これからの企業変革の在り方(後編)

2022.06.01

2022年3月29日に、埼玉大学経済経営系大学院 准教授 宇田川 元一氏をお招きし、HRエグゼクティブコンソーシアム/グロービス共催セミナー「これからの企業変革のあり方」が行われた。

 

前半の基調講演を受け、セミナーの後半では、宇田川氏と西 恵一郎(グロービス コーポレート・エデュケーション マネジング・ディレクター)による対談が行われた。(全2回・後編)

 

※前編はこちら
(文中の氏名肩書は記事公開当時のものです。)

日常の「悔しいこと」を掘り起こし、経営課題につなげていく

西
お話をお聞きして、「変革」と「革命」を使い分けているところに宇田川さんのこだわりを感じたのですが、その意図を教えてもらえますか。

宇田川氏(以下、敬称略)
組織の中で何かをやろうとしたときには、面倒くさい問題がつきものです。そこに手をつけていかないと、いくら正論を言っても何も変わりません。

日本の企業変革やDX改革が進まないのは「経営層が分かっていないから」という単純な議論が多いですが、それには非常に疑問を感じます。みんながこの現状を「変えたい」と思っていても、複雑で見えない面倒くさい問題が横たわっていたり、何が問題なのかがはっきり見えないが故に、なかなか事が進まないのだと思います。だから、今は面倒な問題を紐解きつつ、問題を明確化して、一歩ずつ変えていく「変革」こそが、大事ではないでしょうか。

西
「変革は革命だ」と勘違いして、「根底から変えなければならない」と思っている人が大半かもしれませんね。

宇田川
多いと思います。マイクロソフトのCEOサティア・ナディラの著書『Hit Refresh』で「アップルは、コンシューマー向け製品の優れた設計を内なる声とし、モチベーションとする限り、自社の魂に忠実であり続けるだろう。だが、我が社の魂は違う。マイクロソフトは、あらゆる人、あらゆる組織に力強いテクノロジーを提供する企業、テクノロジーを世間一般に広める企業だという魂を取り戻す必要がある」と述べています1)

つまり、それぞれ会社には魂があって、それを否定することからは何も始まらない。やはり自社の技術や人材、資金、そして顧客との関係…そういうものを認め、それをどう活かしていくかという視点に立つことが大切なのです。新しいことをやるためではなく、守るべきもののために変えていくこと。そこを間違えてはいけないと思います。

西
アメリカでNetflixが動画配信サービスを始めた時に、競合他社は 「そこまで対応する必要はない」と見逃してしまった。どこかで対応しなければいけなかったはずなのに、それを見誤ってしまうと結果的に取り返しのつかない状態に陥ってしまうことになる。その判断が非常に難しいと思います。

宇田川
最初は取るに足らないことであっても、会社の中にはそこに気づいている人が必ずいるわけです。組織理論では「センスメイキング」と呼びますが、今までと違う兆しを示す断片的な手がかりをもとに、皆で断片を持ち寄りつつ、今の状況がどういう意味なのかを構築していくプロセスが必要です。ミドル層の人たちが、日頃からアンテナを張って、役員などの上位職にそのイシューを上げて、「ああそういうことか」と見えている風景を変えてあげられるような筋(すじ)づくりを続けることが大切です。

例えば、先ほど紹介したNECでは、新規事業開発部門GIUでは事業の単純な利益ではなく「事業成熟度」という「この取り組みを外部に売ったら、いくらの値がつくか」という基準で評価しています。現時点の業績ではなく、将来の成長に対する期待値を評価指標として設定しているわけです。こういう評価軸を設定していれば、事業の意味もどういうことかわかりますし、その進捗も分かるので新規事業も続けられます。撤退が必要ならばその判断もできます。

筋づくりをしながら、新しい事業機会に対して自分たちのリソースを丁寧に展開していく。それをコーポレートは支援しないといけない。そういった営みがイノベーションの推進には必要不可欠だと思います。

西
宇田川さんは「慢性疾患」での企業変革を促すためには、新規事業開発以外にどのような取り組みが効果的だと思いますか。

宇田川
新規事業の開発も大事ですが、既存事業の変革もやらなければいけません。

例えば、大手製造業などでは、基本的にビッグアカウントが売上のほとんどを占めている会社が多いでしょう。 それ以外に将来的に成長が期待できる市場や、最近だとSDGsの関連で、これまでとは異なる製品市場分野に投資しなければいけないことが出てきていると思います。しかし、そういう市場になかなか踏み込めないので、既存事業を今のまま回しているようなケースが結構多いと思います。

その中で、既存事業でも未開拓の市場をどうやって取り込んでいくのかを考えるのも必要な変革です。 例えば、日常の業務で「悔しいと感じたこと」を掘り起こしてみる。「こういうお客さんのニーズがあった。でも、うちの製品だと対応できず提案できなかった」とか「他のベンチャー企業にこの市場を持っていかれた」など、日常の中でモヤモヤすることや、やるせなく感じることが必ずあるはずです。それを経営課題と結び付けて、変革していくことが重要です。

西
それは、非常に興味深いですね。私も色々な企業とお付き合いしているなかで感じるのは、経営者が持っている「危機感」です。10年後には、「この会社は本当になくなるかもしれない」と思っていて、それを社員に切実に訴えかけたり、自分から見えている景色を資料にまとめ、伝えたりしている経営者も多いです。 しかし、それがミドル層にはなかなか伝わらずに、ジレンマを感じていらっしゃいます。

やはり経営者と同じ景色を見てもらうしかないのですが、同じ景色を見ても同じ危機感を感じるかどうかは非常に難しい。しかし、最終的にそういう企業が変わるのは、売上が赤字になった時です。それで、ミドル層の意識はがらりと変わりますが、それではやはり遅いと思います。 もっと早くミドル層の魂に火をつけるには、今宇田川さんがおっしゃった「うちの会社ならもっとできるはず」「もっと良い価値を出せるのに」という日々の悔しい体験だと思います。非常に現実解だと感じました。

「ストーリー」より「ストーリーテリング」。それによって社員に自発性が芽生えてくる

宇田川
リーダーが企業を変革していくときに、最初に自らの計画を話しても、みんなの心には刺さらない。ストーリーテリングをしていくことで、みんなの自発性が芽生えていきます。

ある病院の組織変革で、病院のトップが「患者さんがたらい回しになって亡くなってしまう状況を撲滅したい」と、語った事例の研究2)がありました。このときのポイントは、そのストーリーの主人公ないしは登場人物が「話を聞いている自分である」という感覚を持たせられるかどうかだと思います。自分と接点がない変革は、上の人が言っているだけになってしまいがちです。それでは、変革は難しい。

もう1つの話をすると、先日スタートアップの経営者と話したときに、「ミッション、ビジョン、バリューが社員に浸透しないのですが、どうしたらいいですか」という相談を受けました。 その経営者は「作り直した方がいいのか」「みんなで考えた方がいいのか」と悩んでいたので、それも大事だと思う。しかし、もっと大事なことがあるとアドバイスしたのです。 それは、「ミッション、ビジョン、バリュー」を浸透させるという考えではなく、日々の実践の中で実感していくことだと思うのです。

どの会社にも、受け継がれている物語が必ずあると思います。例えば、大事な契約を取ってきたけれど、うっかり書類を捨ててしまったとか、上司に最初刃向かってこっそり仕事を進めて、でも、後から成果を出したら認められたとか、色々な失敗談や成功談があるはずです。これらの物語が伝えているのは、その会社では失敗したら、どういう扱われ方をするのか、どこまでなら大丈夫なのかということや、何を仕事において成功だと考えるのかという枠組みです。

我々は実は物語を生きていて、そこに問題があれば、いくら言葉で形をきれいに整えたとしても機能しません。 だから、その経営者の方には「ここであなたが日々どういうフィードバックをするかこそが、ミッション、ビジョン、バリューを実践していることになる」という話をしました。取り立てて、何かを行う必要はなく、普段のコミュニケーションの積み重ねの中に、ミッション・ビジョン・バリューが現れてくるわけです。それを皆さん求めているはずですよね。

西
今のお話を聞きながら、企業がつくっているパーパスは、それだけだとやはり社員から遠いものだというのがうなずけました。共感はするけど距離がある。やはりパーパスとメンバーを繋ぐものが必要ですね。昔は飲み会や、出張の移動中などで、それが語り継がれていましたが、今は飲み会も行えないですし、リモートワークで会うこともできません。 そうすると、リーダーはビジョンでしかパーパスを語れないと思います。

ビジョンをカスケードダウンしながら、いかに共感を持ってもらうかが大事だと思います。先ほど話にあった現場の人たちの「自分もそう思う」「自分も悔しい」といった共感を得るためには、リーダーが戦略を語っているだけでは伝わりません。その人らしさが、そのビジョンから伝わらないと響かない。その人らしさを、ビジョンから感じたときに、あの人があの言葉使いで言ったことに共感し、その背後にあるストーリーが伝わっていくのだと思います。リーダーには「ビジョン」「志」が必要だと言ったのは、そこから来ています。

宇田川
間違えてほしくないのは、大事なのは「ストーリー」ではなく「ストーリーテリング」だということです。「ストーリー」はコンテンツですが、それをどう語るのがなければ、接点はないので実践されません。そのためには、聞き手のことをよく知らないと語れないし、そうでないものは聞き手の心に何も残らないのです。聞き手との間に橋を架けること、対話すること、それがストーリーテリングなのです。

また、「上から下に伝わらない」という問題もあれば、もう1つ「下から上に伝わらない」という問題もあるわけです。私がよく言っているのは、相手(上)が意識しているテーマや課題と紐づけて語るほうが賢明だということです。上の人、とりわけ経営層は経営課題を見ているので、経営課題とそのプロジェクトを結び付けて語るなどですね。 現場で感じる「悔しいこと」と経営課題を橋渡しすること。接点を作る。まさにこれらは対話です。そういうことを丁寧にやっていく必要があると思います。

ルールを守る者だけが、ルールを変えることができる

西
少し話のテーマを変えますが、宇田川さんは、現場では「総論賛成、各論反対」というのがよく起こるとおっしゃっていました。「各論を賛成」にするためには、どのような工夫をすればいいと思われますか?

宇田川
見えない面倒くさい問題を変革の推進者側が見つけて、そこにアプローチを続けることだと思います。この前Sansan Evolution Weekというイベントの鼎談でご一緒したときに、NECの北瀬さんが語っていた「ルールを守る者だけが、ルールを変えることができる」という言葉が、非常に印象に残っています。

西
深いですね。

宇田川
新しいことをやろうとすると、これまでのルールを無視しがちですよね。そうではなく、今までのルールに則ってやることが大事だと。そうすれば、既存ルールの限界や問題点について、皆がはっきり分かるし、変えるべき点も合意できます。そういう筋を丁寧につくれば、1つずつ変えていけます。そうすると部門も変わるし、新規事業もできてくる。そういう話だと思います。

西
経営から見たときに、ルールを全否定された変革というのは難しいですものね。

宇田川
そうなんですよ。多くの会社で経営者は、新規事業は若い人に力を発揮してもらいたいので「自由な発想でつくってくれ」と言いがちです。でも、経営課題が整理されておらず、どういう領域で新事業を行うかがしっかりと定まっていなければ、アイデア勝負のものが出てくるだけで、大きく育つ事業にはなりません。 「その会社のコンピタンスを活かすためには何をすべきなのか」という点で変革は行われる方が、筋が通っていますよね。自社のコンピタンスを活かすために何を変えないといけないのかも、はっきりさせることができる。

考える順番を間違えてはいけません。ただし、この際に間違っても、自社のコンピタンスの発見と活用の方法を外部に発注するようなことはしてはいけません。

西
そう思います。宇田川さんのお話しにもありましたが、組織に出てこない本音を出させることによって、会社は動いていく可能性がある。多くの場合は「総論賛成、各論反対」になりがちなのですが、各論賛成の条件をきちんと炙り出し、その組織の本音がきちんと見えれば、変革は、どの会社でも起こせるように思います。

宇田川
例えば、事業部から「人は1年後にしか出せない」という意見が出てくれば、そこには人員配置の問題があるわけです。それなら、人員配置の問題を何とかすれば、今でも出せるかもしれないという話もできるかもしれません。

困っていることをダイレクトに話してもらうのが難しかったら、推測しながら探っていくというやり方もあります。しかし、当人も気づいていないかもしれない面倒くさい問題がたくさん横たわっているので、これを1つずつ丁寧に乗り越えていくことが、今必要なのだと思います。そうすると、各論でも「そうだよね」という話ができるようになってきます。

西
では、最後に皆さんにメッセージをいただけますか。

宇田川
「慢性疾患型の変革」は、焦らず、着実に一歩ずつ進めていくことが大事です。

一見すると動機付けが弱く、継続するのが難しいのですが、少しずつ変わっていく手応えを見つけながら進むことが大切です。そして、気づいたときには大きな変化になっています。脅し文句に聞こえたら嫌なのですが、この先5年ぐらいで、そういう地道に変革に取り組んだ企業と、それができていない企業の差は残酷なくらいに出てくると思いますし、その差は既に顕在化している分野もあります。

会社の基準づくりに関わっている人事の方々は、そういうことをできる人材をいかに育てられるか、あるいは支援し続けられるかが重要になってきます。決してどこかにある仕組みを導入することで解決しようとせず、地道に対話的に現場をよく見て、必要な支援をし「続けて」ください。地味ですが、会社の将来を左右することなので、ぜひ取り組み続けていただけたらと願っています。

セミナー開催概要

■開催日時:2022年3月29日(火)16:30-18:00
■会場:Zoomによるオンライン配信
■登壇者

宇田川 元一
玉大学経済経営系大学院 准教授(人文社会科学研究科・経済系)

1977年東京都生まれ。 経営学者。『他者と働くー「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)、『組織が変わるー行き詰まりから一歩抜け出す対話の方法2on2』(ダイヤモンド社)著者。2006年早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、2007年長崎大学経済学部講師・准教授、2010年西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より現職。 専門は、経営戦略論、組織論。 ナラティヴ・アプローチに基づいた企業変革、戦略開発を中心に研究を行っている。また、様々な企業のアドバイザー、メンターとして、企業変革を支援している。 HRアワード2020書籍部門最優秀賞受賞(『他者と働く』)、2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。

西 恵一郎
グロービス・コーポレート・エデュケーション マネジング・ディレクター
顧彼思(上海)企業管理諮詢有限公司 董事

早稲田大学卒業。INSEAD International Executive Program修了。三菱商事株式会社に入社し、不動産証券化、コンビニエンスストアの物流網構築、商業施設開発のプロジェクトマネジメント業務に従事。B2C向けのサービス企業を立ち上げ共同責任者として会社を運営。グロービスの企業研修部門にて組織開発、人材育成を担当し、これまで大手外資企業のグローバルセールスメソッドの浸透、消費財企業のグローバル展開に向けた組織開発他、多くの組織変革に従事。グロービス初の海外法人を立上げ、現地法人の経営を行う。
現在はコーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクター兼中国法人の董事を務める。講師はグローバル戦略、リーダーシップ、アクションラーニングを担当。 日系商社 香港法人の外部顧問。経済同友会の中国委員会副委員長(2018、2019、2020)。

引用/参考情報

1) 参考:サティア・ナディラ、”Hit Refresh マイクロソフト再興とテクノロジーの未来”、日経BP、2017年

2) Bate(2004) The role of storytelling in Organisational change efforts: a field study of emerging “community of practice” within the UK National Health Service (in Hurwitz, B., T. Greenhalgh and V. Skulans “Narrative Research in Health and Illness”

執筆者プロフィール
グロービス コーポレート ソリューション | GCS |
グロービス コーポレート ソリューション | GCS

グロービスではクライアント企業とともに、世の中の変化に対応できる経営人材を数多く育成し、社会の創造と変革を実現することを目指しています。

多くのクライアント企業との協働を通じて、新しいサービスを創り出し、品質の向上に努め、経営人材育成の課題を共に解決するパートナーとして最適なサービスをご提供してまいります。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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