ブラザー工業株式会社

会社のDNAである”チャレンジ”を浸透させる、経営陣も巻き込んだ風土醸成の取り組み

業種
  • 電子/電気機器
サービス
  • 企業内研修
  • eラーニング
研修対象
  • 課長層
  • 一般社員層
言語
  • 日本語
ブラザー工業株式会社

現場の要となるミドル層〜若手社員に対して自身の志を確固たるものとし、「圧倒的な当事者意識」と「おせっかい」の意識を高め、自律・自発で変革に挑戦する行動を促す研修に長年取り組んでいるブラザー工業株式会社様。この「テリー’s チャレンジ塾」(以下、「チャレンジ塾」)の取り組みについて、お話を伺いました(部署・役職はインタビュー当時)。

【ブラザー工業株式会社様】
写真左:CSR&コミュニケーション部 CSR・ブランドグループ 副参事 大井 裕之様
写真中右:CSR&コミュニケーション部 CSR・ブランドグループ 主事 朝日 孝様
写真中左:CSR&コミュニケーション部 CSR・ブランドグループ 主任 水谷 亮子様

【グロービス担当コンサルタント】
写真右:伊藤 貴章

導入前の課題
  • 人財の底上げが経営課題として挙がっていた
  • 指示待ちで自律的な行動を取れない傾向があった

研修内容
  • チャレンジ塾は、自責で自律的な行動を取れる人財の育成を目的とした
  • 社内外の交流を通じて視座を高め、自律的な行動から経験を重ねることが促進できるように設計

成果・効果
  • 社会課題解決型の商品開発や、小規模ビジネスのスケール化する事例が出てきた
  • 全卒塾生と塾生が縦横のネットワークを活かして相互に協力しあう関係性が築けている

背景と課題

自律的な行動を取れない傾向が見受けられていた

大井さん:
チャレンジ塾は、現会長の小池利和が社長だった時代に発案したものです。発足当初の2014年頃、人財の底上げが経営課題として挙がっていました。

ブラザーグループの2015~2018年の3カ年中期戦略の中でも、変革風土を作っていく方針が掲げられていました。この中期戦略も踏まえて、変革をリードできるようなチャレンジ精神をもった人財を育てたいという小池の強い想いがあり、「テリー‘sチャレンジ塾」が生まれたのです。名称に入っている「テリー」とは、小池がアメリカ駐在時に呼ばれていた愛称で、私たちも普段から「テリーさん」と呼んでいます。

CSR&コミュニケーション部の私たちがチャレンジ塾を運営しているのは、この取り組みの意義の根幹が「経営理念の浸透」にあるからです。経営の基本方針、行動規範の浸透は、私たちの重要なミッションのひとつでもあります。

経営の基本方針に位置付けられる「グローバル憲章」の浸透に向け、経営トップは毎年コミットメントを掲げます。2014年のコミットメントでは、テリーさんが人財の変革をコミットしたことから、このチャレンジ塾が始まりました。

変革を進めていくためには、お客様の声が非常に重要だと私たちは考えています。海外売上比率が約84%を占め、消費財を扱うという面からお客様との直接の接点がややもすると遠い会社です。そのため、お客様と対話し、お客様が何を求めているかを知らねばならないという課題感は多くの従業員の中にあると思います。実際に足を運んで聞いて、確かめてくる経験をしなければならないと一郎さん(佐々木社長)も語っていますね。

朝日さん:
チャレンジ塾が始まった2014年当時、私は製造部の人財育成を担当していました。そのときに感じていた課題感は、指示待ちで自律的な行動を取れない傾向が高いということです。チャレンジ塾は、自責で自律的な行動を取れる人財を育成するということで、現場の課題感もカバーした内容だな、と感じていました。

社内外の交流を通じて視座を高め、自律的な行動から経験を重ねることを意識

大井さん:
ゴールは、その時々の経営課題に応じて変化させています。最初の立ち上げ期は、新規事業の柱を探して役員に事業アイデアを提案し、企画を通すことがゴールでした。

その後、事業・業務・人財の変革を実現することが重要な経営課題となりました。そのため昨今のチャレンジ塾が目指すゴールは、変革につながるチャレンジテーマを塾生自ら掲げ、自分の言葉で語り、実際に行動して、周囲の共感を得て実現に近づけていくことです。

そのためチャレンジ塾では、「圧倒的な当事者意識」「おせっかい」「行動化(経験学習)」をキーワードに掲げています。プログラムの企画においては、テリーさんや役員から自社の変革の必要性やチャレンジのDNAを伝承していくとともに、社内外の交流を通じて視座を高め、自律的な行動から経験を重ねることが促進できるように設計しています。

チャレンジ塾の概要

対象層も年々変わりつつあり、若年化する傾向にあります。第1期の塾生の平均年齢は38.9歳。今は33.4歳で、最も若い塾生が27歳です。次のマネジャー候補をイメージした方が参加者の中心世代ですね。

募集の仕方も変えています。第2期までは推薦でしたが、広く手を挙げてもらい、チャレンジを志す人に門戸を広げようという話になり、第3期は公募としました。第4期以降は推薦と公募の両方で進めています。

水谷さん:
経営視点はマネジャーや経営層だけが必要とするのではなく、従業員一人ひとりも持っているべきだと考えています。「会社を背負って立つ気概をもってほしい」との期待を、テリーさんからはことあるごとに塾生に伝えています。

検討プロセスと実施内容

研修の場でチャレンジして、たくさん失敗して成長できるように設計を工夫


水谷さん:
塾の名前である「チャレンジ」には大きな意味を込めています。テリーさんが若い頃の当社は若手が少なく、様々なチャレンジができたと聞きます。自分で手を挙げれば、海外など様々な場所で挑戦できたそうです。

しかし今は、同じことをするのは難しい。だから研修の場でハードルの高いことにチャレンジして、たくさん失敗して成長してほしいとの想いは、私たちの中にもありました。

大井さん:
チャレンジはブラザーのDNAであり、こだわりです。

そのため塾では、チャレンジの源となる「圧倒的な当事者意識」、「おせっかい」を従業員が実践できるように設計しています。一郎さんも、経験を通じて人は成長するという経験学習の重要性を強く語っています。

水谷さん:
特に意識しているのは、チャレンジ塾で取り組む「チャレンジストーリー」を確固たるものにするため、自律的に行動してほしいということです。チャレンジストーリーとは、

  • 塾生一人ひとりが志を見つめなおすもの
  • ブラザーの変革に向けた自身のチャレンジを掲げるもの
  • 最終発表会の場で役員の前でコミットするもの

です。塾の期間中は社内外の交流など、どんどん行動を重ね、そこで得た知見をストーリーに取り入れて実現度を高めていきます。

執行役員へ直接相談するという課題をあえて課して、全社で若手を応援する風土をつくる

朝日さん:
チャレンジストーリーの実践では、執行役員も巻き込んでアクションすることを求めています。執行役員に話すのは心理的なハードルがあると思いますが、チャレンジ塾では敢えて課しています。この経験も、とても重要な意義をもっていると考えています。

大井さん:
ハードルの高さという意味で、塾生は、テリーさんや執行役員と話す第1歩を踏み出すのに苦労していますね。平均年齢約33歳で、チャレンジ塾参加前は執行役員とも話したことがない年代ですから。執行役員のところに行っていいと言っても「まずマネジャーを通さないとダメなのではないか」と考えて躊躇してしまう場合もあります。

だからこそ、「塾生だからこそ執行役員に直接相談できる」と繰り返し伝えています。「経営陣がコミットしている取り組みだから大丈夫」「塾の期間中の(期間を終えた後でも)特権だよ」と共有を進めていますね。

また、執行役員に対して塾生への支援をいただくことを私たちからお願いしています。執行役員連絡会では、私たちの組織の担当常務が全役員に協力を求めます。役員の皆さんも納得いただき、若手がやりたいことを応援する風土になってきました。テリーさんも、「成功はあなたの手柄、失敗は私の責任。失敗はあなたたちの将来の成長の糧になる」と背中を押してくれています。

そうして塾生に「話を持っていって大丈夫だ」と言い続けているうちに、段々と塾生から「この役員に話を聞きたい、話をぶつけてみたい」という話が上がってくるようになります。グロービスから学んだ知見を活かして、自分なりにストーリーを組み立てて自発的に行動するようになるのです。

予定しているスケジュールよりも前倒しでテリーさんと話したいと相談が来ることもありました。非常に嬉しいことですね。目線や考え方が変化した現れですから。

考え方や行動が変わるのは、塾生自身のコミットもあります。例えば、塾生自身が自分たちの行動規範として「WAY」を作り始めたのは、第5期からでした。この存在が、積極的な行動を促す要因になっていると思います。

水谷さん:
その促進という意味では、塾生のメーリングリストに上がっている報告に対し、伊藤さん(グロービス担当コンサルタント)から「(今年のWAYである)“Do! Do! Do!”はできていますか?」と投げかけがあることも意義あるコミュニケーションだと感じます。そうした問いがあると、塾生は(自分達が掲げたWAYを実践できているのだろうか)(もっと工夫できないだろうか)と考えるのだと思います。何かのきっかけがあり、自分たちで考える。問いがあって刺激が重なっていく、その中で自分たちの行動をより望ましい方向、顧客視点のチャレンジに導くことが出来ていくと思っています。

朝日さん:チャレンジストーリーの内容も、塾生が最初に作った段階では、視座が低く市場やお客様を見ていない内容になりがちです。そのストーリーを講師が見て、経営の視点で的確にアドバイスしていただけます。塾は8カ月続くわけですが、そのインターバル期間には伊藤さんから適切なフォローアップとして、「ゲスト講師の◎◎さんのこんなコメントを思い出してみましょう」、「(塾生の)◇◇さんもこんな視点で語っておられましたね」といった投げかけがあり、とても助かります。塾生がチャレンジに向き合うためのトリガーになるからです。

「圧倒的な当事者意識」、「おせっかい」は伊藤さんからも、何回も、何十回も塾生に伝えていただいています。このこだわりの言葉は是非浸透させ、体現者が増えればと思うわけですが、私たち社内の事務局が出過ぎるとややもすると素直に聞けない場合があります。第三者の立場である伊藤さん、グロービスの皆さんからアドバイスいただくことで、もっと行動しなければ、何かを変えねば、といった思いを塾生個々に実感しているようです。

塾生として何が足りないか、経営層に提案する時に何が必要か、など多面的なアドバイスが刺激になっている

水谷さん:
グロービスからは、もっとロジカルシンキングを意識するようアドバイスがありました。チャレンジストーリーが「木を見て森を見ず」の状態にならないよう市場全体を俯瞰し、事実や理由を押さえて考える力を強化する提案もいただきましたね。
塾生として何が足りないか、経営層に提案する時に何が必要か、またそれはなぜか、そこに自分たちのコアを活かせるか、顧客や社会にとってどうか、と多面的なアドバイスをいただけていること、とても良い刺激になっていると感じます。

大井さん:
メイン講師、サブ講師、伊藤さん。皆さんそれぞれの持ち味がチャレンジ塾にフィットしていると思います。塾生の行動や言動を見て、時には丁寧に、時にはちょっと厳しく背中を押していただけます。

伊藤さんには企画の段階から、弊社のニーズに耳を傾け、議論が浅い点は深く問いかけていただけています。最初の頃は「どこが課題感ですか?」「役員の皆さんの印象はどうですか?事務局としてはどうですか?」といった問いかけでしたが、1期、2期、3期と重なってくると、次年度の企画段階で「去年を振り返ると、グロービスとしてはこう思う。よって、次はこのような手が打てますね。イメージ合いますか?」と深い問いかけをしていただける。そこが大きいと感じています。

朝日さん:
ポイントは振り返りだと思います。毎年塾の運営がどうだったか、どういう意図で進めたか、実際にはどういった成果に結びついたかという振り返りをしっかりと行い、それを次年度に活かせていると感じています。塾の参加者の年齢層が当初よりも下がっていることで、その経験値不足を補うために「GLOBIS 学び放題」を導入する提案もいただきました。最近ではLMSを導入し、リモート下であっても塾生とのコミュニケーションが取りやすくなったのもありがたいですね。

大井さん:
ご提案いただく外部講演者も、私たちではなかなかお会いできるチャンスがなかった方々です。今年も、株式会社GRA代表取締役CEOの岩佐大輝さんにお話しいただきました。塾生よりちょっとだけ先輩であり、グロービス経営大学院でMBAを取得した方で、ご自身の体験をもとにチャレンジ行動に結び付けたリアルな話をしていただけたこと、それがお客様や社会の価値提供に通じる活きた例であることが、私たちの課題感にも合うのです。

成果と今後の展望

社会課題解決型の商品開発やビジネスのスケール化などの成果が出ている

大井さん:
「こういうことを考えているのだけれど、何か良い情報ない?」という塾生からの問いかけが、全卒塾生が入っているメーリングリストで飛べば、他部門からの情報が集まって会話が広がっていく、ということも起こっています。
誰かの「チャレンジ」に対し、チャレンジ塾の卒塾生が「圧倒的な当事者意識」「おせっかい」を持って応えているのです。

その結果、社会課題解決型の商品を世に出したり、小さかったビジネスをスケールさせたりする事例が出てきました。たとえば、排熱がない「スポットクーラー」という環境に優しい社会課題対応型の商品があります。これは第4期の卒塾生が開発に携わっています。また、フォークリフト用も開発しており、真夏に構外作業している方を涼しくしてあげられる就労環境にも地球環境にも配慮した商品です。

このような卒塾生を見ると、世の中に目を向けてプロジェクトをやり切ったリーダーによる成果だと、誰が見ても感じますよね。

そして、私たちが働きかけずとも、縦横のネットワークを活かして相互に協力しあい、チャレンジストーリーが結実しているのは、とても良い成果のひとつだと考えています。

朝日さん:
通常の研修はプログラムが終われば終わりだと思いますが、チャレンジ塾は違います。「プログラムが終わった時が始まりですよ」と最初の面談でも塾生に話していますが、プログラム終了後にも、描いたチャレンジストーリーを達成するための行動が期待され、それを促しています。毎年、卒塾生に対し、振り返りのアンケートを通じ、その後のチャレンジを共有していることも、一過性とならないアプローチだと考えています。これが、皆さんそれぞれに良質な刺激になり、塾に参加して互いに研鑽を図った、その時の思いを思い起こしていただけたらと考えています。

事務局が地道に伝え続けたことが、卒塾生のチャレンジを後押しできているのであれば、大変うれしいことですね

入塾中と卒塾後の双方に働きかけ、社内にチャレンジできる人財を数多く輩出し、一人ひとりの成長を促していきたい

朝日さん:
卒塾後も成長し続けるための仕組み作りが必要だと考えています。それは先ほどご紹介した毎年の振り返りもその一つかもしれません。通常の研修は、全スケジュールが終わると「ああ終わったー」という解放感はあれども、時間がたつと学びが薄れてしまう方も多いと思っています。しかしチャレンジ塾は、卒塾してからの行動がとても重要です。

大井さん:
とはいえ、チャレンジし続けることはハードルが高いですし、全員が行動できるわけではないことも承知しています。このハードルを少しでも低くし、卒塾生が自走しやすい環境を整える必要があります。

水谷さん:
最近の具体的な取り組みとしては、期を超えた縦の繋がりを作るため、全卒塾生が入っているメーリングリストへの近況報告を卒塾生へお願いしています。また昨年は、第3期〜第6期の卒塾生を対象にフォロー研修も実施しました。

このような取り組みで自身の志やチャレンジストーリーを思い出してもらうとともに、周りから良い影響を受けて個人の成長を促し、より良い成果につなげていってほしいです。

大井さん:
チャレンジ塾そのもののブラッシュアップも進めたいです。入塾中と卒塾後の双方に働きかけ、ブラザーのDNAである「変革」をリードし、チャレンジ精神をもって自律的に行動する人財を数多く輩出し続けていく。そんな学びの場、一人ひとりの成長の場にしていきたいですね。

担当コンサルタントの声

伊藤:
チャレンジ塾が進化し続けている要因は2点。経営陣の皆さまのコミットメントが高いこと、事務局である大井さん・朝日さん・水谷さんが適切に場づくりをしてくださっていることだと考えています。

執行役員の方々もチャレンジ塾にコミットし、塾生をサポートいただけているのは大変ありがたいですね。テリーさんも伝えたいことが沢山ある中で、期を重ねるごとに講義資料が進化されており、チャレンジ塾への想いの強さを感じています。

そして塾生が心理的に安心できる場作りを、事務局の皆さまが丁寧に行っています。その結果、塾生と執行役員や上位者の皆さまとの活発な交流が生まれています。おそらく執行役員や上位者の皆さまにとっても、チャレンジ塾は新鮮な気づきを得る場の一つになっているのではないでしょうか。

他社の経営者育成との大きな違いは、経営陣と塾生との距離の近さにあると思います。これは、会長をテリーさんと呼ぶほど距離感の近い、ブラザー工業様ならではの取り組みと思います。

先ほど大井さんから、卒塾後も成長し続けるための仕組み作りが必要というお話がありました。昨年実施した期を超えた縦の繋がりなどチャレンジ塾の塾生同士の縦と横のつながりに加えて、経営陣をはじめ多くの方々と繋がる仕組み作りを行いながら、ブラザーグループ全体の変革を加速させる取り組みへとさらに進化していければと考えています。

これから、どのような相互作用が生まれるのか、私も伴走者としてワクワクしております。今後もブラザー工業様の進化を、伴走者として隣でサポートさせていただければ幸いです。

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