- 新規事業創造
新規事業創出を通じて「未来を創る人・組織を、創る。」三菱電機様の取り組み
新規事業創出を目的とした事業戦略グループを立ち上げ、アクセラレータープログラム(以下、アクセラ)をスタートさせた三菱電機株式会社 名古屋製作所様。その取り組みについて、同所の開発部 事業戦略グループ 専任 田辺章様と、十時詠吾様からお話を伺いました。
(部署・役職はインタビュー当時)
- ※本記事のインタビューはオンライン会議システムを通じて行いました。集合写真は密閉空間を避け撮影し、インタビュー写真はソーシャルディスタンスを取り撮影しております。
- ※アクセラレータープログラムとは、大手企業がスタートアップ企業などへ出資・支援することにより、新規事業の競争を達成するためのプログラムです。グロービスのアクセラレータープログラム詳細はこちら
背景と課題
企画前に抱えていた課題感
田辺さん:大元の課題感としては、変化しなければ当社は潰れるのではないか、という漠然とした危機感からでした。当社の設立は1921年。100年企業となりましたが、何かしら新しい活動を通じて成長しなければ、次の100年は生き残れません。
そこで、2018年4月、名古屋製作所で新規事業を創出するための事業戦略グループが立ち上がりました。所長のトップダウンで、各製品を担当しているビジネスユニットからメンバーが集まったのです。
しかし、新規事業の立ち上げ経験のあるメンバーが少ないこともあり、どのように進めればよいかが分からない。「何が新しいの?」という勘所もありません。「何か新しいことをやらねばならない」という思いは強かったものの、成功の糸口が見えていない、そんな状態でした。
企画前に考えていたゴール
田辺さん:事業戦略グループが立ち上がった段階では、明確なゴールはありません。そのため、「我々のゴールは何にすべきか」の議論から始めました。
結果、さまざまなことをゴールに定めました。たとえば、「名古屋製作所に留まらず、全社の従業員のマインドを変える」、「既存事業を推進している部署・従業員の皆さんにプラスとなる新技術・新アイディアを提供する」、「自分たちで新しいビジネスモデルを描く」、などです。
確かに我々は、新しいことをスタートするために立ち上がったグループです。しかし、従来の組織と全く関係ないことを推進すればいい、というわけではありません。当社全体の成長を見据えたビジョン/ステートメントを、ゴールとして設定しました。
十時さん:検討が進み、アクセラを導入しようとなった際、新たなゴールができました。組織風土を醸成し、新しいことへ挑戦する従業員を増やす/育てること、です。そのため、アクセラのメンバーを募集する際は、公募形式を取るなど自主性を尊重しています。
実際に新しい事業を創るということと、新しいことにチャレンジできる人を増やす。この2軸が、アクセラのゴールとなりました。
検討プロセスと実施内容
アクセラ導入にあたり、感じていた心配ごと・懸念点
田辺さん:懸念点としては2つありました。1つは新規事業立ち上げをどう進めるか。もう1つは周りからどう見られているか、です。
まず、どのように進めればいいかを模索しながら進めていた点は、懸念点でしたね。当初はどうしても、「社内で新しいアイディアを考えよう」という活動に偏っていました。ですが、自分たちだけではアイディア出しにも限界があります。
そのような中で「グロービスがアクセラのサポートをしている」と小耳にはさんだのです。グロービスとは研修で付き合いがあったので、大崎さん(グロービス担当コンサルタント)にお声がけをし、詳しくお話を伺うことにしました。
話を聞いてみると、他のスタートアップ支援にはない魅力が分かりました。それは、「事業会社の事を深く理解したうえでの支援」です。
グロービスは、事業会社の事を理解したうえで、人材育成などの観点からも事業会社を支援してくれるのです。事業会社とスタートアップ企業をマッチングしたら終わり、ではないですし、スタートアップ企業の支援だけ、でもないのですよね。そんな支援会社は、他にありません。
よくある新規事業の話は、どうしてもスタートアップが主役になります。大企業はスタートアップに比べて判断が遅い、ピボットできない、一度決めたら変えられないなど、ネガティブなワードが世の中にあふれています。けれども、事業会社の理解が深いと、「企業としては当然の経営判断・事業判断として、このような活動をしている」と分かってくれます。
さらにグロービスは、スタートアップについても知見があります。Crewwさんと業務提携を結んでいますよね。スタートアップのプラットフォーマーと提携しているという点も、魅力的でした。
スタートアップと事業会社、両者のバランスを取って道案内をしてくれるという点は、他社には真似できない特徴でした。特に我々は、全く知らない状態からのスタートだったので、グロービスに依頼して本当によかったです。
十時さん:私が不安だったことは、この取組が社外・社内からどう見られるだろうか、ということです。社外については、FA(Factory Automation)事業部というニッチな部署のアクセラに対して、スタートアップ企業から応募が集まるだろうか、と。
結局は募集してみないと分からない、ということでやってみたのですよね。結果、50もの企業から応募していただけた。グロービスの協力があってこそ、大勢のスタートアップから応募いただけたのではないかと思います。
その観点では、思ってもいない企業から応募していただけた、ということもうれしかったですね。
募集の前は「このような企業に来てほしい」「こんな技術を持つ会社と提携できないだろうか」という希望がありました。しかしこの希望は、あくまで自社の目線。想定通りの企業とだけやり取りをしていては、本プログラムは活気あるものにならなかったでしょう。
私の懸念として、社内からの視線も不安でしたね。「トップダウンで集められたメンバーが好き勝手やっている」と思われてしまうと、活動がスケールせず意味あるものになりません。
ですが実際にプログラムを進めてみると、杞憂でした。一緒に企画や討議をしたい人を募集してみると、たくさんのメンバーが手を挙げてくれましたし、大勢のメンバーが協力してくれました。新しいことをやらねばという危機感と、新しいことをやってみたいという欲求を持つ従業員が、実は大勢いたのです。
プロジェクト推進にあたり、こだわった点
田辺さん:我々とスタートアップ企業との関係性構築が、最も重要なポイントだったと思います。
一般的なプログラムでは、スタートアップと対話をしても、その一瞬だけで終わってしまうことが圧倒的に多いでしょう。けれどグロービスのプログラムは、共通の課題を設け、時間をかけてディスカッションする中で関係性を構築していきます。だからこそ、「一緒に新しいことをやろう」という共創へのモチベーションが高まりやすいのです。
実際、実証実験に進んだけれどうまくいかなかったスタートアップ企業もいます。けれど、それはあくまでその時のトライが失敗しただけ。「別のテーマでもう一回実証実験しよう」と話が進むことも、ありました。
関係性の構築には、グロービスの研修も有効でした。難波さん(本プロジェクトのファシリテーター)から叱咤激励される共通経験を通じて、メンバーが一枚岩になっていったように感じます。
スタートアップ企業が売り込んで、大企業がやる/やらないをその場で判断するような単純なプログラムでは、こうはいきません。一歩踏み込んで、「一緒に何か考えたら違う道ができるのではないか」という協働の関係性をつくれた点が、本プログラムの成功に大きく寄与しています。
十時さん:その点では、やりたいメンバーがいるかという視点も重要でした。事業会社側に「やります」と手を挙げるメンバーがいなければ、アクセラを能動的に進めることはできません。
田辺さん:確かに大崎さんからは、「スタートアップの話を聞くだけではなくて、三菱電機さんも引っ張らなければ駄目ですよ」と激励を受けていました。そういう意味では、スタートアップ企業が営業で我々がお客様、という関係性にならないよう、グロービスが主導してくれていたように思います。
十時さん:もう1つ、グロービスが入って良かったと思う点は、我々だけであれば採択しなかっただろう企業を強く推していただいた点です(笑)。例えば農業関連のスタートアップ企業は、我々だけであればまず選べなかったと思います。
我々は既存ビジネスのほうが詳しいし、それしか知りません。なので、どうしても持っている知識をベースに考えてしまう。しかしグロービスが間に入り、「まず一回やってみよう。両者がWin-Winとなる点があることを前提に議論してみよう」と背中を押してくれたことで、我々の視野・経験が大きく広がりました。
その点では、難波さん・大崎さんから推薦されたスタートアップ企業を採択できて、本当によかったなと思います。
成果と今後の展望
アクセラの成果
田辺さん:新規事業を立ち上げるという観点からは、最終的に4社を採択し、実証に進めることができました。4社のうち2社とは新たな実証実験を行うなど、今も関係が続いています。
組織風土の醸成という観点では、社内の反響が大きかったですね。名古屋に限らずさまざまな拠点から、本取組について「そのような面白いプロジェクトならば、ぜひ話を聞かせて欲しい」と要望をもらいます。
みな興味はあるけれど、なかなか一歩を踏み出せなかったのでしょう。我々が最初の一歩を踏み出したことで、組織全体の文化/風土醸成につながったという感覚があります。
当社の会長が外部講演する際にも、本取組に触れて頂いたこともありますが、「この取り組みは我々が思っていた以上に社内に広まっているのだな」と、驚いてしまいました。
田辺さん:最近は、名古屋製作所以外の社内でもアクセラのような、スタートアップを巻き込んだイノベーションや新規事業の活動が、活発になっています。
たとえば関西支社でも活動が進んでいますが、そのメンバーから「どうやって名古屋は進めたのか、聞かせてほしい」と、名古屋まで話を聞きに来てくれました。「グロービスからこのような研修を受けて、スタートアップとはこのような議論を交わした」という経験談を、社内に展開しています。
今後の取り組み
田辺さん:組織風土の醸成という観点からは、一歩先に進んだという気持ちがあります。
開発計画や中長期の戦略においても、「イノベーション」や「スタートアップとの連携」、「新事業の創出」といったフレーズが、目につくようになってきました。自分たちの活動をきっかけに、新しいことにチャレンジしようという人が増えています。
一方で、まだ道半ばだという気持ちもあります。
十時さん:田辺の言うとおり、更なる浸透には継続が必要です。
たとえば上層部にも、外部パートナーとの連携に対して理解のある方と慎重な方がいます。全社員が「そういうのもあるよね、大事だよね」という共通認識を持てなければ、継続的に新規事業案件を創出できる組織になれません。
浸透には更なる継続が必要であり、そのために我々が挑戦すべきことはまだまだあるな、と感じています。
グロービスは長らく三菱電機様に、さまざまな人・組織に関するソリューションを提供してきました。本プロジェクトでは、アクセラ導入に伴走させていただきました。
グロービスをよくご存じの方には、グロービスとアクセラが結びつかない方もいらっしゃるかもしれません。しかし私たちの使命は、「未来を創る人・組織を、創る。」こと。アクセラは、「未来を創る人・組織を、創る。」ためのHowの一つとして、導入をサポートしております。
三菱電機さんとの活動で印象的だったことは、皆さまの積極性と学習スピード。「こういったことをしたい」「こういった企業と組みたい」という主体性が、どんどんと芽生え、新規事業アイディアがブラッシュアップされていく様を、大変心強く感じていました。
新規事業の創出に必要なのは、自分たちがやりたいことの明確化です。やりたいことの種はスタートアップに多く、大企業には少ないと言われがちです。しかしスタートアップとの会話を通じてやりたいことに気づき、三菱電機様として取り組むべきことは何かが明確になっていく。適切な「場」と、新規事業を産み出すための「思考のプロセス」さえセットできれば、大企業から新規事業は次々産み出せる、そう確信できた貴重な体験でした。
今後も三菱電機様の「未来を創る人・組織を、創る。」営みに伴走し、名古屋から世界のものづくりをアップデートしていければと思っています。
私は本プロジェクトを通じて、プログラム中のセレクション・ブラッシュアップのサポートや、研修講師を担当していました。
私も最初は、「FA事業部でアクセラってどうなのだろう」と少しだけ不安でした。ですが結果として、50社以上から応募があったのは、十時さんのご発言の通りです。スタートアップ企業から見ると、三菱電機様はこれほど魅力的な企業なのだな、というのが最初の印象でした。
本プロジェクトで印象的だったのは、三菱電機様の皆さんのリーダーシップ。アイディアを持ちこんだのはスタートアップ企業のはずなのに、三菱電機様の方が多くのアイディアを投入して、企画をブラッシュアップしていく姿を頼もしく感じていました。
皆さんのリーダーシップを見るにつけ、プログラムを引っ張っていたのは、三菱電機さんの「新しいものを創りたい」という強い想いだったのでしょう。その気持ちが、プロジェクトを通じてどんどんと強くなっていく様を、すぐそばで感じ取れたことが、私の最大の収穫です。
弊社の担当者がいつでもお待ちしております。