議であっても、忌憚のない議論が続いています。発表者が話している最中でもチャットで感想や質問が飛び交い、時には冗談も書き込まれます。このような経営会議は、2年ぐらい前には想像もできませんでした。経営会議も中期戦略討議も、議論は間違いなく活発化しています。
またそれぞれのチャレンジを、皆が応援し合う関係性ができています。役員合宿の時、当社の存在意義から議論を始め、さまざまな改革に対して「なぜやるのか」「何を目指しているのか」を腹落ちするレベルで議論できたからでしょう。役員が全員、これらのチャレンジは当社に必要だと同じ目線で認識できていました。そのため、自分達の部下にも事前に情報を流してくれるので、役員それぞれがスピード感を持って変革を進められています。
今まで制度改革が上手くいかなかった要因の1つは、関係する役員の説得が大変だったことがあると思っています。社長の意見と自組織の担当役員の意見が異なり、総論賛成・各論反対という状態だと、現場は動きづらいですよね。役員合宿という短い期間で、このハードルを低くできたことは、当社にとって大きな成果です。
また面白いことに、社員の皆さんもさまざまな改革に対して、大変だけどやってみようという雰囲気になっているのです。たとえば新任課長登用予定の600ポジションの一斉ポスティングを実施しました。結果、公募したポジション枠の1.5倍の社員から手が挙がりました。現役の管理職の人も手を挙げたことは、素直に驚きましたし、嬉しかったたですね。
パーパスという上位概念から全社戦略、具体的な活動という下位概念まで整合しているので、社員の皆さんも受け入れやすいのでしょう。今までは、目の前のビジネス課題を解決するための施策という説明だったので、「この施策を進めると、将来的にビジネスにマイナスのインパクトが出るのではないか」といった懸念があり、動き辛かったのだと思います。
また時田の強いコミットメントがあることも、全社浸透に一役買っています。時田から全社員へ、この施策は絶対必要だ、といったメッセージを発信してくれています。メッセージの発信も、コロナ禍に合わせてオンラインで行っており、リアルタイム配信なので、チャットの質問にも時田がその場で答えているのです。
その意味では、役員会議で培った心理的安全性が、全社に広がっているのだと感じます。ポスティングも、自分の上司にお世話になったのに別のポジションに手を挙げていいのだろうか、と言った葛藤を持つ方もいるでしょう。ですが、「手を挙げていいのだよ」と時田や我々役員が発信し続けることで、その心理的制約を取り払おうとしています。
日本の大手企業の社員は、ポテンシャルは高いものの、さまざまな前提や制約が足かせになってしまっていることがあります。制約を無くそうと思っても、無言で空気を読んでしまう。
結果として生産性を落としていたり、社員のキャリアの可能性を摘んだりしていることが、往々にしてあります。その制約を取り払うには、役員が覚悟を決めると共に、役員同士のベクトルを合わせることが必要でした。
役員が同じ方向を向き、パーパスの実現を目指して動き出す。この潮流が全社員に広がりつつあることが、変革のスピードを加速させているのです。
私のミッションは、パーパスドリブンな企業の実現です。パーパスドリブンな企業とは、パーパスを実現するために皆が自律的に考え行動し、高め合っていけるような組織や人の集まりです。
私は「ジョブ型雇用」の導入を推進しましたが、それはあくまで手段。前提として、当社が目指すパーパスの実現やDXカンパニーへの転換に向けて、人や組織のありたい姿を描かねばなりません。
そのありたい姿はたとえば、社員が年齢や役職に縛られず様々な仕事にチャレンジできる、自ら成長するために多様な人材と常にコラボレーションできる、などです。ありたい姿を実現するために、「ジョブ型雇用」という手段を使い、ポスティング制度を整備したのです。
なので、先ほども申し上げた通り、社員の皆さんが会社の変化を前向きに捉え、ポスティング制度という機会を活用してくれたことは、本当に嬉しかったですね。
また今後は、改革の実践を進め、社内に経験値やナレッジを溜めていきたいと考えています。そのためグロービスには、今回のように議論のファシリテートはもちろん、施策に関するインプット/助言/フィードバックを通じて、共に考え伴走するパートナーとしての役割を期待しています。
確かにコンサルティング会社へ依頼すれば、変革のサポートをしてくれます。コンサルタントがどんどんインタビューを進め、素晴らしい提案を出してくれるでしょう。それはそれで説得力があって良いアウトプットですが、当社の中に経験値やナレッジが蓄積されにくいというデメリットもはらんでいます。
自社の変革を行うのであれば、変革を担うべき社員が変革を推進せねばなりません。ですが自分たちだけで推進できないところは当然あります。そのサポートを、グロービスが担ってくれると大変ありがたいです。
今まさに、HRビジネスパートナーを作ろうというプロジェクトを、グロービスと共に進めています。そのような実践的かつ当社に経験値・ナレッジが蓄積されるようなプロジェクトに伴走してもらえることは、我々にとって非常に価値が高いです。
グロービスは長らく富士通様に様々な人・組織に関するソリューションを提供してきました。2019年に社長の時田様と副社長の古田様(役職は当時)と、『経営論点を総括する対話セッション』をする機会をいただき、経営の議論、変革の議論をさせていただいたことがきっかけで、今回の役員合宿の企画運営のご相談をいただけたと理解しています。
本合宿では昼間の議論に加え、夜の食事後のリラックスした雰囲気の中で、お互いの価値観が共有できるようなイベントを設計しました。なぜなら本合宿の目的の1つは、役員が一枚岩になること。特に社外から招へいされた3名の役員とプロパー役員が交じり合い、様々な経験や知見が率直に共有され、戦略理解と方向性が定まっていくための場づくりが私の役割だと強く認識していたからです。そのため、昼夜問わずお互いが胸襟を開いて話せる場作りを意識しました。
富士通様とは本合宿だけでなく、事業経営スピードを上げるためにHRBP育成プロジェクトもサポートさせていただいています。今後も富士通様の様々な変革に伴走するパートナーとして、共に挑戦し続けたいと思っています。