人事はリスキリングをどう進めるべきか? ~成功に導くVUROモデルとは~
- 次世代リーダー育成
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太田 昂志
グロービス講師
新たなスキルを身に付ける「リスキリング」が注目を集めています。しかし人事としては、リスキリングをどう進めればよいかわからないのが本音ではないでしょうか。そこで本コラムでは、筆者の経験をもとに開発した「VUROモデル」というフレームワークをもとに、リスキリングを成功させるための進め方をご紹介します。
リスキリングを成功に導くフレームワーク「VUROモデル」の使い方
さっそく、リスキリングを成功に導くフレームワーク「VUROモデル」をもとに、順に見ていきましょう。
【Visualize】
複数の情報を組み合わせ、スキルを可視化する
まず、人材のスキルを可視化することから始めます。具体的には、「どの人材が」「どのスキルを」「どのレベルで」保有しているのかを明らかにすることです。しかし、ここで人事の皆さんの頭を悩ませるのが「どの情報を使ってスキルを可視化すればよいか」という問題でしょう。
ここで代表的な情報を4つご紹介します。
- 業務経験:従業員が過去に経験した業務や経歴
- 資格やアセスメント:従業員が持つ資格やアセスメントの結果
- 自己・他己評価:評価基準に基づいて自身を評価した結果、あるいは第三者からの評価データ
- 研修受講履歴:これまで受講した集合研修やeラーニングの研修履歴
これらの情報を使い、組み合わせたり、場合によっては重み付けしたりすることで、従業員が保有するスキルを可視化します。
ここで注意が必要なのが「スキルは動的である(常に変化するものである)」ということです。我々の能力は周囲の要因によって影響を受け、直線的な成長ではなく、紆余曲折を経て成長します。例えば、次のような現場を目にすることはないでしょうか。
- 環境によって能力がうまく発揮できない
例)優秀だと評判だった従業員が、異動後の部署で期待通りに活躍できていない - 取り組む課題によって能力がうまく発揮できない
例)以前は問題なく進められていた営業商談が、オンライン環境下だとうまくいかない - コンディションによって能力がうまく発揮できない
例)体調不良の日は、思うように仕事が進まない
スキルは常に変化しながら成長するため、一度可視化したら終わり、ではありません。定期的にデータを更新することが重要です。
【Unlearn】
越境学習などの機会を提供し、既存の考え方をアンラーニングする
リスキリングを進める上で、見落とされがちな重要なステップが「アンラーニング」です。アンラーニングとは「新しい知識を創造する能力の向上のために、既存の考え方の影響を減らしていくプロセスのこと」をいいます1)。つまり、古い考え方や価値観を手放すことで、新しいスキルを習得しやすくすることです。
特にミドルやシニア世代の従業員は、アンラーニングが必要と言えます。これまで成功体験を積み重ねてきているだけに、新しいことに取り組む際にそれらの経験が邪魔をしがちだからです。どんなに優秀な人材も、キャパシティには限界があります。新しいスキルを習得するためには、何かを手放さなければなりません。
では、アンラーニングにどう取り組んでもらえばいいのでしょうか。詳細はまたの機会に譲りますが、有効な方法のひとつが「越境学習」です。越境学習とは、所属する組織の枠を越えたアウェイの環境に身を置く(”越境”する)ことで、違和感や葛藤を通じて価値観を変えていく学びの形態のことをいいます。新しい環境に飛び込むことで、自分が持っていた考え方や価値観に気づくことができます。自分が囚われていた考え方や価値観を認識できれば、「何を手放すべきか」「何を新たに取り込むべきか」を考えることができます。
【Relearn】
学習プログラムの設計と学習を促す仕組みを構築し、再学習を促す
アンラーニングによって古い考え方や価値観を手放せたら、新しいスキルを習得するための学習に取り組んでもらいます。その際、人事として取り組んでいただきたいことは次の2つです。
- 学習プログラムを設計する
- 学習を促す仕組みを構築する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
学習プログラムを設計する
学習プログラムを設計する際、新しい職務や役割に応じた学習プログラムを作ることが重要です。そのためには、ジョブ定義から役割定義、期待される行動やスキルまで細かく言語化し、それらに基づいた学習プログラムを用意することが大切です。(図2)。
ここでよく陥りがちなのが、ジョブ定義からいきなり学習プログラムの設計に飛んでしまうことです。決して間違いではないですが、この方法だと学習プログラムがぼんやりとしたものになりがちです。これでは効果が低くなってしまう恐れがあります。そうならないように、まずはジョブにおける役割を定義し、その役割に必要な行動やスキルを紐解き、それに基づいて学習プログラムを用意することが重要です。
学習を促す仕組みを構築する
学習プログラムを設計するのと同時に、学習を促す仕組みを構築することも必要です。代表的なのが、キャリア、目標管理、学びのコミュニティの3つです。つまり、「従業員が今後どのようなキャリアを目指したいのか」「そのキャリアを目指す上でどんな目標を設定し取り組んでもらうと良いか」「学習を個人に委ねず、周囲とともに前向きに取り組んでもらうために、コミュニティをどう形成していくか」が大切です。
このような仕組みが用意されていると、学習がより促進されていくでしょう。学習機会を提供するだけでなく、学習を促す仕組みを構築することが重要です。
【Output】
個人に委ねず、アウトプットする場も設計する
最後に学びを「アウトプット」してもらう場を作ることが大切です。ここで人事として押さえておきたい点は次の2つです。
- 何に取り組んでもらうか
- どんな場で取り組んでもらうか
何に取り組んでもらうか
アウトプットと言っても、大きく分けて、演習型アウトプットと実践型アウトプットの2つがあります。
演習型アウトプットは、研修中に実際の仕事の場面を想定した問題に対して、解決策を立案・実施してもらうことです。演習型アウトプットが用いられるのは、学んだことを実務ですぐに実践できない場合です。その際、まずは研修の場でアウトプットしてもらうことでスキルの定着を図ってもらうのです。
実践型アウトプットは、実際の仕事を割り当てることです。組織として達成したい目標に向けて仕事を割り振ります。また、仕事を割り振るだけでなく、周囲もその従業員が仕事を達成するためのサポートを行うことが重要です。ただし、仕事内容によっては、学んだことをすぐに実践することができない場合もあるでしょう。そのときは演習型から始め、徐々に実践型に移行させていく方法もありえます。
どんな場で取り組んでもらうか
アウトプットの内容だけでなく、人事としてアウトプットしてもらう場に関与することが重要です。図3で整理した通り、大きくは社内か社外かの2つの選択肢があります。社内であれば、部門内で新しいプロジェクトにアサインしたり、部門外との兼任を行ったりすることができます。他方で、社外でアウトプットをしてもらう場合、現業と兼任して副業を促す、もしくは他社へ出向してもらう、といった策が考えられます。
ここで大切なことは、アウトプットする場は、組織や従業員の状況に合わせて使い分けることです。常に複数の選択肢を持ちながら、どのようなアウトプットの場を設計していくかを考えると、企業・従業員の双方にとって良いアウトプットが生み出せるはずです。
リスキリングの取り組みが、企業の競争優位性につながる
本コラムでは「VUROモデル」というフレームワークをもとに、リスキリングの進め方について解説してきました。
リスキリングは、従業員の自主性だけに任せるものでもなく、企業や人事が一方的に提供するものでもありません。双方がお互いの「成長」のために向き合い、取り組んでいくものです。そのために人事として、従業員がリスキリングに前向きに取り組んでもらうための環境づくりを行うことが何より大切です。人的資本が競争優位性を生むと言われるこの時代、リスキリングは企業の競争力を強化するために欠かせない営みであり、その役割を担っているのは我々人事なのです。
引用/参考情報 |
1) 引用:Hislop, D., Bosley, S., Coombs, C. R., & Holland, J. (2014). The process of individual unlearning: A neglected topic in an under-researched field. Management Learning, 45(5), 540–560. 2) 参考:後藤 宗明(2022)『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』日本能率協会マネジメントセンター 3) 参考:小林 祐児(2023)『リスキリングは経営課題~日本企業の「学びとキャリア」考』光文社新書 |
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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