階層別研修のメリットと効果を高める3つのポイント
- 階層別研修
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田中 真由美
多くの企業で導入されている階層別研修。しかし、「参加者の意識が低い」「やらされ感がある」「知識が定着しない」「本当にこのままでいいのか?」と問題意識を強めている育成担当者の方が増えています。本コラムでは、階層別研修の必要性やメリットに加え、研修の効果を高める3つのポイントをお伝えします。これから階層別研修を企画される方にも、すでに実施している研修を見直される方にも役立つ内容です。
階層別研修とは?
階層別研修とは、職位・タイトル・階層・年次などが変わる前後に、対象層全員が受講する研修のことです。主な目的は、期待される役割・業務を遂行するために、必要なスキル・マインドを習得することです。とくに自身に期待される役割の認識、業務への当事者意識の醸成を重視する傾向があります。
階層別研修は、ある一定水準の能力を持つ従業員を全体的に増やすことに効果を発揮します。社員を階層別(例:メンバー層、主任層、課長層、部長層など)に分け、階層ごとに異なる内容の研修を実施することで、組織全体の能力を底上げしていきます。
そのため、その階層になってから行う研修であることが、階層別研修の特長のひとつです。階層別研修の名称に”新任~~研修”が多いことからも、「なってから研修」の位置づけが伺えます。
ポイント:階層別研修と選抜研修の違い
階層別研修と似た用語として、選抜研修があります。その違いは主に、目的・実施するタイミング・対象者の3つです。
階層別研修の目的は「組織全体の能力の底上げ」であり、対象は該当セグメントの全員です。実施するタイミングは、「なってから」実施します。
一方で選抜研修の目的は「次世代のリーダーや経営者の育成」です。そのため、選抜研修は限定(選抜)されたメンバーのみが対象です。その役職に「なる前」に実施し、ひとつ上の階層に求められる能力を身につけます。
階層別研修と選抜研修は、実施の目的や役割が明確に異なります。違いを把握できていないと、効果的な育成体系を構築することができません。階層別研修は選抜研修の候補者のプールを作ることにもつながるため、両者を組み合わせることで次世代の経営者候補の計画的な輩出が可能になります。
階層別研修のメリット
階層別研修のメリットは、その階層に絞って育成施策を実施できることです。具体的には、「その階層に期待される役割の認識と業務への当事者意識の醸成」、「その役割を果たすために必要なスキルの強化」ができるということです。
期待される役割の認識と当事者意識の醸成
各対象層に期待される役割や業務を認識し、業務への当事者意識を醸成することで、社員は能動的な行動を取ることが可能になります。また経営方針を組織の隅々まで行き届かせられるため、永続的な事業運営にもつながります。昨今の経営環境は変化が激しく、先行きの見通しが立てづらくなっています。このような環境においては、時代に合わせた役割を一人ひとりがきちんと認識し、当事者意識を高める必要性が増しているのです。
役割を果たすために必要なスキルの強化
企業が期待する役割を実行するには、知識やスキルを新たに習得することが必要です。役職別、部署別、あるいは全社員など該当するセグメントの全員が、必要とされる知識・スキルを強化することで、日々の業務を効率的に遂行できるようになります。階層別研修ではその時点で必要な知識・スキルを学ぶため、すぐに実務で生かしやすいこともメリットのひとつです。
階層ごとの人材要件例と研修例
階層の分け方は様々ですが、例えば以下のような5つに分類できます。
- 経営者・役員
- 管理職・マネジメント
- 中堅社員
- 若手社員
- 新入社員
それぞれの階層における人材要件を整理しておくことで、研修の企画を進めやすくなります。人材要件とは、職務遂行に必要な要素を明確にしたものです。グロービスでは人材要件を下図のように、育成コンセプト、求められる行動、必要なスキル・マインドで整理することをおすすめしています。
階層別研修には、具体的に以下のようなものがあります。それぞれの対象、目的、内容や気をつけるべき点などについて解説していきます。
- 経営者・役員研修
- 管理職・マネジメント研修
- 中堅社員研修
- 若手社員研修
- 新入社員研修
経営者・役員研修
役員研修とは、自社の取締役・執行役員を対象に、既存の発想をアップデートし、自身の判断軸や人間的魅力を磨き込む研修の事です。判断軸や人間的魅力の磨き込みには、経営全般に関するリテラシーに加え、法務やガバナンスの知識、リベラルアーツなどの教養も必要になります。しかし必要な知識・スキルはOJTだけでは十分に獲得できないため、研修を通じた網羅的なインプットが有効です。コーポレート・ガバナンス・コードによって経営者・役員のスキル・マトリックスの提示が求められるようになったこともあり、経営者・役員に対しても計画的な学習機会の提供が求められています。
管理職・マネジメント研修
管理職を対象に、組織全体のパフォーマンスを向上させるためのスキルと知識の習得を目指します。すべての管理職に共通して求められる「経営の定石」「考える力」「人を巻き込む力」「志」などに加え、部長や課長など役職層ごとに異なる必須スキルの習得も、カリキュラム候補です。管理職・マネジメント研修には、自社を取り巻く外部環境の変化、それに伴う自社の経営戦略の変化を組み込む必要があるため、研修内容を定期的にアップデートすることをおすすめしています。
中堅社員研修
ある程度経験を積んだ中堅社員を対象に、企業の中核を担う存在として必要な意識やスキルの習得を行います。一般的にはビジネスモデルの理解、リーダーシップ・問題解決能力の強化や、後輩・部下の指導スキルの習得などを扱います。中堅層はキャリアパスや経験値の差が大きいため、一律の研修では個々のニーズへの対応が難しい傾向にあります。そのため、たとえば入社6・7年目や入社8年目以上などに分けたうえで、個別の課題に応じた柔軟なカリキュラムを取り入れることが重要です。
若手社員研修
入社5年目くらいまでの若手社員を対象とし、ビジネススキルや組織への理解を深める研修です。若手社員の早期戦力化のほか、組織への帰属意識を高め、長期的な人材定着につなげることが主な目的です。内容には業務における専門知識に加え、戦略的思考や自己啓発なども含まれます。若手社員の悩みや課題は年次とともに変化する傾向があるため、キャリアステージに応じたプログラムを提供することが重要です。
新入社員研修
企業に新しく入社した社員を対象とした研修です。主な目的は、新入社員が組織にスムーズに適応し、職務を遂行するために必要な知識やスキルを習得することです。一般的な内容としては、企業の歴史やビジョン、基本的な業務知識、ビジネスマナーなどが含まれます。また、コミュニケーションスキルや問題解決能力の向上を図るトレーニングなどを通じて、社内外の人間関係の構築をサポートすることも必要です。
多くの企業で見られる階層別研修の悩み
ここ数年、グロービスへの相談として「階層別研修の効果を高めるために、何かできることはないでしょうか?」といったものが多く寄せられています。「やらされ感が拭えない」「参加者の参加意識が低い」「きちんと理解しているのかわからない」「行動の変化が感じられない」・・・。階層別に求められるスキル・マインドの習得に役立つプログラムを提供しているにもかかわらず、このような悩みは後を絶ちません。
階層別研修の効果を高めるには、社会人の学びに必要な3つの要素「目的意識」「自己不足感」「主体性」を満たすことが不可欠です。3つの要素のうちいずれかでも欠如してしまうと、学ぶ意欲が高まりきらないと言われています。下記の質問に人材育成担当者の皆さまが答えられない場合、3つの要素のいずれかが欠如している可能性があります。
- 階層別研修を通じて、実現したいことは何ですか?(目的意識)
- 各階層に今何が、どの程度、不足していると思いますか?(自己不足感)
- 階層別研修を心の底から“やりたい” ”やる価値がある” と思えていますか?(主体性)
現段階で答えられなくても大丈夫です。一度、時間を取って考えていただくことをお勧めします。次項から【研修前・研修中・研修後】の時系列に分け、3つの要素を満たすために大事なことを解説します。
階層別研修の効果を高める3つのポイント
階層別研修の効果を高めるために押さえておきたい、3つのポイントについて紹介します。
- ポイント1:研修前に、戦略を踏まえた人材要件の定義を行う
- ポイント2:研修中は、前半30分で受講者の疑問を解消する
- ポイント3:研修後は、振り返りで学びの実践を促進させる
ポイント1:研修前に、戦略を踏まえた人材要件の定義を行う
そもそも経営戦略や方針を踏まえた人材要件を定義できているでしょうか。研修企画の肝は、経営戦略に即した人材要件を定義できるか否かです。※人材要件については、前章をご覧ください
とある優れた技術力を持つ部品メーカー様から、こんなご相談をいただいたことがあります。「これからの時代は、”誰かが”ではなく”全員が”顧客視点を持つことが大事だ。組織全体に顧客視点を根付かせる上でも、まずは中核を担う管理職層に顧客視点を強化する研修を実施したい。」
こちらのお客様に、人材要件書(等級定義書)をご提示いただいたところ、驚くことに、一言も”顧客”や”顧客視点”という言葉が盛り込まれていませんでした。もともと優れた技術力で高品質な製品づくりをすることで、顧客満足を実現し、成長してきた会社です。必要だったスキルは「課題解決」「専門性」「コスト」といったものばかり。このままでは管理職研修の対象者に、顧客視点の必要性を認識してもらうことは難しそうです。
受講者に目的意識を正しく持ってもらうためにも、まずは以下の項目の検討から始めるべきです。
1:自社の置かれた事業環境を正しく捉え、全社の戦略・方針に即した人材要件を設定する
2:現在の社員がどのような状態であるかを把握する
3:人材要件と現状の差分を丁寧に紐解いていく
ポイント2:研修中は、前半30分で受講者の疑問を解消する
やることが分かっていても、なかなか重い腰が上がらない。誰しもそんな経験をしたことがあるのではないでしょうか。階層別研修の受講者も、もしかすると同じかもしれません。とくに階層別研修は、自ら学びたいと思ったテーマを必ずしも学べるわけではないため、乗り気にならない人が多いのも事実です。
それでも研修中は、自分ごとに引き寄せて積極的に参加してほしい!というのは企画側の思い。なんとか研修の質を高めていきたいですよね。
研修の質(有益度・満足度)を左右する重要なタイミングは、研修の冒頭です。冒頭30分で、受講者が抱きやすい以下の疑問を解消できなければ、ムダな研修になってしまう可能性が高いでしょう。
<受講者の疑問>
- なぜこの研修に参加するのか?
- 何を学ぶのか?
- 自分にとってどんな意味があり、どんなメリットがあるのか?
- 学びたいと思える講師か?
- どのように学ぶのか?
- 楽しく学べそうか?
これらの疑問が解消されることで、ようやく「時間を費やしてでも学ぶ価値がある」と思え、主体的に学ぶ準備が整うのです。
難しいのは、伝える内容と伝え方。一つひとつの言葉の選び方だけでも、メッセージの伝わり方が変わってしまいます。プロと相談しながら”誰に何をどのように伝えるのか”を考えることをお勧めします。
ポイント3:研修後は、振り返りで学びの実践を促進させる
研修後は職場で学んだことを実践してほしいですよね。実践にあたり、エビングハウスが発見した忘却曲線は、押さえていただきたい考え方です(図2)。エビングハウスの忘却曲線によると、定期的に復習を行うことで再記憶するために必要な負担を減らすことができます。
またカナダのウォータールー大学では、エビングハウスの忘却曲線を踏まえたうえで効率的に学習する手法を研究しています(図3)。この研究によると、学習後1日以内に10分間、1週間以内に5分間、1か月以内に2~4分間の復習をすることで、記憶が戻ることが示されています。
このような研究結果も押さえつつ、学びの定着と実践に効果的な”振り返り”のポイントについてお伝えします。
1:学んだことを復習し、整理する
研修終了後、1日以内に10分でも振り返りをするようにしましょう。学んだことを風化させないためにも、学びを整理する機会を設けることが重要です。振り返りの方法はレポートを書く、eラーニングなどの学習ツールを活用する、確認クイズを行うなどが有効です。遅くとも1週間以内には復習ができるように支援をしたいですね。
2:実践イメージを具体化し、コミットする
学習内容について、具体的な実践イメージを持つことも重要です。どんな問題意識のもと、誰と、いつ、どこで活用するかまで具体化しましょう。知識を知識のままにせず、実務での再現性の高い知識に昇華できます。
また、人は一度心に決めたことや実行したことに矛盾のない行動をとりやすいという性質があります。具体的なコミットメントにより、実践に向けて意識が高まるのです。
3:実践から得られた気づきを振り返る
実践中の気づきも重要な学習ツールです。実践中の気づきを振り返ることで難しさや課題を発見し、さらなる成長に向けた実践につなげることができます。振り返りを行う際の項目は、実践したこと、変化の実感(自分と周囲)、成功・失敗要因の特定、今後のアクションなどがお勧めです。
また、上司から客観的なフィードバック(実践に対する称賛と労いなど)と新しいチャレンジの場がもらえるよう、協力体制もあらかじめ用意しておきましょう。
まとめ
本コラムでは、研修の前・中・後で押さえるべきポイントをお伝えしました。まずはお客様の階層別研修が、会社の目指す方向性とマッチしているかどうか、そして人材要件が陳腐化・形骸化していないか確認してみましょう。その上で、受講者の動機づけ方法を見直し、一過性の研修とならない工夫を取り入れてみてください。
グロービスでは、年間1,000社を超える企業に企業内研修(通学型研修を含まず)を提供しています。実務での再現性が高い学びを多くの企業に提供し続けるために、さまざまなノウハウを蓄積しています。もし階層別研修についてお悩みのことがあれば、お気軽にご相談ください。
引用/参考情報 |
1) 引用:GLOBIS 学び放題、Learn How to Learn ~自分にあった学習法を見つけるための4つのステップ~ 2) 引用: University of Waterloo、Curve of Forgetting |
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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