- 新規事業創造
事業開発の「共通言語」をつくり、社内ビジネスコンテストをアップデートする
社内の新規事業アイデアコンテストをより良いものにすべく、新規事業のアイデア(以降アイデア)を評価する経営層が新規事業の共通言語を持つことを目指した株式会社不動産SHOP ナカジツ様。その取り組みである「デザイン思考研修」(以下、本プロジェクト)について、同社の人財開発部 部長 中村華奈様、経営戦略部 部長 神谷知宏様にお話を伺いました。(部署・役職はインタビュー当時)
プロジェクト実施の経緯
プロジェクト前に抱えていた問題意識
神谷さん:当社では新規事業のアイデアコンテストを数年前から行っており、回を重ねるごとに、アイデアを評価する経営層が、より正当な審査をできる状態にすべきだと考えるようになりました。このコンテストの課題として、審査基準が曖昧な部分があったのです。それゆえに、良いアイデアを見逃していたかもしれませんし、最終審査で提案者に再調査を指示してしまうことがあったのも事実です。本来ならもっと早い段階で再調査をして、材料が揃った状態で最終審査が行われるべきでした。提案する側のスタッフ(社員)も、アイデアの出し方/ビジネスプランへの仕立て方が分からないという課題感があったと思います。
さらには、社員数が増えて今よりもアイデアが多く挙がる組織になった時を見据え、審査側の人数を増やす必要もありました。そこで、今期から別の研修をお願いしていたグロービスさんに、アイデアコンテストの審査員となる執行役員や部長層へ、新規事業立案のトレーニングをしたいと相談したのです。
実施にあたっての懸念点や心配ごと、グロービスへの期待
中村さん:このようなプロジェクトは社内で前例がなく、どのくらい効果があるのか未知数でした。加えて、成長は現場で経験を積んでこそという方針のもと、外部研修を積極的に取り入れてこなかったので、受講者となる経営層に受け入れてもらえるのかの不安もありました。企画段階からかなり手探りの状態で、大崎さん(グロービスコンサルタント・講師)、粟井さん(グロービスコンサルタント)には我々の漠然とした課題感を拾い上げてもらって、プログラムを提案していただきました。
なにしろ初めての取り組みですので、グロービスさんには、計画通りに完走することを目指すよりも、その場の状況に応じて柔軟に対応してほしいとの期待がありました。
我々の問題意識に対して、「課題はこういうことなので、このような施策をやるといいですよ」と具体的に提案していただいたのは、数ある研修会社の中でグロービスさんだけでした。プロジェクト開始後もアドバイスをいただきながら進められそうだという期待はありましたね。
最初に経営層へ本プロジェクトの話をした時は、「これで本当に新規事業がつくれるようになるのか?」と何回も問われました。会議を通すのは確かに大変でしたが、我々も初めての試みですし、最後は自分も覚悟を決めて「できます」と言い切ってしまいましたね。
中村さん:当社はこの10年間で売上を大きく伸ばしました。目標をシンプルに売上に絞るという会長の方針のもと、社員一丸となり、成長してきたのです。そのため、トップの方針をまずは受け入れ、前向きに解釈し、あとは楽しもうという風土があります。今回はその風土をうまく活かし、経営層の合意を取れれば、スムーズに動くだろうとの予想はしていました。話を持っていくと、会長や社長、副社長もアイデアコンテストへの課題感を持っていたことが分かり、合意をもらえたのです。
実際に、受講者の皆さんには本プロジェクトの初回から前向きに参加いただきました。実は、大掛かりなオリエンテーションなど、モチベーションを上げるような取り組みはしていません。受講者に話を聞くと、アイデアコンテストの審査基準に不明瞭な部分があると感じていたようで、皆の課題意識が共通していたことが前向きな姿勢に繋がったのかもしれませんね。
プロジェクトの主な内容
プロジェクト内容と、重視したこと
神谷さん:本プロジェクトは、執行役員や部長層を中心に、提案者の候補となるスタッフも参加して実施しました。プログラムはフェーズ1とフェーズ2の2段階の構成とし、フェーズ1はデザイン思考を学んだ上で、アイデアを考える内容としました。その後のフェーズ2では、アイデアをビジネスプランに仕立て上げてプレゼンテーションを行い、相互評価を行いました。
研修慣れしていないメンバーが多いので、座って学ぶだけではなく、良い意味で楽しめる内容にしたいと思っていました。講師の大崎さんは、意見を否定せずどんどん出していいというスタイルで進めてくださり、デザイン思考にもアイデアを否定しないという考え方がありますので、受講者は発言しやすかったようです。この「否定しない」という姿勢は、普段の部下育成でのコミュニケーションを振り返る機会にもなり、デザイン思考は新規事業のみならず他の場面でも活かせると感じたようでした。
プロジェクト後の手ごたえと今後の展望
プロジェクト参加者の変化
神谷さん:当初の目的であった審査員のスキルアップという点では、おかげさまで経営層の目線を揃えることができたと思います。これまでと比べると飛躍的な成果です。途中、ビジネスアイデアを考えるフェーズでチームによって進捗のバラつきがありましたが、大崎さんが導いてくださり、なんとか仕上がったと思います。進捗が遅れていたチームのひとつは、最後の最後で劇的に良いアウトプットになりました。
中村さん:さらにマインド面では、自分達が大切にしていたことを再認識する場になりました。当社は以前から、部下を否定しない、新しいことにチャレンジする、ワクワク感を大事にするといった姿勢を大切にしていましたので、デザイン思考に通じる部分が多くあると感じました。
また、社長もオブザーブして時には議論にも加わってもらい、そこで感じることがあったようです。本プロジェクト終了後の今期から、課長の昇格試験で社長面談を導入したのですが、面談を終えた社長が「アイデアはスタッフから積極的に出してほしい」と頻繁に言うようになりました。今までもそう思っていたのかもしれませんが、本プロジェクトにオブザーブし、新たに課長になるスタッフと将来の当社について話し合う機会を経て、改めて伝えていこうと思ったのでしょう。
アイデアを創発する仕組みづくりに反映していること
神谷さん:本プロジェクトで用いた審査基準やプレゼンテーションのフォーマットは、実際のアイデアコンテストで大いに使わせていただいています。学んだことをもとに、弊社オリジナルの部分を反映して運用している形です。
先日、本プロジェクトを終えてから初めてのアイデアコンテストを実施しました。これまでは「アイデアを出そう」とだけ伝えていましたが、アイデアを考える土台となる「デザイン思考研修」も告知内容に加えたんです。そして、本プロジェクトの受講者のうち、執行役員は提案せず審査に専念する形にし、スタッフで受講した者は提案者の「サポーター」として伴走する体制を取り入れました。
結果として、スタッフからの提案が最終審査を通過し、初めて事業化しそうな段階まで来ました。スタッフから業務改善レベルを超えた内容が提案されたことに、本プロジェクトの成果を感じています。副社長からも「今までの提案とは、全くレベルが違う」との感想をもらったほどです。提案内容はもちろん、プレゼンテーションの精度も上がりましたね。サポーターの力添えもあり、学んだことを取り入れて提案してもらったのだと思います。
中村さん:私はオブザーバーとして本プロジェクトに関わり、今回のアイデアコンテストでサポーターの役割を担いました。アイデアを見極めるポイントを理解していると、こんなにもアドバイスしやすくなるのかと感じましたね。他のサポーター達も、同じような実感を抱いたでしょう。サポーターは各チームに分かれているのでお互いの様子は見ていませんが、きっとアドバイスする視点も揃っていたと思います。
経営企画と人事の連動がもたらす効果
中村さん:我々の実感値として、事業開発をする際に経営企画と人事がタッグを組むのは必須だと思います。当社は元々セクショナリズムの強くない社風だったことに助けられました。社内のほとんどのプロジェクトでは、複数の部署が連携する体制を組みます。例えば社内表彰をする際も「表彰は評価だから、人事がやる」ではありません。評価そのものは人事が主導しつつ、表彰によって何を目指すのか、どう発信して社員に伝えるか、といったことは経営企画や総務も巻き込んで検討します。人事だけで決めるよりも時間はかかりますが、会社全体の方向性が揃うメリットは大きく、時間負荷をかけても連携でプロジェクトを行なっています。
神谷さん:当社は、何らかの目的を達成しようとすると、ひとつの部署では実現が難しく、協力しなければならない環境にあるのは確かです。だからこそ「何のために、何をどこまでやるのか」という目的やゴールをはっきりさせる習慣はついていると感じますね。
「共通目的」や「相互理解」を大切にする風土に加えて、本プロジェクトを通して「共通言語」を大切にする意識が根付きました。普段の議論でも「この言葉を今後は使っていこう」といった認識合わせをするようになったと思います。
今後の展望
神谷さん:目指す姿に達するには、まだまだ遠いと思っています。今はアイデアコンテストの審査基準を整えて、良いアイデアが出始めた段階に過ぎません。
本プロジェクトを終えてから初めてのアイデアコンテストを実施して、提案をしたスタッフの中にはうまくアイデアを考えられなかったり、結果が出なかったりしたメンバーも多くいます。今後、新規事業の考え方をもっと全社に浸透させ、スタッフへの個別フォローも行って、繰り返しチャレンジしてもらう環境づくりを進めたいと思います。
今回デザイン思考を学んで、良いアイデアを生むためには何度もチャレンジすることが大切なのだと感じました。当社もチャレンジし続ける組織でなければ、勝ち続けていけないと痛感したところです。本プロジェクトを通して、当社の課題がより明確に、大きくなったとも感じています。まず、それに気づけたことが良かったですね。
中村さん:人事としては、スタッフへ機会を提供することを強化していきたいと思います。会社側が機会を与えたつもりでいても、スタッフが機会と捉えるとは限らないんですよね。ベストな機会の提供とは何かを考えていかないと事業開発も継続しないし、会社も成長していかないのだと思います。
本プロジェクトは、業績の急成長を遂げながらも更に将来を見据えた事業の種まきをするために、社内のビジネスコンテストをソフト面(人・組織)とハード面(制度)の両面からアップデートしなければならないという中村様、神谷様の強い想いから生まれました。
おふたりの覚悟に応えるように、受講者の皆さまは多忙を極める中でもDay1から積極的に学びに取り組まれました。講師から投げかけられる様々な問いに向き合い続け、仲間と一緒に事業アイデアを事業プランに仕立て上げていく皆さまの真摯な姿が今も印象に残っています。今回プログラムに組み込めなかったユーザー・インタビューを自主的に実施されたグループも複数あり、当事者意識の高さも終始感じ取ることができました。
ご支援をさせていただく中で見えてきたことは、皆さまの「関係性の質」の高さが「成果の質」に繋がっていることです。部門の壁に捉われない共通目的と相互理解、そしてプロジェクトを通じて手にしたデザイン思考という共通言語を大事にされながら新規事業の創造に取り組まれる姿勢は、多くの企業にとって大きな示唆になるのではないでしょうか。
社内では目に見える変化が随所に現れ始めており、新たな事業が生まれてくることを心から楽しみにしています。今後も不動産SHOPナカジツ様の様々な挑戦をパートナーとして伴走して参りたいと思います。
新規事業アイデアコンテストの審査員をされる役職者に対して、実践的な育成の必要性を感じながらも、及び腰になる企業様は多いものです。反発があるかもしれないところを乗り越え、実施に至ったナカジツ様は素晴らしいと思います。
プログラムが始まり、特に印象的だったことが、オブザーブとして参加されていた樗澤社長が一番学びに積極的だったことです。クラス中に学んで考えられたことを、休憩中に私に質問に来られたくらいですから。そうした社長の姿にも触発され、受講者の学ぶ意欲・発揮志向は素晴らしく、私自身、とっても楽しくやりがい・手ごたえをもってプロジェクトを伴走させていただけました。
また、改めてナカジツ様の経営理念を読み込むと、デザイン思考の本質が見事に組込まれており、組織風土や仕事の進め方も、もともとそうなっていたんだなと、妙に納得したことも印象的でした。
不動産業界は、まだまだ「不」が多い業界です。業界の常識を打ち破るチェンジ・エージェント(改革の推進者)として、本プロジェクトの学びを活かし、もっと、もっと、幸せで、ワクワクする暮らしを実現するための事業を量産いただけることを期待していますし、引き続き私もしっかり伴走していきたいと思っています。
弊社の担当者がいつでもお待ちしております。