階層別研修の効果を高める3つのポイント

2020.05.20

多くの企業で導入されている階層別研修。しかし、「参加者の意識が低い」「やらされ感がある」「知識が定着しない」「本当にこのままでいいのか?」と問題意識を強めている育成担当者の方が増えています。本コラムでは、階層別研修の効果を高める3つのポイントをお伝えします。これから階層別研修を企画される方にも、すでに実施している研修を見直される方にも役立つ内容です。

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階層別研修と選抜研修の違い・役割

執筆者プロフィール
田中 真由美 | Tanaka Mayumi
田中 真由美

大学卒業後、広告会社に入社。
社内ベンチャーで立ち上がった介護・医療業界に向けた広告事業に携わり、医療・介護施設の従事者および利用者の集客支援に関するソリューション営業を担当。

グロービス入社後は、企業の組織開発・人材育成に従事。製造業を中心として、広告、商社等幅広い業界を担当し、戦略実現の支援を目的とした人材育成体系の構築支援、研修プログラムの企画・設計・実施を行う。
 
グロービス経営大学院卒業 経営学修士 (MBA) 取得


多くの企業でありがちな
階層別研修の悩み

階層別研修とは、職位・タイトル・階層・年次などが変わる前後に、対象層全員が受講する研修のことです。主な目的は、期待される役割・業務を遂行するために、必要なスキル・マインドを習得することです。とくに、自身に期待される役割や業務の理解が重視されています。

各対象層が期待される役割や業務を理解することは、経営方針を組織の隅々まで行き届かせ、永続的な事業運営を行う上で必要不可欠です。また昨今の経営環境は競争環境の変化が激しく、先行きの見通しが立てづらくなっています。このような環境においては、時代に合わせた階層別の役割・業務を一人ひとりがきちんと理解し、当事者意識を高める必要性が増しているのです。

一方でここ数年、グロービスへの相談として「階層別研修の効果を高めるために、何かできることはないでしょうか?」といったものが多く寄せられています。「やらされ感が拭えない」「参加者の参加意識が低い」「きちんと理解しているのかわからない」「行動の変化が感じられない」・・・。階層別に求められるスキル・マインドの習得に役立つプログラムを提供しているにも関わらず、このような悩みは後を絶ちません。

階層別研修の効果を高めるためには、大人の学びに必要な3つの要素「目的意識」「自己不足感」「主体性」を満たすことが不可欠です。3つの要素のうちいずれかでも欠如してしまうと、学ぶ意欲が高まりきらないと言われています。下記の質問に人材育成担当者の皆さまが答えられない場合、3つの要素のいずれかが欠如している可能性があります。

  •  ・階層別研修を通じて、実現したい事は何ですか?(目的意識)
  •  ・各階層に今何が、どの程度、不足していると思いますか?(自己不足感)
  •  ・階層別研修を心の底から“やりたい” ”やる価値がある” と思えていますか?(主体性)

現段階で答えられなくても大丈夫です。一度、時間を取り考えていただくことをお勧めします。次項から【研修前・研修中・研修後】の時系列に分け、3つの要素を満たすために大事なことを解説します。

ポイント1:階層別研修の実施前に
押さえておくべきこと

そもそも経営戦略や方針を踏まえた人材要件定義を設定できているでしょうか。研修企画の肝は、経営戦略に即した人材要件を定義できるか否かです。

とある優れた技術力を持つ部品メーカー様から、こんなご相談をいただいたことがあります。「これからの時代は、”誰かが”ではなく”全員が”顧客視点を持つことが大事だ。組織全体に顧客視点を根付かせる上でも、まずは中核を担う管理職層に顧客視点を強化する研修を実施したい。」

こちらのお客様に、人材要件書(等級定義書)をご提示いただいたところ、驚くことに、一言も”顧客”や”顧客視点”という言葉が盛り込まれていませんでした。もともと優れた技術力で高品質な製品づくりをすることで、顧客満足を実現し、成長してきた会社です。必要だったスキルは「課題解決」「専門性」「コスト」といったものばかり。このままでは管理職研修の対象者に、顧客視点の必要性を理解してもらうことは難しそうです。

受講者に目的意識を正しく持ってもらうためにも、まずは以下の項目の検討から始めるべきです(図1)。

  1.  1:自社の置かれた事業環境を正しく捉え、全社の戦略・方針に即した人材要件を設定する
  2.  2:現在の社員がどのような状態であるかを把握する
  3.  3:人材要件と現状の差分を丁寧に紐解いていく
図1:育成プログラムの策定のプロセス

図1:育成プログラムの策定のプロセス

研修企画の定石は、紐解いた差分に対して打ち手を考えていくことです。受講者本人が自ら学ぶ必要性を持てるように、一貫したメッセージを発信できる体制づくりができているか見直してみてもよいでしょう。

ポイント2:階層別研修の良し悪しは、
前半30分で決まる!?

やることが分かっていても、なかなか重い腰が上がらない。誰しもそんな経験をしたことがあるのではないでしょうか。階層別研修の受講者も、もしかすると同じかもしれません。とくに階層別研修は、自ら学びたいと思ったテーマを必ずしも学べるわけではないため、乗り気にならない人が多いのも事実です。

それでも研修中は、自分ごとに引き寄せて積極的に参加してほしい!というのは企画側の思い。なんとか研修の質を高めていきたいですよね。

研修の質(有益度・満足度)を左右する重要なタイミングは、研修の冒頭です。冒頭30分で、受講者が抱きやすい以下の疑問を解消できなければ、ムダな研修になってしまう可能性が高いでしょう。

<受講者の疑問>

  • ・なぜこの研修に参加するのか?
  • ・何を学ぶのか?
  • ・自分にとってどんな意味があり、どんなメリットがあるのか?
  • ・学びたいと思える講師か?
  • ・どのように学ぶのか?
  • ・楽しく学べそうか?

これらの疑問が解消されることで、ようやく「時間を費やしてでも学ぶ価値がある」と思え、主体的に学ぶ準備が整うのです。

難しいのは、伝える内容と伝え方。一つ一つの言葉の選び方だけでも、メッセージの伝わり方が変わってしまいます。プロと相談しながら”誰に何をどのように伝えるのか”考えることをお勧めします。

ポイント3:階層別研修は実施して終わりではない
~振り返りが学びの実践を促進させる~

研修後は職場で学んだことを実践してほしいですよね。実践にあたり、エビングハウスが発見した忘却曲線は、押さえていただきたい考え方です(図2)。エビングハウスの忘却曲線によると、定期的に復習を行うことで再記憶するために必要な負担を減らすことができます。

図2:エビングハウスの忘却曲線

図2:エビングハウスの忘却曲線1)

またカナダのウォータールー大学では、エビングハウスの忘却曲線を踏まえたうえで効率的に学習する手法を研究しています(図3)。この研究によると、学習後1日以内に10分間、1週間以内に5分間、1か月以内に2~4分間の復習をすることで、記憶が戻ることが示されています。

図3:Curve of Forgetting

図3:Curve of Forgetting2)

このような研究結果も押さえつつ、学びの定着と実践に効果的な”振り返り”のポイントについてお伝えします。

1:学んだことを復習し、整理する

2:実践イメージを具体化し、コミットする

また、人は一度心に決めたことや実行したことに矛盾のない行動をとりやすいという性質があります。具体的なコミットメントにより、実践に向け意識が高まるのです。

3:実践から得られた気づきを振り返る

実践中の気づきも重要な学習ツールです。実践中の気づきを振り返ることで難しさや課題を発見し、さらなる成長に向けた実践につなげることができます。振り返りを行う際の項目は、実践したこと、変化の実感(自分と周囲)、成功・失敗要因の特定、今後のアクションなどがお勧めです。

また、上司から客観的なフィードバック(実践に対する称賛と労いなど)と新しいチャレンジの場がもらえるよう、協力体制もあらかじめ用意しておきましょう。

まとめ

本コラムでは、研修の前・中・後で押さえるべきポイントをお伝えしました。まずは貴社の階層別研修が、会社の目指す方向性とマッチしているかどうか、そして人材要件が陳腐化、形骸化していないか確認してみましょう。その上で、受講者の動機づけ方法を見直し、一過性の研修とならない工夫を取り入れてみてください。

グロービスでは、年間1,000社を超える企業に集合研修(通学型研修を含まず)を提供しています。実務での再現性が高い学びを多くの企業に提供し続けるために、さまざまなノウハウを蓄積しています。もし階層別研修についてお悩みのことがあれば、お気軽にご相談ください。

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階層別研修と選抜研修の違い・役割

引用/参考情報

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。