採用や昇格試験だけではない、アセスメント・テストや適性検査の幅広いデータ活用法とは~目標設定、評価、配置などの人事施策に活用する~
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人材採用や昇格試験などで利用されることの多いアセスメント・テスト。毎年継続してテストを実施している一方で、合否判定など特定の用途で使い、あとはデータを保管するだけに留まってはいないでしょうか。
アセスメント・テストのデータは、採用や昇格試験以外にも、人材育成や組織開発、目標設定、評価、配置などさまざまな人事施策に活用できるのです。今回は、アセスメント・テストのデータを幅広く活かす方法について解説します。
第1章
個別の人事施策へのデータ活用は進んでいる
まず、現状においてアセスメント・テストがどのような人事施策に用いられているかをご紹介します。現時点で多く見られるアセスメント・テストの主な活用法は、「選出」と「学習の個別化」の2つに分類されます。
1-1. 選出
採用や昇格試験など、「人を選ぶ」場面でアセスメントを行うパターンです。選ばれる人数が決まっており、候補者の中から求める人材要件をより多く持っている人をアセスメント・テストの結果を活用して選出します。
人材採用では、書類選考と面接だけでは主観的な判断に偏ってしまうとの考えから、客観的な判断指標としてアセスメント・テストを用いる企業が多く見られるようになりました。近年では会場を用意する必要がないオンライン受験の手法も広まっており、採用担当者の業務負荷をかけずに実施できるようになったことも、アセスメント・テストの浸透を加速させていると思われます。
昇格試験においても、昇格後の役職に求められる能力を測る能力適性検査や、リーダーの素養があるかの性格適性検査などのアセスメント・テストを実施する企業があります。その一例として、グロービスのGMAP-BF(ビジネス・フレームワーク)編は、経営知識の理解度や活用度を測定する能力適性検査であり、管理職の昇格試験として多く用いられています。
1-2. 学習の個別化
近年は、人材育成においてもデジタル技術が用いられ、個々人の興味関心やスキルのレベルに応じた「個別学習」が可能となりました。たとえば、動画学習で学ぶカリキュラムを一人ひとりに最適化した内容で組むといったことです。この個別学習の特性を活かすために、学習前に自分のスキルレベルを確認する目的で能力適性検査を活用する事例が少しずつ増えてきています。
導入事例:日本生命保険相互会社 「自ら学び、社会から学び、学び続ける」風土改革への取り組み
テスト結果のデータをもとに、一人ひとりが自分のレベルや課題意識に合った学習ができるようカリキュラムの個別最適化ができれば、学ぶ本人にとって無理なく、着実なスキルアップがしやすくなります。
企業で働く社員が業務で新たに必要となるスキルを身につける「リスキリング」では、DX(デジタルトランスフォーメーション)実現のため、デジタル分野を学ぶ場合が多くあります。この領域は職種や学生時代の専攻などによって知識差が大きいため、テストで今のレベルを測ってから、一人ひとりに最適なレベルから学びはじめるとよいでしょう。
また、「学習の個別化」の目的で実施するテストは、社員が自分自身で学ぶ内容を決める「自律型学習」にも活用できます。テストの準備や受験を通して知識を得ることは、興味がある分野を見つけるきっかけになるからです。
この「自律型学習」は企業の人事担当者から注目を集めているテーマで、当社にも多くのご相談をいただきます。全員一律の育成をするのではなく、社員一人ひとりが自らの興味に沿って学び、キャリアを形成してほしいと考える企業は増えているようです。この目的でテストを実施し、データを学習に活用する企業は現時点では少ないものの、今後は徐々に導入が進むものと思われます。
近年は、「選出」や「学習の個別化」に加え、組織全体の状態を可視化する目的で、社員に対してエンゲージメントサーベイを実施する事例も見られるようになりました。エンゲージメントサーベイとは、社員が仕事に誇りややりがいを感じて熱心に取り組み、仕事から活力を得られている「ワーク・エンゲージメント」を定量的に測るものです。
エンゲージメントサーベイは全社員を対象に定期的に実施する場合が多く、組織の現状と経年変化を把握して課題を見出し、改善策を講じる取り組みを積み重ねることで、エンゲージメントを高めていきます。「測定結果から現状を把握し、課題点を見出して対応策を行う」という観点では、「学習の個別化」に通じるものがあります。
第2章
テストを定期的に行い、
データを人材育成や組織開発へ活かす
アセスメント・テストの中でも能力適性検査は、エンゲージメントサーベイのように定期的に実施してデータを蓄積しておくと、人材育成や組織開発のさまざまな施策へ活用できます。
人材育成への活用:能力開発やキャリア形成の一助となる
社員を育成する観点では、採用試験・入社時・年次研修・昇格時など、節目を迎えるタイミングにテストを行って定点観測することで、本人の能力開発やキャリア形成に役立てられます。
筋トレをしている人が定期的に筋力量を測定するように、能力適性検査を定期的に行うことで、業務や学習を通してスキルがどの程度上がったのかが可視化されていくのです。
テスト結果を社員へフィードバックすれば本人の自己認識が深まり、学ぶ意欲が醸成されたり、仕事へ向き合う姿勢が変わったりするきっかけになるでしょう。また、上長との目標・評価面談において用いると、客観的なデータをもとに目標や成果を話し合えるようになります。
組織開発への活用:人事施策の見直しや早期抜擢の参考情報となる
能力適性検査やエンゲージメントサーベイは、組織内で目標基準を決めて定期的に実施すると、組織全体で目指す姿に近づいているかが可視化され、人事施策を見直す参考材料として活用できます。
また、能力適性検査は配置にも活用できます。社員が若手の段階から、3年ごとなど定期的にテストを実施しデータを蓄積しておくことで、重要ポジションへの早期抜擢や育成、中長期的なサクセッションプランにも活かすことができるのです。
テストは時間もコストもかけて行うものですので、採用試験や昇格試験といった特定施策の活用に留めてしまうのは勿体無いことです。中長期的な視点で捉えると、テストのデータを人材育成や組織開発へ幅広く活用する方法が見えてきます。皆さまの企業におけるテストデータ活用の参考になれば幸いです。
第3章
さらなるデータ活用を見据え、
実務との親和性が高いスキル測定を
ここまで、アセスメント・テストのデータを人事施策へ活用するさまざまな方法について見てきました。
近年は各社で人事管理システムの導入が進み、人事データの収集、蓄積、活用の検討が行われています。今後は、アセスメント・テストのデータと、業務内容や実績、人事評価といった他の人事データとを掛け合わせた活用もしやすくなるでしょう。
データの蓄積先となる人事管理システムを導入済の企業は、キーマンズネットの調査によると2020年時点で既に70%を超えており(※1)、多くの企業がデータを蓄積して活用できる環境が整いつつあるといえます。
ただし、当社がさまざまな企業の人事担当者からは、人事管理システムは導入されたものの、運用方針が定まりきっていないとのお悩みを多く伺います。人事データが社内に点在していて集約できておらず、定性情報に頼って人事施策を進めざるを得ないという課題もあるようです。
定性情報に頼った評価は、下図に示したような認知バイアスのリスクも高いため、データも活用しながらより望ましい人事施策を行いたいものです。
人事データを活用した施策を検討する際は、自社がどのような人材を育て、どのような組織を作りたいのかのゴールイメージをまず描くことが重要です。その次に、ゴールを実現するために必要なデータを洗い出し、分析方法や具体的な施策を考えるという順番で検討を進めると、人事データからより多くの示唆が得られるようになると考えます。
組織や人材のゴールイメージが曖昧なまま行動してしまうと、データをやみくもに集めがちになり、せっかく収集したデータも十分活用できず溜め込むだけになってしまう恐れがあるので、注意が必要です。
そして、将来的なデータ活用の方向性として、前述したような業務内容や実績、評価といった人事データとの掛け合わせも見据えると、アセスメント・テストで取得すべきデータは実務との親和性が高い内容であることが理想です。業務に関連する分野のテストデータを蓄積しておくと、データによって可視化されたポテンシャルを踏まえた配置や育成にも役立ちます。
また、デジタル技術の進化などによって社内で新たなポジションができた際や、若手の早期抜擢といった社内で前例のない配置をする場合には、幅広い職種で活かせる分野のテストデータを参考情報として用いることができます。
たとえば、グロービスのGMAP-CT(クリティカル・シンキング)編は、状況や問題の本質を分析・把握・構造化して考えられる最善の解決策を導き出す能力、いわゆる「考える力・論理思考」を測定し、スコア化するアセスメント・テストです。採用、昇格試験のほか、人材育成や組織開発、配置など多くの用途で活用いただいています。
デジタル化の進展に伴い、人事領域でもデータを活用した施策が今後ますます進むでしょう。アセスメント・テストのデータを特定の施策へ使うだけに留めず、中長期的な自社の成長を見据えたデータ活用もぜひご検討ください。
引用/参考情報:※1 キーマンズネット「人事・人材管理の取り組み」に関する調査
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。