階層別研修と選抜研修の目的の違い~押さえるべき3つのポイント~

2019.09.20

人材育成の手法として、Off-JTの必要性が高まっています。厚生労働省による平成30年度能力開発基本調査によると、正社員に対するOff-JT費用の今後3年間の支出見込みでは、「増加予定」(36.6%)が「減少予定」(1.6%)を35.0ポイント上回っています。本コラムでは、Off-JTの軸である階層別研修と選抜研修の目的を押さえたうえで、研修を機能させるための3つのポイントを解説していきます。

階層別研修は「底上げ」、選抜研修は「引き上げ」が目的

階層別研修の目的は、現業務を行うために必要な要件を身に着けるための「底上げ」です。新入社員・5年目・管理職など特定の階層に必要なスキルやマインドを、全員に身に付けさせます。階層別研修の位置づけは特定の階層に「なってから」の研修です。階層別研修の名称に”新任~~研修”が多いことからも、なってから研修の位置づけが伺えます。

 

選抜研修の目的は、一つ上の階層に必要な要件を身に着けるためなどの「引き上げ」です。企業が期待する優秀な人材を選抜し、戦略的に育成していくことから、特定の階層に「なる前」の研修に位置付けられます。

目的が異なることから、それぞれを組み合わせて連動させることが大切です(図1)。うまく連動させることで、次世代経営者候補の計画的な輩出へつなげることができます。

 

階層別研修と選抜研修の組み合わせ例

図1:階層別研修と選抜研修の組み合わせ例

 

階層別研修と選抜研修の目的の違いを押さえたうえで、それぞれの研修を機能させるための大切なポイントを3つお伝えします。「研修の目的を受講者に伝える」「研修の目的は時代に合わせて進化させる」「研修の目的設定の前にありたい組織・人材像を考える」です。それぞれを見ていきましょう。

 

階層別研修は「業務との関連性」、選抜研修は「なぜ自分か」を受講者に伝える

研修の目的を受講者に明確に伝えることはとても大切です。たとえば中堅への階層別研修の目的であれば必要なリーダーシップを強化する、選抜課長研修の目的であれば必要なマネジメント力を強化するなどでしょう。人事部は強い想い・意図で企画しているため、これらの目的を明確に把握しています。しかし、受講者側は目的を把握できていないものです。受講者が研修の目的を理解することは、研修効果を高めるためにも必要です。

 

階層別研修の目的を伝える際は、「業務との関連性」を明確に打ち出しましょう。階層別研修は全員が対象となるため、義務感が出て受身の姿勢になりやすい研修です。そのため、自分に何のメリットがあるのか? どう仕事に活きるのか? など、業務との関連性を受講者が把握すると、前向きに参加しやすくなります。目的の伝え方は、メールでの一括案内が現実的です。しかし、受講者が受身になりやすい特性を考えると、できれば直属の上司から目的を伝えてもらうことが望ましいでしょう。

 

選抜研修では、「なぜ自分か」を伝えるようにしましょう。選抜研修は全員が対象にならないからこそ、どういう選定基準か? 自分に何が期待されているのか? という選抜の意図を明確に伝えます。研修が始まる前段階で期待・熱量を正しく伝え、選ばれた理由を受講者が明確に認識することで、研修へのコミットが変わります。所属の事業部・本部等の責任者、もしくは人事部の責任者など、適切な立場の方から直接伝えてもらうことが有効です。一方で、無用な選民意識を持たせないことも必要です。伝え方には十分注意しましょう。

 

階層別研修も選抜研修も時代に合わせて目的を進化させていく

研修の目的は一度決めたら終わりでなく、変化・進化させていく必要があります。研修の目的が変化していった事例として、筆者が担当しているメーカーA社をご紹介します。A社では、階層別教育の位置づけを「なってから」研修から「なる前」研修へ変えていきました。位置づけが変わった理由は、経営環境と人事制度です。

 

変わる経営環境
A社は、人口減少により縮小する国内市場を背景に、グローバル展開を加速させています。また、新しい事業・サービスの立ち上げや企業買収など、急激に経営環境が変化しています。このような状況で大事なことは、環境変化に遅れない適応力です。そのため、「なってから」研修では経営環境の変化に遅れてしまう恐れが出てきました。課長になったら即、課長としての役割を全うして成果を出せないと、変化へ適応しきれなくなってしまったのです。

変わらない人事制度
A社は伝統的な日本の大企業であり、年功序列が色濃く根付いています。そのため、いくら選抜研修を設けて優秀層の教育を行っても、その受講者が必ずしも昇格できるわけではありません。実際、選抜研修を受けていない人が年功序列で昇格をしていました。そのため、階層別研修と選抜研修を連動できず、必要な教育を受けずに課長になったり、課長昇格後に成果を出すまで時間がかかったり、という流れができてしまったのです。

 

変わる経営環境・変わらない人事制度の2つを踏まえ、スピード感を持って成果を出し続けることが求められます。そのため、階層別研修を「なる前教育」へ変えていく必要があったのです。このように、その時々で研修の目的は変わっていくため、まずはその認識をしっかりと持ち、進化させていく姿勢が大切です。

研修の変化という点では、受講者全員に一律で同じ内容の研修を提供する、という旧来のスタイルに無理が生じている点にも留意ください。これは階層別研修・選抜研修の両方に言えることです。理由は、社員個々人の経験や持っているスキル・マインドの同質性が低くなってきたためです。背景には中途採用の増加、企業における事業・機能の複雑化、副業やボランティアなど実務経験の多様化などがあります。何をどのタイミングで学ぶかを一律で定めるのではなく、個々人に合った教育を行う「個別化」の動きが広がっています。

 

研修の目的設定の前にありたい組織・人材像を考える 

研修の目的はどのように設定すればよいのでしょうか? それは「ありたい組織・人材像」次第です。研修は、ありたい組織・人材を作るための手段です。そのため、研修で実現したい組織・人材像というゴールがないと、研修の目的を定めることはできません。どういう企業・組織でありたいか、そこで働く社員はどうあってほしいかを考えてみましょう。

 

ありたい組織・人材像は企業の経営戦略・事業戦略によって変わります。つまりは、会社を取り巻く経営環境が変われば、戦略が変わり、そこで求められる組織・人材像、ひいては研修のあり方も変わるものです。組織は戦略に従うという言葉の通りです。

 

アドバイスとして、必ずしも経営環境などの上流から考える必要はなく、ありたい組織・人材像から考えていただいて問題ありません。人事部の皆さまにとっては、経営戦略・事業戦略よりも、ありたい組織・人材像の方が考えやすいでしょう。注意点として、「組織・人材像の策定→これは今の経営環境に合っているか?」という整合性を必ずチェックしてください。ありがちなミスは、「組織・人材像の策定→これを叶える教育手法は?」といきなり具体的な手法を検討してしまうことです。図2に、課題の特定から研修カリキュラムの策定までの流れを示しました。上流から下流まで整合性が保てているか、丁寧に確認していきましょう。

 

研修カリキュラム策定のプロセス

図2:研修カリキュラム策定のプロセス

 

研修の目的から中身まで設計することは、非常に大変なことです。複数の研修の連動・組み合わせまで考えると、複雑性はより増します。そのため、一度設計した研修は変えたくない・変えにくいというご意見もよくわかります。しかしそれでは、企業は環境変化に適応できなくなってしまうでしょう。不確実性の増すVUCA(Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(不透明))の時代では、教育手法・研修の見直しを柔軟に行う勇気と実行力が求められています。

 

最後に

本コラムでは階層別研修と選抜研修の目的について取り上げ、目的の考え方や受講生への伝え方、変化の必要性などを解説してきました。階層別研修と選抜研修の目的には答えがあるわけではありません。だからこそ、目的の設計だけで満足せず、ありたい組織・人材像起点で目的を進化させ、丁寧に受講者に伝える努力を続けていきましょう。


人材育成コラム・資料ダウンロードページ

▼コラム一覧▼
人材育成コラム
▼資料ダウンロード▼
人材育成資料ダウンロード

執筆者プロフィール
杉橋 諒輔 | Ryosuke Sugihashi
杉橋 諒輔

早稲田大学社会科学部卒業。グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA)修了。
大手金融サービス会社にて、企業の経費精算業務・コスト削減を支援する法人営業や、営業本部・全社の企画業務に従事。その後グロービスに入社し、スクール部門のチームリーダーとして企画・運営全般に携わる。現在は法人営業部門にて、様々な業界・企業に対し、研修講師および人材育成・組織開発のコンサルティング業務を担う。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

コラム/レポート