組織はコミュニティ:働き方のHowの前に考えるべきこと
- 組織開発
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グロービス コーポレート ソリューション
グロービスでは、働き方の多様性を高めるため、数年前からテレワーク、フレックス制度、web会議などを積極的に導入していたこともあり、自宅での業務体制も比較的スムーズに移行。テレワーク比率が高まり、改めて「コロナ後の新しい働き方」を模索しています。
部門長の西恵一郎は、「新しい働き方を考える上で、職場を単なる仕事場にするのか、コミュニティとしてとらえるか、この違いは大きい。働き方のHow(手段)の議論になりがちだが、考えるべきことは組織文化をどのように維持したいかだ」と語ります。西とディレクターの加藤康行が「組織をどうしていくのか?を手段ではない部分から考えたい」という視点で、再び語り合いました。
働き方のHowの前に大事なのは「どういう組織文化を維持していくべきか」である
加藤:
「新しい働き方」をどうするかの議論をしていますが、部門長としての考えを教えてください。
西:
テレワークの広がりを受けて、多くの企業が“働き方”を再考せざるを得ない状況になり、“評価をジョブ型へ” “オフィス不要論”などがよく議論されていますが、そもそもは働き方のHow(手段)の議論の前に、「自分たちはどういう組織文化を維持したいのか?」を考えることが起点だと考えています。
先日、社内で実施した「リモートワーク状況調査アンケート」を元に議論を重ねて、全社としての「ワークスタイル・ウェイ」を制定しました。
■ワークスタイル・ウェイ
グロービスは、21世紀のリーダーとして、新しい働き方を積極的に実践するものとする。良きコミュニティ・企業文化・関係性を生み出すリアルな「場」を重視しつつ、最先端のテクノロジーを駆使してオンラインやリモートを積極的に取り入れるものとする。
また、部門としての問題意識はコロナ禍前からあり、「私たちの組織をどうしていきたいか」を皆で考える活動として、「組織づくり会議」という会議体を、部門の男女、20代、30代、40代、既婚、未婚など多様な背景を持つ10数名で組成しています。
テレワーク比率が増えて働き方が大きく変化し、「ワークスタイル・ウェイ」もふまえ、メンバーと共に、「①良きコミュニティ形成 ②良き企業文化醸成 ③良き関係性の創出」という視点に立ち戻って議論をして欲しいと思い活動を継続しています。
自分たちの仕事の目的と特徴を精緻に捉える
加藤:
確かに、業務においては自宅で完結できることも多いですよね。zoomやSlackを使用したミーティングや雑談もあり、大きな不満を抱えているメンバーは表面上は少ないように感じます。それゆえ、「出社日数をどうするか」などHowの議論になりがちですが、自社のビジネス構造や目的、特徴から捉える姿勢は重要ですね。
西:
私たちの仕事の特徴は、いくつかありますが「サービスを一人ではなくチームで作る」「新しい仲間がいても、フラットでオープンな関係性が成果につながる」「ナレッジを還流させ、対話しながら、個人の経験を組織の経験として昇華させる」は特に重要だと考えています。
これらの特徴は、「お互いに学びあう、教え合うフラットでオープンなカルチャー」という目に見えない価値によって支えられています。
とはいえ属人性に頼っているわけではなく、事業継続に必要な業務の標準化やプロセスの可視化、DXに必要な仕組みの構築、ITツールの投資は行った上で、「良き関係性の創出」が私たちのビジネスを加速させるという前提に立っています。
働き方を変えることで、良き関係性の質が低下し、組織力の質が低下することは回避したい。なにより、目に見えない価値は失った後の再構築がとても難しいからこそ、全員で考えたいのです。
ノウハウ(know How)を共有する前提はノウフー(know who)
加藤:
目に見えない価値、オープンでフラットなカルチャーを維持、実現するための「鍵」はどこにありますか?
西:
私が部門長になる前から、そのカルチャーはもともとあり、加速・維持できるように意識していました。でも、コロナ禍で全部オンラインでになったことで、組織文化と組織能力が非常に大事だったのだと改めて実感しました。
私が大事にしていることの一つに、人が「ノウハウ(know How)」を共有する前提は、「ノウフー(know who)」ということがあります。「この人のためにシェアしたい」と思える環境はとても大切です。
組織の温度感や人の顔が見えない中で、情報を共有していくことはハードルが高く怖いことだと思います。けれども、人の顔が見えると発信しやすいし、人の顔がみえれば、意見もしやすくなる。そして意見交換を後押しするカルチャーがあれば、さらによい循環が生まれ、関係性の質が高まっていきます。
私は、最終的には「関係性の質」を高めたい。そのためには、共通目的、共通言語、相互理解の3要素を全員で意識できる状態を作りたいと考えています。
「ノウフー(know who)」ができる仕組みがないと、「ノウハウ(know How)」は流通しません。そのため、テレワークの実施やデジタル化の普及をさせた上で、リアルな接点も大切にしたい。なぜならば、「その人を知っている」という感覚は、発言を豊かにしてくれる要素だと思うからです。
雑談が組織を立体化する
加藤:
自粛期間を経たからこそ、オンラインとリアルの両方の価値を実感できましたね。ところで、オフィスでのコミュニケーションにおいて、作りたい状態はあるのでしょうか?
西:
雑談が組織を立体化してくれるといいなと。
雑談をきっかけに、発想が広がること、お互いを知ることってありますよね。たまたま隣にいる人に、「あのプロジェクト、どんな感じ?」「客観的な声もらえますか?」と意見交換が偶発的にされる景色。オフィスのカフェで「最近どうですか?」とチームを越えた何気ないコミュニケーションの縦と横が紡がれていく風景。
そうやって、雑談が組織を立体化していく状態があるといいですよね。
共通体験が組織への帰属意識と相互信頼の関係を生み出す
加藤:
関係性の質を高めるために大切にしたいことを教えてください。
西:
「組織への帰属意識の醸成」ですね。「肌感覚」から得る非言語の情報量は大きい。
例えば、部門全体会議を同じ会場で開催した時に、約100人近い集りをみて「ここが僕らの組織なんだ」と規模感を覚えることで、自分がどこの組織に所属しているのかという意識が生まれることってあると思いませんか?
リアルの共通経験は、帰属意識の醸成のために、あったほうがいい。もちろん、しばらくは密にならない配慮と工夫は必須ですが。
共通経験は安心感を生み出し、お互いの信頼を高める効果もあります。そして、オンラインはコミュニケーションを継続させる効果が高い。リアル×オンラインの相乗効果で帰属意識が醸成され、組織力が高まっていく好循環が作られていくのではないでしょうか。
私たち人間は、コミュニティに属して、他者と関わっていたい欲求を少なからず持っています。だからこそ、まったく顔を会わせないで帰属意識の醸成と継続ができるかは、やってみないとわかりませんが、私は「顔を合わせる」という共通体験には大きな価値があると考えています。
加藤:
帰属意識の醸成は、ダイバーシティを加速させるときや、新しく仲間になってくれる方々にとっては、より重要ですね。
西:
所属するコミュニティからポジティブなフィードバックを受け取った経験があれば、今度は自分からコミュニティにお返しをしたい気持ちが生まれるものだと思います。
コミュニティへの当事者意識が、つよく・よい組織を生み出す
加藤:
コミュニティって観点でいうと、運営スキルが重要になるのではないでしょうか? よきコミュニティを作る上で意識すべきことはありますか?
西:
あたりまえのことですが「コミュニティに対する当事者意識」です。自分が属するコミュニティを良くしたいという思いがないとアクションしないのではないでしょうか?
職場を、単なる仕事だけをする場にするのか、コミュニティとしてとらえるか、この違いは大きいです。
仕事の場だと限定的に捉えていると、ナレッジシェアも主体的に行われないし、シェアに対して反応することも「仕事としてやってください」とお願いしないと機能しないでしょう。けれども、ナレッジシェアをして反応があったり、誰かのナレッジシェアによって助けられたという「よい原体験」は、自分も貢献したいという主体的な行動に繋がる。
善き循環の中で自分が成長した経験があれば、違う立場になった時に、他の誰かのためになろう、よい指導をしよう、よくしていこうという気持ちと行動の循環が生まれる。帰属意識と当事者意識は、デジタルを活用することが大きくなっても、コミュニティという組織を運営するうえで重要だと考えています。
まずは、働き方のHowの前に「どういう組織文化を維持していくべきか」を考えること。そして組織をコミュニティとしてとらえ、人間の「善い」部分を相互に高め合う仕組みをつくること。良き関係性の創出を持続し、組織をつよく・よくして、成長に繋げていきたいと考えています。
愛着と執着は、カブトムシとクワガタぐらい見た目が似ているけど、全然別もの」という言葉を、ある日Instagramで見つけました。個人的な理解ですが、愛着は安心と紐づき、執着は不安と紐づいていると感じます。組織を単なる仕事場と捉えると、孤独を感じ、自分が得たものを「失いたくない」という執着と不安が生まれる時があるかもしれない。でも、コミュニティと捉えることで「仲間と共に育む」発想になり、安心と愛着で組織がつよく・よくなるといいなと思う対談でした。(編集担当:赤崎述子)
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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