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導入事例
  • 新規事業創造

絶えず新規事業が生み出される体制づくりと風土醸成を目指して -ステージゲート法でメンバーのチャレンジを後押し-

株式会社ロッテ 2023.03.08

菓子・アイスなど食品分野において日本を代表する企業である株式会社ロッテ様。これからの食品業界の変化に対応しながら継続的に成長するために、社内公募による新規事業開発制度を「ミライノベーションプロジェクト」(以下、本プロジェクト)と名づけて実施しています。本プロジェクトを企画・運営している同社の経営戦略部 事業開発課 課長 小川 貴昭様、小原 裕平様にお話を伺いました。さらに、応募者であるマーケティング本部 ブランド戦略部 チョコレート企画課 黒島 三都様、中央研究所 チョコ‧ビス研究部 チョコレート研究課 林 千晴様からも本プロジェクトを通した気づき・変化等についてお話を伺いました。(役職はインタビュー当時)

はじめに:本プロジェクトの概要

株式会社ロッテ様は、「キシリトール」や「ガーナ」など数々の人気ブランドの商品を開発・製造し、70年以上にわたり日本の菓子・アイス市場をけん引してきた企業です。既存事業に支えられて成長を遂げてきた一方、次世代の同社を支える新規事業の創出に悩んでいました。

自社が継続的に成長するためには、単発の新規事業が生まれるだけではなく、絶えず新規事業が生まれ続ける組織になるべきだとの考えから、社内新規事業開発制度「ミライノベーションプロジェクト」を2022年度より実施するに至りました。応募した事業が本プロジェクトで採択された場合は、応募者(ビジネスオーナー)は事業開発課へ異動し、正式な事業化を目指すことになります。

本プロジェクトにはグロービスが参画し、企画、制度設計、ビジネスオーナーへのスキルインプットとフィードバックにおいてロッテ様と協働してプロジェクトを進めました。

インタビュー:プロジェクト実施の経緯

プロジェクト前に抱えていた問題意識

小原さん:

当社は菓子・アイスを中心に多くのブランドを手がけてきましたが、国内は少子高齢化が進み、市場成長が鈍化しています。また近年の食品業界では、先端技術を活用して食の可能性を広げる「フードテック」分野のビジネスも次々と生まれています。このような変化がある中で、当社は次世代の成長ドライバーとなる新規事業を生み出し、新たな価値を提供する必要性に迫られていました。

小川さん:

当社は新しいチャレンジを好む風土があり、新規事業に関して、これまでも社内提案制度や社内ベンチャー制度を実施したことがありました。ただ、いずれも単発の施策で終わってしまっていたのです。そのため、本プロジェクトは、新規事業創出を持続可能なものにするために事業開発課が発足し、企画が始まりました。挑戦を好む当社の特性を活かして、新規事業が次々に生まれる発展系の組織風土を作れないかと考えたのです。

小原さん:

この企画を具体的に進めるにあたり、他のプロジェクトでお付き合いがあったグロービスさんにお声がけしました。正式にご依頼した決め手は、当社の現状をふまえて、体制づくりも含めたご提案をいただけたからです。

新規事業は失敗率が極めて高い取り組みであり、本プロジェクトの応募者は本業と兼務で参加するタフな活動になります。この厳しい状況でもチャレンジしてくれる社員のモチベーションを保ち、メンタルケアも含めた体制を構築しましょう、と言っていただけたことが決め手となりました。私と小川が所属する事業開発課は新設部署であり、新規事業の経験もなかったため、このご提案は大変心強いものでした。

小川さん:

グロービスさんから提案があった本プロジェクトの進め方は、新規事業の経験に乏しい当社の特性をふまえたものだったと私も感じました。既に体制が整っている先行企業のようなハードな進め方をしてしまうと、当社では途中で挫折してしまうかもしれません。本プロジェクト全体の制度設計と、応募者へのフィードバックの方針は、とても納得感の高い内容でした。

経営戦略部 事業開発課 課長 小川 貴昭様

プロジェクトで目指していたゴール

小原さん:

本プロジェクトのゴールは、社内発の新規事業を生み出すことです。そのため、事業アイデアが採択された場合、「ビジネスオーナー」と呼ばれる応募者は事業開発課へ異動し、新規事業を本業として事業立上げを目指します。

さらに本プロジェクトでは、持続的に新規事業が生み出されるための体制づくりも意識しました。新規事業を立ち上げるには、コンサルティングファームに入ってもらったり、アイデアを外部から買ってきたりするなど、他にも方法はあると思います。しかしながら、外部に事業創出そのものを依頼すると、社内にノウハウが残りにくいという懸念がありました。さらに、過去の社内ベンチャー制度が単発で終わってしまった経緯もあったため、今回は、新規事業に「挑戦し続けられる」体制を築きたいと考えたのです。

こうしたゴールをふまえ、本プロジェクトの初回は、対象者をマネージャー未満の全社員としました。本業と兼務で参加することになるため、業務負荷の大きいマネージャー以上だと途中離脱するリスクがあると考えたためです。次回以降、多くの社員に応募したいと思ってもらうためにも、初回で事業化の実績をつくりたかったのです。この対象者の設定は、新規事業創出が風土として根付くまでを見据えた判断でした。

経営戦略部 事業開発課 小原 裕平様

プロジェクトの主な内容

実施において大事にした点

小原さん:

事業創出と風土醸成というゴールの達成に向け、本プロジェクトで大事にしたのは「ステージゲート法(※)」を採用した点です。一般的に成功率が低いとされる新規事業が、中長期的に社内から提案され続け、事業として立ち上がる状態を作るために最適な方法だと考えました。(※ステージゲートとは、その名の通りステージとゲートを複数設けて、各ステージで新規事業案を評価し育てていくという、新規事業を創造するための1つの手法です)

そして、ステージゲート法を選んだ理由はもうひとつあります。ビジネスオーナーは本業と兼務でこのプロジェクトに臨むので、限られた時間の中で注力すべきことが明確になっていたほうがよいだろうと考えたためです。ステージ1ではこれを注力する、そしてゲート1でこの観点で評価を受ける、といった形で進んでいきますので、やるべきことの選択と集中がしやすくなります。

小川さん:

また、残念ながら事業アイデアがゲートを通過しなかったビジネスオーナーは、類似したプロジェクトにメンバーとして合流できるようにしました。新規事業を立案する経験を多くの人にしてもらいたいと思ったのと、数名のチームを組んでプロジェクトを進めたほうが事業計画も深まるだろうと考えたためです。

こうした考えのもとで運営されたプロジェクトですので、我々企画側も各ゲートに対して「審査」とは言わずあくまで「ゲート」と呼び、皆で課題をクリアして事業価値を上げていこうというスタンスで臨んでいました。

<ミライノベーションプロジェクト全体像>

実施してのご感想、受講者の変化

小川さん:

本プロジェクトへの応募者がビジネスオーナーとして成長していく姿を目の当たりにして、驚いています。本業と比べると本プロジェクトへは一部の時間しか費やしていないはずですが、こちらの想定以上にどんどん飛躍していくのです。ビジネスオーナーの皆さんはマネジメントの経験もまだありませんし、当初は自分の職種の観点のみで事業を考える傾向がありましたが、フィードバックを受けながら経営視点を養い、仲間を集め、リーダーとしてメンバーをマネジメントするようになっています。

自分に足りない視点があれば他部署や社外に聞きに行き、事業計画をブラッシュアップする自発的な動きも見られます。まさに経営者の行動ですよね。これからも、このような経営マインドやスキルをもった人たちが続々と生まれていくと思うとワクワクします。

小原さん:

新規事業の検討を進める際、他部署の協力を取り付けることに苦労する話は、他社事例からも認識していましたので、多くの部署の方々が快く協力してくださっている点も印象的でした。

経営トップから経営会議の場で、本プロジェクトの意義を説明してもらっていることが良い方向に作用していると思います。また、我々の上司が、各事業部門の部長陣に本プロジェクトの窓口となってもらう体制づくりをしているのです。新規事業プロジェクトは、経営陣の理解が欠かせませんね。

小川さん:

実は、意外だったこともありました。研究所やバックオフィス部門など、ビジネスで「ものを売る」ところからは遠い部署に所属する社員からの応募が多かったのです。年代として多かったのは、入社数年以内の若手社員です。ベテラン社員よりも、彼ら・彼女らの方が菓子・アイス事業の厳しさに敏感になっているのかもしれませんね。新たなチャレンジをしたい気持ちを心に秘めている社員がこんなにいたのかと思いましたし、本プロジェクトが、こうした思いを持った社員を引き上げる仕組みになっているのだと実感しました。

間もなく最終ゲートの日を迎えます。ビジネスオーナーの皆さんが本プロジェクトを完走し、事業化を実現できるよう、最後までサポートを続けたいと思います。

今後の展望

今後の展望

小原さん:

本プロジェクトの存在を、もっと幅広い社員へ浸透させていくことが今後の課題です。現在は、新しいチャレンジをしたい一部の社員の目に留まっている状況です。既にいろいろなアプローチで認知度向上を図っており、継続して取り組んでいく予定です。

小川さん

新しいブランドや商品をつくるのは身近でも、事業開発は遠い存在だと感じている社員がまだ多いと痛感しています。70年間、菓子とアイスを中心に成り立ってきた企業ですから。

とはいえ、初回の応募が約50件に達したことは我々の想定を上回っており、応募には至らなかったものの興味を抱いている社員も少なくないと感じています。今回、応募が少なかった部署の社員を考えると、業務が忙しかったり、大きな責任を背負っていたりする事情があるのだろうと思いますので、次回以降は、本プロジェクトの周知の際にサポート体制についてもしっかり伝えていく必要があると考えています。

また、事業化の確率を上げるために、早い段階から外部と協業できる仕組みづくりを進める必要がありますし、各ゲートの評価基準についても改善の余地があります。次回以降は、事業内容への評価だけでなく、変化を厭わず成長できそうな人である点も評価基準に入れ、その人に事業化を託したいと考えているところです。運営の難易度がますます上がりますが、「人の可能性を信じる」という観点を全社で揃えられると理想だと思っています。

小原さん:

ビジネスオーナーが、本プロジェクトを経てスキルやマインドがどう変化したのかを見える化できないかも検討しています。皆さんからは明らかな成長を感じるものの、今は社内に対して我々企画者からの定性的な報告しかできていません。本プロジェクトを社内に浸透させる点でも、応募者を送り出すマネージャーに「部下をしっかり成長させるために、トライさせる価値はありそうだ」と感じてもらうためにも、スキルとマインドの可視化は意味のある取り組みだと思うのです。

スキルとマインドの可視化ができてくると、我々からビジネスオーナーへのサポートの質が上がり、事業化に必要な自発的な行動をもっと初期ステージから促せるのではないかと考えています。

そして、本プロジェクトと並行して、新規事業に興味がある社員同士のコミュニティもつくりたいと構想しています。コミュニティと本プロジェクトを掛け合わせた施策もできれば、社内の人間関係が広がりやすくなり、事業開発が身近なものになっていくと思うのです。

小川さん:

本プロジェクトはまだ1回実施したのみですので、まだまだ改善すべき点は多くあります。プロジェクト自体のブラッシュアップを積み重ねながら、新規事業が絶えず生まれる組織風土づくりを進めていきたいと思います。

ビジネスオーナーへのインタビュー

本プロジェクトに応募したきっかけ

林さん:

私が本プロジェクトに応募したのは、具体的な事業アイデアがあったわけではなく、プロジェクトそのものに参加したいという動機からでした。

研究職として入社して3年目を迎え、自分がこの先どのような仕事をしたいのかを迷っているタイミングで、本プロジェクトの案内があったのです。新規事業の立ち上げを経験することで、自分の視野が広がるのではないかと期待していました。

黒島さん:

私は今のマーケティング業務とは別に、興味をもっているテーマがあったので応募しました、また、以前に当社の未来年表を作る社内プロジェクトに参加した経験があり、部門横断のメンバー30名ほどが集まったチームのリーダーをしていたのです。この経験で自分が成長できたことを感じていたので、今度は新規事業の立ち上げを自分の力でやってみたいと思いました。

左:マーケティング本部 ブランド戦略部 チョコレート企画課 黒島 三都様
右:中央研究所 チョコ‧ビス研究部 チョコレート研究課 林 千晴様

本プロジェクトを通した気づきや自身の変化

林さん:

アイデアを事業化するにはこれほど多くの視点が必要なのかと衝撃を受けました。これまで他部署の方と関わる経験がほとんどなかったのですが、法務などさまざまな部署に連絡を取ったり、社外の方に話を聞きに行ったりしています。ビジネスとは、多くの人の知見が集まって成り立っているのだと実感しました。

途中から合流してくれたメンバーから学ぶことも多くあります。今は3名のチームを組んでいるのですが、他のメンバーは2人とも社内の大先輩です。自分の考えを話すと違う視点からの意見をもらえて、事業計画がブラッシュアップされていくのも面白いと感じています。

黒島さん:

私も、今は4人のメンバーで事業の検討を進めているのですが、異なる部署から集まっているので、社内のネットワークが広がりました。

私の事業の状況としては、ゲートが進むにつれて高いレベルの提案を求められるようになり、自分の経験だけでは太刀打ちできないと日々感じています。グロービスの講師やコンサルタントの皆さんから丁寧かつ率直なフィードバックを明確にいただいて、なんとか乗り越えられている状況です。私たちは必要な情報やサポート、予算も与えられていて、恵まれた環境でやっているのですから、最後まで前向きに頑張らないといけませんね。

林さん:

私も苦労の連続です。PoC(実証実験)をやると仮説がまったく異なっていて、軌道修正をしながら収益性も考えなければならない段階にきています。そのような中、社外であるグロービスの方々からはフラットな意見をもらえるのがいいですね。社内だけで話し合うと、社内ありきの解決策になってしまいがちなのですが、社内事情をいったん横に置いた視点が得られて、自分に固定観念があったと気付かされます。

本プロジェクトは想像以上の大変さがありますが、事務局やグロービスの皆さんとチームメンバーに支えられながら、頑張っているところです。

黒島さん:

私は、今後のキャリアを歩んでいくにあたり、時間は有限であることを前提に、取捨選択や役割分担をして仕事をする状況を体験できた点も貴重でした。自分のライフイベントと重なり、本プロジェクトに充てられる時間は限られていましたが、やるべきタスクを絞り、途中合流してくれたメンバーと役割分担し、助け合うことで前進できました。この経験は、今後の働き方においても、よいシミュレーションになったと思います。

そして、私たちが第1期としてプロジェクトを完走すれば、今回の応募を足踏みされた方の背中を押せるのではないかと考えています。やりたいことがあるのに躊躇するのは、もったいないと思うのです。私より若い世代も上の世代の方々も、より多くの社員が本プロジェクトに参加して、ロッテという会社がより良くなるよう、私たちが成功事例をつくれたら嬉しいです。

担当コンサルタントの声
池田 章人

今回は小川様、小原様をはじめとする事務局の皆様、また参加者の熱意を常に感じるプロジェクトとなりました。事務局の皆様は、ロッテ様としてこれまで持っている良さを活かしながらも新しいものを生み出し続けることのできる風土への変革を期待されていました。また、多くの参加者もロッテで新たな価値を創出したいとの熱意をもって取り組んでいただきました。

私が今回企画、伴走に携わる際に留意したのは「ロッテ様が自ら創発活動を生み出していけるようになる」ことです。もちろん参加者の能力開発や、提案精度が高まるようになること、また提案がたくさん出てきやすくなるような仕掛けなど様々アドバイスはさせていただきましたが、根底には「グロービスがやるのではなくロッテの皆様がやりたくなる、できるようになる」ことを意識しアドバイスをしてきました。

冒頭にも述べたロッテの皆様の熱意に後押しされ、結果的に当初の何倍も自律的創発力が高まったと実感しています。これからも引き続き更なる自律的な創発力向上のための支援をさせていただきます。

田中 寛子

ロッテ様のミライノベーションプロジェクトは、ステージゲート法を採用しました。
応募者であるビジネスオーナーの皆さんは、アイディアを常にブラッシュアップしなければ次に進めないという緊張感やプレッシャーの中、真摯に取り組まれました。また、小川様や小原様をはじめとする事務局の皆さんは、企画や運営だけでなくオーナーサポートにも積極的に関与され、オーナーの試行錯誤に寄り添い、どんなアドバイスを出すのが最適かを真剣に考えられるなど、関係者のプロジェクトへの本気度を感じました。そのため、私自身もオーナーや事務局の皆さんに、適切なタイミングで必要な情報をお伝えするよう常に心掛けてきました。プロジェクトが経過するにつれ、オーナーの皆さんの提案はより具体的かつ現実味を帯びた内容になりました。同時に、講師も実現性を追求するフィードバックが増え、オーナー自身が厳しい現実に直面する場面も増えてきました。そんな中、オーナーの皆さんを鼓舞激励することも私の役割です。第三者だからこそできることは何か、私自身も終始使命感をもって臨んだプロジェクトでした。

改めて、事務局、オーナーの皆さんと苦楽を共にさせていただけたことに心から感謝しています。また、本プロジェクトがロッテ様の益々の発展に繋がるよう、引き続き伴走していきたいと強く思います。

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