人材育成でよく使われる手法(Off-JTとOJT)

公開日
テーマ
  • ojt/off-jt
  • 選抜研修
  • 階層別研修
執筆者
  • 楠 智子のプロフィール

    楠 智子

人材育成によって組織が求める成果を得るには、育成目的に即した最適な育成手法を選択し、組み合わせ、実施することが求められます。では、人材育成の手法には、どのようなものがあるのでしょうか。本コラムでは、人材育成で用いられる代表的な手法とその全体像を確認したうえで、それぞれの育成手法の特徴や企画の際のポイントをお伝えします。

第1章 
人材育成の手法と育成体系図

人材育成(能力開発)の手法は大きく2つに分けられます。Off-JT(Off-Job Training:職場外の訓練)と、OJT(On-the-Job Training:職場内の訓練)です。

Off-JTの代表的な取り組みは「研修」です。研修には階層別研修や、職能別研修、自己啓発制度などがあります。

【階層別研修】
受講する対象範囲を階層(新入社員・中堅・管理職・経営層など)で区切り、階層ごとに必要なスキルを強化する研修

【職能別研修】
販売・営業職また技術職といった職能ごとに必要なスキルを強化する研修

【自己啓発制度】
各々が希望するキャリアに応じたスキルを強化するため、各々が課題を設定し取り組む制度

OJTは基本的には、上司や先輩が実務を通じて部下・後輩を育成する手法です。現在(もしくは、比較的近い将来)の職務遂行に必要な能力開発のために行われます。Off-JTとの大きな違いは、日々の業務を通じて行うことです。OJTは、Off-JTと連動させることで、育成の相乗効果が期待できます。

育成体系を考える際のポイントは、育成目的に合わせてOff-JTとOJTなどの施策を組み合わせることです。

以上から、人材育成の全体像は図1のように示せます。

図1:育成体系図の一例
図1:育成体系図の一例

次項から、Off-JTとOJTの特徴と企画のポイントについて解説します。

第2章 
Off‐JT/集合研修の特徴と企画のポイント

集合研修の特徴

集合研修は、目指す組織・人材像の実現に向けて、スキルの獲得やマインド醸成の場として設定されます。とくに階層別研修は、階層ごとに研修を実施する目的が異なるため、能力開発に要する期間や難易度、内容も異なります。

新入社員研修の目的であれば、社会人としての心構えの形成・職場への適応などが多く、次世代リーダー育成のための選抜研修では、多様な目的が考えられます。内容もビジネススキルの基礎習得から、アクションラーニングを中心とした実際に自社が抱える課題の解決をテーマしたものなど、さまざまな設計がなされます。

集合研修の実施方法も多様です。同じ企業に所属する受講者だけで行う「企業内型(インハウス)」の研修と、さまざまな企業の受講者同士が一同に集まり学びあう「他流試合型」の研修があります。

近年、オンライン上で集まって研修を実施する「オンライン研修」も増えています(図2)。今後は育成の目的によって、リアル・オンラインそれぞれの利点を見極めて選択することが求められます。

図2:オンライン研修のイメージ
図2:オンライン研修のイメージ

次に、集合研修を企画する際のポイントを、企業内型(インハウス)と他流試合型の研修に分けてお伝えします。

集合研修の企画のポイント1:企業内型研修

研修を実施する場合、組織・人材のあるべき姿の実現に向けて、組織・階層ごとのありたい姿を考えることがポイントです。とくに企業内型研修を企画する際は、実施後にどういった行動を促したいのか、どのような共通言語を築きたいのかなどを明確にしておきましょう。

組織や階層単位で行動変容を促す場合、育成は長期間(1年~数年)に及ぶため、計画立案にも長期的視野が求められます。たとえば、そもそも何を目的とした研修なのか、どういったステップで進めるのか、ゴールは何かなどを定めておく必要があります。先々で成果を振り返るためにも、必要なステップです。

加えて、研修の学びと実務を紐づけるには、受講前のマインドセットや受講後のフォローも重要です。下記のような観点から、準備を進めましょう。

受講前:問題意識を顕在化させたうえで受講を促す
    ∟何のために学ぶのかを言語化してもらう
    ∟どのような場面で活かせそうかを言語化してもらう など

受講後:意図的に学びが発揮できる場面を作ることで、行動変容を促す
    ∟学んだ内容を言語化して振り返ってもらう
    ∟上長を巻込み、実践の機会を設ける など

集合研修の企画のポイント2:他流試合型研修

他流試合型研修では、研修を実施する運営会社が用意した場に出向き、他社の人材と共に学ぶことができます。メリット・デメリットには以下のような点があります。

メリット

・日常から抜け出し刺激を得ること
・他社の同階層の人材との議論を通じて彼我の差に気付き、健全な危機感を醸成すること

デメリット

・1クラスあたりの自社からの受講者数が限られるため、組織への還元・共通言語化に時間がかかる
・「他社の人材と話ができて面白かった、刺激的だった」という感想で終わりやすい

デメリットを克服するには、企業内型研修以上にマインドセット/フォローが重要です。「参加させれば、刺激を受けて何かしらの成果を出してくれるだろう」と受講者任せにせず、事前のマインドセットから事後のフォローまで、全体を通じた設計が求められます。

第3章 
Off‐JT/自己啓発の特徴と企画のポイント

3-1. 自己啓発の特徴

自己啓発制度の特徴は、従業員が自身の興味・課題・業務の繁忙度などに合わせ、学習内容・学習手法を選べる点です。

環境変化が激しい近年、求められるスキルの移り変わりも激しくなっています。企業から一律で提供できる学習機会だけでは不十分であり、社員一人ひとりが自律的に学び続けるための環境が不可欠です。そのため、自己啓発の重要性がより高まっているのです。

自己啓発の分野では、学習内容や学習方法の多様化が進んでいます。たとえば学習内容は、各種の資格取得に関する通信教育や英語学習に加え、論理思考・マーケティング・財務理解などのビジネススキル、著名人による講演など幅広く提供されています。

学習方法についても、リアル・オンラインの選択が可能です。時間や場所を問わず学び続けることのできる手法が、多数開発されています。

3-2. 自己啓発の企画のポイント

多様な自己啓発の環境が整う中、事務局がすべきことは、社員一人ひとりの学ぶモチベーションの醸成。自己啓発の必要性を正しく理解し、主体性を持って取り組んでもらう姿勢を作る活動が、なにより大切です。

次に重要なポイントは、学びと実務が紐づく仕組みの構築です。たとえば以下のような施策が考えられます。

・定期的な受講状況の確認/活性化に向けた働きかけ
・上司との1on1設定
・実務への転用をサポートするためのアクションプランシートの作成
・MBOとの連動 など

自己啓発で注意すべきは、社員のマインドです。「業務で多忙だから今でなくてもいい」といったマインドを転換し、学ぶ姿勢をより自律的に高める仕掛けを打ちましょう。そのためには組織の特徴を踏まえ、どういった仕組みであれば学びと実務経験が紐づけられるか、また業務と並行して運営し続けられるかを考え、設計することが求められます。

第4章 
OJTの特徴と企画のポイント

4-1. OJTの特徴

OJTの特徴は、個別性が高いことです。上司や先輩は日々の業務を通じて、部下・後輩を観察し、個々人の状態や個性を踏まえた育成ができるからです。能力開発の機会は、従業員それぞれの能力・個性・興味関心などを把握したうえで提供することで、その効果を最大限に発揮できます。OJTはその点で、優れた仕組みといえるでしょう。

一方、下記のような懸念点もあります。OJTを企画する際は、懸念点を踏まえた上で施策に組み込む必要があります。

・一度に育成できる人数が少数であること
・上司・先輩と部下・後輩の間に信頼関係がないと成り立たないこと
・能力開発の範囲が上司・先輩の知識や経験の枠内に留まってしまうこと

4-2. OJTの企画のポイント

企画のポイントは、「上司・先輩と部下・後輩が、育成の目的について、相互に十分に理解をしあうこと」です。またその際には「部下・後輩の興味や関心」を把握することも、モチベーションの維持には必要です。そのために必要なことは、「双方向のコミュニケーション」です(図3)。

図3:よくあるOJTとあるべきOJT
図3:よくあるOJTとあるべきOJT

実施の際は、上司・先輩が常に指示・命令をするのではなく、出来る限り本人に考えさせることが重要です。上司・先輩は「どう考えるのか」「なぜそう思うのか」などの問いを部下・後輩へ投げかけ、考えさせ、自らの意見を持てるよう支援することが求められます。

また与える業務の難易度を調整することも重要です。その時点での本人の能力を多少上回る業務を与えることで挑戦させ、経験を積ませて学ばせることが、一回り能力を成長させるうえで有効です。

第5章 
最後に

人材育成施策の検討で重要なことは、それぞれを単発の施策とするのではなく、施策同士のつながりを意識すること。そして、学びをどのように実務に落とし込み、行動の変更を促すのかという具体的なイメージを持って、社員へ働きかけることです。

人材育成は多様です。育成目的に即した最適な育成手法を選択され、よりよい育成体系が構築できるよう、下記資料もぜひ読んでみてください。

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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