グローバル人材育成の始め方

2020.09.25

「グローバル人材の育成を企画してくれ」と上司から降ってきた仕事、皆さんなら何からはじめますか? 「何から手を付けてよいか分からない」と感じる方が多いのではないでしょうか。なぜならグローバルという言葉が持つ意味は広く、本質を捉えづらいからです。本コラムでは3つのSTEPに沿って、自社でグローバル人材育成をはじめる際の考え方をお伝えしていきます。

執筆者プロフィール
奈良迫 英樹 | Hideki Narasako
奈良迫 英樹
慶應義塾大学経済学部卒業​ HEC Paris MBA修了​ 日系・外資系コンサルティングファームで戦略、M&A、人事・組織、ITなどのプロジェクトに関わった後、グロービスに入社。グロービスではメーカや商社などの顧客に対して、タレントマネジメントや選抜リーダー育成に関する営業、コンサルティングに従事している。

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STEP1:「グローバル人材とは」を定義し、
必要なスキル・マインドを明確にする

そもそもグローバル人材とは、どのような人材を指すのでしょうか。おそらく100人いれば100通りのグローバル人材が想起されるはずです。まずは自社にとっての「グローバル人材とは」を社内で話し合い、明確に言語化することからはじめましょう。

たとえば『グローバル人材とは、異文化環境下でも遺憾なく力を発揮できる人材』と、本コラムでは定義してみました。すると次に考えるべきは、必要なスキル要件です。異文化環境下で力を発揮していくには、何が必要でしょうか。まずは一般的な話から解説します。

ビジネスを進めていくにあたっては、経営の定石、考える力、人を巻き込む力が普遍的に必要です(図1左)。また、企業がグローバル化を進めていくにあたっては「異文化を理解する」「多様性を受容する」「現地の国益を理解する」「グローバル市場全体を考える」などをできる人材が必要です。つまりグローバル人材には、異文化コミュニケーション力、英語力、国際的視野も必要です(図1右)。

 
図1:グローバル人材に必要な一般的な能力

図1:グローバル人材に必要な一般的な能力

上記は一般的な話です。これらのスキルに加え、自社のグローバル人材の定義に合わせたスキル要件を考える必要があります。先ほど定義した『異文化環境下でも遺憾なく力を発揮できる人材』であれば、精神的タフネス/ハードネゴシエーションの経験/リベラルアーツの素養なども、必要かもしれません。

たとえば筆者の考えるグローバル人材は、図1の要素に加えて「自ら新しい世界へ飛び込む積極性」「常に学び続ける力」を持つ人材です。筆者がお手本とするグローバル人材は、ヨーロッパのビジネススクールに留学していた時のクラスメイトです。

GDPが比較的小さな国から来ていた彼は、将来は自国でなく海外で稼ぐ必要があります。そのため、図1の世界で通用するために必要な3つの能力すべてを、高いレベルで備えていました。日頃から語学やコミュニケーション力を高めるための鍛錬を続けていて、海外での生活や勤務経験も豊富でした。それに加え、自ら外へ出て学び、力を発揮できる。彼のような人材がグローバルで活躍できるのだと、今も思います。

STEP2:グローバル人材育成と国内人材育成との
違いを認識する

次のステップでは、グローバル人材育成と国内人材育成との違いを認識し、具体的な打ち手を考察していきます。

グローバル人材育成の担当者であれば、国内の人材育成に携わった経験がある方もいるでしょう。人材育成という観点では、グローバルであっても国内であっても、育成方法が本質的に異なるわけではありません。業界構造/ビジネス構造や中期経営計画/戦略などをもとに、あるべき人材像の仮説を構築し、現在の人材とのGAPを埋めるための施策を検討する、という流れでカリキュラム策定を行っていきます(図2)。

 
図2:カリキュラム策定のプロセス

図2:カリキュラム策定のプロセス

図2について、詳細を見ていきましょう。

1:あるべき人材像を定義する

業界構造/ビジネス構造/中期経営計画/戦略などをもとに、あるべき人材像の仮説を構築します。ここで大事なことは、現在ではなく将来のあるべき人材像を考えることです。そのため現在のハイパフォーマーの分析に加え、将来の戦略からブレークダウンし、あるべき人材の要件を定義することが必要です。

2:現状の人材の定義

あるべき姿が決まったら、次は現状の人材の定義を進めます。具体的には、下記のような論点に答えるためのデータや根拠を集めます。

・現在の人材のスキルレベルは?

・何をどの程度でき、何ができていないのか?

・何に困っているのか? 

グローバル人材の育成が国内人材よりも難しい要因は、ここにあります。すなわち、ナショナルスタッフの人材の定義が難しいのです。

日本人(あるいは日本国内で働いている人材)の情報は、社内に多く存在します。たとえば評価データ(バックグラウンドや入社時からの評価/性格/アセスメント結果/研修履歴など)が社内にあったり、育成担当者が頭の中で把握していたりします。一方ナショナルスタッフについては、評価データを持っていないことがほとんどです。

そのため現在の人材を定義するには、まずは現地人材の見える化からスタートしなければなりません。そのためには人事システムを導入し、国内外の人材に関する人事評価(定性/定量情報)や、アセスメント結果のデータを取り込む必要があります。

現地人材の見える化は、海外人材を含めたタレントマネジメントシステムの構築にも役立ちます。グローバル企業の多くが、グローバルのタレントマネジメントシステムを構築するため、以下のような諸活動を行っています。

1:人事システムの導入と国内外の人材把握のデータ整備を数年かけて行う

2:育成担当者が自ら海外拠点に足を運び現地の方々と直接コミュニケーションを取り、彼らの情報把握に努める

3:ギャップ測定と育成施策の考察

あるべき姿と現状が定まれば、これらのギャップを測り、ギャップを埋めるための施策(育成施策)を考えていきます。

STEP3:グローバル人材育成の対象者を
整理/選定する

育成施策を固めつつ、育成対象者の選定を進めていきます。育成対象者の整理方法は、1:グローバル化の進捗度合い、2:対象者の国籍と役職、に応じて変わります。

1:グローバル化の進捗度合い

まずは、これからグローバル化を進める企業について考えてみましょう。日本企業のグローバル化は、一般的に以下のように進みます。

1)海外に支社を作り、駐在員を送り込む

2)徐々に現地化が進む

3)マネジメント人材を現地の人材から育成/採用する

4)国籍や地域の関係なくグローバルでの経営を担える状態になる。

図3に、グローバル化の進捗度合いに合わせた育成対象者の変遷をまとめました。

 
図3:グローバル化の進捗度による育成対象者の区分

図3:グローバル化の進捗度による育成対象者の区分

上記はグローバル化を進めている企業に対する解の1つですが、既にグローバルへの進出を果たしていたとしても、新事業へ多角化を進める場合は同じように考えられます。

2:対象者の国籍と役職

対象者の国籍と役職を用いて、図4のように整理することも可能です。

 
図4:国籍と役職によるグローバル人材区分

図4:国籍と役職によるグローバル人材区分

図4を用いて整理することで、各人材の現状を細かく分析し、独自の課題を抽出して打ち手を考えることができます。

たとえば、海外赴任マネジメント人材は新卒から積み上げてきた日本人であり、基礎スキルは高そうです。一方ナショナルマネジメント人材は中途採用が多く、人によるスキルのばらつきが大きそうです。そうすると、海外マネジメント層の育成と一括りにはできず、海外赴任マネジメント人材とナショナルマネジメント人材には、異なる学習機会を提供する必要があると分かります。

対象者と決めた人材の課題に寄り添った育成パターンを整理していくことも、グローバル人材育成の大事な要素です。

最後に

本コラムではグローバル人材育成をどこから考えはじめたらよいのか、3STEPで紹介しました。

・グローバル人材育成は、国内人材育成と基本的な考え方は変わらない。ただし、海外拠点で働く人材は人材情報が少なく、見える化が必要

・あるべき人材像は「現在」ではなく、「将来」の事業の成功に必要な要素からブレークダウンして考える。そのため、今後の会社・事業の戦略やビジョンとの整合性が求められる

・ビジネスのステージによって求められる人材は変わり、日本人/現地人材あるいは役職によって育成課題が異なる

グローバル人材育成を企画するチャンスは少なく、社内の知見も蓄積しづらいものです。本コラムが、皆様の会社のグローバル戦略推進の一助になれば幸いです。グローバル人材育成について更に学びたい方は、下記資料も参考になるはずです。ぜひダウンロードしてご覧ください。

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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。