【ブラジル味の素】クリシン研修で異文化の壁を突破
2017.05.26
味の素のブラジル現地法人ブラジル味の素は2017年3月、現地サンパウロと地球の反対側にある東京をオンラインでリアルタイムに結び、「クリティカル・シンキング」(論理思考)の研修を実施した。受講したのは、現地採用のブラジル人18名と日本人駐在員3名の計21名。受講者はそれぞれの場所から、サイバースペース上のクラスに、同じタイミングでログインして参加した。その狙いを、アミノサイエンス事業部Director of Operationsの高木正治氏に聞いた。
目次
ブラジル味の素、サンパウロ-東京をオンラインで結んだクリシン研修で異文化の壁を突破 (高木正治/ブラジル味の素 アミノサイエンス事業部 Director of Operations)
「異文化」を相互無理解の言い訳にしないために
知見録:ブラジル現地で直面している課題は何でしょうか?
高木正治氏(以下、敬称略):約1年前に赴任し、アミノサイエンス事業部を担当しています。現地社員を中心にスタッフは二十数名で、ブラジルではまだ小さな部門です。
おかげ様で、当地ブラジルで味の素の知名度は高いので、ブラジル人現地社員は優秀ですし、様々なことを学んで成長したいという意欲を持っています。話すことが大好きで、たくさんのアイデアを出すことが得意ですし、デザインや美的センスはとても高いレベルにあります。
ただ一方で、論理的に整理して話したり、チームメンバーの様々な意見をまとめたり、段取りやスケジュールを組んで物事を進めることは、必ずしも得意ではないようです。日本人ならば、目的、落とし所を見据えながら議論を収束させていこうとするものですが、ブラジル人の場合は話がどんどん拡散してしまって何も決まらないということがあるのです。
日本企業ではバードビュー、システミックビューで全社の事業を見ようということがよく言われますが、ブラジルではそうしたビジネス教育が広く行われているわけではないようです。そのため、日本人駐在員がブラジル人社員に「全社の視点から考えよう」と言ってもなかなか理解してもらえないということが起こっていました。
また、以前アメリカに駐在していた際にもあったことですが、本当はビジネススキルの違いなのに、そのスキルを知らないために「日本人だから細かいことを要求してくる」と思われ、スキルの違いが文化の違いにすり替わってしまうことがありました。
もちろん文化の違いもありますが、ブラジル人と日本人の間の「ギャップ」をできる限り埋め、それぞれの良いところ、長所を活かし合うことによって、小さなチームであっても最大の成果を産み出すことが重要です。そのためには、文化や人種の違いを越えた「共通の考え方」を持つことが必要だと感じていました。
そんな時です。味の素ブラジルにおける最大事業である食品リテール部門が、グロービスさんの講師にサンパウロまで来てもらって「クリティカル・シンキング+マーケティング」の現地研修を行いました。論理思考を部門の共通の考え方にするということは、まさに私が感じていたことだったので、アミノサイエンス事業部でもぜひやりたい。しかし、講師を東京から再び呼び寄せるとコストが跳ね上がってしまいます。アミノサイエンス事業部のような小所帯にはちょっと難しい。そこで、グロービスさんに相談したところ「オンラインでも実施できますよ」ということだったので、試してみることにしました。
知見録:第1回は3月24日(金)に実施されました。講師はグロービス東京校にいて、ブラジルの参加者はそれぞれのパソコンから接続。まさに地球の反対側どうしを結んだ壮大な遠隔授業でした。どう評価していますか?
高木:内容は分かりやすかったですし、少し心配していたオンライン接続の面でも問題はありませんでした。ブラジル人社員も熱心に学んでいました。第2回が4月24日(月)に実施される予定でその間は動画教材で自習です。皆、楽しそうに学んでいますよ。
最大の成果は、日本人駐在員とブラジル人社員の間に「共通言語」ができたことです。
少し前までは、日本人駐在員が「イシュー(問題の本質)は何か?」「エビデンス(根拠)は?」と問いかけても、ブラジル人社員と議論が噛み合わないことが少なくありませんでした。なぜそれを問うのかという「考え方の共通基盤」が無かったからです。いきおい、文化・習慣の違いのせいに帰結してしまい、「日本人はマイクロマネジメントが好きなのだ」「あれは日本人に特有の文化だ」「だから、日本人の言うことをまともに聞く必要はない」といった悪循環に陥りがちなのです。これはブラジルに限らず、日本企業が進出している世界中の国々で起こっていることなのではないでしょうか。
ところが、今回のオンライン研修ではビジネススクールで教鞭をとるアメリカ人教授が、日本人駐在員がふだん言っているのと同じ言葉を使って同じことを教えているではありませんか。ブラジル人社員らにとって、「日本人が言っていることが世界の常識だった!」という新鮮な気づきにつながったようです。その意義はとても大きいと感じています。
実は、私自身もあえてブラジル人の仲間たちと一緒に受講しました。この研修で使われた言葉や考え方を現地スタッフたちと具体的に共有するためです。今後は会議や議論の場で、共通言語として使うことができます。その都度定義したり説明したりする必要はありません。
実際、その後のミーティングの雰囲気はとても良いです。もちろん、皆がいきなりロジカル・シンキングの達人になったわけではありません。でも、ブラジル人も日本人も、チームメンバー全員が同じスタートラインから走り始めることができたように感じています。
異文化の壁が取り払い、皆で経験を積み重ね、もっと成長していきたいと思っています。
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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。