グローバル人材育成 最前線 ~駐在員、現地人材、人事部それぞれの課題~
現地発の拠点長を支えるマネジメント体制とは?

2013.12.13

前回は花王株式会社様へのインタビューを通じ、本社人事のグローバルサポートとはどうあるべきかについて人事の立場から考察してきました。今回は、グローバルビジネスの「現場」である海外拠点におけるリーダーのあり方についてグロービス自身のチャレンジも交えて考察します。担当は梶井麻未です。

はじめに

日本企業の中でも製造業が早くから事業のグローバル化を進めてきたのに対し、サービス業のグローバル展開は出遅れていると言われてきました。私は主に金融、広告、ネットビジネス、IT通信等サービス業の法人のお客様の人材育成や組織開変革支援のコンサルタンティングに従事していますが、お客様の中でもグローバル化には苦慮しているという声が少なくありません。ではなぜ日本のサービス業のグローバル化は進まないのでしょうか。

その大きな理由のひとつはサービス業の競争優位の源泉である「人材」の問題です。すなわち、日本でのビジネスと変わらず大事にしたい経営理念や提供サービスの価値のコアを損なわずに、かつ現地マーケットに即して適切なローカライズをしながらビジネスを牽引していくマネジメント体制と、顧客に直接価値提供する現地人材の育成が困難であることがハードルになっていると言えるのではないでしょうか。

今回は、サービス業の一例として我々グロービス自身を取り上げ、グローバルでのビジネスを牽引するマネジメント体制と人材育成について考察します。

なお、今回は人材がより直接的に競争優位の源泉となる業界としてサービス業を取り上げますが、本コラムが業界問わず、より多くの企業の皆様の参考になればと思います。

中国人の趙がトップに就いたことは大成功でした

(グロービス中国
顧彼思<上海>企業管理諮詢有限公司のメンバー)

梶井: はじめにグロービス中国について読者の皆様に簡単にご紹介したいと思います。グロービスは2012年に初の海外拠点であるグロービス中国を設立しました。立ち上げにあたり、トップ(総経理)を中国人の趙麗華、副総経理を日本から赴任した西恵一郎が務める体制としました。
まず日本から副総経理として赴任した西の視点から、海外拠点のマネジメント体制のあり方について聞いてみたいと思います。

今、多くの日本企業がグローバル拠点のマネジメント体制の在り方を模索されています。その中で共通しているのは、現地のマーケットに深く根ざしたビジネスを行っていくために、経営トップは現地人材としたい、という方向感です。しかし実際には、「本社とのコミュニケーションがとりづらい」「社内で優秀な外国人人材が育っていない」「ガバナンスに不安がある」といった理由で、依然として日本人が現地法人の経営トップであるケースが多いのが現状です。
グロービス中国は中国人をトップとするマネジメント体制を実現していますが、まずはそこに至る経緯とその意味合いについて聞かせてください。

西: グロービス中国では、日本語・英語・中国語による企業内集合研修、グローバル研修、外部派遣型オープンコースの提供等を行っています。お客様は当初は日本企業が中心でしたが、様々なお客様との経験を積ませていただく中で、最近では中国企業からもお声掛けいただく機会が増えてきました。おかげさまで約2年、想定を上回るスピードでビジネスを拡大しています。

中国に拠点を持つ計画は2011年夏頃から具体的に検討してきました。立ち上げにあたって、経営トップを誰が担うかについては色々と議論もありました。経営陣の中からトップとして赴任させるという案もありましたが、最終的には以前グロービスの日本オフィスで一緒に働いていた仲間で独立して当時上海でビジネスを立ち上げていた中国人の趙ということになりました。

中国でビジネスをしていくにあたって、この判断は非常に良かったと思っています。その最大の理由は彼女が中国マーケットを非常によく理解し、人脈を持っているということ。

例えばマーケット理解でいうと、中国と日本とでは物事の意思決定や実行に至るスピード感がまったく違います。日本では研修の企画から実施まで短くても2~3カ月かけて行うものも、中国では約1カ月後には研修を実施するというような短納期案件が非常に多いです。実施日程やテーマ、参加者等すでにお客様との間で決定していたはずの事柄でも時間とともにどんどん変更されていくのが当たり前。そこにスピーディに適切に対応していかなくてはならない。また、お客さまも経営トップの裁量で決められることは即決されることが多く、そのスピードに我々も対応出来る体制が必要になります。いちいち日本に相談していては全く間に合いません。常に迅速な意思決定を迫られ行動し続ける緊張感は日本と比べものにならないです。

人脈の作り方、活かし方は日本でのそれとは全く違います。中国における趙始め、中国人スタッフの人脈には大いに助けられました。自分のように中国でビジネスをしたことがない日本人ばかりで立ち上げていたら、キャッチアップするだけで数年はかかるであろうことを最初から深く理解している人材がトップであったことは大きな強みとなりました。

また、グロービス中国のメンバーは私以外全員中国人ですが、中国で採用した中国人メンバーはグロービスマインドを持ってビジネスに情熱を注ぐ、講師としても評価の高い趙のことを非常に深く信頼しているということも重要です。例えば日本人である私がトップを担っていたら、中国人のメンバーから率直な相談、タイムリーな報告がなされなかったかもしれません。

幹部がすべて日本人の日本企業の場合、現地メンバーとのコミュニケーションが円滑にとれずマーケットの情報が全然入ってこないため正しい意思決定ができないという話はよく聞かれます。

日本のように大きなオフィスではなく、狭い空間で毎日顔を合わせるわけですから、海外拠点内のコミュニケーション、人間関係づくりは非常に重要です。時には意見がぶつかることもありますし、メンバーには育成の観点から指摘しなければならないこともあります。立ち上げ当時はうまくいかないこともありましたが、今思えばあそこで逃げなかったことが今の信頼関係、ひいてはビジネスの成長につながっていると思います。

趙にはよりお客様へ向きあう時間を割いてもらうことができました

(西恵一郎 
顧彼思(上海)企業管理諮詢有限公司 副総経理)

西: 一方で日本から私がマネジメントとして赴任したことで、日本との連携、調整をうまく進めることができていると思います。日本のマネジメントやメンバーは我々に対して日頃から厚いサポートをしてくれていますが、やはり中国の日常的な現場、お客様からのお声を直接には体験していないので、問題意識が時として正しく伝わらない、すれ違うこともあります。自分が中国オフィスを代表して日本に対して中国の現場をしっかり伝え、必要な根回しをし、協力を仰ぐ等、連携を図っていくことに注力してきました。

趙は日本オフィスで働いていたこともあり、グロービスという会社について、日本のビジネスの進め方についても理解は深いです。しかし、日本で法人様向けビジネスのディレクターとして代表の堀や経営陣の近くで長年仕事をしてきた自分の方がより効率的・効果的に動くことができます。日本との調整は私の方で引き受けることで、彼女にはお客様へ向きあったり中国人メンバーとコミュニケーションをとったりする時間をより多く割いてもらうことができました。

このように現地法人のマネジメントにおいては、現地人トップと日本からの駐在員マネジメントがそれぞれの強みを発揮し、連携しながらもうまく役割分担していくことが重要ではないでしょうか。

現地人のリーダー候補は日本で数年働き、日本の現場を見聞きするべき。

(趙麗華 
顧彼思(上海)企業管理諮詢有限公司 総経理)

梶井: 次に、現地人のトップに求められるリーダーシップについて、趙の視点を聞いてみたいと思います。

海外拠点のマネジメント体制、特にトップの現地人化は多くの企業が「やりたいが実現できていない」という状況です。また実現できたとしても、ヘッドハントや買収先の現地企業のトップがそのまま着任する場合、企業理念や風土と合わない等の理由でなかなか定着しづらい、かえって社内に混乱を及ぼす、という話も伺います。日本企業の海外オフィスの現地人トップにはどのような要件が求められるでしょうか。また、どのようにすれば育成できるでしょうか。

: グロービス中国のトップとして最も重要と実感している要件は、中国マーケットの理解や人脈に加え、グロービスらしい日本らしいビジネスのやり方を身をもって十分理解体感していることだと思います。もちろんビジネスの進め方としてマーケットに合わせて柔軟に変えていく部分は必要です。でもマーケットによって変えてはいけないことがあります。経営理念、お客様へ提供する価値、グロービスらしさ、というようなことです。

例えば、多くの他のサービス業でも同様だと思いますが、中国ではグロービスのサービスの価格は高いと言われます。でもそれだけの価値あるグロービスらしい高品質なサービスを提供しているという自負がありますし、この価値は他の誰にも真似できないと思っています。しかし研修サービスは目に見えないものなので、お客様にその質を事前にわかりやすく見せることができません。メンバーが自分の言葉で実感を持って伝えていくことが、お客様の納得・信頼を引き出すのです。そうできるようメンバーを育成するためには、まずはトップ自身が理解実感していることが重要です。

他のサービス企業でも同様のことが言えるのではないでしょうか。ぜひとも現地人のリーダー候補は日本で数年働き、日本の現場を見聞きすることで、自社の経営理念、提供価値について深い理解をするべきだと思います。

私の場合もまさに、数年間日本オフィスのコンサルタントとして日本の仲間とグロービスの価値について語り合い、ともにお客様に向き合ってきた経験が活きています。

梶井: 例えば、住友化学さんでは拠点のある地域の人材を日本本社で採用・教育し、一定レベルまでマインド、スキルを高める教育を行った上で現地法人にUターン派遣しキャリアを積んでもらうといった取組をされているそうです。日本で経験を積むことを通じて、自社らしさや価値を伝えようとしている取り組みの事例ですね。

: そうですね。さらに言えば、実際に現地人がトップになった後も自社らしさや価値に対する理解を深め経営者としての視座視点を高め続ける、つまり「育成」し続けるということも重要です。

私の場合もトップとして着任した後しばらく、グロービス代表の堀と3カ月に1回ランチを共にしていました。1対1で話をしながら、近況報告にとどまらず、さまざまな経営判断を一緒に振り返ります。その議論を通じて、グロービスの経営者としてふさわしい意思決定の仕方、判断軸を磨いていくことができました。

また、私はグロービス全体の経営会議にも参加させてもらっています。私が日本のビジネスについて意見することはあまりのないですが、グロービスの経営陣の意思決定の仕方を学ぶことができますし、グロービスグループ全体の経営状況、グループ全体におけるグロービス中国の位置づけについても常に最新の情報を得ることができています。

トップとしてすぐに活躍できる現地人材が潤沢にいる、という企業はまだまだ少ないと思います。当然、中長期的視点でトップ候補人材を育成していくことも重要ですが、現時点では、過去に大きな組織のトップを体験したことがなく全体最適で物事を考える習慣が乏しくても才能とやる気、牽引力、高いロイヤルティのある人材をトップに抜擢し実績をつくっていくことが必要ではないでしょうか。そのような場合、トップに就任後も育成し続けるという観点が重要になるでしょう。

現地人材の育成では、ありたい行動を実践するための仕組みづくりも

(グロービス・コーポレート・エデュケーション
梶井麻未)

梶井: 中国人メンバーの育成についてはどのような点を重視していますか。多くの企業様が、日本とは異なる文化、日本とは距離の遠い現地メンバーに日本流の品質を高める行動や自社の提供価値の理解を共有することに苦労されていると伺います。グロービスらしさ、提供価値を現地のメンバーにどのようにして伝えているのでしょうか。

: 日々のコミュニケーションでは、依頼内容だけでなく、その背景含めて一つ一つ意味合いやリクエストを丁寧に説明することと、自らやって見せる・行動で示すことを大事にしています。 加えて、会社としてありたい行動を実践してもらうための仕組みづくりも非常に重要です。

例えば、ただ「お客様第一で行動してね」という言葉だけを伝えてもメンバーは具体的にどう行動することなのかわかりません。
グロービス中国では「お客様第一」を実現するための仕組みとして、日本と同様にクオリティ・ギャランティー制度(お客様がサービス内容に満足いただけなかった場合は費用をお返しする)を取り入れています。すなわち、「お客様を第一に考え満足いただくサービスを提供できなければ売上があがらない」という仕組みにしたということです。これによって、メンバーもお客様満足を第一にした丁寧な行動の積み重ねが自分たちの売上に直結することを体感納得することができるのです。

実は、グロービス中国設立当初は同制度導入について懸念の声もありました。しかし、実際に導入しメンバーが「お客様第一」の行動を実践することによって、幸いにも設立以来一度も同制度が発動されたことはありません。
メンバー一人一人に向き合う指導と、それを支える仕組みの両方が重要です。

もうひとつ大事なポイントは、一緒に働く特定の個人や仕事だけではなく、会社全体を好きになってもらうということではないでしょうか。
拠点採用の現地人材はその職場や上司や同僚との関係、担当している業務の内容など身の回りに視点が閉じがちです。そのために、我々は日本で行う大きな会議やリトリート※に参加する機会を作ったり、提案を検討する際に日本のメンバーに相談するように促すことで、グロービスという会社全体に触れる機会をできるだけ作るようにしています。

オフサイトで行う全社員を対象とする研修

拠点と本社をつなぐものは信頼関係

梶井: 海外拠点経営において効果的な日本本社からのサポートとはどうあるべきでしょうか。

: 意思決定のプロセス、現地の裁量範囲について、しっかり話し合い合意すること、そしてその合意を守り続けることが重要です。最初にこの部分は現地の判断に任せる、と合意しても時間がたつと何かと不安になり本社が色々と口を出し、裁量を奪おうとしてしまう。すると、スピード感がなくなり、お互いに不信感を抱き、疲弊してしまう。残念ながらそういう例はよく見かけます。

中国人の間ではこれまでの歴史のなかで、欧米企業では中国人が実際にトップとして経営を任されることはあっても、日系企業ではその可能性がないからあきらめろ、というのが通説になっています。日系企業中国拠点の中国人幹部と話をしていても「いくら本社が権限委譲するといっても、それは口先だけでしょう。結局全部日本で決めてしまう。」という声が残念ながらよく聞かれます。日系企業の中国人幹部の中で、「自分は本社に信頼されている」と胸を張って言える人は1割もいないのではないでしょうか。

グロービスと西は私を信頼してくれました。特に、西がいなければ私は今のように自分の力の120%を出して頑張れていません。だから、私は体を張ってその信頼に応えたいと思っています。重要なのは信頼を行動で示すことです。そのことが成果につながる。中国人は心に入り込まないと頑張らない。その代わり、信頼には徹底的に応えようとするものです。

梶井:今日はありがとうございました。これからも日本、中国、アジアパシフィックの各地の実践から互いに学び、切磋琢磨しながらお客様に満足いただける質の高いサービスを作り出していきたいですね。

コンサルタントの視点

サービス業のグローバル化を推進していくためには、これからますますマーケットと自社の理念や提供価値の両方を深く理解した現地人トップの活躍が求められます。

「現地法人のトップは現地人にしたいが人材がいない」
と嘆くばかりでなく、実現するにはどうすればよいか、サポート体制や短期・中長期的人材育成施策を検討実践していくことが重要ではないでしょうか。

その際には、自社の理念・提供サービスの価値の理解浸透が不可欠です。繰り返し共有し続ける、浸透し続ける、その手を止めてはいけないと改めて考えさせられました。

次回はグローバル企業としてどのように拠点のマネジメントに向かい合っていくべきか? 日本企業の課題は何か? をインド発のグローバル企業であるインフォシス社のバイスプレジデント、ベンカタラマン・スリラム氏にお伺いします。


執筆:梶井麻未
全体構成:加藤康行 グロービス・コーポレート・エデュケーション マネジャー
執筆者プロフィール
梶井 麻未 | Kajii Mami
梶井 麻未
慶応大学経済学部卒業。INSEAD(フランス): TGM(Transition to General Management) Programme修了。 大学卒業後、外資系コンサルティングファームに入社。コンサルタントとして主にハイテク・自動車業界の企業に対する事業戦略立案・実行支援、基幹システムの提案・設計・構築等に携わる。 現在は株式会社グロービスの法人部門に所属。マネジャーとして主にサービス業系企業の人材育成・組織開発の企画・設計・実行に従事。また、経営戦略領域の最新の知見を研究し、経営大学院のコンテンツや教材の開発を行う。 講師としては、クリティカル・シンキング、問題解決等を担当している。

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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