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組織全体で「新事業マインド」を育み、大企業における新規事業創造の壁を乗り越える

三菱地所株式会社 2026.01.23
組織全体で「新事業マインド」を育み、大企業における新規事業創造の壁を乗り越える


先が読みにくい時代において、自社を持続的に成長させるために鍵となるのが新規事業です。新しい価値を社会に届け、次なる収益源を確立したいと多くの企業がチャレンジするものの、強い既存事業がある企業ほど、事業創造の難しさを感じることも少なくありません。

三菱地所株式会社様の住宅事業グループでは、絶えず新規事業を生み出す組織になることを目指して、組織全体として事業創造のマインドやスキルを醸成する取り組みを始めています。そこで今回は、「新事業担当者向けワークショップ」(以下、本プロジェクト)を手掛ける、同社 住宅業務企画部の澤田 和典様、葦津 稀一様よりお話を伺いました。さらに後半では、住宅事業グループ内に属する三菱地所コミュニティ株式会社 ライフサポート事業統括部 兼 経営企画部の露木 涼子様から、参加者のお立場として、本プロジェクトを通した気づき・変化等についてお話しいただきました。(ご所属はインタビュー当時)

はじめに:本プロジェクトの概要

三菱地所株式会社様では、「長期経営計画2030」で新たな事業展開を戦略として掲げています。そこで、住宅事業グループでも経営層から担当者まで一体となって新事業を生み出す組織となるべく、経営陣向けのワークショップや部長層向けのトレーニングなど、さまざまな角度からマインドやスキルを養う取り組みを進めてきました。2023年からは担当者向けとして、「新事業推進担当者向けワークショップ」を実施しています。

本プロジェクトは、新事業を創出するための基本的な考え方とプロセスを、マインドとスキルの両面から体系的に習得する内容です。三菱地所グループならではの事業環境をふまえ、大企業において事業創造を行う際のポイントも深く学びます。

<新事業推進担当者向けワークショップの全体像>
<新事業推進担当者向けワークショップの全体像>

インタビュー:プロジェクト実施の経緯

組織全体として、新事業を生み出す風土を醸成

澤田さん:

当社の住宅事業グループが新事業開発を本格化したのは、2020年頃からです。この背景には、「長期経営計画2030」において新たな事業展開を戦略に掲げたものの、具体的な取り組みの方向性が見出せていないという課題感がありました。

そこで同年末、住宅事業グループ各社の経営陣13名を対象に、グロービスと共同で「経営ワークショップ」を実施しました。このワークショップでは、新事業を推進するために必要なビジョン、戦略、組織開発といった経営にまつわるテーマを議論しました。これをきっかけに、全社で新事業に必要なマインドとスキルを獲得する取り組みに繋がっていったのです。

住宅業務企画部 新事業ユニット ユニットリーダー 澤田 和典様
住宅業務企画部 新事業ユニット ユニットリーダー 澤田 和典様



澤田さん:

新事業を創出するには、生み出せるような環境づくりも不可欠です。それには、制度や仕組みの整備のみならず、各部門を率いるリーダーの理解も深める必要があります。そこで、2022年から新任部長向けのトレーニングも見直しました。マネジメント力強化だけでなく、既存事業・新事業の戦略構想力を鍛えるテーマも組み込むことにしたのです。

葦津さん:

こうしたステップを踏んだ後に2023年からスタートしたのが、新事業を推進する担当者向けのワークショップです。グロービスは、経営層・部長層・担当者層といったすべての取り組みに携わってくださっているので、三菱地所 住宅事業グループの社内事情や風土を熟知いただいていると感じていました。このように当社のことをよく理解いただいている方が講師だと、参加者からも「この講師の言うことであれば信用できる」と受け入れられるんですよね。ご一緒するにあたり、この信頼感があることはとても大きいと感じています。

プロジェクトの主な内容

強い既存事業を持つ大企業において、新事業を推進する難しさ

葦津さん:

本プロジェクトの目的は、新事業にアサインされた社員が、事業創造の基礎となるスキルとマインドを身に付けることです。

三菱地所グループは、設立当初からまちづくりを手掛けてきた企業です。そのため、意識して新事業に取り組んできたものの、事業を立ち上げた経験を持つ社員は多くはありません。ですから、本プロジェクトでは事業創造の基本を習得することを目指しました。

新規事業は多死多産と言われ、そのほとんどが失敗に終わる「千三つ」の世界です。本プロジェクトを通して、参加者には「すべてのアイデアが100%成功するわけではない」というマインドを持つとともに、いきなり事業計画を書くのではなく、まずは世の中で解決されていない課題を探すなど、事業創造のステップを理解してもらいたいと考えました。

その中で重視したのは、「大企業で新事業を推進する難しさをどう乗り越えるか」です。強い既存事業があるにもかかわらず「なぜ、今このタイミングで、多くのリソースをかけて新事業に取り組むのか」を自分の言葉で語り、周囲をどう説得していくのか。これは大企業においてやり遂げようと思うと、難易度がグッと上がるものです。ですから、大企業特有の難しさや陥りがちな課題をケースメソッドで学び、参加者自身の現実に照らし合わせながら気づきを得られるプログラムにしています。

学びを実務に引き寄せる「フォローアップ」

葦津さん:

担当者向けのワークショップを始めたのは2023年だったのですが、当時は事業創造の基本を学ぶインプットが中心でした。しかし、研修を終えた後、実際の実務において新事業を考える・推進するというフェーズになると、苦戦してしまうというケースが見られたんです。

そこで、学んだことを実務に取り入れる際にサポートできないかと考え、ワークショップ終了から半年後に「フォローアップセッション」を設ける設計に変えました。ここでは参加者自身が実際に担当している案件や、これから検討したい新事業のアイデアを持ち寄り、グロービスの担当ファシリテーターや参加者同士とディスカッションしています。

半年というのは、学びを実践してみてうまくいったこと、いかなかったことが出てくる時期です。フォローアップと組み合わせることによって、学びを実務に引き寄せ、新事業特有の難解な意思決定や、個々人が直面している課題を乗り越えるきっかけにしてもらいたいと考えています。

住宅業務企画部 新事業ユニット 葦津 稀一様
住宅業務企画部 新事業ユニット 葦津 稀一様

新事業に向き合うマインドが浸透し、共通言語で議論できている

葦津さん:

本プロジェクトを始めて3年目に入り、参加者や組織全体に変化の兆しが見られています。参加者は毎年異なるにもかかわらず、セッションでの議論が年々活性化しているのです。これまでの参加者が新事業のマインドを持って日々の業務に向き合うことによって、周囲のメンバーにも影響を与えているようです。加えて、新事業ならではの言葉やプロセスなど、お互いに共通の前提を持ったうえで話が進むことも多くなりました。組織全体に共通言語として浸透しつつあることを感じます。

新事業担当者が直面しがちな孤独感を緩和することにも、本プロジェクトが役立っています。参加者から「グループ横断で、自分と同じく新事業を担当する社員と交流できてよかった」という声を毎年いただいています。本プロジェクトが、部門を超えて仲間を作り、気軽に相談できるきっかけづくりになっているようです。

澤田さん:

プログラム内容は毎年ブラッシュアップしており、現在では新事業立ち上げの基礎から、検討中の事業について議論するフォローアップまで、ステップを刻む形でプログラムを用意できています。当社の場合、ローテーションによって、それまで既存事業に携わっていた方が急に新事業にアサインされる場合も多いので、こうした丁寧な取り組みによって、新事業担当者全体の底上げが実現できていると感じています。

今後の展望

“やめる”決断は、次なる事業創出に向けた必要なプロセス

葦津さん:

本プロジェクトを実施する中で、新事業を推進するためのルールや仕組みを整備する必要性を感じています。

既存事業が強い当社では、新事業を始めることはできても、「やめる」決断が難しく、中途半端な状態で継続してしまうリスクがあると思います。私自身がこの点に気づいたのは、フォローアップで担当ファシリテーターから、ある新事業について「当初のコンセプトからずれている。ピボットや撤退を検討すべきでは」という踏み込んだアドバイスがあったことがきっかけでした。

本来、新事業創出における撤退の判断は次の事業創出を考える機会に繋がるものであり、決してネガティブなことではありません。こうしたプロセスを、組織全体で腹落ちする必要があると考えています。

澤田さん:

どのような状態であれば事業検討を先へ進め、どのような状態ならやめるのかが明確になっていないと、担当者も承認者も過度な気遣いをしてしまい、適切な意思決定ができなくなってしまうでしょう。チェックゲートのような基準を設け、組織全体で共有することで、より効率的にトライアンドエラーを繰り返す組織を目指したいと考えています。

定期異動で散逸する新事業創出のノウハウを、組織として継承したい

葦津さん:

もう一つの課題は、新事業のノウハウを社内でどう継承していくかです。三菱地所グループでは定期人事異動が行われるため、開発中の新事業における考え方や取り組みをどう引き継ぐのかという問題があります。新事業はビジネスモデルが確立される前の段階ですから、前任者の方針をすべて変えてしまうことも起こりがちです。それまでに築いてきたノウハウをどうプールし、受け継いでいくかは組織的に向き合うべき重要なテーマだと考えています。

澤田さん:

また、新事業担当者がぶつかる壁として、「新しい事業の種をどう見つけるか」があります。担当者が自分で考え、悩みながら進めることも重要ではありますが、アイデアの着想を得るためのヒントを提示できるようなサポートも考えていきたいですね。グロービスには、こうした課題を乗り越える専門的なアドバイスや知見をいただくことを、引き続き期待しています。

(右)住宅業務企画部 新事業ユニット ユニットリーダー 澤田 和典様
(左)住宅業務企画部 新事業ユニット 葦津 稀一様
(右)住宅業務企画部 新事業ユニット ユニットリーダー 澤田 和典様
(左)住宅業務企画部 新事業ユニット 葦津 稀一様

プロジェクト参加者へのインタビュー

ここからは、本プロジェクトの参加者である三菱地所コミュニティ株式会社 ライフサポート事業統括部 兼 経営企画部の露木 涼子様より、ご参加を通して得られた気づき・変化等についてお話を伺いました。

大企業では、ロジックだけでは新事業を推進できない

露木さん:

私は、当社に中途入社でジョインしたので、大企業で新規事業を進めることに苦戦していました。前職のベンチャー企業では、ロジックがあれば「やってみよう」とすぐ行動する風土がありましたが、大きな組織においては「熱量やリアルな課題感だけでは、組織を動かせない」と感じていたのです。

当社の住宅事業グループ、特にマンション管理事業は安定的な収益モデルがあるため、「既存事業を支える側」と、「新しい価値を創り出す側」とではビジネスに向き合うマインドが異なります。ですから、社内で合意形成を得るためには、「なぜ今、これをやるのか」というロジックを緻密に行うだけでなく、共感を生むストーリー設計が欠かせなかったのです。もちろん自分の中に軸はあったのですが、異なる価値観を持つ方々に対してうまく伝えられない、言語化できないというもどかしさがありました。

新事業こそ、信念で人を動かすリーダーシップが重要

露木さん:

本プロジェクトで印象に残っているのは、どのケースにも共通していた「すべての事業は、小さな一歩から始まる」という視点でした。
新事業は、組織の中で“最初から成果が求められる”場面が多いのですが、実際には試行錯誤の連続です。それでも諦めず、小さなステップを踏み続ける重要性を改めて認識しました。

また、顧客の不満を観察し、生活者視点で再定義することが新事業の成功に繋がることも、大きな学びです。当社で新事業を立案する際も、お客様の困りごとに着目するだけでなく、「こんな暮らしができたら」という未来の姿を描くまで、解像度を引き上げる必要があると気づきました。

課題感を持っていた社内での合意形成については、まさにそのテーマを扱ったセッションがあり、立場や権限だけに頼らず、信念で人を動かすリーダーシップの重要性を実感しました。事業の軸、ロジックももちろん大事なんですが、最終的には“人”が効いてくるんですよね。「なぜこれを進めたいのか」「この先、何を起こしたいのか」といったマインド面で、共感してくれる人を増やし巻き込んでいく。そのためには、ビジョンを言葉と行動で示し続けることが必要だと感じたのです。

こうしたさまざまなケースを通じて、孤独感を抱えながらチャレンジし続ける起業家たちのストーリーに励まされ、前に進む力をもらいました。期間中は実務の繁忙にも重なり苦労があったものの、学んだことをすぐに現場で実践してみようと自然とモチベーションも高まり、まるでリアルな実験をしているような感覚を楽しんでいました。

三菱地所コミュニティ株式会社 
ライフサポート事業統括部 ライフサポート事業統括室 ライフサポート新事業企画グループ長 
兼 経営企画部 バリューチェーン推進室 レジクラ2.0推進グループ長  露木 涼子様
三菱地所コミュニティ株式会社
ライフサポート事業統括部 ライフサポート事業統括室 ライフサポート新事業企画グループ長
兼 経営企画部 バリューチェーン推進室 レジクラ2.0推進グループ長 露木 涼子様

問いを立てる精度が上がり、議論が深まりやすくなった

露木さん:

本プロジェクトに参加してから、2年が経ちました。私自身が最も変化したのは、問いの立て方と周囲の巻き込み方です。以前は「サービスを提供し続けるために、何をやるか」を中心に考えていましたが、今は「なぜそれをやるのか」「誰のためにやるのか」を深掘りするようになりました。問いの精度が上がると、関係者との議論も深まり、方向性がぶれにくくなったように感じます。

これからも、さまざまな部署の立場を理解しながら、「なぜこの事業に取り組むのか」「お客様のために、この事業をどのように持続可能な形で発展させていくのか」を共に考え、歩幅を合わせて前に進むためのコミュニケーション力を、さらに磨いていきたいと考えています。

以前は私一人で新事業を担当していたのですが、今期から3名のチーム体制になり、チーム全体として新事業の検討や発案ができるようになってきました。本プロジェクトのような学びの機会を通じてチーム力を底上げし、チームとして挑戦する、そして挑戦を楽しむという文化を広げていきたいと考えています。

プロジェクトメンバーの皆様と講師及び弊社コンサルタント
担当ファシリテーターの声
池田 章人 池田 章人
池田 章人

三菱地所 住宅事業グループ様の新事業への取り組みには、初期段階から携わっています。もはや当初の状況が思い出せないほど、現在では前向きかつ明るい風土が醸成されており、伴走者として大変嬉しく思っています。
この取り組みは、経営トップ層の方々向けのワークショップから始まり、中核となる管理職層、そして実際に新事業を創造する担当者向けへと、段階的に発展・拡大していきました。改めて、新事業の創造および拡大は、組織全体の取り組みであると強く感じています。新事業創造は、経営トップおよび既存事業の中核人財の方々のコミットがあってこそ、推進されます。加えて、新事業の担当者には、提案そのものだけでなく、その前提となる仕組みを創ることも求められます。今、住宅事業グループ様には、こうしたピースがそろいつつあります。これにより、組織全体に前向きな挑戦姿勢や風土が根付きはじめているのではないでしょうか。
約5年の取り組みを通じて、三層の連動が進み、拡大期に入っている事業も増えてきました。こうした動きをさらに加速させるべく、引き続き事務局の皆様とも足並みをそろえ、同社の発展に貢献できるよう、取り組んでいきたいと思います。

担当コンサルタントの声
寺越 いかる 寺越 いかる
寺越 いかる

本プロジェクトでは、新事業創造における基本的な考え方・活動の枠組みを獲得いただくのみならず、三菱地所 住宅事業グループ様ならではの背景や事業環境なども踏まえ、リアリティと実践性の高いセッションとすることを大切に設計しています。毎年、その時々の参加者の置かれた状況を想定しながら、事務局の皆さまと議論を重ね、常に時代に応じたアップデートを重ねています。
特に歴史のある大企業において新事業を創造・推進する際には、関係するステークホルダーの数や既存事業の影響など、さまざまな難所が存在します。参加者の皆さまがそれらに向き合い、自ら乗り越えていける状態をつくるため、必要なインプットを行いつつも、時には徹底的に個別の事象まで踏み込んで扱うことを重視しました。
本プロジェクトでは、参加者一人ひとりが実際に担当する具体的な案件を題材に、明日から何をするのか、どう状況を打破するのか、将来的な事業の拡大を見据えてどんな仕込みが必要かといった深い議論を行いました。より実務に寄り添えるような場を創ることができていると感じています。
今後も引き続き、三菱地所 住宅事業グループ様の更なる新事業の推進に向けて、尽力してまいります。

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