管理職が変われば組織が変わる~学び直しの実践例~

2023.05.25

前回のコラムでは、管理職に求められる4つの行動とは何か、そしてその成功に向けたポイントと難所について解説しました。

4つの行動の中には、エンゲージメント向上など、近年になって注目され始めた取り組みも含まれます。管理職が過去の経験だけを頼りにこれらの行動を実践することは難しく、学び直し(リスキリング)が必要です。

本コラムでは、管理職が学び直しを行うにあたって、筆者が講師として関わった実例と取り組みから、3つの事例をご紹介します。

執筆者プロフィール
池田 章人 | Akito Ikeda
池田 章人

大学卒業後、外資系人材サービス会社にて金融機関を中心とする法人向け採用戦略コンサルティング、およびキャリアカウンセラーとして1000名以上のキャリア支援に携わった後、グロービスに入社。
グロービスではスクール部門を経て、現在は法人部門・製造業チームのマネージャーとして、化学・金属・機械・製薬・食品など幅広い企業に対する、人材開発・組織開発のコンサルティングに従事。
人材マネジメント・組織行動研究グループにも所属し、研究やコンテンツ開発、講師を務める。

グロービス経営大学院経営学修士(MBA)修了。


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階層別研修と選抜研修の違い・役割

A社:自組織のビジョンを浸透させ、
自律支援型リーダーへの転換を目指す

1つ目は、大手製造業A社で実施した、新任管理職を対象とした研修です。今後隆盛を迎える新製品に取り組んでいる方や衰退しつつある製品を担当している方、営業職、生産現場の工場長など、さまざまな立場の方が参加しました。

これらの新任管理職が「組織に活力を与えられるリーダーになること」を目指し、自組織のビジョンを考えて浸透させ、メンバーが自律的に考え行動できるよう育成するための、支援型リーダーとしての行動を学びました。

図1:A社の研修プログラム全体像

図1:A社の研修プログラム全体像

本研修は、5日間の集合セッションと並行し、インターバル期間中のワークとして、ビジョンの策定と部下育成、モチベーション強化といった実践を重ねたことが特徴です。

図の青色部分が、ビジョン作成に関する取り組みです。集合セッションでは、ビジョンを考える前提となる外部環境や競争環境への理解を深めた上で、自ら考えた部門のビジョンを発表し、お互いにフィードバックをしてブラッシュアップしました。インターバルワークには、現場のチームで検討するプロセスも入れ、メンバーの思いもビジョンに入れることにも取り組みました。

また、図の黄色部分は、部下育成やモチベーション強化を学んだパートです。実際にメンバーの育成やモチベーション強化をどうやって進めるのかをロールプレイなどを通じながら学びつつ、実際に職場のメンバーに適応させ実践しつつ学びを深めています。360度サーベイも行い、自分自身がメンバーからどう見られているかも認識した上で、自身の行動を変化させていきました。

講師を担当した筆者にとって象徴的だったのは、市場が衰退しつつある部門にいる受講者が、ダウントレンドになることが明白な状況でも、明るい未来を描き、熱量をもってビジョンを語っていたことです。自社の工場がもつ技術と未来のニーズを結び付け、ニーズを満たせるようになっていこう、という内容でした。さらに、メンバー1人ひとりのキャリアにも意識を向け、「この能力を身に付ければ、新たなポジションに転身できるから、一緒にがんばろう」とも語っていました。

A社の取り組みは、外部環境や競争環境を見据え、部下の思いも踏まえたビジョンを描きつつ、部下育成にも取り組み、キャリア開発の支援にも踏み込む実践的なものとなりました。

B社:部課長の2階層が、
リーダーシップスタイルの変化にチャレンジする

数百人規模の日本企業B社は、外資系企業に買収されたことで、求められるリーダーシップスタイルが変化していました。そこで、既存の部課長約30名を対象に、新たなリーダーシップスタイルを身に付け、実践できるようになることを目的とした研修を行いました。

プログラム内容は、外部環境を踏まえた上で、組織の方針を浸透させ、メンバーに適切に働きかけて成果創出を支援できるようになることを目指したものです。B社でも、集合セッションとインターバルワークを取り入れました。また、部長層と課長層に分かれて実施するセッションと、合同で行うセッションを織り交ぜながら進めました。

階層ごとに分かれて実施したセッションのうち、部長向けプログラムでは、ビジョンを作成し、全体にメールで発信したり、ツールを介して伝えたりする「間接的に」浸透させる取り組みが行われました。(部長層は管理範囲が数十名単位になり個別での対応が難しくなるため。)また、課長の育成方法も重視しました。

図2:B社部長向けプログラム全体像

図2:B社部長向けプログラム全体像

課長向けプログラムでは、「直接的な」浸透活動を行いました。(課長は管理範囲が10名以下で直接のコミュニケーションが重要となるため。)課長がメンバーと一緒に方針を考えることによって浸透させ、育成することに取り組みました。

図3:B社課長向けプログラム全体像

図3:B社課長向けプログラム全体像

最後の振返りセッションでは、部課長が一堂に会し、組織の問題を共有し、より良い組織にするためにどのような取り組みが必要かを検討しました。

本研修は、部長および課長の2階層が、リーダーシップスタイルの変化に向き合い、課題に取り組むことで、組織が大きく変革することに寄与する事例となりました。プログラム終了後も、自主的に学んで行動を改善し続けるための「ラーニングコミュニティ」が設立され、1年経った現在も活動が続いています。

筆者自身の事例

3つ目の事例として、筆者の経験談を紹介させていただきます。私がチームマネージャーになった際、エンゲージメントサーベイを月に一度実施することになりました。すると、当時の我がチームは、組織内でもエンゲージメントが低い水準にあることがわかったのです。

そこで、結果をもとにメンバーと対話を行い、チームをより良い状態にするために様々な取り組みを行いました。サーベイの結果では「承認」や「成長実感」などの項目が低かったため、メンバーがお互い承認活動を行うことや、自身の能力を少し超えたチャレンジ目標を設定すること、そしてそれをチームマネージャーである私と一緒に達成していくことなどを実践しました。

一定期間後、再度エンゲージメントの度合いを可視化し、振り返りミーティングを実施。やってよかったことは継続し、進化させるべきことは進化させました。

この活動の根底には、見える化・対話・未来作りといったフレームワークがあり、このフレームに基づいて、行動につなげていったのです。

図4:組織開発の実践的フレームワーク

図4:組織開発の実践的フレームワーク1)

その結果、当初70ポイントほどだったエンゲージメントスコアが1年後には85ポイントほどまで高まり、活力のある組織にすることができたと感じています。

最後に

今回は、前回のコラムでご紹介した「4つの行動」を実践するために学び直しをした事例を紹介しました。講師として、各企業の管理職の方々の成長や組織開発の支援を行ってきて、また自身の経験からも、この4つの行動の重要性を実感しています。

ぜひ、4つの行動と難所を参考に管理職の皆さまが自身を振り返り、強みは伸ばしつつ課題を改善できるよう、学び直しをするための参考にしていただければと思います。

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階層別研修と選抜研修の違い・役割

引用/参考情報

1)参考:中原淳、中村和彦著『組織開発の探究』をもとに加筆・修正

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。