選択型研修(公募型研修)を社内に浸透させたいです。何から手を付ければ良いですか?

2022.08.03

ジョブ型雇用が浸透し始めた昨今、自律的にキャリア形成をしていくという観点から、選択型研修を取り入れる企業が増えてきました。しかし人事の方からは、「思ったほど手が挙がらない」、「期待している研修にエントリーしてもらえない」というご相談をよくいただきます。

 

なぜうまくいかないのでしょうか。本コラムでは選択型研修(公募型研修)における難所を明らかにし、その対策方法について解説していきます。

執筆者プロフィール
中島 裕美子 | Yumiko Nakashima
中島 裕美子

早稲田大学商学部卒業後、リクルートの求人広告領域にて法人営業・代理店統括に従事。
現在はグロービス法人部門にて企業の組織開発・人材育成支援に従事。
様々な業界の企業変革や戦略実現の支援を目的とした人材育成体系の構築支援、各種研修プログラムの企画・設計・実施を行う。


第1章 
選択型研修(公募型研修)の実施上の難所

選択型研修に手を挙げてもらえない理由は、何なのでしょうか。筆者が担当しているお客様にご協力いただき、従業員の方に「なぜ選択型研修にエントリーしないのか?」をヒアリングして以下のように整理しました。

企業に起因する理由

・社内で存在が認知されていない

・上司の理解が得られずエントリーできない

・業務が忙しすぎて、エントリーに踏み切れない

社員の皆様に起因する理由

・学びが必要だという認識がない

・何を選べばよいのかわからない

・自身のレベルを鑑みて、研修に付いていけるか不安

研修内容に起因する理由

・受講したいと思う研修がない

・期間が長すぎて受講しきれる自信がない

・会場が遠すぎて、受講できない

ではどうしたらこれらを解消でき、選択型研修(公募型研修)を活性化することができるのでしょうか。筆者は3つの打ち手が有効だと考えます。①社内広報する、②自律的なキャリアを支援する、③多様な研修を導入するの3つです(図1)。次項より、打ち手をお伝えしていきます。

図1:選択型研修が社内に浸透しない理由と、その打ち手

図1:選択型研修が社内に浸透しない理由と、その打ち手

第2章 
選択型研修(公募型研修)を浸透させる打ち手1:
社内広報を徹底する

すべきことの1つ目は、社内における認知を徹底的に高めることです。認知を高める際には、「認知の方法」・「内容」・「対象」の3つの軸で、認知ができているか考えてみるとよいでしょう。

認知の方法

研修のアナウンスが社内のイントラにアップされているが、社員はそのことに気づいていない、というのはよくあるパターンです。まずはメールや社内報、社内SNSといったツールや、役員や管理職からの声掛け、説明会の開催などリアルの接点を活用し、徹底的に告知を行いましょう。

また有効な手法の一つとして、受講者の口コミが集まる仕掛けを作る、というものがあります。

「この講座に興味があるけれど、仕事も忙しいし、やり切れるだろうか?そもそも忙しい中で時間を割く意味が本当にあるだろうか?」と両立の不安や学びへの疑問が先行して先延ばしになってしまう、という事態を避けるには、その講座を受講した人の口コミが有効です。「隣の部のAさんは論理思考研修を受けたのか。提案書を書くときに役に立つと書いてあるな、自分も提案書には課題があるから受けてみよう」など、立場の近い社員の口コミは、参加に向けた後押しになります。

イントラや社内SNSなど、なるべく閲覧しやすい場所に口コミが閲覧できるような仕組みを作れると理想的です。

認知の内容

社内の皆さんに何を認知してもらうかも、重要なポイントです。

プログラムの内容を伝えることは皆さんもされていると思いますが、そもそもなぜ選択型研修を実施するか、会社や人事部は社員に何を期待しているか、などを伝え、理解してもらうことも重要です。

選択型研修を整備した目的感が伝われば、後ほどお伝えする「自律的なキャリア支援」にもつながります。結果として、社員の自律的な行動を後押しできるようになるでしょう。

認知の対象

選択型研修の認知対象者は、受講者だけではありません。受講者の上長にも認知いただき、なぜ研修が必要かを理解していただく必要があります。

本人に学ぶ意欲があっても、上長に相談したところ「もう少し業務が落ち着いてから参加したらどうか」と促され、本人の学びに対する優先度が下がってしまうというケースをよくお聞きします。特に上長自身がこれまで学びの機会を経験していない場合は、学び自体に懐疑的である可能性もあります。

そのため現場のキーパーソンとなる上長向けに、選択型研修導入の背景や目的、育成との連動イメージなどを具体的に伝え、現場の学びに対する風土醸成を行っておく必要があります。

第3章 
選択型研修(公募型研修)を浸透させる打ち手2:
社員のキャリア自律を支援する

すべきことの2つ目は、社員のキャリア自律を支援することです。そのために必要なことは、社員のキャリア形成を後押しする仕組みの設計と、職務上で求められる行動やスキルの明確化です(参考:自己啓発制度(選択型研修)を活用した個人のキャリア開発のポイント)。

「目の前の仕事をするのに困っているわけではないし、今学ぶ必要性がよくわからない」という声は決して珍しくありません。学ぶ動機が生まれるのは、理想と現状にGAPがあり、「〇〇の知識・スキルがないと、理想とする仕事ができない」と認識ができた時です。

ですから、現状の姿と理想の姿(=組織からの期待役割と、個人としてのありたい姿を統合させた姿)、その双方を正しく認識できて、初めて学ぶ必要性(=現状と理想のGAP)が顕在化します。

一般的に年次の浅い社員が自身でGAPを把握することは難易度が高いため、実質的に人事や上司がサポートに入り、キャリア面談を行ったり、現状の棚卸しを行うことも有効です。

また、どの階層・職種にはどんな行動が求められ(いわゆる行動要件)、そのためにはどんなスキルが必要となるのかを整理して示すことも有効です(図2)。

図2:階層別人材要件定義(例)

図2:階層別人材要件定義(例)

前提としてVUCAな環境下である現在は、過去のやり方が通用せず、その時々で最適な戦略を考えていくことが必要とされます。つまり、過去と比べてコンセプチュアルスキルと呼ばれる創造力、構想力、課題解決力などの力を育むことや、幅広い経営知識を理解する必要性が増しているといえます(図3)。

図3:何を学ぶ必要があるか?

図3:何を学ぶ必要があるか?

このように多くの知識・スキルが必要とされているからこそ、人事がそれらを整理することには大きな価値があります。社員からすると「一つ上のマネージャーの昇格を目指したいから、そのために必要となる戦略思考を学んでみよう」など、何を学べばいいかがわかりやすくなり、より適切な研修にエントリーできる可能性も高まっていきます。

第4章 
選択型研修(公募型研修)を浸透させる打ち手3:
多様な研修を導入する

最後に考えていただきたいのが、多様な研修の導入です。ここでいう多様とは、研修の内容だけではありません。研修の形態(リアルorオンラインor動画学習)、時間帯、会場の場所なども視野に入れ、検討する必要があります。

グローバル化、女性活躍推進、リモートワークの一般化など、多様な価値観が当たり前になっている昨今では、これまでのように1つの会場に集まって行う研修のみでは、平等な学習機会の提供が難しくなっています。様々な軸で、多様な研修が取り揃えられているかを確認することが、ますます重要になっています。

グロービスが提供しているスクール型研修は通学/オンラインの両形式での開講や振替制度など、忙しいビジネスパーソンが通いやすい各種制度をそろえています。選択型研修の整備にお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

第5章 
最後に

本コラムでは、選択型研修を社内で活性化させるために、何から手を付ければよいかについてお伝えしました。研修を整備するとなると「どのようなプログラムを揃えるか」に目が行きがちですが、どれ程充実したラインナップであっても、そもそもの認識やキャリア自律支援の仕組みが整っていないと、活用がされない状態に陥ってしまいます。

本コラムのポイントを押さえ、社員が自律的に活用できる選択型研修を作っていきましょう。より詳しく学びたい方は、以下サイトもぜひご覧ください

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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。