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自己啓発制度(選択型研修)を活用した個人のキャリア開発のポイント

皆さんの会社では、個人のキャリア開発をどのように考えておられるでしょうか。「個人で考えるべきだ。企業が口出しすべきでない」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし昨今、社員の主体的なキャリア開発を企業が支援する重要性は高まっています。

本コラムでは、個人のキャリア開発を企業が支援する上で考えるべきポイントについて触れ、具体的な手法として自己啓発制度の企画・運用について紹介します。

1. キャリア開発とは?

キャリア開発とは、キャリアを中長期的な視点で構想し、それを実現するために必要な経験やスキルを獲得していく活動全般を指します。未来の個人の姿を具体的に描き、現状との差分を埋めるための機会や能力開発を設計/実行します。

一般的にイメージされるのは、外的なキャリア(職業や役職)プランを実現するための活動です。しかし昨今は、内的なキャリア(働きがいややりがい)を充実させるための活動も重視されつつあります。社員全員が昇進・昇格を続けていくというキャリア設計が難しくなっていることや、ライフプランが多様化していることなどから、内的キャリアにも目を向けていく必要が増しています。

「キャリア開発」というと、図1のように個人主体の活動と企業主体の活動に分けて捉えられていることが多いように思います。

図1:個人主体のキャリア開発と企業主体のキャリア開発

図1:個人主体のキャリア開発と企業主体のキャリア開発

1-1. 個人が主体的にキャリアをデザインして、自らの能力を開発する

個人が将来の姿を描き、そのためのプロセスを自ら設計して実行することです。個人が個人のなりたい自分に近づくことを目的とした、自己実現のためのキャリア開発と言えます。

例としては、就きたい職業に転職するために資格を取る、異動したい部署があるので社内公募に手を挙げる、今の仕事でさらに成果を出したいからビジネススクールに通うなどの活動です。

このキャリア開発のメリット/特長は、個々の高いモチベーションに支えられることです。企業が積極的に介入せずとも、社員が能動的に成長をしてくれることを期待できます。

一方デメリットは、企業からの期待と個人のありたい姿にずれが生じる可能性があることです。ずれをすり合わせる機会がなければ、企業で活躍してほしい社員が退職してしまうかもしれません。また、自ら率先してキャリア開発できる社員は、稀だと考えた方が良いでしょう。多くの社員は、自分のありたい姿が分からない、何となく描けているが具体的な行動が描けない、という悩みを抱えているものです。

1-2. 企業が社員のキャリアの方向性を決め、異動や育成を行う

2つ目は、企業が社員のキャリアの方向性を示し、企業が設定したあるべき姿に社員を近づけていこうとする、企業主体のキャリア開発です。このキャリア開発の目的は、企業が従業員という経営資源を有効に活用して成果を挙げることです。

たとえば、管理職任用者を決めて管理職に必要な知識をインプットする、スキル不足で成果を挙げていない社員に指導・育成を行うなどです。人材ローテーションも、社員に次の仕事経験・成長機会を与えようとする、企業主体のキャリア開発の1つです。

企業主体のキャリア開発のメリットは、企業の経営戦略や部門目標に紐づけたスキル開発が行えることです。

一方デメリットは、社員がやらされ感を持つことです。たとえ企業が求めるスキルであっても、個人として必要性を感じない/興味がわかない分野のスキル開発は、学習のモチベーションや学習効率が落ちてしまい、期待通りの結果を得られないことがあります。また、人事異動という手段が制限されつつある点も要注意です。会社都合による転勤は受け入れられにくくなっており、計画的な人材配置を熟慮していく必要があります。

1-3. キャリア開発の理想の進め方

ここまで「キャリア開発」を社員が自己責任の元で行うのか、または会社が管理・決定するのかという2種類に分けて述べてきました。しかしこの2つのキャリア開発は、それぞれ別のものとして進めることが、組織の成果につながり、組織で働く個にとっても望ましい状態と言えるのでしょうか。

本来は、社員個々人が自己実現を行いながら、組織の期待も果たしているのが理想の状態です。もちろん社員にとって仕事で自己実現できているというのは働きがいのある状態です。会社にとっても社員が成果を発揮しつつ組織への帰属意識も高い状態であれば、自社内で成果を発揮し続けてもらうことが期待できます。

この状態を目指して、企業が個人のキャリア開発を支援する(企業によるキャリア自律支援)必要性が注目されています。次項では、「企業によるキャリア自律支援」の考え方について解説します。

2. キャリア開発を個人と企業で行う、キャリア自律支援とは?

キャリア自律支援では、個人と企業が二者でキャリア開発を推進していきます(図2)。

図2:個人主体のキャリア開発を企業が支援する

図2:個人主体のキャリア開発を企業が支援する

キャリア自律支援において重視すべきは、社員が自らありたい姿を描き、実践していくこと。その達成に向けて企業は、個人のありたい姿と企業の期待とをすり合わせながら支援していきます。

キャリア自律支援には、以下のようなメリット・デメリットが見込めます。

2-1. 個人へのメリット

  • 現在の仕事に対する動機付けが高まり、モチベーション向上につながる
  • 現在の仕事での期待役割を果たしながら、能力・スキルの更なる発揮・開発を自主的に行える
  • キャリア開発を自分事として捉えることができ、不意なキャリアチェンジへの対応力を高められる

2-2. 企業へのメリット

  • 社員のキャリアへの納得度が増し、自社へのエンゲージメントが高まる/離職率低下につながる
  • 能力開発に前向きな人材の持つ新しい知見や専門性を組織内に取り込むことができる
  • 仕事に対して社員をアサインする際に、能力・経験だけでなく、その仕事への意欲の高い人材を見つけることも可能となる

2-3. デメリット

一方デメリットは、実際の運用が難しいことです。個のありたい姿と会社の期待をすり合わせ、重なり合う部分を納得のいく形で見つけることは、非常に難しいものです。これらは制度を作るだけで解決できるものではなく、運用中の上司・部下の対話が大きな鍵を握っています。上司と部下の対話をサポートするため、キャリアアドバイザーを社内に置く企業も増えています。

個人のキャリア開発を企業が後押しするのは簡単ではありません。その認識のもと、制度の企画と、特に運営に工夫を凝らしていきましょう。

3. 自社はキャリア自律を支援すべきか?

ここまで読まれた皆さまは、キャリア自律支援についてどのように感じられましたか? 多くの方は、難しそうと感じたのではないでしょうか。

「個人のありたい姿は個人に委ねておけばよい」、「キャリアパスは会社が示すから、個人で考えなくてもよい」、「ある程度は主体性を持ってほしいが、大枠は会社のあるべき姿に従ってほしい」と考える方は多いでしょう。

しかし筆者は、ぜひ読者の皆さまの会社には、キャリア自律支援という考え方を持って社員の育成に取り組んで頂きたいと考えています。やらされ感ではなく組織への貢献意欲を持って日々の仕事で創意工夫する人材、自身の成長について自分と組織の両方のことを考え努力できる人材が自社内に増えれば、変化の激しい現在において、自社の競争優位性の源泉になるはずです。

10年後の自社の姿、自社における働き方を想像しながら、個を支援し、かつ組織にもしっかりと貢献してもらう価値/仕組みを考えていただきたい。そのための具体的な取り組みの一つとして、自己啓発制度について次項で取り上げます。

4. 自己啓発制度でキャリア自律を促進するには?

キャリア自律を支援するには、具体的にどのような育成施策があるのでしょうか。1つの手法として、自己啓発制度があります。

しかし、ただ自己啓発制度を導入するだけでキャリア自律が進んでいく訳ではありません。ここでは、自己啓発制度でキャリア自律を促進するポイントをご紹介します。自社の状況を振り返ったり、改善を検討したりする上でのヒントにしてみてください。

4-1:会社からのメッセージ・情報の発信

4-1-1:学び続けることに対するメッセージの発信

自身のキャリアについて考え、それを実現するために能力開発してほしいというメッセージを発信することが大切です。自己啓発制度を導入していても、「学んでほしい」というメッセージが社員に伝わりきっていないことがあります。

社長や人事部長に協力を仰ぎ、「学んでいる社員を支援する」「自ら学び続けてほしい」というメッセージを、常日頃から発信していきましょう。

4-1-2:会社の期待と自己啓発プログラムの紐づけを共有

会社の期待を明確にし、その期待と自己啓発プログラムとの関連性を伝えることも重要です。

具体的には、役割や資格に応じたスキルマップと自己啓発プログラムを紐づけたり、異動が多い会社であれば職種に応じた推奨プログラムを提示したりするとよいでしょう。

4-2:プログラム内容の選択

4-2-1:プログラムの選択と集中

自己啓発制度の選択肢を増やしすぎてしまうことには、注意が必要です。選択肢が増えすぎて、社員が学ぼうとしても選べない(選びきれない、選ぶ意欲を失ってしまう)、という企業を多く見かけます。

既に制度を設けているのであれば、通信教育やeラーニングは、今何種類あるでしょうか? 導入時から入れっぱなしのものがないでしょうか? 同じような内容の通信教育が多い場合には、コース同士で代替できないか考えましょう。

キャリア自律支援というスタンスを取る上では、全ての教育プログラムを会社が用意する必要はありません。個別性の高い能力開発は会社が用意するのではなく、社員個々人が探して自己の責任の元で行ってもらうという考え方も必要です。

4-2-2:ポータブルスキルを学べるプログラムの充実

会社から提供するプログラムとして、充実させておきたいのは、今の仕事から次の仕事への持ち運びができ、再現性の効くポータブルスキルを強化するプログラムです。

キャリアの変化に対応できる個を育成するというメッセージを発信し、社員には再現性の高いスキルを身に着けてもらいましょう。

4-3:管理職層に自己啓発制度を認知してもらい、サポーターになってもらうこと

キャリア自律を促すための自己啓発制度の運用には、上司の関わりが欠かせません。

上司が次のキャリアステージを示しながら学習を促したり、今の仕事でつまずいている時に参考となるプログラムを紹介したりすることが、自律的な能力開発を促します。

管理職層に自己啓発制度を認知してもらう努力を怠ってはいけません。

4-4:組織全体で学習の風土を醸成すること

同僚・同期という近しい存在が学んでいることも、自律的な能力開発に影響を与えます。

受講者同士が集まり自己啓発制度で得られた気づきを共有し合う、同じプログラムを学習している社員同士の勉強会を奨励する、など学びのコミュニティづくりを行うことは効果的です。

5. 最後に

本コラムでは、「そもそもキャリア開発とは何だろう?」、「企業が個人のキャリア開発を支援していく必要があるのだろうか?」というところから、自己啓発制度を活用して個人のキャリア開発を支援する際のポイントについて考えてきました。そもそも自社にとっての価値は何か?を考えて頂き、企業から社員に期待を伝えられているか、また自己啓発プログラムの量や内容について振り返ってみて頂ければ幸いです。

自己啓発制度を活用した個人のキャリア開発について更に学びたい方は、ダウンロードできる資料も用意しています。ぜひダウンロードして、社内の討議にお役立てください。

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執筆者プロフィール
緒方 美穂 | Miho Ogata
緒方 美穂

大学卒業後、化学メーカーに入社。工場並びに本社人事部に所属して人事施策の企画・運用を担当した後、営業部門へ異動し化学繊維の国内・海外営業を担当。
現在はグロービス法人営業部門にて、企業の組織開発・人材育成支援に従事。製造、インフラ、サービス業等、幅広い業界を担当し、事業に資する育成体系の構築・運用支援、研修プログラムの設計を行う。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。