他流試合型研修を人材育成体系に取り入れるポイント
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研修を企画・運営されている読者の皆様は「社内集合研修が緊張感のある場にならない」という悩みを持たれたことが一度はあるかもしれません。こんなお悩みを持った方から、「他流試合型研修で社員に刺激を与えたい」という言葉をお聞きすることがあります。
他流試合型研修の効果や、自社にフィットしそうな取り入れ方があるだろうか?という点を一緒に考えていきましょう。
第1章
他流試合型研修を
人材育成の手段として活用する目的は?
他流試合型研修を取り入れる目的には何があるでしょうか。筆者は3つあると考えています。社員への刺激、人脈形成、そして対象者の自身の思考に対する見直しです。
他2つと比較して、自身の思考の見直しはイメージがしづらいかもしれません。これは、自身が持つ意見に対しても、「本当にそう言い切れるのだろうか」と建設的な批判を持てるようになること、深い内省ができることを意味します。
民族的背景が違う人々の集団の中では、人々はエビデンスに基づいて考える傾向が出るという研究結果があります1)。つまり多様な方々とのやりとりは、自身の意見に対してもエビデンスに基づき、「本当にそう言い切れるのだろうか」と批判的になることを促すのです。
これと同じことが、他流試合型研修でもいえます。社外の人と共に学びながら、自身の意見・考えを発信し、議論を戦わせることは、これまで使っていなかった頭の使い方が求められ、過去の成功体験から導いた持論の整理や、持論のアップデートが起こりやすくなります。
サードプレイスラーニングや越境学習が、自身に染みついた信念やルーティンをアンラーンして、新たな考え方を身に着けることに有効であるという研究結果2)や、”社外勉強会に参加している人(N=221)の方が、社外勉強会に参加していない人(N=402)よりも、個人業績が高い”という研究結果3)も存在します。
また、違った角度からの活用理由として、育成対象者の人数が限定されている場合が挙げられます。他流試合型研修は1名から派遣が可能なため、企業規模がそこまで大きくない、あるいは厳選した社員に育成機会を与えたいなどの場合に当てはまります。これも合理的な活用目的です。
第2章
他流試合型研修の選び方
他流試合型研修という名称で提供されているプログラムには、様々なものがあります。これらを選ぶ際には、例えば以下のような切り口で分類分けするとよいかもしれません。
2-1. 提供者
- 研修会社や教育団体が提供しているオープンスクール、オープンセミナーと呼ばれるもの
- 一社(または複数の企業が共同して)幹事会社として企画・運営しているもの
2-2. テーマ・内容
- 特定のビジネスの問題解決や社会課題について、グループでプロジェクトを組んで取り組むもの
- 特定のテーマ(リーダーシップなど)について、ケーススタディなどによるグループディスカッションに取り組むもの
- 知識のインプットに重点をおいた、講義中心のもの(講義中心のものを他流試合と捉えることは少ないかもしれません)
2-3. 受講期間
- 数時間のセミナー
- 1日の研修
- 3ヶ月間~半年間など比較的長期にわたるもの
2-4. 受講者(他流試合の相手)
- 会社規模
- 業種
- 職種
- 階層
- 年代
この分類に属さない重要なポイントとして、良いコミュニティであるかという点が挙げられます。具体的には、前向きに議論に参加する受講者集団を形成する工夫がなされているか、受講者同士のネットワークが研修前・中・後も継続する工夫がなされているか、といったことです。
よい学びを得られるかは、よいコミュニティであるかに大きく影響を受けると言えます。参加企業リストなどの外的な部分だけでなく、この点にも留意して選択されることをおすすめします。
第3章
他流試合型研修への
派遣前・派遣中・派遣後に留意すべき点
他流試合型研修であっても、受講前の動機付けや受講後の振り返りなど重要なことは、社内集合研修と同様です(参考:階層別研修の効果を高める3つのポイント)。本項では、他流試合ならではの留意点にフォーカスして補足します。
3-1. 派遣前
社外の方との機密情報の取り扱いルールについて、受講者に説明しておきましょう。教育団体の提供する他流試合プログラムであれば、受講者への秘密保持のルールが明記されていることもあります。
3-2. 派遣中
他流試合型研修では、自主的な勉強会が行われることも多いです。一方で自主的な活動は派遣企業からは見えにくく、受講者の負荷やモチベーションが把握しづらくなる面があります。例えば定期的な面談を設けておくなど、順調に受講しているか、受講者に過度な負担がかかっていないかを確認できるよう、仕組みを事前に整えておくとよいでしょう。
3-3. 派遣後
公募型研修の場合には、他流試合経験者のコミュニティを社内で作る工夫も有効です。例えば学びの共有会や、Teams・Slackによるコミュニティの場を作る、などです。
他流試合は受講の心理的ハードルが高いことも多いため、身近な上司や僚からの紹介でそのハードルが下がり、希望者が広がっていくことも多いです。他流試合に参加した数名の座談会を、受講に関心のある社員に開放している企業もあります。公募型研修での活用促進という点では是非参考にしてみてください。
第4章
グロービスの他流試合型研修を
活用いただいた事例
グロービスでは3つの他流試合型研修(グロービス経営大学院、グロービス・マネジメント・スクール、グロービス・エグゼクティブ・スクール)をご提供しています。本項では、弊社のクライアントの他流試合型研修の活用事例を、2つご紹介します。
事例1:公募型研修で、他流試合を活用
やる気のある若手に社外で切磋琢磨する機会を与えたいという目的で、手を挙げて希望できる公募型研修の選択肢として活用されています。
グロービス・マネジメント・スクールは経営を体系的に学べる14科目を用意しており、社内の階層別研修ではニーズを拾いきれていない意欲のある方への学習機会となっています。
事例2:選抜型研修で、他流試合を社内集合研修と組み合わせて活用
先に他流試合に行ってから、社内集合研修を受講するという順番を有効に設計されています。
自組織での成功体験を持つ課長の方々にまず他流試合に臨んでもらい、その後で社内集合研修を行うことで、社内の受講生同士でも現状の延長戦上にない組織のあるべき姿について真剣に議論させる仕掛けとして機能しています。
第5章
最後に
本コラムでは他流試合型研修には、多様性の中で、慣れ親しんだ思考を批判的に捉え、新たな考え方を身に着けるという効果があることを整理し、実際の活用事例についてもご紹介してきました。
以下の事例もご参考になるかと思います。お時間の有る際に、ぜひご覧ください。
引用/参考情報 |
1) 参考:アーリック・ボーザー、” Learn Better 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ”、英知出版、2018年、P.220 2) 参考:松尾 睦、”仕事のアンラーニング 働き方を学びほぐす”、同文舘出版、2021年、P.111 3) 引用:中原 淳、”経営学習論: 人材育成を科学する[単行本]”、東京大学出版会、2012年、P.198 |