【森永製菓】コンセプト・ワーク重視の時代真剣に考え、議論し、 感覚を研ぎ澄ませることが重要

2014.09.16

※文中の役職等は取材当時のものです

エンゼル・マークをコーポレート・マークに掲げ、創業109年の歴史を誇る森永製菓は、食の世界で新しい価値と感動を届けることで、時代の変化に対応してきた。
少子高齢化が進むなか、さらなる成長のためにどんな人材が求められているのか。
森永剛太・代表取締役会長に、同社のリーダー育成研修をサポートしているグロービス・コーポレート・エデュケーションの鎌田英治・カンパニー・プレジデントが聞いた。

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森永剛太氏
森永製菓代表取締役会長

 

執筆者プロフィール
鎌田 英治 | Eiji Kamada
鎌田 英治

株式会社グロービス
マネジング・ディレクター  
Chief Leadership Officer(CLO)

北海道大学経済学部卒業。コロンビア大学CSEP(Columbia Senior Executive Program)修了。日本長期信用銀行から1999年グロービスに転ずる。長銀では法人営業(成長支援および構造改革支援)、システム企画部(全社業務プロセスの再構築)、人事部などを経て、長銀信託銀行の営業部長としてマネジメント全般を担う。グロービスでは、人事責任者(マネジング・ディレクター)、名古屋オフィス代表、企業研修部門カンパニー・プレジデント 、グループ経営管理本部長を経て、現在はChief Leadership Officer(CLO) 兼コーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクター 。講師としては、グロービス経営大学院および顧客企業向け研修にてリーダーシップのクラスを担当する。著書に『自問力のリーダーシップ』(ダイヤモンド社)がある。経済同友会会員。


新しい時代認識から生まれる成長機会

鎌田:時代の変化と共に、製菓業界にも変化が起きていると思いますが、どうとらえていらっしゃいますか。

森永氏:一言で言えばグローバル化です。地球をフラットな一つの土俵ととらえ、ビジネスをグローバルに展開することに力を入れたいと考えています。たとえば、成熟度が高い先進国では、おいしい.ことは大前提で、さらにデザインや簡便性などプラス・アルファの要素が求められます。その面での研究は日本がいちばん進んでいます。この日本のこだわりや繊細さを、海外、特にこれからの成長余地が大きい新興国に広げていくことが重要です。

鎌田:新しい市場に打って出るとなると、事業運営の難易度も上がりますね。

森永氏:従来と同じやり方では通用しません。現在消費者から支持されているパワー・ブランドでも、磨き続けなければ錆びてしまいます。顧客の変化を見極め、本当のニーズをつかみ、変化していかなければなりません。企業というのは、変化適応業なのです。たとえば、先進国では従来のような一日三食ではなく、一日五食から六食も食べているケースがあります。こうした食生活の変化に合わせ、「お菓子はおやつの時間に食べるもの」という既成概念にとらわれないことで、新たなビジネスチャンスも生まれてきます。新しい時代を構想するには、過去の延長ではなく、顧客の側に立って徹底的に考え抜くコンセプト・ワークが重要になります。そのためには、日常業務に忙殺されないようなワークスタイルに変えなければならないでしょう。

部門を超えた場をつくり真剣に議論を尽くす

鎌田:では、日常のなかにコンセプト・ワークのような非日常.をいかに作り上げるかがポイントですね。

森永氏:私は現場教育が基本であると考えています。実務のなかで考え抜いたコンセプトを実践で検証しながら磨き上げていかなければなりません。それには、データという過去だけを見るのではなく、現場において自分で何かを感じるという右脳的アプローチも重要なのです。

鎌田:そうした現場教育を実践していくうえで、何がポイントになりますか。

森永氏:まず、意欲のある人には、未経験の分野であってもどんどんチャンスを与えます。挑戦意欲はすべての原点です。いっぽう、上司はそうしたメンバーのサポートにコミットすることが重要な役割です。この二つの要素がかみ合って、メンバーは現場で力をつけていくことができるのです。

鎌田:現場責任を持つミドルは非常に重要ですね。

森永氏:ミドルの育成が組織を成長させるカギだと考えています。トップを司令官とすると、その戦略を実践するのは、部隊長であるミドルです。ミドルがリーダーシップを持って強力なスクラムを組むことで、企業は力を発揮するのです。下の意見をくみ上げて上に伝え、上の考えを翻訳しながら組織を縦横無尽に動き回るミドルは、組織の要といえるでしょう。

鎌田:ミドルがその役割を果たすために、何か取り組みをされていますか。

森永氏:徹底的に議論する場をつくるように従業員にはいつも言っています。各組織のミドルを集め、トップも巻き込んで徹底的に議論するのです。議論の場には上下の関係はありません。決めるまでは横でやろう.と言っています。何が問題なのか、どこを改善すればよいのかを、部門の枠を超えて真剣に議論することで、現実の問題を突破することができます。議論の結果を見て、リーダーは高い見識を持って決断します。ここからは縦の関係です。いったん決断したら、ミドルはその実現に向けて邁進してほしいのです。言うべきことは言い、いったん決まったら一致団結して前に進む。そうした、さわやかなアグレッシブな集団、言ってみれば知的体育会系.の集団を目指しています。

鎌田:会長の社員に対する期待の大きさが伝わってきます。議論の場をつくるという意味では、私たちが行っている研修という非日常の場も同じです。日常から離れて議論や考察を重ねることで、普段は気づかなかった自分たちの足りない部分が見えてきます。

森永氏:我々はいままさに、グローバル化、フラット化という新しい時代の流れに直面しています。そこで問われるのが企業の存在価値です。当社は、「おいしく たのしく すこやかに」というビジョンを掲げています。これは二一世紀になっても不変のものです。この価値実現のために、各自が使命感と責任感を持って、真剣に学び、本気になって考え、本能を研ぎ澄ませてもらいたいと考えています。その結果として、業績が伸びるのだと思います。「業績を三%伸ばすのは至難の業だが、三〇%伸ばすのは簡単だ」と言っていますが、新たな時代認識の下、ものを見る切り口を変えればビジネスチャンスは見つかるものなのです。

鎌田:そのように自社の価値観を明確に共有しているからこそ、メンバーは真剣になることができ、また立場を超えて一つの方向に向かって力を結集することができるのですね。それが結果として大きな成果につながるのでしょう。本日はありがとうございました。

聞き手:グロービス Chief Leadership Officer (CLO ) 兼 グロービス・グループ経営管理本部長 鎌田 英治

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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。