- 新規事業創造
社員が自ら新規事業を立ち上げ、会社を変えていく風土醸成を目指す
医療分野で複数の事業を展開するH.U.グループホールディングス様は、強い既存事業による成長を続けながらも、同社の未来を支える新規事業の創出にチャレンジしています。その一環として、社内公募で新規事業アイデアを募集し、審査を行う「新規事業公募提案プログラム」(以下、本プロジェクト)を2019年より実施。本プロジェクトを企画・運営している同社の経営企画本部 本部長 橋本 宇充様、経営企画本部 経営企画部 経営企画課 末時 義隆様にお話を伺いました。(役職はインタビュー当時)
はじめに:本プロジェクトの概要
H.U.グループホールディングス様は、受託臨床検査や検査薬事業などの事業をもち、日本の医療を支えてきたグループ企業です。既存事業で成長を重ねてきた一方、表裏一体の課題として新規事業の創出に悩んでおり、2019年より社内で新規事業を募集する本プロジェクトを実施しています。社内公募の後、一次審査、二次審査を経て、最終審査を通過した場合は事業化を目指すものです。
2020年の第2回まではH.U.グループホールディングス様の社内で企画・運営していましたが、2021年に実施した第3回はグロービスも参画しました。一次審査を通過したチームに対して、事業化の可能性を高めるサポートとして、新規事業立案に必要なスキルインプットと提案内容へのフィードバックを4か月に渡って実施する内容でした。
インタビュー:プロジェクト実施の経緯
プロジェクト前に抱えていた問題意識
橋本さん:本プロジェクトは2019年に初回を行いました。その際の問題意識は、社内でなかなか新規事業が生まれないことにありました。
当社グループは、受託臨床検査や検査薬事業を中心に事業展開しています。日本の医療が抱える課題として医療費の増大がありますので、我々は既存事業を効率化しつつ、新しい医療の形、新しい検査の形を模索しなければなりません。
そうした環境下で、これまでの延長線上で新しい事業を考えるのではなく、新しい視点で事業を創り上げる必要性を経営陣は感じていました。
新規事業を創出する手段には、M&Aのように外部のリソースを用いるケースもあります。しかしながら、会社の中長期的な成長を考えると、自分たちで新しい事業を立ち上げ、自分たちが会社を変えていくという意識づけ、組織風土の醸成が不可欠だとの経営陣の思いがあり、社内から公募する仕組みを構築しました。
プロジェクトで目指していたゴール
橋本さん:せっかく新規事業を社内公募するなら事業化を目指したいですし、経営陣としても顧客ニーズを直接感じ取っているメンバーが事業を立ち上げてほしいとの思いもありました。ですが、新規事業が次々と立ち上がる他社さんを見ていると、新しいチャレンジを厭わないマインドがあるからこそ、社内から事業が生まれ続けるのだろうと感じるのです。
社内で実施した第1回、第2回を終えて、目指すべきゴールを改めて考えると、まずは新しい事業を立ち上げようとする組織風土づくりに向けて、従業員のマインドをしっかり醸成すべきだと思い始めていました。
そのタイミングで、当社の役員合宿をサポートいただいていたグロービスへ相談を持ちかけたのです。コンサルタントの池田さんからも、「組織風土がまだ追いついていないうちに新規事業創出の仕組みを作っても、実現は難しい」とのご意見をいただき、まさに同感でした。
本プロジェクトの第3回をサポートいただくにあたっては他企業へもお声がけしたのですが、我々の問題意識をご理解いただき、当社グループの現状にマッチしたサポートを期待できる点で、グロービスをパートナーに選びました。
末時さん:なお、2019年に第1回を開催した後、新型コロナウイルス感染症の流行が始まり、既存事業がかなり忙しくなったのは事実です。しかしながら、2020年以降も本プロジェクトは中断しませんでした。組織風土づくりは腰を据えた長い取り組みですし、忙しい状況下でもチャレンジしたい人から機会を奪うことはしたくないと考え、コロナ禍でも開催は止めませんでした。
プロジェクトの主な内容
実施において大事にした点
末時さん:応募をいかに増やすかは、注力したポイントのひとつです。実は、第1回、第2回と比較して、第3回の応募者数は当初は少ない状況だったのです。本プロジェクトの説明会への参加者数は、今回はオンライン開催だったこともあり非常に多かったのですが、応募に繋がらず、説明会参加者へその理由をヒアリングしました。
これはグロービスへ依頼しているスコープの範囲外だったのですが、担当コンサルタントの池田さんにも相談に乗っていただきながら要因分析をしていくと、説明会参加者が応募を思いとどまる理由が見えてきたのです。
忙しくて応募できない人がやはり多かったため、募集期間を延長することで対応しました。その他に、新規事業に興味があったりアイデアがあったりするものの、一緒に取り組む仲間が見つからないという声が結構ありました。人のマッチングも、本プロジェクトの仕組みとして必要なことに気づきましたね。今回は、グロービスへ依頼した提案内容のブラッシュアップ段階で、類似したアイデアの人同士でチームを組んでもらうようにしました。
応募を悩んでいるすべての人に対応することはできなかったものの、最終的には本プロジェクトが成り立つ規模の応募が集まりました。振り返ると、思いとどまっている人へのヒアリングと対応がなければ、ここまで集まらなかったと思います。チャレンジしようとしている人への投資機会を逃すことを防ぐことができました。
実施してのご感想、受講者の変化
末時さん:重視していた組織風土の醸成を軸に、提案内容をブラッシュアップ、調整していただいたことが印象に残っています。
本プロジェクトを実施した当初は、「やるからには事業化させたい、そのためにしっかりフィードバックしてほしい」との思いを講師にもお伝えしたのですが、スキルインプットの回を終えた後、次回から始まる提案内容のブラッシュアップの進め方についてご意見をいただきました。
不足している点をしっかり指摘するよりも、風土醸成というゴールを踏まえると、新規事業に必要な思考や、顧客目線に立って考える重要性を伝えることを通して、新たな事業を作り上げる楽しさを啓蒙する方がいいのではないか、との話が挙がりました。
結果として、この方針変更は、実を結びました。参加者自身に楽しむ気持ちが芽生え、自発的に動くようになり、情報を得るために外部にもアプローチする行動が見られたのです。「社内でリサーチして、資料を作っているばかりではいけない」と積極的に現場に出向き、顧客が満たされないニーズを探って事業をブラッシュアップする姿を目の当たりにし、グロービスに支援いただいて本当に良かったと感じています。
当社グループは既存事業が強いがゆえに、社員にとっては普段見えている世界でしか物事を考えられなくなりがちです。ですが、参加者は本プロジェクトでの経験によって、視野が広がったとの感触を抱いたようです。
普段は接することのないグループ内他企業のメンバーと深く議論ができたのも、視野が広がった要因のひとつになったようです。
また、ぼんやりしたアイデアだったものが、学んだフレームワークを使いながら検討を重ね、講師や仲間からフィードバックをもらってどんどん事業の形になっていくことが楽しかったとの感想も挙がりました。
橋本さん:今回、1チームが最終審査を通過したという具体的な成果も出ました。事業化に向けて巣立っていくチームが生まれたのは第3回目にして初めてです。
末時さん:最終審査をクリアしたのは、不妊で悩んでいる方々に対してソリューションを提供するサービスで、いわゆるBtoCビジネスになります。これから、事業化に向けてさらなる検討を重ねます。
当社グループのメイン事業は病院向けのものですので、今までとは異なる新しい顧客へのアプローチになります。既存事業の顧客の先にいる最終顧客のニーズを捉えながら事業アイデアをまとめられたのは、今回のプログラム内容だったからこそ、成し得たものと思っています。
当社グループは、2020年に社名をH.U.グループホールディングスに変更しました。「H.U.」とは“Healthcare for You”を表したものです。最終審査を通った事業アイデアは、まさに全ての人に最適なヘルスケアを届けたいという想いがこもったものであり、非常に嬉しく感じています。
橋本さん:参加者全体からも、視点の変化を感じています。昨年までは「会社がこうするべき」という会社視点の提案も散見されていたのですが、今回は「自分がこの事業に携わってみたい」と主語が変わってきたのです。コロナ禍でも本プロジェクトを毎年積み重ねてきた意味が出てきたと思っています。
今後の展望
今後の展望
末時さん:新規事業は“多産多死”だといいます。ですが、「失敗したらどうしよう」とリスクに目が向きがちになる傾向はまだありますね。チャレンジしたからこそ新たな学びがあり、それを糧に次のチャレンジをする考え方がもっと浸透すると、組織としてもっと強くなれるのではないかと考えています。
橋本さん:今後も引き続き、新規事業へチャレンジする思いに加えて、それを形にするスキルもより強化していきたいと思います。今回は一次審査通過者に対してスキルインプットを1回、提案内容のブラッシュアップを3回行いましたが、次回以降のプログラムには、その前段階であるビジネスの種の見つけ方なども入れていきたいとイメージしています。
末時さん:今まさに、次回に向けてのプランニングを進めているところです。新規事業をつくる際、アイデアレベルでは、多くの人が日常で何かしらの不満や不足を感じていると思うのです。そこから一歩進んで「自分だったらこうするのに」と事業アイデアの種のようなものが考えられることが新規事業の難しさであり、その実現に繋がるのだろうと思います。ビジネスの種の見つけ方、考え方がわかれば、チャレンジしようとする人がさらに増えるのではないかとの期待も抱いているところです。
橋本さん:本プロジェクトを続けることで、今回見られたマインドの変化という”小さな”うねりを、”本物の”うねりにして、新しいことにチャレンジする組織風土の醸成、そして何より新規事業の創出を目指したいと思います。
H.U.グループホールディングス様との出会いは2018年に遡ります。当時すでに経営企画の責任者をされていた橋本様から、全社の役員の方々を対象にした経営合宿の企画支援のご依頼をいただき、そのプロジェクトでご一緒させていただきました。その合宿では竹内CEOが「今後も成長し続けるために新しいことに取り組み続ける風土を創る」とおっしゃっていたことを今でも鮮明に覚えています。
そこから2年経ち、今回このような新事業開発支援にも携わらせていただき、ご縁を感じるとともに、グロービスが関わることで、より良い方向へ結びつけられるよう、腐心して進めてきました。
社内公募型の新事業開発において、世の中にある事例はものすごく進んだ事例が多く、「もともと新しいことにチャレンジする風土が備わった企業の取り組み」が多い中で、「必ずしもそこまでの風土が備わっていない企業」でどのように進めるかは悩ましいところです。
今回の取り組みでは、橋本様、末時様は、そのような中でどのように進めるべきかという点に最大限の配慮をされ、進められていました。特に個々の参加者に寄り添い、声を拾い、支援・伴走されていた姿が印象的です。
グロービスも一緒に伴走をさせていただきましたが、力強い経営企画の事務局様と一体となり進められたことが、成果に繋がった1つの要因だと実感し、感謝しています。
引き続き、皆さんとはこの取り組みをより良くしていくべく、議論を重ねていけることを楽しみにしています。
弊社の担当者がいつでもお待ちしております。