eラーニングを活用する際に注意すべき3つのポイント
- eラーニング
第1章
eラーニング活用の利点と落とし穴
手軽に学べるeラーニングは、育成体系のあらゆる場面で活用が可能です。たとえば以下のように活用している企業も多いのではないでしょうか。
- 階層別研修の一部として
- 公募型研修(カフェテリア型研修)のオプションのひとつとして
- 集合研修の補助教材として など
まずはeラーニングを活用することの利点と落とし穴について、整理してみましょう。
1-1. eラーニング活用の利点
2020年のコロナ禍においては、多くの企業が集合研修の一部をeラーニングに代替しました。これは、eラーニングに以下のような特徴と利点があるからでしょう。
- 時間と場所を選ばないため、多くの従業員に提供できる
- (集合研修と比べて)安価で導入できるため、研修コストが削減できる
- 講師が介在しないため再現性のある学びが提供でき、一定の質が担保される
- 幅広いテーマを一斉に提供できるため、受講者の興味関心に沿った学びを提供できる
1-2. eラーニング活用の落とし穴
一方、導入時の期待通りにeラーニングの運用を終えられなかったというケースも多いようです。筆者の担当企業からも、以下のような悩みがよく寄せられます。
- 「全社員にeラーニングを導入したけどほとんど利用してもらえない…」
- 「受講はしてくれたけど実務で使えているかどうか分からない…」
上記の悩みを解決するには、eラーニングは手軽だという認識を捨てる必要があります。
確かにeラーニングは、導入するだけなら手軽かもしれません。しかし導入後の運用が難しく、多くの工数/手間や運用のためのナレッジが必要です。なぜならeラーニングはその手軽さゆえ、学習する/しないは、受講者の主体性に委ねざるを得ないからです。
たとえば「時間と場所を選ばない」という特徴は、受講者が業務を優先してしまい、eラーニングの優先順位を下げる理由になるでしょう。多忙な受講者であればなおさら、期日までに視聴することが目的となってしまい、実務で活用しようという意識は薄れてしまいます。
このようにeラーニングの活用には、利点と裏腹の落とし穴があるのです(表1)。
なおeラーニングを活用する際には、公募型研修として導入する際にも気をつけねばなりません。「希望して受講するのだからしっかり学んでくれるはず」と思いがちですが、ログインすらしない方が一定数いるというケースは、意外と多いものです。
特徴や利点にばかり目が行くと、受講者も育成担当者もeラーニングは手軽と認識してしまいます。利点はうまく活用し、落とし穴には対策を打つことで、eラーニングによる学びを最大限に享受できます。そのような環境を整えることも、育成担当者の役割のひとつです。
次項から環境の整え方について、eラーニングの【運用前/運用中/運用後】の時系列に沿って解説します。それぞれのフェーズで注意すべきポイントと具体的な対応策について、見ていきましょう。
第2章
運用・活用前:
過度な期待を持ってはいけない
運用前のフェーズで重要なことは、受講者の動機づけを徹底することです。受講開始前にどれだけマインドセットできるか(eラーニングの優先順位を上げられるか)で、受講開始後、特に受講開始直後の受講を進めるスピードが大きく変わります。
動機付けのためには、受講が進まない理由を把握しなければなりません。今回はその理由を2つご紹介します。1:受講の必要性を感じていない 2:受講の目標が明確でない です。
受講が進まない理由1:受講の必要性を感じていない
なぜ受講しなければいけないのか、なぜ受講した方が良いのかなど、受講理由が明確でないと、eラーニングの優先順位は下がってしまいます。階層別研修などでeラーニングを導入した場合に、起こりがちです。
このようなケースに対して有効な手法は、危機感を醸成することです。「今のままじゃまずい」「こんなスキルが求められるのか」という気持ちを持たせることで、学習の必要性に気づかせ、意欲を喚起しましょう。具体的な方法を2つご紹介します。
アセスメント・テストを併用する
アセスメント・テストにより、学ぶ領域の知識・スキルを定量的に算出し、自身の現状を客観的に把握することが可能です。その結果を社内の同階層もしくは社外のビジネス・パーソンと比較できると、より危機感を醸成しやすくなります。また学習前後に受験することで、学習効果の可視化も可能です。
人材要件と紐づける
社内で人材要件表やコンピテンシーマップが制定されている場合に有効です。人材要件表やコンピテンシーマップとeラーニングの学習内容を紐づけることで、なぜ学びが必要なのか示すことが可能です。また人材要件と照らしながら会社として必要な人材像を提示することで、学びの必要性を喚起しやすくなります。
受講が進まない理由2:受講の目標が明確でない
eラーニングの受講を通じて何を学び、何ができるようになりたいのかを意識できていないと、なかなか受講は進みません。これは公募型のeラーニングで起こりがちです。ぼんやりとした動機(なんとなく必要そうだからやってみよう、会社が費用負担してくれるならやっておくか、など)で手を挙げた方の多くは、学びの目標があいまいです。
このようなケースに対しては、受講前に学習目標を言語化させることが有効です。紙に書いて見えるようになれば意識しやすくなりますし、人は一度心に決めたことや実行したことに矛盾のない行動をとりやすいという性質があります。何を目標として、どんな内容を、どのようなスケジュールで学習していくかを明確にしてもらいましょう(図1)。
社員を信じる気持ちは必要ですが、過度な期待を持つことは危険です。「いつでも受講できるから、皆使ってくれるだろう」「皆、希望して受講するのだから任せておいていいだろう」と思わず、動機づけをしっかりと行うことも、育成担当者の大切な役割です。
第3章
運用・活用中:
受講者に投げっ放しにしない
運用中にすべきことは、受講の管理とモチベーションの維持です。一日で終わる集合研修とは違い、eラーニングは数週間から数か月にわたって受講期間が設けられていることが多いです。そのため受講前に目的を明確にしていたとしても、コンスタントに受講を続けることは容易ではありません。
モチベーションが維持できないと、最後まで受講しきれない方や、受講期間ぎりぎりに駆け込みで終わらせる方が増えてしまいます。
駆け込みで終わらせるのは、学習効果の観点からも望ましくありません。「集中型学習(例:一夜漬け)」よりも、一定期間をかける「間隔型学習」の方が、知識が定着しやすいのです。
間隔型学習の有用性は科学的に実証されています。コンスタントに学習することで、学んだ内容を思い出しながら脳が記憶を再編集するため、既知の情報とのつながりが強化されて知識が定着しやすくなります1)。
間隔型学習へ導くには、事務局からのフォローが必要です。具体的には受講状況の管理と、受講者へのリマインドです。
受講者の学習意欲を喚起するためには、外発・内発の動機に基づくアプローチが一般的です。また「学習の重要性」と「学習の功利性」の2要因でも整理が可能です(図2)。
たとえば「実用志向」の受講者へは業務の具体的な場面を示しながら役立つコースを提示する、「自尊志向」の受講者へは他の受講者がどれだけ受講を進めているかを提示する、などが有効です。従業員の特性を踏まえながら定期的なリマインドを行うことで、受講者のモチベーション維持をサポートしましょう。
第4章
運用・活用後:
eラーニングのゴールと育成の目的を混同しない
運用後に重要なことは、実務での活用に向けた足掛かりを作ることです。
育成の目的は、自社の戦略の遂行に求められる人材を計画的に輩出することです。しかし、eラーニングに期待できるゴール(受講後の到達度合い)は知識習得までです。eラーニングを受講しただけで、業務のパフォーマンスを上げることは容易ではありません。実務での活用に結びつけるには、学んだ内容を実務へ紐づける工夫が必要です。
一通り受講を終えた際に振り返りができるよう、事務局からアプローチしましょう。数か月かけて複数のテーマ・領域を学んでいる場合は、受講期間中に振り返りの機会を設けることをおすすめします。
学んだ内容を振り返るうえでは「言語化」「抽象化」「自分化」のステップを意識することが重要です。
- 言語化:考えを言葉にする。考えたことや感じたことを言葉にし、なんとなく考えたレベルで終わらせない
- 抽象化:事例や登場人物、状況を客観的に分析し、そこから普遍的な教訓を引き出して原理原則化する
- 自分化:教訓や原理原則を自分の置かれた状況に引き寄せて考え、自分の課題や弱みを反映させて考える
振り返りは、簡単なレポート作成を通して行うことも可能です(図3)。
学んだ内容をアウトプットする機会を設けることも有効です。たとえば職場で勉強会を実施することは非常に効果的です。
育成の目的を達成するためには、eラーニングを提供するだけで良しとするのではなく、実務で活用するためのフォローまで行うことが重要です。
第5章
最後に
eラーニングを活用した育成施策を成功させるためには、コンテンツの良し悪しはもちろんのこと、運用における育成担当者の皆様の工夫が不可欠です。柔軟な働き方が求められる昨今、eラーニングの重要度・必要性は増すでしょう。
また本コラムの内容は、実は集合研修にも転用が可能です。本コラムをご参考に、自社の育成施策の効果を最大限引き出せる工夫を、ぜひ取り入れてみてください。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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