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導入事例
  • 新規事業創造

時代の変化を捉え、新たな価値創造ができるマーケターを育む

花王株式会社 2024.01.31

日用品や化粧品などで数々の有名ブランドをもつ、日本を代表するメーカーである花王株式会社様は、マーケターを育成する「マーケティングユニバーシティ マスターコース」(以下、本プロジェクト)を長年にわたり実施しています。本プロジェクトを企画・運営している同社のコンシューマープロダクツ事業統括部門 マーケティングイノベーションセンター マーケティング教育企画グループ リーダー 吉田 展子様、受講者であるハイジーン&リビングケア事業部門 ブランドマネジャー 北村 充様にお話を伺いました。(役職はインタビュー当時)

はじめに:本プロジェクトの概要

花王株式会社様は、「アタック」「キュキュット」「ロリエ」「ビオレ」などの有名ブランドを多く手がける日用品メーカーです。同社では10年以上にわたり、マーケターを育成する取り組みである「マーケティングユニバーシティ」を実施しています。

マーケティングユニバーシティには、若手マーケターが参加する「ベーシックコース」、マネジャー候補者が参加する「マスターコース」の2つのコースがあります。このうちマスターコースでは、生活者の変化に寄り添い、事業全体をリードするマーケター育成を目的とし、顧客分析や事業立案のステップのほか、デジタル技術など時代に応じた内容を学んだ後、新規事業の提案を行っています。

本プロジェクトにはグロービスが参画し続けており、時代の変化に応じて事業の変革を起こせるマーケターを育成することを重視し、毎年、プログラム内容のブラッシュアップを重ねています。

インタビュー:プロジェクト実施の経緯

プロジェクト前に抱えていた問題意識

吉田さん:

本プロジェクトは、当社が社会や生活者の変化をキャッチアップし、変革を続ける企業であるべきという思いのもと、20年ほど前から実施しています。

時代の移り変わりが激しくなり、「我々は本当に生活者に寄り添えているだろうか」という健全な危機感を年々強く抱いています。その中で、当社は人々の心豊かな生活の実現のため、変革をリードする存在であるべきだという自負のもと、マーケター育成を長年続けています。

プロジェクトで目指していたゴール

吉田さん:

世の中の変化を捉えて、事業を変革するための知見を養うとともに、志をもったリーダーを育成することが本プロジェクトのゴールです。参加者は、各事業部のマネジャー候補の人財を選抜しています。

事業を変革するためには、現業であるブランドマネジメントや商品開発より一段高い視点をもつことが必要になります。そのため、プログラム構成は、新規事業を設計するためのポイントを体系的に学んだうえで、実際に自社に寄与する新規事業を立案する内容です。事業の提案を行う場面では、役員層も同席してフィードバックを行います。

また、時代に応じた新たな知見をもち、ビジネスモデルを構築できるスキルを磨くため、プログラム内容は毎年少しずつ変えています。近年重視しているのは、デジタル技術を事業に取り入れる視点です。テクノロジーの進化を抜きにしてビジネスを語れない時代になりました。本プロジェクトでもデジタルの要素は必須だと考え、プログラム構成に組み込んでいます。

<本プロジェクトの狙い>

プロジェクトの主な内容

実施において大事にした点

吉田さん:

本プロジェクトで大切にしたことは、中長期の視点をもって外部環境や生活者を理解し、事業を提案することです。

参加者は現場をリードする立場として、日々の業務がかなり忙しくなっています。物事を半年や1年の短期スパンで捉え、積み上げていくことがどうしても多く、長い目線で俯瞰してビジネスを捉え、考える余裕をもちにくいのです。だからこそ、通常業務から離れるこの機会を生かして中長期視点で一から新規事業を考え、組織にその視点を持ち帰ってほしいと考えました。

もう一点、私がプロジェクトを企画・運営する立場として意識していたことは、参加者一人ひとりへのケアです。多くの業務を抱えながら本プロジェクトに参加するからこそ、全員がゴールまで完走してほしいと思っています。

毎回のセッション冒頭で目的を丁寧に伝えるとともに、セッション終了後に参加者が提出する所感にはすべて目を通し、一人ひとりの状況を把握するように努めました。必要に応じて個別に声をかけて話を聞いたり、相談が来たらすぐに対応するよう心掛けていました。

そして、プロジェクトで取り組む事業に対してモチベーションをもてるよう、事業テーマは社会の潮流から今後の生活者のくらしを考えたときに自身が解決したいと思う課題をもとに考えてもらうことにしました。自分の課題意識と花王が手がける必然性、そして採算性のすべてを満たす筋のよい事業テーマを考えるのは難易度が高いと思います。ですが、講師や他の参加者から意見をもらいながら事業を具体化するプロセスを経験し、自分ごととして最後まで取り組めることを重視しました。

コンシューマープロダクツ事業統括部門 マーケティングイノベーションセンター
マーケティング教育企画グループ リーダー 吉田 展子様

実施してのご感想、受講者の変化

吉田さん:

参加者が提案した事業内容を見ると、いずれも視座が上がり、中長期の時間軸で俯瞰してビジネスを捉えることができていると感じられます。提案内容の質も年々高くなっており、企画者として手応えを感じていますし、役員層からも高い評価をもらっています。

また、近年のプログラムで取り入れているデジタルの視点が多くの提案内容に含まれており、学んだことを事業創造に生かしていることが感じられました。参加者にとっても、日常業務で感じていたテクノロジーの変化が、今回の経験によって「モノをつくるだけでは生き残っていけない」という明確な危機感に変わったように思います。

講師には事業内容を検討するプロセスにおいて、多くの示唆とフィードバックをいただきました。豊富な経験や知見をもとに厳しくも温かい意見を多くいただいたおかげで、全員がゴールに辿り着けたと思います。“何を学ぶのか”とともに、“誰から学ぶのか”も大切ですね。

本プロジェクトを終えた後、責任や役割が大きくなっている参加者も少なくありません。ブランド/開発マネジャーとして活躍する参加者を多く輩出できていることを嬉しく思っています。

今後の展望

今後の展望

吉田さん:

時代の変化を後から追いかけるのではなく、素早くキャッチして変革を起こし続け、生活者に価値を提供できる会社になるために、本プロジェクトでは来年度以降もテクノロジーの変化は学び続けるべき分野だと考えています。

また、歴史のある会社だからこそスピード感をもって変化することを意識しなければなりません。その変化をワクワクした気持ちで向き合える組織でありたいとも思っています。

次回以降のプロジェクトも、新たな知見を外部から取り入れ、刺激を得る内容にするために、グロービスの力を借りながら企画していきたいと思います。特に事業テーマの検討においては、自分の課題意識を中心にしながらも、高い視点をもてているか、社会・生活者の潮流に合致しているか、花王がやるべき事業か、といった複数の軸を満たす内容にできるよう、進化させたいと考えています。

そして、多くのマーケターに役立つプログラム内容にしつつも、誰もがモチベーションを維持しながら成長できるようにしなければなりません。プログラム内容をブラッシュアップするとともに、運営においては参加者一人ひとりをしっかり洞察していくべきだと思っています。本プロジェクトが会社の成長はもちろん、参加者の職業人生を充実させるきっかけになってほしいですし、周囲のメンバーにもよい影響を与えて組織全体を活性化する源にしたいと考えています。

コンシューマープロダクツ事業統括部門 マーケティングイノベーションセンター
マーケティング教育企画グループ リーダー 吉田 展子様

参加者へのインタビュー

本プロジェクトで得られた学びと、自身の変化

北村さん:

本プロジェクトへの参加の話をもらったのは2022年でした。過去に参加した先輩方から大変さは聞いていましたし、新規事業立案という現業とは異なる取り組みへの不安もありました。ですが、時代が変化する中で、私が担当する事業の方向性をあらためて見つめ直すため知見を得るよい機会だと思って参加しました。

GLOBIS 学び放題」で基礎知識を得て、ケースメソッドでその知識を使って実践的な学びを得て、新規事業を検討するという体系立ったプログラムのおかげで、多くの学びが得られました。

ケースメソッドでは、フレームワークを用いて体系立てて事業分析ができ、多くの気づきがありました。他社の事例ではビジネスを俯瞰して冷静に分析できる一方、自分が担当する事業になると客観的に見るのが難しいと感じましたね。私の癖として短期的な思考に陥りがちであり、マクロ環境分析などによって世の中の潮流を見る習慣がついていないと痛感しました。

本プロジェクト後半で行った新規事業の検討では、私はサービス分野の事業を考えました。検討を進める中でぶつかった壁は、採算性です。検討したビジネスモデルに沿って収支を試算してみると、利益が生み出せないモデルであることが分かりました。製造業とは異なるサービス業のビジネスモデルに不慣れで、講師に相談しながらビジネスモデルを再検討し、この壁をなんとか乗り越えました。生活者に価値を提供できたとしても、ビジネスとして成立しなければ意味はないと思い知らされ、よい経験になりました。

半年間の取り組みを振り返ると、自分自身の視座が高まるとともに、ビジネスに正解はないことも理解できました。事業の成果が芳しくなければ事業自体の仕組みを変え、再び成長させることを目指せばいいとポジティブに考えられるようになったと思います。

また、当社を俯瞰するよい機会にもなりました。総合メーカーとして生活に役立つ商品を多く提供し、真摯にものづくりに取り組んでいることは、当社の守るべきDNAだと感じています。

その一方、大きな組織であるがゆえに事業部単位で動くことが多く、総合メーカーとしての価値を生活者にお届けしきれていないのではないか、という思いも抱くようになりました。

スピード感も課題だと考えています。プロジェクトで学んだスタートアップ企業の事業立ち上げは、当社の商品開発サイクルに比べて明らかにスピードが速いのです。当社でも商品開発を短期間で進めるチャレンジをしていますが、変化の激しい時代においては、アジャイルに事業を推進するスタートアップの進め方も参考にするべきだと改めて思いました。

ハイジーン&リビングケア事業部門 ブランドマネジャー 北村 充様

業務への活用

北村さん:

本プロジェクトでは参加メンバー同士で幾度もディスカッションし、新規事業の検討では講師や他のメンバーから意見をもらって修正を重ねました。この経験から、アドバイスやフィードバックを他者からもらうことは大切だと部門のメンバーにも伝えています。ひとりで考え続けるのではなく、“クイックに臆さずアウトプットをして周囲の人に意見を聞いてみよう”と促しています。

また、プロジェクトを通して抱いた課題感をもとに、総合メーカーとしての価値を発揮すべく、事業部間の連携を図る活動を推進し、ライフステージに応じて商品を提案できる環境を作りたいと考えています。ひとつの商品をお買い求めいただくだけでなく、長いスパンで生活者に寄り添い、LTV( Life Time Value:顧客生涯価値)を高める活動です。

昨今は物価高などの影響で生活者は大変な思いをしていますし、共働き家庭が増えるなど家族のあり方も多様化してきています。その中で総合メーカーである当社だからこそ生活者へお届けできる価値を考え抜き、その価値を高めていきたいと考えています。

本プロジェクトの関係者一同にて
担当コンサルタントの声
岡本 佳那子

花王様は、生活者に真摯に向き合い、ものづくりをされてきた会社様です。
近年、日本の人口減少、生活者の嗜好の多様化、販売チャネルの多様化、新興企業の台頭など、テクノロジーの進化も影響し、事業環境がたった数年で変わり、環境に適応できないのであれば、社会から沙汰されてもおかしくない世の中になってきました。
本プロジェクトは、そんな健全な危機意識を持ち合わせている優秀なリーダー候補者が参画され、環境変化に対応し、生活者に寄り添い続けられる糸口を一緒に探しています。ただ、その糸口を探すにあたっては、既存業務の延長線上で考えるのではなく、事業、自社を俯瞰して捉え、どうすれば環境に適応できる事業がつくれるのか意見が言えるようになること、またその事業をつくるにあたってのこれまでと異なる行動がとれるようになることが必要です。そこに対して、徹底的に他社のケース、特に行動様式の異なるグロービスが持ち合わせているベンチャー企業のケースなども通して議論すると同時に、自身でゼロからビジネスプランを立てる経験を通して、「他社と自社」「他者と自身」を比較しながら、自身の行動変容にまで繋げていただいています。
昨年2023年、花王様は新中期経営計画「K27」が発表されました。弊社もその新たな挑戦により沿い、今後も花王様と共に社会の創造と変革に寄与できればと思っております。

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