特長

グロービスの人材育成の考え方~研修体系をつくる前に押さえたいこと~

お客様から「人材育成施策の見直し」に関するご相談をよくいただきます。このお悩みを解決するための、人材育成の考え方を解説します。

グロービスが考える人材育成とは、経営戦略を実現するために、必要な人材を計画的に育てる取り組みです。私たちは「どのような研修を実施するか(研修手法)」を選ぶ前に、「何のために、どのような人材を育てるのか」を定め、一貫した研修体系として組み立てることを大切にしています。

【このページでわかること】

  • グロービスの人材育成の考え方
  • 人材育成で成果を出す企業に共通する考え方と、2社の成功事例
  • 人材育成を考える際につまずきやすい難所とその対策

私たちがご相談いただくお悩みで多いのは、人材育成施策の見直しです。中でも「施策を行っているが、会社の成長に寄与しているかわからない」「そもそも何を目指して育成すればいいのか、前提から整理し直したい」といったお声をよく伺います。

こうしたお悩みの多くは、研修手法ではなく、その前段にある「考え方」を整えることで解決の糸口が見えてきます。
本記事では、私たちが年間3,600社の企業に伴走する中で見えてきた、成果につながる人材育成の考え方をお伝えします。

人材育成の起点となる「経営戦略」の理解

人材育成で成果を出すための第一歩は、自社の「経営戦略」を深く理解し、そこを起点に育成施策を組み立てることです。なぜなら、人材育成はそれ自体が目的ではなく、経営戦略を実現するための手段の一つだからです。そもそも人材育成とは、社員一人ひとりの知識・スキル・行動を、経営戦略の実現に必要な水準まで計画的に引き上げる取り組みです。単なる「社員の能力を伸ばす活動」ではなく、経営戦略を実現するための「人」という経営資源への投資と捉えることで、初めて何にどれだけ投じるべきかの判断基準が生まれます。

自社で現在実施している研修が経営戦略のどこに結びついているか、即座に説明できる人事担当者は多くありません。実際には「毎年の恒例行事だから」「他社もやっているから」という理由だけで続けられ、形骸化している研修が少なくないのが実情です。

グロービスが人材育成を考える際に大切にしているのは、「経営戦略の理解→必要な人材像の定義→育成施策の実施」という順序です。自社が目指す方向性と、それを実現するために必要な人材像を明確に定義することで、一つひとつの施策が「何のためのものか」を説明できるようになります。

例えば、同じ「管理職向けの研修」であっても、経営戦略によって育てたい人材像は変わります。新規事業による成長を目指す企業と、既存事業の生産性・品質向上を極めたい企業とでは、管理職に期待する行動やスキルは異なるでしょう。経営戦略を起点に考えることで、自社にとって本当に必要な育成の姿が見えてきます。

さらに、この順序で考えることにはもう一つの利点があります。それは、経営層や関連部門からの合意・協力を得やすくなることです。「この施策が経営目標の達成にどう貢献するのか」を筋道立てて示せるため、組織全体を巻き込んで人材育成に取り組めます。

こうして経営戦略から施策までを一貫して組み立てたものが、グロービスの考える研修体系です。
なお、この研修体系を実際につくり上げていく手順を、私たちは実践的な「7つのステップ」として整理しています。まずは全体像を押さえておきましょう。

  1. 自社の経営戦略を深く理解する
  2. 人材の現状を把握する 
  3. 人材ポートフォリオを作成する 
  4. 人材育成コンセプト(テーマ)を設定する 
  5. あるべき人材像(人材要件)を定義する 
  6. 人材育成プログラムの企画・施策を行う 
  7. 人材育成プログラムの効果測定を実施する
よくある人材育成の進め方(5ステップ)と、より実践的な進め方(7ステップ)を比較した図。実践的な進め方では、自社の経営戦略の理解と人材の現状把握を起点に据え、その後の工程もより具体的にすることで、戦略とターゲットを一貫させる構成になっている。

各ステップの具体的な進め方や運用のポイントについては、解説記事「実践的な人材育成の進め方|7つのステップと成功のポイントを解説」で詳しくご紹介しています。あわせてご参照ください。

では、この順序で育成施策を考え、実際に成果につなげた企業では何が起きているのでしょうか。ここからは2社の事例を見ていきましょう。

経営戦略を起点に人材育成を考え、成果につなげた企業事例2選

ここからは、実際に経営戦略を起点に育成施策を考え、成果につなげた2社の事例をご紹介します。両社に共通するのは、研修の手法を先に決めるのではなく、「自社の戦略を実現するために、どのような人材が必要か」という問いから育成を組み立てた点です。

クボタ様:全社戦略の実現に向け、「事業に資する人事」への変革に挑む

クボタ様:全社戦略の実現に向け、「事業に資する人事」への変革に挑む

経営の転換期を迎えた株式会社クボタ様は、新たな戦略を実行できる組織づくりと人材育成を喫緊の課題と捉えていました。全社戦略・事業戦略の実現に向けて、人事も従来の管理業務が中心の役割から、事業部のパートナーとして人事戦略を描く「事業に資する人事」へと変わる必要がある——。こうした課題意識から、戦略人事を育成する取り組みが始まりました。
特徴的なのは、自社にとっての戦略人事の定義をあえて固定せず、受講者自身が「戦略人事とは何か」を問い続ける研修を設計された点です。受講者のみならず人事部門全体から関心が寄せられ、部門全体の共通言語が形成されつつあります。

導入前の課題
  • 経営の転換期を迎え、新たな戦略の実現に向けた「事業に資する人事」への転換が必要だった
  • 戦略人事の必要性を認識しつつも、クボタにおける戦略人事の定義や取るべき行動の言語化ができていなかった

研修内容
  • 経営環境をふまえて人事戦略を描けるよう視座を上げること、および戦略人事としての自覚を持つことをゴールとした
  • 受講者は公募制で集め、意欲と自主性を持った人事パーソンが参加した
  • 研修後の行動変容につながるよう、セッションの場で学ぶだけでなく、事業部へのヒアリングや、上司に対する提案を研修の一環として実施した

成果・効果
  • 受講者から、経営から現場までの「縦」の繋がり、人事機能同士の「横」の繋がりを考えることを意識できるようになったという声が挙がった
  • 人事パーソンが自ら率先して行動し、変えていく気概が高まった
  • 部門や拠点を越えた人事パーソン同士の関係性を構築できた
  • 最終発表会の視聴希望者が110名以上集まり、戦略人事の取り組みに対する人事部門全体の関心の高さがうかがえた
  • 2期以降の企画も始まり、継続的な戦略人事育成の取り組みに繋がっている

※インタビュー全文はこちらから:「クボタらしい戦略人事」を自ら描く。問い続ける文化で未来の競争力を育む

イズミ様:長期ビジョンの実現に向け、人材要件を根本から見直す

イズミ様:長期ビジョンの実現に向け、人材要件を根本から見直す

「2035年長期ビジョン」の実現に向けて、スーパーマーケット事業の規模拡大や多角的な事業展開など、非連続な成長を目指す株式会社イズミ様。変革をけん引する経営人材を育てるべく、同社がまず取り組んだのは、求める人材要件を根本から見直すことでした。これまで重視してきた業務知識や遂行能力に加え、固定観念や過去の成功体験に縛られず、未来に成果を出せる「経営者の視点」を、新たに求めることにしたのです。
そうした要件を満たす人材を計画的に育てるため、企業内大学「イズミ大学」を創設。これまでに100名以上の経営人材候補を輩出しています。

導入前の課題
  • 単年度の経営方針を着実に実行する力に長けている一方、組織の縦割り意識を排し、中長期視点で全社を俯瞰しながら、自ら考え変革していける経営人材の育成ができていなかった
  • 経営人材を組織的に育てる仕組みの検討が不十分で、リーダー育成が個人の資質や努力に委ねられていた

研修内容
  • 2年間で経営の基礎スキル習得からアクションラーニングまでを行う企業内大学「イズミ大学」を創設した
  • 社内セッションや他流試合、動画学習などを組み合わせ、多角的な視点と学ぶ習慣を醸成した
  • 経営陣が次世代リーダー育成にコミットし、1on1や最終発表に関わる伴走体制を構築した

成果・効果
  • 卒業生が100名を超え、「5年間で経営人材候補100名輩出」という目標を前倒しで達成した
  • 部長級以上の52%を企業内大学の卒業生が占め、副社長や執行役員などの経営層も輩出している
  • 経営視点が養われ、顧客視点での思考や発言が現場に浸透しつつある

※インタビュー全文はこちらから:部長級以上の52%が卒業生に。経営人材を計画的に輩出する企業内大学

グロービスのワンポイントレッスン:人材要件は「氷山モデル」で描く


イズミ様のように「どのような人材を求めるのか」を考えるときに役立つのが「氷山モデル」というフレームワークです。
以下の図のように「行動」「知識・スキル」「マインド」の3つの枠組みで整理すると、より具体的で再現性のある人材像を描けます。

氷山モデルを示した図。人の能力を氷山にたとえ、水面上に見える「行動」を、水面下の「知識・スキル」「マインド」が支える構造で表している。行動は客観的に認識できる一方、それを支える知識・スキル・マインドは認識しにくいことを示している。

3つの枠組みの中でも、特に重視すべきは「行動」です。期待される役割を実際に果たし、最終的に戦略を形にするのは行動だからです。
以下のように分解していくことで、自社の戦略に直結した人材要件を描けます。

  • 戦略の実現にあたり、求められる行動は何か
  • その行動を支えるために、どのような知識・スキルやマインドが必要か

なお、実際に定義する際には、言葉遣いを工夫するなどして「自社らしさ」を表すことも意識しましょう。それにより、社内の誰もが「こういう人材を目指すのだ」と具体的にイメージできるようになります。

人材育成を考える際につまずきやすいケースと対策

ここでは、人材育成を考える際につまずきやすい5つのケースと、その対策をご紹介します。育成に着手する前に押さえておけば遠回りを避けられますし、既に取り組んでいて課題を感じている場合は、原因を見つける手がかりになるかもしれません。自社に当てはまるものがないか、確認してみてください。

人材育成を考える際につまずきやすいケース
1. 研修の内容や手法から考えてしまう

2. 経営戦略を「理解したつもり」になっている

3. 求める人材像の「行動」まで描けていない

4. 経営層・事業部門を巻き込めていない

5. 研修だけで人が変わると期待してしまう

研修の内容や手法から考えてしまう

1つ目の落とし穴は、研修の内容や手法から考え始めてしまうことです。

  • どのようなテーマで研修を行うか
  • 研修手法は集合研修かeラーニング、どちらにするか

こうした問いは具体的で着手しやすい分、つい最初の検討事項になりがちです。

しかし、テーマも手法も、本来は「どのような人材を育てたいか」が決まって初めて選べるものです。それが曖昧なまま進めると、研修を実施すること自体がゴールにすり替わってしまいます。
「どのような人材を育てたいか」は、突き詰めれば「自社が何を目指すのか」——すなわち経営戦略に行き着きます。目指す姿が変われば、必要な人材像も変わるからです。だからこそ、研修の設計は経営戦略の理解から始めることが大切です。

検討している研修について、「これは自社の戦略とどうつながるのか」を一言で説明できるかどうか。それが、内容や手法ありきで考えていないかを見分ける目安になります。

経営戦略を「理解したつもり」になっている

2つ目は、経営戦略を「理解したつもり」のまま育成の検討を進めてしまうことです。
前述した「研修の内容や手法から考えてしまう」が戦略理解を飛ばしてしまうケースだとすれば、こちらは戦略理解が浅いまま進めてしまうケースです。一見きちんと戦略をふまえているように見える分、より気づきにくい落とし穴です。

例えば、次のような状態が当てはまります。

  • 経営戦略には目を通したが、「その実現のためにどのような人材が必要か」までは具体的に考えられていない
  • 「DX人材の育成」といった経営戦略で使われている言葉を、そのまま育成方針として掲げてしまっている

大切なのは、経営戦略を「わかった」で終わらせず、そこから必要な人材像を導き出すことです。それを行わないと、育成施策は戦略と切り離されたものになってしまいます。

自社の育成方針について、経営戦略の言葉をなぞるだけで止まっていないか。経営戦略を起点に「だからこそ、こういう人材が必要だ」と自分の言葉で説明できるか。ここが、戦略を理解したつもりになっていないかを見分ける目安になります。

求める人材像の「行動」まで描けていない

3つ目は、育てたい人材について「どのようなスキルを身に付けてほしいか」は定義できていても、「現場でどのような行動を取ってほしいか」までは具体化できていないケースです。

例えば「リーダーシップを身に付けてほしい」と言っても、人によって思い浮かべる姿は異なります。ある人は「先頭に立って引っ張る姿」を、ある人は「周囲の意見を引き出してまとめる姿」を想像するかもしれません。行動のイメージが揃っていないと、研修で何を扱うべきかも定まりません。
そのため、人材育成を考える際は「育成対象者にはどのような行動を取ってもらいたいのか」を具体的に描くことが大切です。それによって、その行動を支えるために必要なスキルも自ずと見えてきます。

先ほど例に挙げた「リーダーシップ」では、例えば以下のように考えます。

求める行動(抽象的な表現)求める行動(具体化した表現)行動を支えるために必要なスキル
先頭に立って引っ張る不確実な状況でも進むべき方向を決め、判断の理由を自分の言葉で語る・ビジョンやゴールを設定する力
・関係者に共感と納得感を醸成する力
周囲の意見を引き出してまとめる立場の異なるメンバーから意見を引き出し、合意点を見つける・メンバーの意欲・能力を引き出す対話力
・周囲を巻き込む影響力

このように、具体的な行動を描いて初めて、どのような学びの機会が必要かが見えてきます。

経営層・事業部門を巻き込めていない

4つ目は、人事・育成部門だけで検討を進めてしまい、経営層や事業部門を巻き込めていないことです。

  • 人事部門だけで育成方針を固め、事業部門には「決定事項」として通達している
  • 経営層に施策の承認は取ったものの、その後の具体的な進め方や現場への落とし込みには関与してもらえていない

こうした状態では、よかれと思って企画した育成施策が、関係者の協力を得られず、形だけのものになりかねません。研修は実施したものの、現場では活かされず、成果につながらないまま終わってしまうという状態です。

経営層の協力は、育成に必要な予算や時間を確保し、全社の取り組みとして推進していくうえで欠かせません。一方、事業部門の協力は、受講者を快く研修に送り出し、学んだことを現場で実践する後押しをしてもらうために不可欠です。どちらが欠けても、育成は途中で失速してしまいます。
だからこそ、「この施策が経営目標の達成にどう貢献するのか」を早い段階で説明し、理解・合意を得ることが大切です。

研修だけで人が変わると期待してしまう

5つ目は、研修さえ実施すれば人は育つ、と過度に期待してしまうケースです。研修は学びの入口として大切ですが、それだけで行動が変わるわけではありません。
米国のリーダーシップ研究の調査機関ロミンガー社が実施した調査によると、人の成長には3つの要素が関係するとされています。

  • 70%:経験(実務によって身についた知識やスキル)
  • 20%:薫陶(上司や先輩からの指導)
  • 10%:研修(研修や読書、eラーニングなどから得たスキル)

この割合を見ると、研修が人の成長に占める部分は1割ほどで、残りの9割は経験と薫陶が支えていることがわかります。ただし、経験や薫陶の比重を増やせば自動的に人が育つわけではありません。「指導をしているのに、部下がなかなか成長しない」という声もよく耳にしますが、その多くは、指導する上司自身が「どのような行動を期待しているか」を具体的に示せていないことに原因があります。求める人材像の行動が明確になって初めて、経験や薫陶も効果を発揮します。
だからこそ、研修を「単発のイベント」(点)で終わらせない前提で設計することが大切です。事前課題を設定する、研修で学んだ内容を実務で実践する機会を設ける、上司が定期的にフィードバックを行うなど、研修前後を含めた一体の施策(線)として考えることが不可欠です。

こうした考え方をふまえて、まず何から始めればよいでしょうか。
おすすめしたいのは、現在自社で実施している育成施策や研修を一つ選び、「これは自社の経営戦略のどこに、どう貢献しているか」を、資料や口頭で一言で説明できるかを試してみることです。

もし説明に詰まる、あるいは説明が抽象的になってしまう場合は、それこそが経営戦略の理解や人材像の定義が不十分であるサインです。
このチェックを通じて自社の課題の所在が見えてきたら、次は「実践的な人材育成の進め方|7つのステップと成功のポイントを解説」で、具体的な設計・実行のステップに進んでいただくとスムーズです。

まとめ

人材育成で成果を出すうえで大切なのは、テーマや手法から考え始めるのではなく、経営戦略を起点に「どのような人材を求めるのか」から描くことです。これから育成に取り組む場合も、既に取り組んでいて課題を感じている場合も、この考え方が軸になります。
なお、一度描いた人材像も、経営戦略が変われば見直しが必要です。過去に定めた人材要件や研修体系をそのまま使い続けず、戦略の変化に合わせて育成のあり方を問い直していくことが大切です。

とはいえ、こうした一連の設計を社内だけで進めるのは、多くの企業にとって負荷の大きい取り組みです。グロービスでは、年間3,600社(2026年4月現在)以上の人材育成支援の知見をもとに、貴社の経営戦略や組織課題に合わせた、最適な人材育成プログラムをご提案します。
現状の施策に不安や課題を感じられている方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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