コラム
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部下の強みを引き出すマネジメントの重要性

部下の育成は成果創出と並び、管理職の重要な役割のひとつです。近年は「サーバント・リーダーシップ」というリーダーシップのスタイルが注目を集め、「部下を褒めて成長を促す」ことが人材育成の主流になりつつある、という声も見受けられます。部下の強みを見いだすことは、部下の仕事への熱意を増すだけでなく、管理職自身のリーダーシップ開発にもつながります。

しかし実際に部下の強みを見つけようとしても、目につくのは弱みばかり。部下の育成において、そんな悩みを抱えるリーダーも多いでしょう。当コラムでは部下指導の悩みを抱えるリーダー向けに、「強み」に注目したリーダーシップスキルの育成方法を紹介します。

部下のマネジメントに頭を悩ますリーダーたち

筆者は組織開発コンサルタントとして、クライアント企業の人材、組織の課題解決に日々携わる傍ら、ライフワークとしてもコーチとして個人の成長を支援する活動を行っている。最近、部下のモチベーションアップに課題を抱えた上司、あるいは、人事部さまより、エースとして活躍していた人材をマネージャーに昇格させた途端、部下のマネジメントがうまくいかず苦労しているが何とかならないか、というご相談を多くいただくようになった。

「最近の部下はゆとり世代で使えない。仕事は遅いし、それでいて徹夜でやりぬくような根性も見えないし。<部下は褒めて伸ばせ、フィードバックは長所3つに対して短所1つにせよ>といわれるが、長所など見当たらないではないか。正直、自分でやったほうが早いから、ついつい手を出してしまい、気付いたら周りは指示待ちでやる気のない部下だらけ……」

このような状況に頭を悩ますリーダーも多いのではないだろうか。

なぜ「強み」に注目することが重要なのか

フロリダ大学の25年にわたる追跡調査の結果、自分の能力に自信を持っているグループは持っていないグループに対して、年収面でも健康面でも有意な差が認められたという結果がある。

ビジネスでも同様の結果がある。部下がやる気を失う確率は、上司が部下に無関心である場合が40%、「弱み」にフォーカスされた場合は22%であるのに対して、上司が部下の「強み」にフォーカスをしている場合は1%に減少する。また、従業員が仕事に熱意を抱く割合は、企業の経営者が強みに着目している場合が73%であるのに対して、強みに着目しない場合は9%であるといわれている。(『ストレングス・リーダーシップ ― さあ、リーダーの才能に目覚めよう』トム・ラス、バリー・コンチー著)。これらの結果から、ビジネスにおいて「強み」に注目し、それを生かすことがいかに重要かがわかるだろう。

「強み」に着目するメリットはそれだけではない。部下が自分の強みを認識し、それを組織の中で生かすことは、自己効力感を高める。その結果、自発的なチャレンジが増え、自己成長や自律的なキャリア形成にプラスの影響をもたらすのだ。このように個人の強みが最大限発揮されると、ゆくゆく強みを生かした人材配置が可能となるため、組織全体のパフォーマンスの向上が期待できるだろう。

部下の「強み」は意識的に見つけるべきもの

上述の調査で、「自分の強みを毎日生かしているか?」という質問に対して、Yesと答えた割合は、インド、アメリカ、カナダが30%以上だったにもかかわらず、日本は15%にとどまっていた。従来の日本の教育はどちらかといえば減点主義であり、飛びぬけて良い点を評価するよりは、目立った弱みがないことを好む傾向が強い。従い、自分自身の強みを客観的に理解する機会が少なく、理解が出来たとしてもそれを毎日活用するレベルまで到達できる人はわずか15%ということだ。

これと同様のことが上司側の認識にも起こっており、頭では「部下の強みを見つけるべきだ」と分かっていても、無意識のうちに「弱み」に目が行ってしまいがちであり、「強み」は努力して意識しないとなかなか見つからないものであるといえるだろう。

前向きにとらえれば、日本企業は「弱みをなくす」のではなく、「強みを見いだす」マネジメントを取り入れることで、従業員のやる気を今以上に引きだせる可能性があるともいえる。

部下の「強み」を見出すための方法

部下の強みを効果的に見出す方法はいくつかあるが、その基本となるのは観察と対話である。日々の業務の中で、部下の行動や反応を注意深く観察することで、彼らがどのように仕事を進め、どのような状況で最も力を発揮するのかを把握することができる。また、部下の意見や考えを積極的に聞く機会を設けることは、彼らが自分自身の強みや弱みをどのように認識しているかを理解し、自分自身では気づいていない強みに気づかせることにつながる。定期的な対話を通じて部下との信頼関係を築くことで、部下は自分の考えや感じていることを率直に話しやすくなり、隠れた強みを見出す手助けとなるだろう。

リーダーに求められるのは、うまく目的・成果(ゴール)に到達するために、どのような道(パス)をたどればよいのかを判断し、適切に部下に働きかけることである。ではそのために具体的に何を「対話」すればよいのだろうか? グロービスでは、 3つのレベルと3つの時間軸を掛け合わせた「すり合わせ9ボックス」に基づいて対話することを推奨している。

【下図の見出し】すり合わせ9ボックス(各項目の概要)

過去現在未来
組織レベル<理念・制度・カルチャー>

組織の立ち立ちビジョン、価値観など組織のWhy(目指すもの)まで掘り下げ共有することで、組織の考えや哲学について、部下との相互理解を深める
<人間関係>

部下を取り巻く人間関係や上司自身の状況を理解してもらうことで、チーム全体の感覚の食い違いをなくして、部下の視野を広げる
<組織方針>

上位階層で行われている議論や問題意識をテーマとし、部下が組織のどのかがりを理解して、視野を広げ、業務に意味を見出す
個人レベル<パーソナリティ>

思考や行動パターンを形成するパーソナリティを部下自身が自覚することを後押しし、次のアクションの策定を促す
<ライフスタイル>

健康面や価値観、家族、ライフワークなど、部下の人生や生活全般の事情や考え方を扱い、上司と部下の相互理解に繋げる
<将来・キャリア>

将来への進路を一緒に考えることで、部下が迷いなく事務に集中できる状態を作る
業務レベル<振り返り>

過去に実施した業務の振り返りを通して、部下自身の内省を促していく
<業務不安>

頭を悩ましている不安、滞在的に抱えているイヤなとしてを具現化する
<業務改善>

業務の仕組み改善、部下の業務習熟に向けたの情報共有やアウトプットを引き出す

成功体験の分析とフィードバックも重要である。部下が成功を収めた経験を詳細に分析することで部下の自己認識を高め、強みをさらに伸ばす動機づけにつながる。

部下との対話や交流を通じて信頼関係を深めることで、多様な視点からの気づきが生まれ、自発的な行動につながり、その成果がでることによって、さらに信頼関係が深まる、という一連の流れを「成功の循環モデル」と呼んでいる。部下の強みを効果的に見出すためには、このサイクルを生み出すことが求められる。

「成功の循環モデル」を提唱しているMIT組織学習センター共同創始者のダニエル・キムは、組織を4つの質で定義した。

※出所:https://thesystemsthinker.com/what-is-your-organizations-core-theory-of-success/

「関係の質」が向上すると、対話や交流が活発になり、信頼が深まる。信頼が深まることで、「思考の質」が向上し、多様な視点から新たな気づきが生まれる。新たな気づきは「行動の質」を高め、自発的な行動や協力を促進する。すると「結果の質」が向上し、さらに信頼関係が強化される、という良い循環(Good Cycle)が生まれる。このサイクルは、部下の強みを見出すほか、組織が継続して成果を上げるためにも重要である。

より体系的に部下の強みを把握できるツールの例として、先日筆者が行った「ストレングス・ファインダー」を活用し、リーダーシップスキルを強化するワークショップを紹介したい。

ストレングス・ファインダーとは、経済評論家の勝間和代さんも推奨するWebで行う自己診断ツールであり、米国ギャラップ社が200万人に対して行ったインタビュー結果をもとに分類された34の強みの中から、自身のトップ5の「強み」を抽出することができるものである。

ワークショップでは、自身の「強み」トップ5の診断結果と合わせて、「今までの自身のキャリアの中における最高の体験エピソード」の発表と、部下育成に悩むミドルを描いたケースを用いたロールプレイングを実施した。その狙いは、自身の「強み」を理解することに加えて自分では「当たり前」と思っていた行動が、他者から見れば実は「強み」であるという認識のギャップに気付き、「強み」を見いだすことの難しさを体感していただくことにある。

受講者は、はじめのうちは遠慮がちだったが、エピソードを語り、その中に自分の「強み」が発揮されていることに他者からのフィードバックによって気づく、というサイクルが回りだすと、次第に自己肯定感が高まり、我先にと楽しそうにエピソードを語りだしていた。

ワークショップ終了後、受講者にアンケートを行ったところ、以下のようなコメントをお寄せいだたいた。

  • 自分の強みを知ることで、今後の行動が大きく変えられることを実感した
  • 他者の強みにも興味が出てきた。まず部下の強みを知る。知ろうとしない限りそこに強みは存在しなくなってしまうことに気付いた
  • 最高の体験エピソードを振り返った時に、その時の上司の課題設定が自分の強みの引き出しにあったのだと気付いた

強みを生かしたマネジメントの実践

強みを生かしたマネジメントを実践するためには、強みを生かすための環境づくりをすることが重要である。そのために必要なのは、部下の能力・意欲・特性などを的確に理解したうえで、適切な役割と責任を与えることだ。強みを伸ばす機会の提供(前述の部下への理解の元に、適切な業務をすること)も欠かせない。さらにチーム内での強みの相互理解に務めることで、組織としての成果を最大化するための役割分担や協力体制を構築することができる。

た、継続的な成長支援を行うことも強みを生かしたマネジメントの実践には不可欠である。1on1など定期的な対話の場の設定のほか、ストレッチな目標設定と支援の実行、また成功事例の分析および成功パターンの強化などを通じて、組織としての学びにつなげることが求められる。

強みを生かす環境づくりおよび、継続的な成長支援は、グロービスが下記のように整理している「あるべきリーダー行動」に通ずる。

グロービスが提供する「リーダーシップ・デベロップメント・プログラム」では、上記全般の役割認識を促しつつ、実践方法も扱う。下記で、リーダーシップ・デベロップメントの効果について、受講後アンケートに寄せられた声より抜粋して紹介する。

リーダーシップを「行動」として理解することができた

  • 昇格して、漠然とリーダーとして振舞ってきましたが、本来、リーダーとはここまで考えなければならないのかと教えていただいた。特に、計画の具体化において動画イメージで描けるように説明するというのは参考になった。自分自身がプレーヤーとして行動する際は普通に行ってきたが、部下も同様にできているとは限らないというより、リーダーのビジョンゴール設定が正確に伝わっていない限り、部下は動画イメージでは描けないため、リーダーの行動がチームの成績に大きく影響するということを感じた

自己のリーダーとしての在り方を見つめ直すことができた

  • 同年代のリーダー達が同じように多忙で、さまざまな悩みを抱えて仕事をされていることがわかっただけでも励みになった
  • リーダーシップに関して論理的に学ぶことができました。学習というより、自分なりに考えに考え、自分なりの(自分だけの)答えを導き出せたのではないかと思う

講師やクラスメイトから大きな気づきを得ることができた

  • 決して前に出てこようとはせずに、しかし要所での参加者を支える技については脱帽するほどの技量を見せつけてくださった。自問させて促していく/他の事例から気づきを得させるなどの素晴らしい進行をしてくださった
  • 業務が多忙であろう中、受講生全員が「成長したい」という思いで学習(予習)し講義に臨んでいるんだと実感できた。またそのような雰囲気(態度)に非常に刺激を受けた

「強み」重視のアプローチで、活力ある組織に

挑戦レベルが高く、かつ、自身のスキルレベルも高いことに取り組むと、人は没頭している状態、いわゆるフロー状態に入るといわれている(『フロー体験 喜びの現象学』 M・チクセントミハイ著)。スキルレベルが高いこと、つまり「強み」を理解していることは、フローに入りやすい状態を理解しているともいえる。そして、部下がフロー状態で仕事に取り組める状態を作ることこそがリーダーの役割とも言えるだろう。

そのためにも、まずは、リーダー自らが自分の強みを客観的に理解し、そのうえでメンバーの強みに対して、意識的に好奇心を向け続ける。そんなリーダーたちが作り出す組織風土によって、日本企業の組織がさらに活性化することを願っている。

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