公開日

マネジメントとは?意味と6つの課題、AI時代に必要な力を解説

テーマ
  • リーダーシップ
  • 人材育成
  • 研修企画
  • 組織開発
監修者
  • 上山 紗緒里のプロフィール

    上山 紗緒里

    BtoBマーケティング部門 ディレクター

マネジメントとは本来、組織の資源を最適化し、成果を生み出し続ける付加価値の高い専門職です。

「マネジメントは、部下の機嫌を取りながら進捗を管理する大変な仕事だ」
「マネジメントの責任の大きさに見合うメリットは、それほど多くないのではないか」

もし、あなたがそのようなイメージをお持ちなら、それはマネジメントの一面にすぎません。

その本質的な役割は、経営層の戦略を実行するために組織を整え、組織を動かすために人を育てることです。プレイヤーとして培ってきた専門性を手放すのではなく、自分のスキルを組織全体にレバレッジしていく仕事だと言えます。

本記事では、これからマネジメントを志す方に向けて、具体的な業務や必要なスキル、つまずきやすい課題とその乗り越え方までを体系的に解説していきます。

この記事でわかること

1.マネジメントとは?意味や定義をわかりやすく解説

マネジメントとは、ヒト・モノ・カネといった経営資源を活かし、組織が目標達成のために成果を上げ続ける仕組みづくりを意味します。単なる業務管理や人の管理の延長ではありません。

マネジメント職に就くことは、プレイヤーとしての成功体験を手放し、現場で培った専門性を活かしながら、人や仕組みを通じて組織として成果を出す役割へと転換することです。そして、このマネジメントの実行には、リーダーシップが欠かせません。

まずはマネジメントの意味を改めて整理しながら、なぜリーダーシップが必要になるのかを見ていきましょう。

1-1.マネジメントの意味は「組織の成果を最大化すること」

マネジメントの意味は、人や組織の能力・可能性を引き出し、成果を生み出し続ける仕組みを構築することです。

この概念を体系化したのが、経営学者ピーター・ドラッカーです。ドラッカーは、マネジメントを「組織に成果をあげさせるための道具、機能、機関」と定義しました(※)。
(※ピーター・ドラッカー、『マネジメント<上>課題・責任・実践』、ダイヤモンド社、1974年)

マネジメントは、現代では一般的に「経営資源を最適化して成果を出すこと」とされていますが、その本質は、現状維持を目的とした「管理」とは大きく異なります。

「管理」が決められた業務を滞りなく回す静的な仕事だとすれば、「マネジメント」は環境変化に応じて目標達成のための仕組みを動的に組み替えていく営みです。

マネジメント管理
目的組織として成果を生み出し続ける状態をつくる決められた業務を滞りなく遂行する
焦点人や組織の能力と可能性業務の正確性と効率
アプローチ方法戦略の翻訳、仕組み設計、人材の活用と意欲喚起を含む進捗確認、ルール遵守、業務統制が中心

参考コラム:管理職が担うマネジメントとは?必要なスキルと育成方法

こうしたマネジメントの意味を実現するために管理職が果たす役割は、昨今の環境変化に応じて高度化・多様化しています。(※役割については『マネジメントで重要な3つの役割と具体的な業務内容』をご覧ください)

1-2.マネジメントにリーダーシップが不可欠である理由

マネジメントの実行においてリーダーシップが不可欠なのは、どれほど緻密で論理的に正しい戦略を描いても、周囲の心を動かし巻き込む力がなければ優れた実行には至らないためです。その背景には、論理的な正しさだけでは人は能動的に動かないという組織の現実があります。

マネジメントとリーダーシップは混同されがちですが、機能としては明確に異なります。

・マネジメントは、仕組みやプロセスを構築・運用して成果を出す機能
・リーダーシップは、ビジョンを示し、目標達成に向けて周囲を巻き込み導く力

両者の違いを整理すると、次のようになります。

マネジメントとリーダーシップの違い

マネジメントリーダーシップ
機能・役割仕組みやプロセスを設計・運用し、組織として成果を出し続ける状態をつくる役割ビジョンを示し、目標達成に向けて周囲を巻き込み導く力
重視すること効率性、安定性、再現性変化、挑戦、人の動機
時間軸現在の業務を確実に回す(短期〜中期)未来の方向性を示す(中長期)
アプローチ仕組み・プロセスで人を動かす人の心を直接動かす

リーダーシップのないマネジメントは、既存の枠組みの維持に終始し、変化への適応ができず組織を停滞させてしまいます。一方で、マネジメントのないリーダーシップは、掲げたビジョンを実行プロセスに落とし込めず、単なる空論で終わります。

正しい戦略を描くマネジメント力があっても、周囲を動かすリーダーシップがなければ組織は動きません。

現代の管理職に求められるのは、状況に応じて両者のバランスを最適化しながら成果を創り出すことです。リーダーシップを具体的にどう磨くかについては、後述の「人を巻き込む力(リーダーシップ)」で深掘りしていきます。

2.マネジメントで重要な3つの役割と具体的な業務内容

マネジメントの本質的な役割は、「戦略実行」「組織運営」「人材育成」の3つを通じて、組織として成果を出し続ける状態をつくることです。

この3つは独立しているのではなく、相互に補完し合う関係にあります。経営層の戦略を実行するために組織を整え、組織を動かすために人を育てる、という循環です。3つの役割がかみ合ってこそ、組織は持続的に成果を出せます。

マネジメントの3つの役割の関係を示した図。経営の意図を現場に翻訳する「戦略実行」、自律型人材へと導く「人材育成」、仕組みと環境を整える「組織運営」が循環し、組織として成果を出し続ける構造を表す。

では、「戦略実行」「組織運営」「人材育成」を果たすために、管理職は具体的にどのような業務に向き合うのでしょうか。次の表に役割と業務の対応関係を整理しました。

マネジメントの役割と具体的な業務内容

役割概要
具体的な業務
戦略実行経営層の方針・戦略を理解し、現場のアクションプランに落とし込み、浸透させる意思決定/経営目標のブレイクダウン/自部署のKPI設計/アクションプラン作成
組織運営チーム全体が円滑に機能し、個人の力の合計以上の成果が出る状態をつくる進捗管理とリソース調整/環境整備とリスク管理
人材育成メンバーの能力を開発し、自ら問いを立てて動く自律型人材へと導く目標設定とフィードバック/対話とコーチング/キャリア・学習支援

3つの役割と、具体的な業務内容を確認していきましょう。

組織の目標を達成するための道筋と判断を示す「戦略実行」
成果の最大化のために仕組みと環境をつくる「組織運営」
メンバーの成長を支援する「人材育成」

2-1.組織の目標を達成するための道筋と判断を示す「戦略実行」

マネジメントの重要な役割のひとつが経営層の戦略を現場のアクションに落とし込む戦略実行です。管理職は経営の方針や戦略を深く理解し、現場が動ける具体的なプランへと変換して浸透させる、いわば「翻訳者」としての役割を指します。

管理職が戦略を具体的な業務に翻訳することを怠る、あるいは正しく計画に落とし込めなければ、メンバーは何をすべきか混乱し、組織の力は分散してしまいます。経営の意図と現場の動きをつなぐことが、目標達成のための起点になるのです。

翻訳者としての営みは、目標の数字を機械的に分解するだけでは足りません。経営方針の背景にある意図を、自身の言葉でストーリーとして伝えてはじめて、メンバーの納得感と主体的行動を引き出せます。

たとえば、経営目標をメンバーに伝えるとき、次のように語ることが翻訳の実践と言えます。
×「今期の売上目標は前年比120%です。」
「今期の売上目標は前年比120%です。競合他社がAIを活用した新たな顧客接点づくりに動いている今、私たちがこの目標を達成することが、会社全体の『データ駆動型ビジネスへの変革』につながります。」

戦略実行の業務は、下の表のように整理できます。中核になるのが、想定外の状況下で判断を行う「意思決定」です。そして、決めた方針を現場のアクションへと変換するために、プランニングの3つの業務があります。

業務の詳細

業務内容詳細
業務例
意思決定・計画通りに進まない状況で、何を優先するかをチームに示す判断力。管理職がこの判断を適切に行うことで、メンバーは迷わず動ける
・想定外の状況が生じたとき、経営の定石(ヒト・モノ・カネの体系知識)に基づきながら自部門として何を優先するかを判断し、チームに示していく
重要案件の優先順位判断、想定外事案への対応方針決定など
経営目標のブレイクダウン・経営目標を自部門の目標に落とし込む
・数字を分解するだけでなく、経営方針の背景にある意図を自身の言葉でストーリーとしてメンバーに伝え、納得感と主体的行動を引き出す
経営方針の翻訳、部門ビジョンの策定など
自部署のKPI設計・自部署の目標を達成するための指標を設定する
・ただし全社戦略と整合しているかを常に確認し、部分最適に陥らないようにする
部門KPIの設計、全社戦略との接続確認
アクションプランの作成KPIに基づき、誰がいつまでに何をするかを策定する誰が・いつまでに・何を、の落とし込み

2-2.成果の最大化のために仕組みと環境をつくる「組織運営」

マネジメントの2つ目の役割が組織運営です。チーム全体が円滑に機能し、個人の力の合計以上の成果が出る状態をつくる、「設計者」としての役割を指します。

組織運営は、業務の進捗管理だけにとどまりません。ボトルネックを排除することや、メンバーが安心して働ける環境づくりまで含めた、組織のインフラ全体を整えることが求められます。

ここで注意すべきなのが、「自分でやったほうが早い」というプレイヤー時代の思考です。この感覚から抜け出せないと、管理職自身が組織のボトルネックになり、チームの成長を止めてしまいます。

特に重要なのは、個人の頑張りに依存せず、仕組みで成果を出す再現性をつくることです。属人性をなくし、常に一定のパフォーマンスを維持するために、進捗管理の型、評価制度、コミュニケーションのルールなどを整えていきます。チームの行動規範を言語化して共有し、短いサイクルで対話と改善を繰り返すことが、心理的安全性の基盤にもなります。

組織運営でもう一つ欠かせないのが、自部門の枠にとらわれず、組織全体の流れを意識することです。他部門との連携やリソースの配分、判断スピードなどを、自部門を超えた視点で調整し、部分最適ではなく組織全体としての成果につなげていきます。

組織運営の具体的な業務内容を、下の表にまとめました。

業務の詳細

業務内容詳細業務例
進捗管理とリソース調整現場で起きている問題を早期に発見し、目標達成の障害を一つずつ取り除いていく交通整理を行う定期的な進捗確認、ボトルネック(停滞原因)の解消、他部署との調整、予算・人員の最適配置など  
環境整備とリスク管理メンバーが安心して高いパフォーマンスを発揮できるよう、組織のインフラを整える心理的安全性の醸成、評価制度の適切な運用、ハラスメント・メンタルヘルスのチェック、コンプライアンスの徹底

2-3.メンバーの成長を支援する「人材育成」

人材育成は、マネジメントの3つの役割のなかで特に難易度が高い仕事です。「成長の伴走者」として、指示を待つ状態のメンバーを、自ら問いを立てて課題に向き合う自律型人材へと導く役割を担います。

自律型人材に育てるためには、メンバーに仕事をただ任せるだけでは不十分です。100の能力の人に100の仕事を与えても、成長は生まれません。配慮から難易度の低い仕事ばかりを与え続けると、メンバーは成長できず、管理職自身も正当な評価ができない状況を招きます。

現在の能力より、やや背伸びを要するストレッチ目標を意図的に設定し、実行支援と評価・フィードバックのサイクルを回すことで個人の能力が段階的に引き上げられます。この営みが組織全体の底上げにつながっていきます。

また、メンバーの中長期的なキャリアや学習を支援する役割もあります。価値観が多様化した現代では、メンバー個人の志と組織のビジョンを重ね合わせることが欠かせません。これによりメンバーのエンゲージメントと組織への定着が高まります。

人材育成で肝となるのは、プレイヤー時代の成功体験や正解をそのまま伝えるティーチングではなく、問いを通じてメンバー自身に気づきを促すコーチングへの転換です。このアプローチが、メンバーの自律を引き出します。

次の表で、業務内容を確認していきましょう。

業務の詳細

業務内容詳細具体例
目標設定とフィードバックメンバーの現在の能力よりややストレッチした目標を設定し、実行を支援しながら、ポジティブ・ネガティブ両面からフィードバックを行う目標設定面談、評価面談、半期/四半期レビュー
対話とコーチング定期的にメンバーと向き合い、正解を教えるのではなく問いを通じてメンバー自身に考えさせ、自律的な成長を促す1on1ミーティング、「なぜそう判断したの?」「どうすればうまくいくと思う?」といったコーチング的な問いかけ
キャリア・学習支援メンバーの中長期的なキャリア意向や学習ニーズを理解し、必要な機会や経験を意図的に提供するキャリア面談、研修への送り出し、ストレッチアサイン

「全て自分でやらないと不安」と抱えこむ管理職も、「あとはよろしく」と丸投げする管理職も、どちらもメンバーの成長を止めています。

人材育成で目指すのは、その間にある第三の道の「メンバーが自ら問いを立て、組織の目標に向けて主体的に動ける状態をつくる」ことです。目の前のメンバーの成長を支え続けることが、中長期的に組織全体の能力を底上げし、持続的な成長を支える人材層の厚みをつくります。

3.マネジメントで成果を出すための「志と3つのスキル」

マネジメントで成果を出すためには、全てのスキルの土台となる志(使命感)と、業務を実行する3つのスキルを発揮することが必要です。

スキルセットを支える志は、管理職の意思決定や行動の軸になります。志の上に考える力、経営の定石、人を巻き込む力という3つのスキルが積み上がることで、マネジメントが機能していきます。重要なのは、これらが相互に作用し合って高い成果につながるという点です。

正しい戦略を描く力(考える力・経営の定石)があっても、それを人に伝え動かせなければ実行されません。逆に人を巻き込む力、つまりリーダーシップだけでは、方向性が感覚頼りになります。3つのスキルが揃って初めて、再現性のある成果が生まれます。

マネジメントに必要な志と3つのスキルの関係図。自己を超えた使命感である「志」を置き、経営の定石・考える力・人を巻き込む力の3つが、志を支える構造を示す。

「志」「考える力」「人を巻き込む力」「経営の定石」は、マネジメントの普遍的な要素ですが、課長、部長、役員といったキャリアステップに応じて、磨くべき重点スキルは変わっていきます。

それぞれのスキルとキャリアステップごとに磨くべき要素を詳しく見ていきましょう。

3-1.全ての土台となる「志」

マネジメントでまず求められるのが、自分から組織へと視座を上げた「志」を持つことです。

志とは、「自分はこの組織・仕事を通じて、何を実現したいのか」という自己を超えた使命感のことです。スキルや経験を超えて人を動かし、困難な状況でも判断の拠り所となるのが、この志です。当事者意識はその志を行動に変えるエンジンですが、まず「何のために」という目的地を持つことが先にあります。

プレイヤー時代は、自分が成果を出すことに集中していれば役割を果たせましたが、管理職になると問いの次元が変わります。「自分が何をするか」から「この組織・チームを通じて何を実現するか」という問いに対し、自分なりの答えを持てているかどうかが、マネジメントの出発点です。もしまだ答えが出ていなくても構いません。大切なのは、その問いを持ち続けることです。

志を構成する具体的な要素と、今からできる習慣を表にまとめました。

具体的な要素詳細今からできること
使命感自分はこの組織・仕事を通じて何を実現したいかを問い続ける「なぜ自分はこの仕事をしているのか」を言葉にしてみる
自己変革力過去の成功体験・勘などに縛られず自らを変えていくこれまでの自分のやり方の前提を疑い、状況に応じて変化させていく
経営視点自部門の判断を経営の文脈に位置付けるこの数字や目標が組織全体のどこにつながっているのか考える

志は一朝一夕に身につくものではなく、日々の意思決定を通じて磨かれていきます。まず「自分はこの組織やチームを通じて、何を実現したいのか」と問いを立てることから始めましょう。

3-2.事象を構造的に整理し解決策を導く「考える力」

マネジメントで成果を出すために欠かせないスキルが、考える力です。これは筋道を立てて論理的に考え、本質的な原因を見極めて解決策を組み立てる一連の思考力のことです。

考える力がマネジメントに必要な理由は2つあります。

  • 市場や顧客のニーズが目まぐるしく変わる現代において、これまで通用してきたやり方が突然機能しなくなる場面が頻繁に生じるから
  • 経験を積むほど、「過去はこうだった」「いつもこうしてきた」という感覚的な判断のショートカットが生まれ、状況が変わったときには判断を誤るリスクが高まるから

考える力を磨くことでこうした無意識のクセに気づき、状況に応じた判断を可能にします。

具体的なスキルと、今からできることは次の通りです。

具体的なスキル詳細今からできること
論理思考力複雑な事象を構造的に整理し、筋道を立てて考える・結論から話す習慣をつける
・主張と「なぜそう言えるのか」という根拠をセットで考える
問題解決力本質的な課題を発見し、原因を特定して打ち手を導く業務中の違和感に対して「そもそも何が問題なのか(What)」「どこに問題の所在があるのか(Where)」「なぜ起きたのか(Why)」と問いを立てて分解する
意思決定力限られた情報のなかで軸を持って方向性を決める・判断の基準を事前に決めておく
・自分の判断について上司や他部署の人と対話し、「なぜその判断に至ったか」「他にどのような選択肢があったか」を振り返る

考える力を構成する論理思考力、問題解決力、意思決定力は、個別のスキルではなく一連の思考プロセスとして連動して機能します。これらは経験や勘ではなく、型を学ぶことで誰でも体系的に磨いていけるスキルです。

3-3.ヒト・モノ・カネの体系知識である「経営の定石」

マネジメントには、経営資源を扱うための体系的な知識である「経営の定石」も欠かせません。

経営の定石とは、先人たちの成功や失敗から導き出された、経営に関する問題を解決するための普遍的な型(知識やフレームワーク)です。これを理解しているかどうかで課題のとらえ方や意思決定の質・スピードに大きな差が生まれます。

経営の定石は、大きく「ヒト」「モノ」「カネ」の3つの経営資源の領域に分けられます。

経営の定石を構成するヒト・モノ・カネの3分野を示した図。ヒトは人材マネジメント・組織行動学、モノは経営戦略・マーケティング戦略、カネはアカウンティング・ファイナンスに対応する 。

それぞれのスキルと詳細、今日から実践できるアクションを表に整理しました。

スキル詳細今からできること
人材マネジメント・組織行動学人事や組織の仕組みの意図を理解し、メンバーの意欲と能力を最大限に引き出して組織を動かす・評価制度や人事の仕組みがどのような意図で設計されているのかを上司や人事担当者に確認する
・自部門のマネジメントへの活かし方を考える
経営戦略組織が経営計画・目標を達成するために必要な戦略・方針を立て、現場の業務に落とし込む・自社の経営計画やビジョンを読み込む
・自部門の目標や日々の自分の業務とどうつながっているかを自分の言葉で言語化する
マーケティング戦略顧客満足を軸に、「誰に・どのような価値を・どう提供するか」という売れる仕組みを考える・担当する事業や業務について、ターゲットになる社内外の顧客の本当のニーズと、自分たちが提供できる価値を整理する
アカウンティング・ファイナンス財務諸表から事業の実態を読み解き、数値を根拠とした客観的な意思決定や投資判断を行う・自部門の売上やコストなどの数値を把握する
・日々の業務が会社の利益や資本効率にどう影響しているか考える
・自部門・チームの施策からはコストに見合う成果が出ているのかを考える

経営の定石を学ぶ最大の意義は、個人の経験や勘のみに頼った属人的な判断から脱却することにあります。これらの定石(知識の型)を、前述の「考える力」と掛け合わせて活用することで、不確実な環境下でも迷わず、再現性のある判断ができます。

3-4.実践で鍛えていく「人を巻き込む力(リーダーシップ)」

マネジメントに必要な3つ目のスキルが、組織を引っ張り、人を動かして成果を出す「人を巻き込む力」、すなわちリーダーシップです。

マネジメントとリーダーシップは車の両輪です(※詳しくは『マネジメントにリーダーシップが不可欠である理由』の章をご覧ください)。ここでは管理職として、人を巻き込む力(リーダーシップ)をどう磨くかに絞って説明していきます。

リーダーシップは生まれ持った資質や抽象的な概念ではなく、複数の具体スキルの集合体です。一つひとつのスキルを意識的に高めることで、誰もがリーダーシップを発揮できるようになります。

リーダーシップを構成する主なスキルと、今からできることは次の通りです。

スキル詳細今からできること
コミュニケーション力ビジョンや方針を関係者にわかりやすく伝え、周囲を鼓舞する・メンバーに業務を依頼するときは「なぜ必要か(why)」と「目的は何か(what)」をセットで伝える練習をする
チームビルディング力多様なメンバーの心理的安全性を確保し、強みを活かして相乗効果を生み出し、協創できるチームをつくる・チームメンバーの強み・弱み・志向を書き出す
・誰と誰を組み合わせれば成果が出るかを考える
メンバー育成力メンバーへの共感と厳しさを両立し、期待を伝えながら成長を後押しする・相手の状況と期待することを整理してから臨む
・耳の痛い内容も、事実とともに率直にフィードバックする
モチベーション管理力メンバーの動機を引き出し、継続的な行動を促す・メンバーが「なぜこの仕事をしているか」を語れる状態にあるか確認する
・必要なら対話で意味づけを一緒に整理する

これらのスキルは、理論を学ぶだけでは身につきません。組織のなかで実際の関係性を築きながら、試行錯誤を通じて鍛えていくものです。

3-5.キャリアステップで変わる重点スキル

キャリアステップに応じて、重点的に磨くべきマネジメントのスキルは変わります。具体的には以下の通りです。

  • 課長クラスは直接マネジメントに関わるスキル
  • 部長クラスは間接マネジメントに関わるスキル
  • 経営層は統合的な意思決定に関わるスキル

各キャリアステップでどのようなマネジメントスキルが重視されるかを表に整理しました。

階層主な役割重点スキル
課長クラス・経営と現場をつなぐ結節点
・直接的な部下育成とチームビルディングを通じて、組織の目標達成を目指す。
・経営戦略を現場のアクションに落とし込む翻訳力
・メンバー一人ひとりと向き合うチームビルディング
・共感と厳しさを両立したフィードバック力
部長クラス・部門全体の統括 ・課長らを通じて組織を動かす立場
・直接指示から仕組み
・文化を通じた間接マネジメントへの移行が求められる
・全社最適の視点による中長期を見据えた事業構想力
・組織を動かす仕組みの設計力
・組織文化の醸成
経営層(役員)・組織の方向性を決定し、最終的な経営責任を負う
・短期利益と中長期投資など、対立する要素を統合して意思決定する立場
・不確実な状況下での高度な意思決定力
・矛盾を統合する力(短期vs中長期、利益vs社会性など)
・自己変容型知性(内省・変容)
・判断の拠り所となる揺るぎない志

部長、役員と階層が上がるにつれて、直接的な業務スキルから、抽象的・統合的な力へと重心が移っていきます。

ただし、3つのスキルの土台となる志は、階層を問わず一貫して必要です。むしろ階層が上がるほど、判断の拠り所になる志の重要性は高まっていきます。

志・考える力・経営の定石・人を巻き込む力は、管理職になってから身につけるものではありません。今この瞬間から学び、実践できるものです。管理職への扉を開くのは、そのような学びの積み重ねです。

4.マネジメントでよくある6つの課題と乗り越え方

マネジメントの課題の多くは、プレイヤー時代の成功体験を手放しきれないことや、管理職としての役割の定義不足から生じます。

これらは個人の資質の問題ではなく、自己流で挑むからこそ陥りがちな、構造的なつまずきです。裏を返せば体系的なスキルの習得とマインドセットの転換によって、確実に乗り越えていけるということです。

ここでは、新任管理職が直面しやすい6つの課題と、それぞれの乗り越え方を紹介していきます。

プレイヤー業務に追われてマネジメントに時間を割けない
他部門を巻き込んだ連携・調整ができない
経営戦略を現場のアクションに落とし込めない
メンバーの成長や自律を促す育成スキルが不足している
目標設定や評価が適切に行えず現状維持になってしまう
メンバーのエンゲージメント低下や離職を招いている

4-1.プレイヤー業務に追われてマネジメントに時間を割けない

新任管理職が最初にぶつかりやすい課題は、自身がプレイヤーとしての仕事を抱えこみすぎて、本来のマネジメントの役割である仕組みづくりやメンバーとの対話の時間が確保できないという点です。

実際に、次のような状況に陥る管理職は多いです。

  • マネジメント業務だけでなく自らも成果を出すプレイングマネージャーとしての役割が求められる。結果、プレイヤーとマネジメントの両立に追われ、効率的な業務運営やスピーディーな判断ができない
  • 「最後まで自分でやり切らなければならない」「完璧でなければならない」と思い込み、業務を一人で抱え込んでしまう。その結果メンバーに「任せてもらえない」という不満が蓄積する

この課題の乗り越え方は「自分でやったほうが早い」という意識を捨てて、メンバーへの適切な権限委譲を行うことです。

「自身からチームへ」という意識の転換には覚悟が必要です。多くの管理職は、プレイヤー時代の優秀さを評価され昇進しています。名プレイヤーであった人ほど、過去の成功体験を捨て、人や仕組みを通じて成果を出す役割へと切り替えることに時間がかかります。

しかし、この転換こそが、管理職としての成長の起点になります。管理職の役割は、個人ではなく組織として成果を生み出すことです。マネジメントに時間を割けていないのは、意識の問題ではなく優先順位の問題です。プレイヤー業務が目の前にある限り、意識だけでは変わりません。

マネジメントを管理職としての最優先業務として明示的に位置付け、スケジュールに先に確保することが、最初の一手です。

権限委譲を成功させるポイントは、業務の丸投げではなく目標と裁量をセットで渡すことです。

具体的には次の3ステップで進めます。

  1. 「この仕事で何を達成してほしいか」「期限はいつか」「品質の基準は何か」というゴールをメンバーと一緒に言語化する。
  2. 「どうやるか」の方法論はメンバー自身に考えさせる。管理職は途中経過を確認しながら、詰まったときだけ支援する。
  3. メンバーが失敗しても「任せた自分の責任」として受け止める覚悟を持つ。この姿勢がメンバーに「安心して挑戦できる」という感覚を生む。

メンバーに任せることは、管理職の負荷を下げるだけでなく、メンバーの自律的な成長を促す最大の育成機会でもあります。

4-2.他部門を巻き込んだ連携・調整ができない

新任管理職が直面しやすい課題のひとつが、他部門を巻き込んだ連携や調整がうまくいかないという点です。

管理職になると組織横断の調整役を担う場面が増えますが、自己流で挑むと全社視点を持てずに自部門の論理だけで話を進めてしまったり、相手を巻き込むための共通言語を持てずに合意形成が進まなかったりするケースが起こります。

これは個人の性格や資質の問題ではなく、組織横断の交渉・合意形成のスキルを体系的に学ぶ機会が少ないことから生じる、誰でもつまずきやすい課題です。また、そもそもの組織構造がサイロ化してしまっていることが原因の場合もあります。

具体的には次のような状況が起きがちです。

  • 会社から全社視点で変革を担うことが期待されるものの、影響力を発揮して他部門を巻き込むために必要な共通言語がなく、部門を越えた関係性が十分に構築できない
  • 自部門の部分最適で考えてしまい、全社的な視点で物事を俯瞰し他部門の協力を取り付けるために必要な「全社最適の視点」への切り替えが追いついていない

組織のサイロ化という構造や風土の問題をすぐに解決することは難しいでしょう。しかし、課題を乗り越えるために管理職自身ができる取り組みはあります。

具体的には、論理的思考力と、全社視点で交渉・合意形成を進めるコミュニケーション力を身につけることです。次のポイントを実践してみましょう。

  • 事前に経営目標と自部門の連携意義を整理し、相手部門に丁寧に説明する  
  • 相手の主張を構造化したメモを作り、根拠ある提案資料を準備する  
  • 合意の落とし所を複数パターン用意し、相手と一緒に最適解(価値創造)を模索する

他部門との交渉を、単なる自部門に有利な条件の取り合いではなく、双方にとって新たな価値を生み出す場としてとらえ直すことで、組織の壁を越えて成果を最大化する連携ができるようになります。

4-3.経営戦略を現場のアクションに落とし込めない

マネジメントの難所のひとつが、経営戦略を自部門のアクションへと翻訳できないという点です。

経営層が掲げる方針や戦略を自部門の目標に翻訳できず、ただ上位層の言葉をメンバーにそのまま伝えてしまうケースはしばしば起こりがちです。

その結果、現場のメンバーは「なぜ今、この業務が必要なのか」という目的や背景を理解しないまま、目の前のタスクをこなすだけの状態になってしまいます。

たとえば、次のような状況が現場で起きています。

  • 壮大な経営目標が掲げられたものの、メンバーが「経営は自分とは関係ないもの」ととらえ、目標をどう実現すればよいかわからない状態になっている
  • 経営戦略を理解し、業務の具体的なアクションへと落とし込むスキルが不足しているため、事業環境や自社戦略に照らした具体的な実施計画を作成できない

この課題の乗り越え方は、経営戦略を読み解く知識(経営の定石)と、それを現場の納得感あるストーリーに変換する翻訳力を体系的に習得することです。現場では次のポイントを実践してみましょう。

  • 経営計画や中期経営計画を読み込み、自部門の目標との接続点を自分の言葉で整理する
  • 経営方針の背景にある意図(なぜこの戦略か/何を実現したいのか)を、上司との対話を通じて理解する
  • 一方的な伝達にならないよう、対話を通じて方針とメンバーの思いを紐づける

これらの実践に必要なスキルを実務だけで習得しようとすると、試行錯誤に膨大な時間がかかります。

先人が体系化した経営の知識の型を先に学んでおくことは、失敗を最小限に抑えてスムーズに成果を出すための有効な手段です。

戦略を自分の言葉で語れる管理職のもとでは、メンバーは目的を理解して自律的に動きます。その差が、組織全体の実行力の差になります。

4-4.メンバーの成長や自律を促す育成スキルが不足している

新任管理職がぶつかりやすい壁のひとつが、メンバーの自律や成長を促す育成スキルの不足です。

メンバーの習熟度や経験に関わらず一律に細かな指示を出し続けたり、寄り添うばかりで厳しい仕事や指導を避けてしまったりすることで、メンバーが自分で考えて動く自律的な組織への転換が進まないケースもよくあります。

たとえば次のような状況です。

  • 若手社員が増加し価値観が多様化するなかで、新任を含む課長層が部下の意欲や能力をうまく引き出せず、画一的な指導になってしまう
  • 年下の部下には経験不足から指示が多くなりがちな一方、年上・ベテランの部下には遠慮から踏み込んだ指導ができず、どちらのケースでもメンバーの成長が止まってしまう

この乗り越え方は、コーチングや適切なフィードバックの手法を学び、年齢や経験に関わらずメンバーの成長段階に応じて関わり方を変える力を磨くことです。具体的な実践のポイントは次の3つです。

  • 共感や承認だけに偏らず、難易度の高い仕事や厳しいフィードバックも意図的に行う
  • 部下の習熟度に応じて指示の粒度を変える。初期は丁寧に関与し、段階的に自律へ移行させるプロセスを設計する  
  • 正解を教えるのではなく、問いを通じてメンバー自身に考えさせ、成長のプロセスを支援する  

特に注意したいのは、メンバーへの共感や配慮を重視するあまり、難易度の高い仕事を与えることをためらってしまうことです。挑戦の機会を与えられなかったメンバーは成長できず、最終的な評価時に正当な高評価ができない状況を招きます。共感と厳しさの両立こそが、育成の核心です。

こうした実践を通じて、メンバー一人ひとりに合った関わり方ができるようになれば、指示待ちではなく自ら考えて行動できる自律的なチームを育てていけます。

4-5.メンバーの目標設定や評価が適切に行えず現状維持になってしまう

マネジメントで陥りやすい課題として、目標設定や評価が形骸化し現状維持に流れてしまう、ということがあります。

具体的には、メンバーの能力を少し超えるような目標を提示できなかったり、「ハラスメントになるのでは」「嫌われたくない」という恐れから、耳の痛いフィードバックや厳しい指導を避けてしまったりするケースです。その結果、適切な評価や成長支援ができず、職場の規律や心理的安全性が損なわれてしまいます。

現場でよく見られるのは、次のような状況です。

  • 働き方やハラスメントの概念、社会的な常識が急速に変化していくなかで、メンバーの労働を適正に管理しつつ、いかに高い目標に挑戦し続け成長してもらうかが大きな課題になっている
  • ハラスメントの基準や、指導との境界が理解できていないため、判断が難しい場面で適切な指導ができず対応が後手に回ったり、無自覚な言動で信頼関係を損なったりするケースが発生している

この課題の乗り越え方は、評価を「査定」ではなく「成長の機会」ととらえ直し、目標管理の型と正しいハラスメント知識を身につけることです。現場で実際に評価や目標設定を運用するときは、次の順序で3つのポイントを意識しましょう。

まずハラスメントの正しい知識を土台にし、そのうえでストレッチ目標の設定とフィードバックの実践に進むことが、失敗を防ぐステップです。

  • 土台:ハラスメントの境界線を正しく理解し、過剰に萎縮せず、安心感と責任感を両立した環境をつくる
  • 目標設定:部下の能力を少し超えるレベル(ストレッチ目標)を意図的に設定し、達成への支援とセットで提示する 
  • 実践・振り返り:主観を排した客観的な事実に基づき、結果の良し悪しに関わらず、次の成長につなげる建設的なフィードバック面談を行う

こうした実践において、変化の激しいハラスメント知識などのインプットには、書籍や動画学習コンテンツなどを活用するのも有効です。そのうえで、実際の現場で判断に迷う場面があれば、一人で抱え込まずに社内の人事部などの専門部署を頼りながら進めることが、リスクを防ぐ確実な一手です。

評価と目標設定を成長支援の対話として機能させることで、メンバーは挑戦を恐れなくなりチーム全体の能力が段階的に引き上げられます。

4-6.メンバーのエンゲージメント低下や離職を招いている

マネジメントの不備が招く重大な問題のひとつが、メンバーのエンゲージメントの低下と離職です。エンゲージメントとは、仕事に対する熱意、没頭、活力の総称であり、組織の持続的な成果に直結します。

エンゲージメントは会社の状況や人間関係など多面的な要因で決まりますが、なかでも直属の上司の関わり方が影響の大きい要因のひとつです。GALLUP社の調査では、チームのエンゲージメントのばらつきの約70%がマネージャーに起因するとされています。

出典:GALLUP『Managers Account for 70% of Variance in Employee Engagement』2015年

なぜこれほどマネージャーの影響が大きいのでしょうか。それは、メンバーが働く日常のなかで「何のためにこの仕事をするのか」という意味付けや動機づけを、最も近い立場で引き出せるのが管理職だからです。

そのため、現場で日々の業務の意味づけや、個人のキャリアビジョンと組織の目標を紐づける対話が不足すると、メンバーの組織へのエンゲージメントが薄れてしまいがちです。結果として人が辞めていってしまうケースも起こりうるでしょう。

具体的に現場で発生している課題の例を見てみましょう。

  • 現場でPDCAを回す意識を持たせるマネジメントができていなかったため、若手社員が日々のルーティンを単純作業ととらえてしまった。結果、若手が「この会社にいても何も得られない」と仕事の意義を感じられず離職してしまう
  • エンゲージメントサーベイ(従業員意識調査)の結果、「承認」や「成長実感」のスコアが低く、組織内のエンゲージメントが低い水準にある

エンゲージメントは管理職だけで完結するものではありません。評価制度・キャリアパス・組織文化といった会社側の仕組みも大きく影響します。だからこそ管理職は、自分がコントロールできる「メンバーとの日々の関わり方」に集中することが重要です。

この乗り越え方は、エンゲージメントの現状を可視化し、メンバーとの対話を通じて意味づけとキャリア支援を実践することです。具体的な実践ポイントは次の3つです。

  • サーベイやMBOなどで現状を可視化し、承認や成長実感の不足など具体的な課題を特定する  
  • 定期的な1on1で会社の価値観や行動指針について対話し、個人の価値観・キャリア意向と重ね合わせる  
  • 改善施策は単発で終わらせず、サーベイ・MBO→対話→施策→振り返りという短いサイクルでPDCAを回す

メンバーのモチベーションやキャリアの方向性を正しく理解し、組織の方向性と紐づけるマネジメントを実践することで、チームのエンゲージメントを高め、働きがいのある組織づくりに貢献できます。

5.AI時代のマネジメントはどう変わるのか

AI技術の急速な進化により、ビジネス環境や業務プロセスは大きく変化しています。しかしマネジメントが不要になるわけではありません。

むしろ、AI時代だからこそ人間ならではのマネジメントスキルの重要性が一層高まっています。同時に、AIそのものを活用してスキルを磨くというトレンドも生まれています。

一方で、AI時代でも組織が持続的に成長するためには、新しいスキルを身につけることと同時に、これまでの成功体験や仕事の進め方を手放す「アンラーニング」が求められています。

5-1.AI時代のマネジメントが直面している2つの課題

AI時代に上司が直面する新たな課題は、大きく2つに整理できます。AIの生成物を見極めるレビュー力の不足と、部下の考える力を育てることの難しさです。

AIの生成物を見極めるレビュー力の不足

AI時代以前のレビューでは、部下が作成した資料の質を見れば、その思考の深さも自ずと判断できました。資料の質と思考の深さがほぼ比例していたためです。

しかし、AI時代ではこの方程式が崩れます。AIで作成された資料は、表面的なクオリティが高い一方で、部下自身がどこまで考えたかは測りきれません。資料は完璧にみえても、部下がAIに任せきりで思考プロセスを経ていないケースも発生しています。

結果、資料の出来を見る従来のレビューだけでは、部下の思考をとらえきれなくなりました。これからのマネジメントでは、資料の背景にある部下の思考の過程まで見極める力が求められます。この新しいレビューの形は、まだ多くの現場で十分に確立されていません。

部下の考える力を育てることの難しさ

考える力は、自分で仮説を立て、調べ、考え抜く経験でしか育ちません。しかしAIがすぐに答えを返してくれる環境では、メンバーがそのプロセスを省略しやすくなっています。

さらに管理職自身がAIで仕事を自己完結するようになり、かつて若手に任せていた経験の機会そのものが失われるという問題も起きています。

だからといってメンバーにAIを使わせないことは解決策にはなりません。AIを使いこなす力と、自分で考え抜く力を両立させる育て方こそが、管理職に求められる新しい課題です。

AIは情報生成や定型業務を担えますが、出力の妥当性を判断したり、組織独自の文脈で意思決定したりするのは人間の役割です。その判断力は、考え抜く経験の積み重ねで磨いていくものです。考える機会が減るほど、部下の育成は難しくなります。

5-2.AI時代のマネジメントに求められるもの

AI時代のマネジメントの課題に対応するためには、過去の成功体験や自分のやり方を手放す「アンラーニング」のマインドセットが欠かせません。このアンラーニングを土台としたうえで、「考える力」と「共感・問いの力」が求められます。

これは『マネジメントで成果を出すための「志と3つのスキル」』 の章で取り上げた要素を、AI時代の文脈で発揮することを意味します。

レビュー力の不足という課題には、マネージャー自身の考える力、つまり論理思考力を鍛えることが重要です。AIの生成物の前提を疑い、構造的に検証し、部下との対話を通じて思考プロセスを引き出します。

たとえば、部下が市場分析レポートを提出してきた場面を考えてみましょう。資料そのものを検証するだけでなく、「なぜこの結論に至ったのか」「他の選択肢は検討したのか」「データの限界はどこか」などと問いかけます。部下が答えに詰まるなら、資料の背後に十分な思考がなかったサインかもしれません。

AI時代のレビューは、資料を確認する作業から、論理思考力を駆使して部下の思考を検証する作業へと変化しています。

AIのアウトプットを前向きに疑う習慣として、次の4つの問いが役立ちます。

  1. 目的に沿っているか
  2. 前提・背景は妥当か
  3. 本当にそうか(他の切り口はないか)
  4. 関係者の納得は得られるか

この問いを習慣化することが、AI時代のレビュー力を伸ばしていきます。

「考える力」についての詳細な解説は『事象を構造的に整理し解決策を導く「考える力」』の章をご覧ください。

部下の考える力を育てるためには、共感力と問いを立てる力が効きます。部下の考える力は、上司が答えを与えるのではなく、問いを通じて部下自身が考え抜くことで育つからです。

そしてこの2つは、AIには決して代替できない人間固有の能力でもあります。AIはデータから最適解を導けますが、部下の感情の背景を理解し、その人だけに刺さる問いを立てることはできません。だからこそ、この力を磨くことが、AI時代における管理職の最大の差別化要素になります。

まずは、部下の状況や感情に寄り添い、安心して考えを口にできる関係を構築しましょう。そのうえで上司は、必要に応じて厳しさも示しながら、良質な問いを重ねて部下の思考を深めていきます。この積み重ねが、部下が自ら考え行動する自律性を育むことにつながります。

過去のやり方を手放し、論理思考と共感・問いを駆使することが、AI時代のマネジメントの本質的な変化です。

5-3.AIを使った「共感・問いの力」の磨き方

AI時代に求められる共感や問いの力は、実はAIを使って磨くことも可能です。共感や問いの力を向上させるために、AIを練習相手として使うロールプレイングサービスが、複数のサービス提供者から登場しています。

共感や問いの力は、知識として理解しても、すぐに現場で実践できるものではありません。新任の管理職は、厳しいことを伝える経験自体が少なく、どう切り出せばよいかわからずためらいがちです。一方で経験を積んだ管理職は、自分なりのやり方がすでに固まっている分、新しい対話の型を試すこと自体に抵抗を感じやすくなります。

しかし、相手がAIであれば、どれだけ失敗しても現実の人間関係が壊れるリスクはありません。新任の管理職にとっては、失敗を恐れず何度でも伝え方を試せる場になります。経験を積んだ管理職も、これまでのやり方を一度脇に置き、新しい対話の型を気軽に練習できます。

AIサービスを使えば、受動的なメンバーや自分とは異なるタイプのメンバーなどを想定した、多様なロールプレイを、納得がいくまで何度でも繰り返せます。

もちろん、AIはあくまで練習相手にすぎません。日々の現場で実際のメンバーと向き合い、対話を重ねて信頼関係を築くことは、マネージャー自身にしかできない営みです。

だからこそ、実際の現場に出る前にAIを相手に実践と内省を繰り返し、確かな対話の型を習得しておくと安心です。AIとのシミュレーションは、頭のなかの理論を現場の実践レベルへと引き上げてくれます。これにより、マネージャーは、自信を持って部下の自律や成長を促し、より本質的なマネジメントや組織運営に向き合えるようになります。

6.マネジメントについてのよくある質問

マネジメントを一言で簡単に言うとなんですか?

マネジメントとは、組織の目標を達成するために、ヒト・モノ・カネといった経営資源を最適化し、成果を創出する機能のことです。単なる管理(維持)ではなく、不確実な環境下で目標を実現するための能動的な営みを指します。

マネジメントの種類にはどのようなものがありますか?

マネジメントの種類は、自身の役職に応じた「階層別」と管理の対象に応じた「領域別」の2つに分けられます。詳細は以下です。

・自身の役職に応じた「階層別」……組織全体を俯瞰し経営方針を浸透させる「経営層(上級管理職)」、経営と現場の橋渡し役を担う「中間管理職」、プレイングマネージャーとしての役割も持つ「現場リーダー」など。階層によって役割や視座が異なります。

・管理の対象に応じた「領域別」……チームとしての成果を最大化する「業務マネジメント」と、メンバーの意欲や能力を引き出し、成長を支援する「チームマネジメント」があります。

プレイヤーから管理職に上がるとき、何が一番変わりますか?

最大の変化は、自分で成果を出すという個人軸から、チームを動かして成果を出すという組織軸へのマインドセットの転換です。管理職は、組織全体の成果を最大化する視座へのアップデートが求められます。そのためにまずやらなければいけないことは、過去の成功体験や自分のやり方を手放すことです。

どのような人がマネジメントに向いていますか?

マネジメントに「向いている・向いていない」という区分はありません。強いて言えば、高い専門スキルがある人以上に他者の成長を心から喜べる人や、全体最適の視点で物事を考えられる人です。また、正解のない状況で意思決定を行い、その結果に責任を持つ覚悟がある人もマネジメント適性が高いと言えます。

ただし、これらは生まれ持った資質に左右されるものではなく、誰もが学んで身につけられます。マネジメントに必要なスキルやマインドセットを学んで磨けるかがポイントです。

プレイングマネージャーとして、現場仕事と管理業務を両立させるコツは?

マネジメントを最優先業務として定義することです。プレイヤー業務が目の前にある以上、意識だけでは変わりません。マネジメントを最優先業務とし、スケジュールに先に確保することが最初の一手です。

部下が自分より年上、あるいは専門スキルが高い場合の接し方は?

答えを教える上司として振る舞うのではなく、部下が最高のパフォーマンスを発揮できるよう環境を整える支援者に徹しましょう。組織の目標設定や他部署との調整など、マネージャーならではの価値を提供することが信頼につながります。ただし、部下の仕事を評価し育成するためには、専門業務の知識や勘所も最低限押さえておく必要があります。

AIが進化すると将来マネージャーの仕事はなくなるのでしょうか?

マネージャーの仕事はなくなりません。事務的な進捗管理やデータ分析はAIに置き換わりますが、人間にしかできない仕事の価値はむしろ高まります。AI時代のマネージャーに求められるのは、AIの出力を批判的に検証する力、メンバーの自律を引き出す共感と問い、そして過去のやり方を手放すアンラーニングのマインドセットです。AIを使いこなしながらこれらを磨いていきましょう。

AIを活用する管理職が、メンバーの育成面で気をつけることはありますか?

AIに任せる仕事と、メンバーに経験させる仕事を意図的に仕分けることです。たとえば、リサーチや資料の初稿作成を全てAIに任せてしまうと、メンバーが試行錯誤しながら考える機会そのものが失われます。育成の観点では、まずはメンバー自身に考えさせ、その後AIで検証・補強させるという順序を意識することが重要です。

マネジメントスキルを効率的に習得する方法はありますか?

体系的な経営知識(論理思考、戦略、組織など)をインプットしたうえで、現場での実践と振り返りを繰り返すことです。経験だけに頼らず、理論という型を学ぶことで、どのような状況でも通用する汎用的なスキルが身につきます。

なお、着任を待たずに今日から始められる準備が3つあります。

  • プレイヤーとして成果を出せた場面を振り返り「なぜうまくいったか」という自分の成功パターンを言語化しましょう。部下に伝える「型」の原石になります
  • 将来一緒に働くメンバーの得意・不得意を今から意識して見ておきましょう。「誰に何を任せるか」の判断精度が上がります
  • 論理思考・目標管理・フィードバックのいずれか1つを先に学ぶだけで、着任後の試行錯誤を大幅に減らせます

マネジメントを体系的に学ぶ手段としては、スキマ時間で動画学習できる「GLOBIS学び放題」か、3か月で論理思考力を集中的に磨く「グロービス・マネジメント・スクール(単科)」がご自身(個人)でも始めやすい選択肢です。

もしご所属の企業で自己啓発・公募の形式で学びの機会が用意されている場合は、それを利用するのも一手です。貴社の人事部に問い合わせてみることをおすすめします。

グロービス・マネジメント・スクール(GMS)CTA

7.まとめ:マネジメントは学べば必ず身につく専門職です

マネジメントは管理ではなく、これまで培った専門性や成功体験を、組織全体の成果へとレバレッジさせる新しい専門職です。

本記事で取り上げた6つの課題やAI時代の変化は、自己流で挑むと誰でもぶつかりやすい壁です。

しかし、これらは体系的なスキルの習得で解決できる、具体的な課題でもあります。型を学ぶことで失敗を最小化し、業界や職種を超えて通用する再現性のあるマネジメント力が身につきます。異動や新規事業の立ち上げ、転職といったキャリアの分岐点で必ず活きてきます。

メンバーを自律へと導き、チームの成果を最大化する組織づくりの経験は、AIに取って代わられない人間固有の資産です。管理職としての実績は、異動・新規事業・転職といったあらゆるキャリアの分岐点で、あなたの選択肢を広げ続けます。

こちらの記事もおすすめ

この記事をシェア

3,600社以上の実績をもとに
実践性を追求した研修

経験豊富なコンサルタント

企業の戦略を実現できる人材の育成を、
短期~中長期まで段階的に設計してサポートします。

まずは相談してみる

グロービスが
まるごとわかる3点セット

グロービスがまるごとわかる3点セットサンプル

サービス詳細、事例集、会社案内の資料を
一括でダウンロードいただけます。

今すぐ資料を申し込む

メルマガ登録

人材育成・企業研修に役立つメソッドをはじめ、
セミナー開催情報や最新のコラム情報などを週に一度お届けします。

メルマガを登録する

事例紹介

日経225の88%の企業へ研修サービスを提供

集合研修有益度

4.5 5段階
評価
2026年3月「テーラーメイド型プログラム」を除く平均値

導入企業数

3,600

社/年

受講者数

42

万名/年
スカイマークらしい人財育成体系をゼロから構築! 航空業界におけるチャレンジャー企業として成長を続ける

スカイマーク株式会社

スカイマークらしい人財育成体系をゼロから構築! 航空業界におけるチャレンジャー企業として成長を続ける

部長層 課長層 一般社員層
日本語
集合研修 スクール型研修 eラーニング アセスメント・テスト
「自ら学び、社会から学び、学び続ける」風土改革への取り組み

日本生命保険相互会社

「自ら学び、社会から学び、学び続ける」風土改革への取り組み

課長層 一般社員層
日本語
スクール型研修 eラーニング アセスメント・テスト
受講者から役員を輩出。ジョブアサイン連動型タレントマネジメントで「未来を起動する」次世代リーダーを早期育成

三菱重工業株式会社

受講者から役員を輩出。ジョブアサイン連動型タレントマネジメントで「未来を起動する」次世代リーダーを早期育成

課長層 一般社員層
日本語
集合研修
世界各国で活躍する社員の自律的なキャリア形成をするために必要となる、経営スキルを磨く場を提供

伊藤忠商事株式会社

世界各国で活躍する社員の自律的なキャリア形成をするために必要となる、経営スキルを磨く場を提供

一般社員層
日本語
スクール型研修
トップダウンから脱却し、自律自考のできる次世代リーダー集団の育成

株式会社大創産業

トップダウンから脱却し、自律自考のできる次世代リーダー集団の育成

部長層 課長層
日本語
集合研修
非連続の時代を生き抜くために管理職層がビジネススキルを磨き、経営視点をもつリーダーになる

株式会社コロワイド

非連続の時代を生き抜くために管理職層がビジネススキルを磨き、経営視点をもつリーダーになる

役員 部長層
日本語
スクール型研修 eラーニング
カスタマーサクセスを追求するマネージャーの育成を通じて、日本企業のグローバル化を支援する

SAPジャパン株式会社

カスタマーサクセスを追求するマネージャーの育成を通じて、日本企業のグローバル化を支援する

部長層 課長層
英語
集合研修
360度サーベイで75%の受講者がスコアアップを実現!自らの課題を意識した学びで、受講後の行動が変化

レバレジーズ株式会社

360度サーベイで75%の受講者がスコアアップを実現!自らの課題を意識した学びで、受講後の行動が変化

課長層
日本語
スクール型研修
DXカンパニーへの転換を加速させた、役員合宿の取り組みと効用

富士通株式会社

DXカンパニーへの転換を加速させた、役員合宿の取り組みと効用

役員
日本語
集合研修