グロービス流「リーンスタートアップ」~企業内研修を通じたイノベーション創出~リーンスタートアップを社内研修で学ぶ!5つのつまずきポイント
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川上 慎市郎
新規事業創造の成功確率を高める方法論のひとつとして注目される「リーンスタートアップ」。第1回目は、日本企業が「組み合わせの新パターン」という意味でのイノベーションを苦手としていること、その課題を克服するためにリーンスタートアップの考え方が有効である理由を説明しました。今回の連載2回目では、スタートアップの5つのステップを概観し、特に1つ目のステップでつまずきやすいポイントとその乗り越え方について解説します。
リーンスタートアップとは
リーンスタートアップとは、実用最小限の製品(MVP)を市場に投入し、顧客からの反応を見ながら改良を繰り返す手法を指す。
リーンスタートアップという発想は、シリコンバレーで誕生した新規事業創出のための方法論だ。ベンチャーでは「多産多死」が一般的だが、非現実的な構想をもとにプロダクトの開発を進めると、失敗した際に投資家にも経営側にも大きな損失が生じる。
そこで「プロダクト開発より先に市場を見つける」「小さなコンセプト段階のプロダクトで顧客の反応を確認する」といったアプローチが生まれた。つまりリーンスタートアップは、最小限のコストおよび最短のサイクルで仮説検証を行い、顧客の反応を探る手法とも言える。
なぜベンチャーではない日本企業においてもリーンスタートアップが関心を集めているのだろうか?それは、日本企業が苦手とするイノベーション創出における課題解決のカギとして期待されているためだ。
リーンスタートアップで用いるMVPとは
リーンスタートアップの本質を支える重要な要素のひとつがMVP(Minimum Viable Product)だ。「実用最小限の製品」を意味し、自社の製品・サービスの仮説検証を行うために構築される、最小限の機能を備えたプロダクトのことを指す。リーンスタートアップでは、このMVPを活用した事業開発手法が提唱されている。
MVPを活用するメリットは、新規事業開発において実際に動作するプロダクトを用いて顧客の反応を確認できることだ。新規事業開発では、多くのリソースを費やしたにも関わらず、開発中に市場が変化し、結果的に顧客ニーズのないものをつくってしまうリスクがある。一方MVPを活用したプロセスでは、完全な製品に仕上げる前に、まずは実用に足る最小限の製品を市場に投入する。顧客の反応を確認しながら少しずつ改良を進めていくことで、新規事業が大きく失敗するリスクを抑えることができる。
MVPの活用によって得られる効果は以下である。
- 顧客のニーズを把握できる
- 時間とコストを抑えながら製品を改善できる
- 製品・サービスを素早くリリースできるため市場で優位に立てる
顧客のニーズを把握できる
実際に動作するMVPを想定顧客に触ってもらうことで、顧客の反応を直接観察することができる。また具体的なフィードバックを受けることで、ターゲットとなる顧客が真に求めている機能や価値が把握でき、自社製品の課題や足りない点が明確になる。このプロセスで早期に顧客ニーズを理解し、無駄な開発プロセスを避け、効率的に改善を進めることができるのだ。
時間とコストを抑えながら製品を改善できる
MVPは実用に足る最小限の機能を備えたプロダクトのため、開発にかかる時間的・金銭的コストを大幅に削減できる。費やすリソースが最小限のため、たとえ仮説が間違っていたとしても軌道修正が容易で、繰り返し検証することが可能だ。また細かな改善を重ねて段階的に製品の品質を高めるため、大きな失敗のリスクが抑えられるという利点もある。
製品・サービスを素早くリリースできるため市場で優位に立てる
MVPは完璧を求めるものではないため、スピーディに製品・サービスをリリースできるという強みがある。他社よりも迅速に市場に参入し、いち早く市場の反応を確かめることができれば、競合が市場調査や開発を行っている間に、素早く仮説検証を繰り返せる。結果としてMVPを活用していない競合と比べ優位に立ち、先行者利益を得ることができるのだ。
段階別・リーンスタートアップの5つのステップ
繰り返しになるが、リーンスタートアップはもともと起業におけるスピードと無駄を排するために開発された方法論である。グロービス経営大学院においてコースとして提供している(※)ため、それを企業研修に取り入れること自体はもちろん可能だ。
※グロービス経営大学院「テクノロジー・リーンスタートアップ 講座」として提供
リーンスタートアップの大きな流れは以下の通り。
Step1のチームビルディングは、実際に起業を志す人が個人としてリーンスタートアップを行う場合には必要ない。しかし企業で、研修ないしは実務で新規事業を行う時にはチームで取り組む場合が多く、チーム組成のプロセスが必要となる。
Step2は、いわゆるアイデア出しのフェーズで、顧客のどんな問題を解決したいのか、そのための解決策のアイデアを考える。英語では“Problem/Solution Fit”という。
Step3はアイデアを試作品(プロトタイプ)に落とし込み、顧客からのフィードバックを得る。製品と市場のフィット感を見るという意味で、英語では“Product/Market Fit”という。Step2のProblem/Solution FitおよびStep3のProduct/Market Fit、この2つのFitを繰り返し検証することが、リーンスタートアップの中核である。
Step4では、収益構造や規模といったビジネスとしての絵姿を描く。
その次のStep5では立案したビジネスモデルに対する資金調達のためのストーリー創りを行う。具体的には起業なら投資家、社内提案なら社長へのプレゼンテーションに向けて、事業の目的や価値をどう語るかを明確化していく。
この5つのステップそれぞれにおいて、以下のようなつまずきやすいポイントが存在する。次の章では、つまずきポイントとその乗り越え方をひとつずつ見ていこう。
Step1:チームビルディングでつまずく原因と対策
プロジェクトが始まってしばらくした段階でよく目にするのは、チームの中で違う視点や発想が存在し、まとまらないという事態である。議論が停滞し、絞るべき点、磨きあげるべき点を欠いた総花的な提案になることが多い。こうなってしまう原因はどこにあって、どう乗り越えれば良いのだろうか。
チームビルディングでつまずく原因とは何か
このような状況に陥った時に「感情的なぶつかり合いが多く、論理的な議論ができていないのが原因だ」と捉える人事部の方もいらっしゃる。それもあるかもしれないが、より大きな問題は「ビジョンセッティング(ビジョンの統一・認識合わせ)」にあると筆者は考える。
揉めるのは、お互いの「こうしたい」というアイデアが食い違うことに対して意見をぶつけ合ってしまうからだ。それよりも、「社会のため」「お客さんのため」などという一段高い切り口を設定し、「あるべき姿」について合意形成して、皆でそれに向かって議論していけるようなチームづくりをしないといけない。
チームビルディングはメンバー組成の段階から始まっている
さらにいえば、メンバー組成の段階で「やりたいこと」ではなく「目指すこと」が同じ人々でチームを創ることが重要だ。さまざまな壁に囲まれていくうちに「やりたいこと」がそのまま出来なくなることも多い。手段へのこだわりはさほど持たず、「目指すこと」のために何とか方法を考えようというチームの方が機能するであろうことは、想像に難くない。
ちなみに、起業チームは同僚とチームを組む時が、一番成功確率が高いのだそうだ。
- 個人的なしがらみがなく、
- ビジネスの進め方やコミュニケーションのスタイル等についてお互いによく分かっている
こういう関係性のメンバーを集め、ビジョンセッティングを通じて同じ方向を向く。
ビジョンセッティングは、チームの将来のビジョンなどをある程度固めることを目指し、皆で意見交換するワークショップスタイルがお勧めだ。ちなみに研修で同一企業のメンバーとチームを組む場合、チームのビジョンを企業のビジョンに紐付けておくと良い。これは、後段のストーリーテリングの時に「そもそもこのイノベーションは当社で手がけるべきものなのか」という疑問が出てきた時の対応のカギにもなってくる。
ビジョンを明確にした上で、それを実現するために必要なことは何かを考える土台に立てば、少なくとも議論を進めていくにつれてコンセプトが崩れるような「まとまらなさ」は回避できるだろう。
最後に
今回は、新規事業創出ワークショップの方法論であるリーンスタートアップの全体像と具体的なステップ、そしてリーンスタートアップの本質を支える要素であるMVPについて紹介した。リーンスタートアップでは、5つの各ステップでの難所を乗り越えていくことが重要となる。
では、次回はStep2~5のつまずきポイントと乗り越え方を見ていこう。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
連載各回タイトル
VOL.4グロービス流「リーンスタートアップ」~企業内研修を通じたイノベーション創出~
<失敗してもやり抜く>強さを学ぶ
VOL.3グロービス流「リーンスタートアップ」~企業内研修を通じたイノベーション創出~
リーンスタートアップ成功のポイントは「視野を広く持つこと」
VOL.2グロービス流「リーンスタートアップ」~企業内研修を通じたイノベーション創出~
リーンスタートアップを社内研修で学ぶ!5つのつまずきポイント
VOL.1グロービス流「リーンスタートアップ」~企業内研修を通じたイノベーション創出~
米国発の新規事業創出ワークショップ「リーンスタートアップ」 とは
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