特長

人材育成の考え方~実践的な研修体系を構築する7つのステップ

お客様から「人材育成施策の見直し」に関するご相談をよくいただきます。このお悩みを解決するための、人材育成のステップを解説します。

多くの企業が直面する課題「人材育成施策の見直し」

私たちがご相談いただくお悩みで多いのは「人材育成施策の見直し」です。中でも「人材育成施策を打っているが、会社の成長に寄与しているか分からない」「人材要件に合わせた研修を実施したいが進め方が分からない」というお声をよく聞きます。

多くの場合、これらのお悩みは人材育成を適切なプロセスで進めることによって解決します。そうすれば人材育成施策全体を見直すと共に、経営計画に合わせた自社に最適な研修体系も実現できます。

グロービスが考える人材育成の進め方は、以下の7つのステップで実践できます。適切なゴールを見据えて取り組めば、失敗を回避しながら、理想的な成果を出すことにつながります。

ステップ1:自社の経営戦略を深く理解する
ステップ2:人材の現状を把握する
ステップ3:人材ポートフォリオを作成する
ステップ4:人材育成コンセプト(テーマ)を設定する
ステップ5:あるべき人材像(人材要件)を定義する
ステップ6:人材育成プログラムの企画・施策を行う
ステップ7:人材育成プログラムの効果測定を実施する

ここでは人材育成の進め方の各ステップを詳しく解説し、貴社に合う最適な研修体系の構築を後押しします。加えて、人材育成を進めるうえで知っておきたいフレームワーク、研修体系構築のためのポイントなどもまとめてご紹介します。

【7つのステップで解説】人材育成の進め方

人材育成を考える時、多くの企業では「人材育成の対象者を決める」ところから始めるようです。しかしグロービスは、自社の経営戦略や人材を理解するステップを組み込み、7つのステップで進めることを提唱しています。

人材育成は自社の経営戦略を実現するために行うものです。自社の現状や戦略を理解しないまま理想の人材像(人材要件)を掲げても、自社の方針とミスマッチを起こす可能性があります。そのため、まずは自社の経営環境・経営戦略や自社の人材を理解するところから始める必要があるのです。

ステップ① 自社の経営戦略を深く理解する

ステップ①の目的は、自社の経営戦略・戦い方について理解を深めることです。なぜなら人材育成は、自社の経営戦略を実現するために行うものだからです。自社の強みや置かれた経営環境がわからない状態では、経営戦略実現のために活躍する人材像をイメージすることは、難しいでしょう。

自社の経営戦略を理解するための2つの視点
経営環境自社では制御できない自社を取り巻く環境のこと
例:政治・流行・法律の改正・技術の進歩・競合他社
戦い方自社内である程度コントロールできる環境を踏まえたうえで、どのように勝とうとしているのかの方針のこと
例:資産・自社独自の技術や知識・自社の強みを活かして、何に注力し、経営環境に整合しようとしているのか

1-1 自社の置かれた経営環境を把握する

自社の経営戦略を理解するには、外部環境の変化と、それに伴う経営戦略の変化を把握することが不可欠です。次のような問いを立てると、変化を理解する手助けになります。

  • マクロ環境の変化のうち、自社ビジネスに大きな影響を及ぼすものは何か
  • 顧客が求める価値はどのように変わっていくのか
  • それに対し競合はどのような戦い方をするのか

これらの問いに対する答えが、自社の経営戦略に集約されています。外部環境と自社の戦略がどのように変化し、 それが組織にどのような影響を及ぼすのかをしっかりと押さえましょう。

1-2 自社の戦い方を理解する

次に戦略を実現するための自社の「戦い方」への理解を深めます。これによって、どのような組織を作るべきか、そのためにはどのような人材を育成すべきか、という組織と人材の戦略を設定します。

具体的には、以下のようなポイントを押さえて検討します。

  • 経営陣は自社の強みをどのように捉え、活かし、勝とうとしているのか
  • それを実行する人材・組織に求められる変革の度合いはどのくらいか
  • 変革のスピードはどうあるべきか
  • 変革において何が難所となりそうなのか

一般的に組織と人の変化には時間がかかるものです。だからこそ人事部は自社の戦略を押さえ、先を読み、「戦略を実現するための組織と人の姿」を準備する必要があります。

とはいえ、時間がなくて経営戦略まで考えることができない、ということもあると思います。その場合は、担当役員や経営企画部にヒアリングするなど、社内のリソースを活用してみてください。外部パートナーに相談するのも有効です。リソースの配分を考えながらご検討ください。

ステップ② 人材の現状を理解する

続いて、社員の現状を理解し、経営戦略の実現に必要な人材が、量・質ともに充足・不足しているかを確認します。社員のスキルや人柄、意欲は目に見えないため、意識的に情報を集めなければ、現状を適切に理解することはできません。現状理解がなければ課題も特定できず、人材育成を手探りで進めることになってしまいます。

社員の現状を正しく把握するために、たとえば以下のようなデータを集めることが有効です。

【人事データ】
・過去に経験した部署やプロジェクト
・過去に受講した研修の内容と結果
・アセスメント・テスト(人材を客観的に評価するテスト)の結果
・スキルマップの作成(業務内容に応じた現状のスキルを社員ごとに可視化) など

【事業部データ】
・現場のキーパーソンや同僚・部下からのヒアリング
・お客様の声や事業部内の職場アンケート、財務情報などから、仕事ぶりを推測 など

グロービスでは、事業部データを積極的に集めることをおすすめしています。人事データは人事部内にあるため、手軽に利用できるのですが、それだけで対象者の普段の行動や思考プロセス・リーダーシップ像などをすべて把握することは困難です。ぜひ人事・事業部データの双方で、定量・定性の多面的な情報を収集し、対象者の現状を分析・把握するように心がけてください。

ステップ③ 人材ポートフォリオを作成する

人材の現状が可視化できたところで、人材ポートフォリオを作成します。人材ポートフォリオとは経営戦略を実行するために、社内のどこに、どのようなスキルやマインドを持った人材が、どの程度在籍しているかを整理・可視化したものです。

3-1 人材ポートフォリオを作成する

まず人材ポートフォリオに用いる軸の設定を行います。ポートフォリオの軸は、経営戦略によって把握した経営戦略、自社の戦い方に沿ったものを用いるようにしましょう。ここでは代表例として、「パフォーマンス分析」と「ポテンシャル分析」を用いた軸の設定をご紹介します。

パフォーマンス分析では、業績評価の軸とコンピテンシー評価の軸を設定し、対象者をプロットします。一方でポテンシャル分析では、潜在スキルの軸と潜在マインドの軸を設定し、対象者をプロットします。

その後、パフォーマンス分析とポテンシャル分析を統合させ、人材ポートフォリオとします。

3-2 人材ポートフォリオで不足領域を特定する

人材ポートフォリオを作成し、ステップ②で把握した現状の人材と照らし合わせることで、どの領域に何人の社員が存在するかを把握できるようになります。すると、「人材が不足している領域」=「経営戦略の実現のボトルネックとなる領域」を特定することが可能になります。

※この図は一例です。各社の経営戦略により、適したポートフォリオは異なります。

不足している領域がわかれば、その領域を充足するために人事としてどのように対処すべきかを考えられます。たとえば採用によって社外から人材を補充する、異動や育成によって社内から人材を補填する、などが代表的な対処法です。

※本ページでは、人材育成に絞った話としてお伝えします。

ステップ④ 人材育成コンセプト(テーマ)を設定する

人材ポートフォリオを作成し、人材の充足・不足が把握できたところで、人材育成コンセプト(テーマ)を設定します。人材育成コンセプト(テーマ)とは、不足領域の人材を増やすために必要な、育成施策の内容を短く一言で表現したものです。

たとえば、前章の人材育成ポートフォリオから不足領域とわかった「エグゼクティブ人材」「クリエイティブ人材」のコンセプトを、一例として考えてみましょう。

組織で成果を出し、新しい価値の創造が必要な「エグゼクティブ人材」の人材育成コンセプトは「論理的に判断を下すための思考力」と表現できるかもしれません。一方同じ新しい価値創造でも、個人で成果を出す「クリエイティブ人材」では「アイデアを具現化するまでの筋道を描く思考力」というコンセプトが考えられます。

このように同じ思考力でも求めている人材の違いがわかるように、できる限り内容を一言で表すことで、育成施策の狙いを関係者間ですり合わせやすくなります。人材育成のコンセプト(テーマ)を決めた後に、いよいよあるべき人材像(人材の要件定義)に進みます。

ステップ⑤ あるべき人材像(人材要件)を定義する

人材育成のコンセプト(テーマ)が設定できたら、人材育成のゴールとしてあるべき人材像(人材要件)を定義します。

人材像の定義の仕方はさまざまありますが、グロービスがよく使う「行動」「知識・スキル」「マインド」での分解をご紹介します。

▼人材要件定義の枠組み

図: 氷山モデル(「氷山の一角」という言葉があるように、物事の見えている表面のみならず、見えていない要素も含めて全体像を捉えようという考え方)

この3つの枠組みの中でとくに重要なのは「行動」です。会社から期待される役割を果たし、経営戦略を実現するのは「行動」だからです。しかし行動だけを人材育成の要件定義に置くのは賢明ではありません。なぜならその行動を生み出すためには「知識・スキル」「マインド」も必要だからです。上の図の氷山モデルのように「知識・スキル」「マインド」は目に見えませんが、行動を支える要素として定義しておくべきです。

あるべき人材像の定義の手順:
1. 期待する役割を果たすために必要な「行動」を定義する
2. 行動を支える要素である「知識・スキル」を定義する
3. 行動を支える要素である「マインド」を定義する

人材要件を抽象的な定義ではなく、取って欲しい行動と、その行動を支えるスキル・マインドも合わせて定義することで、あるべき人材像がより具体的かつ精度が高いものになります。

下の表は階層別に、人材育成コンセプトからあるべき人材像を行動とスキル・マインドで定義した一例です。

研修体系を見直す際にも上記のやり方が効果的です。研修体系を見直す際には社内での合意形成がうまくいかないケースが多いのですが、経営戦略から人材課題へとプロセスを追って議論することによって、社内で「本質的な人材の課題解決につながりそうだ」という認識が醸成され、合意を得やすくなるからです。

ステップ⑥ 人材育成プログラムの企画・施策を行う

求められる行動・スキル・マインドを具体化できたら、それらを身につけるために必要な人材育成プログラムを検討していきます。ここでのポイントはすぐに流行の研修テーマを企画したり、eラーニングなどの手法から検討しないことです。丁寧にプログラムの企画を進めることが大切です。

6-1 人材育成の課題を特定する

まずプログラムで解決すべき課題を特定します。これまでに定義した「あるべき人材像」を踏まえ、「人材の現状」を再度整理し、その差を育成課題として絞り込みます。「管理職といえばリーダーシップが必要」「管理職は部下育成が重要」など、育成プログラムの対象者に対して抱いたイメージだけでプログラムを決めてしまうと、本来必要な行動・スキル・マインドを磨くことができません。

たとえば、管理職の個人の経営スキルの底上げが課題になっている場合、研修でコミュニケーション力やリーダーシップを学んだとしても、現場で必要な経営スキルは不足したままなので本質的な解決になっていません。ほかにも、数年前の管理職研修対象者はリーダーシップに課題があったとしても、現在の研修対象者はコミュニケーション力や論理思考力のほうが優先すべき課題かもしれません。

そのため人材の現状の課題を丁寧に抽出することが人材育成プログラムの成功には欠かせません。もし課題が複数抽出できたら、優先順位をつけます。優先順位の設定には、以下のような切り口を参考にしてみてください。

課題特定の優先順位の切り口
・緊急度:自社の経営戦略実現のため、早急に解決すべき課題はどれか
・重要度:経営への影響度合いが大きい課題はどれか
・(階層別研修の場合)共通項/最大公約数:多くのマネジメント層が抱えている課題はどれか

6-2 人材育成プログラムのゴールを定義する

いよいよ人材育成プログラムを設計する段階に来ました。まず、プログラム(研修など)のゴールを考えます。

よく勘違いしてしまいますが、研修のゴール=研修参加者があるべき人材として育っていること、ではありません。研修はさまざまある育成手法のひとつであり、魔法の杖ではないのです。対象者の現状にもよりますが、あるべき人材像へ到達するには1回の研修で一足飛びに成せるものではありません。「あるべき人材像」と「研修後の状態」を明確に区別し、「この人材育成プログラムで、どこまで到達させるか」を考えることが、ゴールを決めるポイントです。

人材育成プログラムのゴール:研修終了時に、参加者はどのような状態であるのか

図:人材育成プログラムの「ゴール」=「あるべき人材」ではない

人材育成プログラムのゴールの一例
・受講者の現状:たたき上げの社員が多く、経営スキルが不足している
・人材育成プログラム(研修)のゴール:経営知識スキルの底上げ
・あるべき人材像:全社の経営戦略を考えて視座高く事業を推進できる

6-3 人材育成プログラムを設計する

最後に、設定したゴールを実現するための、具体的な研修カリキュラムを策定します。成果につながるプログラムの実施のためには、単に研修内容を決めるだけでは足りません。期間・場所・講師の要件・参加者との事前/事後のコミュニケーションなど、多岐にわたる工夫のポイントがあります。

設計時には、下記の4つのポイントをチェックしておくようにしましょう。

  • 施策の設計:施策を実施することでプログラムの狙いが実行されるか
  • 期間:ターゲット選定時に決めた期間が妥当か確認する
  • コスト:人材育成にかかるコストは妥当か確認する
  • サポート:人材育成に取り組む社員のサポートができているか確認する

とくに施策がプログラムのゴールに対して適切かを確認することが重要です。研修を実施したのに社員の行動が変わらない、eラーニングを導入したのにスキルが身につかない、という失敗を回避するために、人材育成の手法がゴールを達成するのにふさわしいかを見極めましょう。

期間やコストもチェックしておくと、研修の成果が高まります。


たとえば対象者が多忙で負担軽減のため、または予算の関係から1日だけの研修しか実施できないとなると、どうしても詰め込み式の研修やインプットのみの研修となります。学ぶべき内容を短期間で終わらせることを優先するので、基礎的な知識しか学べないこともあるでしょう。もし、高度なスキル獲得や業務で使える状態を目指す場合には、ある程度の期間とコストが必要です。本来かけるべきコストまで削減してしまうと成果や行動変容につながらず、意味のない研修に陥りがちです。

失敗を回避するための3つのポイント

  1. 社員の負担感に留意すること
    人材育成に力を入れるあまり、社員の負担になっていないかの確認も忘れずに行いましょう。情報量が多過ぎて処理しきれない、アウトプットする機会がないなど今の社員の状況にも気を使いましょう。
  2. プロセスの議論をおろそかにしないこと
    人事部の関係者や研修パートナーと納得するまで議論しましょう。適切な設計ができないと、講師ありき・手法ありきの研修になり、自社にとって本当に必要な研修にならない可能性があります。プログラム実施中や実施後に立ち返る指針がなく、軌道修正や振り返りも難しくなるため、議論は欠かさず行ってください。
  3. 企画時から関係者を巻き込むこと
    研修の学びを業務で活用するためには、受講者のみが奮闘するのではなく、上司や他の部署がサポートしつつ、会社全体で取り組むことが大切です。研修後フォローや効果検証には、人事部だけでなく現場のマネジメントに協力してもらう必要が出てくる可能性があるからです。プログラム実施前に研修後フォローを設計し、関係者に協力を取り付けておくことで、より企画意図に沿った研修にすることができます。関係者を巻き込む際には、これまでのステップで整理した内容が役立ちます。プログラムを必要とする理由・目的・ゴールを筋道立てて説明し、協力を得ましょう。

ステップ⑦ 人材育成の効果測定を実施する

人材育成の施策を終えたら、効果測定を実施します。人材育成を通じてどのような成果を得られたのか、可視化しましょう。研修を実施したものの結果を振り返る仕組みがないと「実りのある研修だったのか」「改善が必要なのか」判断ができません。

実際に研修の結果を振り返りできていない企業では、下記のような声があがっています。
「研修をやりっぱなしになっている」
「研修を通じて、自分が成長できているのか実感しづらい」

研修は、実施さえすれば必ず成果が出るものではありません。どの程度達成できたのか、次回は何に取り組むべきかを明確にしていかないと「結局のところ研修は意味があったのか」誰にも分かりません。

研修後には必ず効果測定を実施し、結果について説明できるようにしましょう。

一例ですが、下記のような方法で人材育成の効果を調べることができます。

  • 人材育成前後のスキルマップやアセスメント・テストの結果を比較する
  • 人材育成の対象となった社員からアンケートを取得する
  • 1on1を実施し人材育成前と人材育成後の変化を直接ヒアリングする

効果測定のコツについては下記のコラム・資料をご活用ください。

人材育成を進めるときにつまずきやすい難所と対策

人材育成を進めるときに、どのようなところでつまずきやすいのか気になる方もいるかと思います。ここでは、人材育成を進めるときにつまずきやすい3つの難所とその対策をご紹介します。

  • トレンド感のある育成施策を実施して満足してしまう
  • 人材育成に取り組む時間が捻出できない
  • 人材育成の成果が可視化できてない

トレンド感のある育成施策を実施して満足してしまう

1つ目は、トレンド感のある人材育成施策を実施して満足してしまうケースです。前章でも触れたように、人材育成は段階的なステップを踏み進める必要があります。しかし適切な手順に沿って十分に検討しないまま「流行りのテーマだから」という理由でプログラムを決めてしまうと、自社にとって意味のない施策になってしまうことがあります。人材育成の課題や目的を人材育成施策に紐づけができていない場合、思ったような成果が得られない・もしくは振り返りができず成果を測れない可能性が高いです。

たとえば、「昨今は指令型のマネジメントではなく、対話型マネジメントが注目されているので、対話型マネジメントの研修をやりたい」など、流行のテーマだからという理由だけで研修を実施してしまうのは、やめましょう。

育成課題から検討することは時間がかかりますが、結果的に成果につながる人材育成を実施することができます。闇雲に人材育成施策のみを実施するのではなく、前章の人材育成の考え方で解説した手順に沿って、その施策を選定するべき背景や社員の現状を明確にしましょう。

人材育成に取り組む時間が捻出できない

2つ目は、人材育成に取り組む時間を捻出できないケースです。

  • 上司が忙しく、部下が研修を受講しても事後フォローが実施できない
  • 業務のスキマ時間(手の空いた時間)で人材育成をしているのでなかなか進まない
  • 人材育成の計画や管理を行う部署が決まっていない

など、人材育成がしにくい環境となっていることがあります。

たとえば、せっかく人事部で研修を企画し実施をしても、研修受講者の上司が多忙でその後のフォローまで手が回らないとします。そうすると、学びを振り返る機会や適切なフィードバックの機会が持てなくなり、「研修を受けっぱなし」で終わってしまう事でしょう。

人材育成を進めるには、社員の理解やサポートが欠かせません。一部の社員に負担がかかっている場合や人材育成をする基盤が整っていない場合は、まずは人材育成を進める環境を整えることが大切です。

人材育成に取り組む時間が捻出できない場合は、人材育成の取り組み方を見直す必要があります。たとえば、上司が忙しくOJTが実施できない場合は、上司の理解を得るまたは上司の負担を軽減することを考えましょう。

具体的には、

  • OJT中の上司の仕事量を減らす
  • OJTの対象となる社員のサポートや管理は他の社員が行う


などが検討できるでしょう。一部の社員に負担が偏らないように、周囲がサポートをすることが大切です。

また、社内全体が忙しく人材育成が後回しになっている場合は、人材育成の担当者や担当部署を決めるのも一つの方法です。

  • 人事部が人材育成の企画や進行を行う
  • 管理職が定期的に集まり人材育成の方向性を決めて進めていく

など、継続して人材育成ができるように工夫してみてください。

人材育成の成果が可視化できてない

3つ目は、人材育成の成果が可視化できていないケースです。人材育成による変化が可視化できていないと、継続するべきか方向性を変えるべきか適切な判断ができず、本当に自社に必要な施策を実施できているかわからなくなってしまいます。

実際のお客様の声で伺うのは、「営業職の社員を対象に営業力向上をテーマに研修を実施しているものの、その研修がどれだけ効果があったかはよくわからない」といった内容です。振り返りができないために成果がわからず、評価ができないのです。

人材育成の成果が可視化できていないと、

  • 人材育成を進めるうえでの適切な判断ができない
  • 人材育成施策の成果が出ているのかわからない

「ステップ⑦ 人材育成の効果測定を実施する」でも解説しましたが、人材育成を進めるときには効果測定をセットで行うことが大切です。人材育成の成果は意図的に可視化しないと、なかなか実感できません。

  • 施策前と施策後のスキルマップ、アセスメント・テストの結果を比較する
  • 施策前と施策後にアンケートを実施する
  • 施策後の変化を部署や上司にヒアリングする

など、実施しやすい手法でどのような成果が得られたのか把握しましょう。

人材育成の進め方の好事例

ここからは、実際に人材育成に取り組んだ事例をご紹介します。人材育成の進め方や施策の検討方法などが具体的に理解できるため、ぜひチェックしてみてください。

【アサヒビール】独自の育成プログラムで確実な成果につなげた事例

アサヒビール株式会社様では、国内酒類事業の変革という企業課題を抱えていました。変革を推進するには事業を引っ張る人材が必要だと感じていたものの、組織のトップを走るメンバーの育成施策が多くありませんでした。

そこで2018年に次世代リーダー育成の検討を開始し、グロービスがサポートをさせていただきながら新しい研修プログラムを立ち上げました。このプログラムは「Asahi Change Agent Program(A-CAP)」と名付け、一般社員を対象とした「A-CAP Basic」と管理職が対象の「A-CAP Advanced」の2つのプログラムを用意しました。2つのプログラムには、下記のように明確なゴールを設けています。

プログラム名内容の一例対象社員ゴール
A-CAP
Basic
・クリティカル・シンキング
・マーケティングの基礎
・組織行動とリーダーシップ
一般社員
(入社6~10年目の管理職になる直前の社員)
学んだビジネススキルを実務に活用する
A-CAP
Advanced
・クリティカル・シンキング
・自社課題討議
・パワーと影響力
・経営シミュレーションゲーム
・リーダーシップ
管理職
(管理職になったばかりの社員から所属長手前まで)
影響力を発揮して周囲を巻き込む共通言語をもつ
関係性の構築

参加者の選定では全社員に公募をかけて、応募者の中から選定する形式を採用しました。参加者の選定時にはバイアスがかからないようにチーム名や氏名を伏せた状態で、エントリーシートや提出課題を確認して数値化をしています。

研修プログラムを終えた社員には、自分の組織で行動に還元している姿が見受けられたそうです。

  • A-CAP Basicの受講後
    • 売上予算と利益予算の両指標を追う取り組みができるようになった
    • 報告方法や報告内容に変化が見られた
  • A-CAP Advancedの受講後
    • 高い意識や視座、メンバー同士の深い関係性が得られた
    • 行動にも変化が見られるようになった

研修を受けた社員の行動を見て、周囲の社員も受講してみたいと思う好循環も生まれました。

今後は「Asahi Change Agent Program(A-CAP)」の参加者同士がつながるネットワークの構築も検討しているとのことです。詳しくは下記の記事でも紹介しているので、参考にしてください。

【クボタ】「あるべき人材像」を言語化し、若手リーダー向け中長期研修プログラムを新たに立ち上げた事例

株式会社クボタ様では、入社10年前後の係長クラスに対する育成が手薄という課題感をお持ちでした。係長クラスは管理職手前の層として、日常業務における判断や後輩の育成などの現場のまとめ役という役割を担います。しかし当時の係長クラスは、その役割を果たすために必要なビジネス知識・スキルを身につける機会が十分でなかったのです。

そこで若手社員が現場でリーダーシップを発揮し活躍することを目的に、係長クラスに昇格した方を対象とした公募のビジネススキル習得研修(以下、K-Step)を立ち上げました。

グロービスは「あるべき人材像」の言語化からサポートし、プログラムの企画・実施・振り返りのすべてのプロセスに伴走しました。そして提案したプログラムはスクール型プログラム(グロービス・マネジメント・スクール)とGLOBIS 学び放題でビジネスの基礎スキルを磨きつつ、企業内研修(講師派遣型)でグループワークを行い自社の競争優位性を探求するというものです。

当初クボタ様は、グロービス・マネジメント・スクールへの通学(公募)の負担を少し懸念されていました。しかしオンラインや土日の開講のクラスが多いこと、振替制度があること、そして受講者様のモチベーションが高いこともあり、忙しい中でも前向きに取り組んでいただけています。また社外の仲間とのディスカッションを通じて自分の足りない点に気づいたことで、「他の科目も学習したい」という声も挙がっているそうです。

企業内研修(講師派遣型)での競争優位性を考えるワークは、お客様とグロービスが対話を重ねるなかで生まれたアイデアです。プログラムの詳しい内容を検討する議論の中で、当社から「あるべき人材像を考えると、まず会社の強みを理解することが必要なのではないか」という提案を行いました。これまでクボタ様では中期的な研修プログラムを行ったことがなく、多くの受講者様にとってグループワークは初めての経験でした。しかし講師のファシリテーションや専任コンサルタントのきめ細やかなサポートもあり、受講者様が自ら情報を取りに行きアウトプットするという、自分事として取り組む様子が見られました。

詳しくは下記の記事でも紹介しているので、ご参照ください。

人材育成に関する定番フレームワーク5選

人材育成について考えるときにはフレームワークを活用することもおすすめします。ここからは、人材育成の計画がスムーズになる定番のフレームワークをご紹介します。

5つのフレームワーク活用のステップ
HPI企業の課題を人と組織の視点から分析し、解決策を見つけるためのフレームワークステップ①~⑦
氷山モデルものごとの全体像を捉えるときに役立つフレームワークステップ②~④
70-20-10の法則人材の成長に関するフレームワークステップ②③
SMARTの法則目標設定と目標を達成するための取り組み方を整理できるフレームワークステップ③~⑦
段階評価モデル人材育成の成果を可視化できるフレームワークステップ⑦

HPI(Human Performance Improvement)

HPIは企業の課題を人と組織の視点から分析し、解決策を見つけるためのフレームワークです。ATD(Association for Talent Development)と呼ばれる団体が定義した考え方で、最初のステップでビジネスのゴールを設定するところが特徴です。

人材育成の施策を検討するときや自社のミッションや戦略を再認識するときに役立ちます。HPIは下記の6つのステップに分かれており、ステップに沿って分析を進めていきます。

HPIの6つのステップ
STEP概要詳細
STEP1ビジネスのゴール・戦略期待される職務上のパフォーマンス自社のビジネスのゴールや戦略、ビジョンを明確にする
自社の戦略を実現するために必要な人材像を明確にする
STEP2現状のパフォーマンスや競争環境の分析自社の現状(人材・競争環境)を明確にする
STEP3ギャップの抽出・原因分析理想的な状態と現状のギャップを抽出し、ギャップの原因となっている要因を分析する
STEP4施策の立案と設計特定したギャップの原因を解消する施策を検討して明確にする
STEP5実施とマネジメントSTEP4で決めた施策を実施する
STEP6評価・改善施策の効果測定を実施し改善点を明確にする

STEP1~STEP3を実施すると自社の現状や取り巻く環境、ゴールを可視化できます。理想と現状のギャップを可視化しギャップを埋めるための要因を分析できるため、人事育成の計画時に活用するといいでしょう。

氷山モデル

氷山モデルは、ものごとの全体像を捉えるときに役立つフレームワークです。目に見える行動と目に見えないスキルや知識、マインドなどに分けて分析をして課題や理想の全体像を捉えます。

たとえば、接客技術の向上が人材育成の課題になっているとします。私たちが客観的に捉えられるのは、接客をしている社員の行動のみです。

しかし、接客には知識やスキル、マインドなど目に見えない要素が含まれています。この目に見えない要素も含め、全体像を認識することが氷山モデルの特徴です。

「ステップ⑤ あるべき人材像(人材要件)を定義する」では、精度の高いロールモデルを設定するために氷山モデルを活用しています。目に見える出来事や行動だけに縛られず行動の理由や行動が変化するパターンなどを分析できるため、人材育成の効果測定や目標設定にも活用できます。

70-20-10の法則

70-20-10の法則は、人材の成長に関するフレームワークです。アメリカのリーダーシップ研究の調査機関ロミンガー社が実施した「(経営者が)自身の成長に寄与したこと」に関する調査から生まれた法則で、別名「ロミンガーの法則」とも呼ばれています。

この調査では、人材の成長に下記の3つの要因が関係していることがわかっています。

  • 70%:経験(実務によって身についた知識やスキル)
  • 20%:薫陶(上司や先輩からの指導)
  • 10%:研修(研修や読書、eラーニングなどから得たスキル)

この法則を見ると研修のみに頼った人材育成では、成果が出ないことが分かります。人材育成施策を検討するときには、

  • OJTや職場での機会創出で経験を積む
  • 研修(OFF-JT)で知識や技術を補てんする
  • 上司が適宜サポートを行う

など、3つの要素をバランスよく取り入れることを意識することが大切です。

いざ育成施策を検討すると、研修の企画だけに意識が向きがちですが、「研修当日の設計」だけではなく、「研修前後」も意識してください。人材育成のゴールを実現するために具体的な施策を考えるときには、70-20-10の法則を念頭に置いて設計するといいでしょう。

SMARTの法則

SMARTの法則は、目標設定と目標を達成するための取り組み方を整理できるフレームワークです。下記の5つは目標達成のための因子だと言われており、この5つの頭文字を取り「SMARTの法則」と呼んでいます。

項目概要具体例
Specific
具体性
具体的な目標を設定する人材育成を通じて新規顧客の獲得を1.5倍にする
(顧客獲得では曖昧なのでどのような顧客なのか、どれくらい獲得するのか具体的を持たせる)
Measurable
計量性
PDCAサイクルを回すために効果測定ができる目標を設定する育成期間中に新規顧客を2件獲得する
(目標に数値を入れる・もしくは効果測定で数値化できる)
Achievable
達成可能性
達成が不可能でない目標を設定する人材育成後に一通りの業務ができるようになる
(理想的な目標ではなく現実的な目標を設定する)
Related
関連性
目標を達成した先(例:経営目標など)との関連性を明確にする目標:人材育成後に一通りの業務ができるようになる
目標達成の先:新入社員が一人で業務ができるようになる
(目標と目標達成後の目指す姿に関連性がある)
Time-bound
期間
いつまで目標に向かい取り組むのか決める2か月間で人材育成を実施する
(具体的な期限を設けて取り組む)

たとえば、「Specific」は、目標の具体性を指しています。人材育成の目標として「優秀な部下を育成する」を目標に設定したとしましょう。優秀な部下の定義は人により異なるため、この目標では施策を検討しにくいです。優秀な部下とはどのような部下を指しているのか明確に決めておくことが欠かせません。

このようにSMARTの法則の5つの項目を確認して目標設定をすることで、目標の精度や達成率が向上します。人材育成の進め方では、人材育成のゴールを設定するときに活用できます。ゴールの精度が低い場合やどのようにゴールを設定するべきか迷う場合は、ぜひ活用してみてください。

カークパトリックの4段階評価モデル

カークパトリックが提唱する4段階評価モデルとは、人材育成の成果を可視化できるフレームワークです。可視化しにくい研修や教育の成果を4つの段階に分けて分析できるところが特徴です。

項目概要測定方法の例
レベル1:Reaction
反応
研修を受けた社員の満足度や印象本人へのアンケート
レベル2:Learning
学習
学習の到達度
(どのような知識・スキルが身についたか)
レポート・テスト
レベル3:Behavior
行動
職場での行動変化
(研修を受けたことで業務にどのような影響を及ぼしているか)
本人へのアンケート
上司や周囲へのアンケート(行動観察調査)
レベル4:Business Results
ビジネス上の成果
研修が与えた結果
(業務への貢献度や費用対効果)
売上などの数値
社員のエンゲージメント

レベル1では、研修を受けた後の社員の満足度や印象を確認します。

レベル2では研修を通じて得た知識やスキルを測定します。ここまでは研修当日にアンケートやテストなどを実施して、可視化することが可能です。

レベル3では、研修の実践度合いを確認します。たとえばセキュリティ研修を行った場合、研修後に受講者本人や上司へアンケートを実施し、職場内のパソコンや資料の管理方法に変化が起きたかどうかについて確認を行います。

そしてレベル4は、研修が売上の拡大や社員エンゲージメントの向上など、なんらかの結果につながっているか確認します。レベル3以降はすぐに測定をするものではなく、一定期間が経過した後に可視化します。

人材育成の成果は「ステップ② 人材の現状を理解する」で解説をしたスキルマップやアセスメント・テストでも測定できますが、研修やセミナーなど特定の人材育成手法の成果を明確にしたい場合には4段階評価モデルも活用できるでしょう。

まとめ

人材育成は闇雲に取り組むのではなく、適切な手順で戦略的に取り組むことが欠かせません。しかし、人材育成には自社の戦略分析や人材ポートフォリオの作成、人材育成プログラムの設計など多くの知識が必要です。すべての工程を社内で実施しようとすると負担が大きく、なかなか進まないケースもあります。

ここまでご紹介した事例のように、グロービスでは人材育成のプログラムの提供やサポートを行っております。豊富な知識や経験を基に、企業の人材育成の目的や課題に応じた提案をさせていただきます。人材育成に課題を感じている場合や人材育成をどのように進めるといいのか悩んでいる場合は、お気軽にお問い合わせください。

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