- 新規事業創造
新規事業を継続して生み出す部門を目指し、人・組織の体質改善に取り組む
成長が伸び悩む日本においては、既存事業の成長が鈍り、新規事業に活路を見出そうとする企業が増えています。その一方で、新規事業を立案できる人材が不足している企業も少なくありません。富士通株式会社でDXを担い、新規事業を生み出すミッションを掲げるソーシャルデザイン事業本部様で実施した戦略策定ワークショップ(以下、本ワークショップ)について、本部長の有山俊朗様にグロービス マネジング・ディレクターの西恵一郎がお話を伺いました。
※本インタビュー記事の部署・役職、プロフィールは2022年3月取材時点のものです新規事業をつくるには、人・組織の体質改善は必須
西:今回、本部内の各事業部長と事業企画リーダーの皆さんにご参加いただいて、半年ほどの期間をかけて事業戦略をつくるワークショップに伴走させていただきました。方法論としては、日本企業が重視するOJTでもOff-JTでもなく、プロジェクトを通して人材を育成するProject based Learningでした。私たちはこれを“On the Project Training”(以下OnPT)と呼んでいます。
OnPTとOff-JTの違いは、目的の置き方です。OnPTはアウトプットすることが目的であり、そのプロセスで結果的に人を育てます。参加者の皆さんがアウトプットを作り、私たちは伴走するという立ち位置です。
新規事業を考えるにあたっては、外部のコンサルタントからアウトプットを買う選択肢もありますが、私たちが伴走するのであれば事業部長の皆さんが事業をつくれるようになることを目指します。どちらの選択肢にもメリット・デメリットはありますが、今回はなぜ、グロービスを選んでいただいたのでしょうか。
新規事業の創出をミッションにする我々にとって、人・組織の体質改善は必須だと考えたのです。当社の社員が事業のつくり方を理解しなければ、この先コンサルタントと協業するにしてもうまくいきませんから。人や組織が変化して初めて、コンサルタントともうまく仕事ができるのだと考えています。
新規事業は、既存事業とは違うプロセスや評価軸が求められる
有山:本ワークショップを通して、事業のスケールとスピードの点で、世の中と当社とのギャップを感じました。会社の中にいるだけでは気付けなかったことです。当社はこれまで投資に対して3年での回収を目指す場合が多いため、新規事業を考えると収益がすぐ出そうなものに飛びつきがちです。ゆえに、小粒の事業アイデアに陥ってしまうこともありました。この点は西さんから繰り返しアドバイスをいただき、時間をかけて皆が腹落ちできたと思います。
西:富士通さんはシステムを請負で作ることが多いので、短期の売上見込みで評価することが事業に合っていると思います。一方で、新しい価値創造を行う新規事業は初めの数年間は売上よりもユーザー獲得を重視するビジネスもあります。このビジネスの違いのギャップを乗り越えなければいけません。例えば、評価軸を変え、売上ではなく事業価値に着目して評価してはどうかともお伝えしました。なぜなら、初めの売上が小さいだけで事業化を諦めてしまうのは、もったいないと感じたためです。
有山:そうですね。収益面では、売上だけではなく、フロー・ストック・エクイティなどのビジネスモデルの観点で見るべきだと思います。SaaSビジネスでも、最初の売上は本当に小さいものです。SIで一括受注するビジネスモデルとは違うと認識し、最初は耐えなければならないという心構えが要りますね。
西:その意味づけを語れることも必要ですね。そして、スピードの点でも変わったと思います。最初の時期に参加者のおひとりが事業コンセプトの検証を「10か月ほどで検討します」とおっしゃっていたのに対し、「遅すぎる。2~3か月くらいで終えるイメージでした」と率直にお伝えしました。そのくらいスピードを上げてほしい、と。ところが最近では、他社さんとの提携交渉において、先方に「遅くないですか」と富士通さんから言うようになったと伺っています。
ビジネスのスピードを上げるためには、プロセス設計が重要です。この点も繰り返しお伝えしながら実践していただき、ワークショップの後半になると「ここまで議論を進めたので、次回はこの点について相談したい」と事前に案を出してくれるようになりました。この動きができると、格段に検討スピードが上がりますね。組織としての成長を感じました。
仮説を立て、情報を集める重要性を経験
有山:新規事業で持つべき視点については、まだ変化の途中にいると思っています。顧客ニーズではなく、何ができるか、の機能面から発想してしまう癖が抜けきれていません。これまで機能面でばかり考えてきたので、説明する際もシステムアーキテクチャから表現してしまうことがあるのです。競合をもっと意識することや、顧客へ積極的にヒアリングする重要性もワークショップを経て強化されてきたと思います。
西:ある参加メンバーから「海外の参考事例をもっと詳しく知りたいので方法はありませんか?」と聞かれたので「ホームページで連絡先を調べて直接コンタクトするといいと思います」とお伝えしたこともありました。これまでの習慣で、無意識のうちに「自分はここまではやらないものだ」と決めてしまっていたのでしょう。実際に連絡したら結構教えてもらえたと言っていました。「会いたいと思ったら連絡する」「知りたいと思ったらまずはダメ元でお客さんに聞いてみる」、これまでの常識の壁を取り払うことで、どんどん自分たちで前に進めることが出来るようになります。
有山:この経験ができたのは大きな進歩です。外に出ようと私からも社員に伝えてきましたが、なかなか行動に移りませんでした。既存のお客様からも、会話の文脈が違えば新たなヒントが得られるはずです。
西:その時に、仮説を持つことも重要ですね。ヒアリングをするなら、検証したいものがないと話をしても噛み合わなくなるので。そして、富士通さんの資産であるデータをもっと活かすためには、データを複数の角度から見てみることが必要です。ワークショップの中では「違う光を当てる」という言い方をさせていただいていました。
有山:光の当て方、という西さんの表現は私も印象に残っています。機能面ではなく、顧客ニーズの視点で考えることにも通じますね。仮説を立てるときにも重要な考え方を学べました。
プロジェクトの「再生産」ができる組織を目指す
西:伴走型である本ワークショップをご体験いただいて、有山さんが感じたメリットや、どのような時に実施すると効果が出せそうか、お聞かせいただけますか。
有山:長期的な目線での効果があると思っています。これから事業が変わり、社員も入れ替わっていくことを考えると、新規事業の要点が分からない人は、今後も一定数いることになるでしょう。その時に、本ワークショップの参加者がリードすることで、今よりもスピードを上げて事業計画を進められると思います。今回で、事業戦略の立て方やプロセス設計の事例ができましたから。今後も新規事業を立ち上げたり、事業のステージが変わったりする時には、またワークショップをお願いしたいと考えています。
西:スピードを上げるのは、新規事業においては重要ですよね。一方でこのワークショップは、答えをもらえると期待している人にとっては酷な取り組みだろうとも思います。私たちは選択肢や方向性を示す立場であり、決めるのは参加者の皆さんですので。
有山:そうですね。自ら答えを作り出していけるようになってもらいたいと思います。そして、ワークショップの運営に関わったメンバーは、西さんをはじめとした外部の人と協業することの大切さを感じたようです。これから本部で採用を加速させるにあたり、まずは本ワークショップのような形で、外部の人に入ってもらい、今働いている社員を育てるのが最適解だったとの意見でした。これから先、今いる社員と新たに外部から採用した社員がきちんと協力できるようになるには、今働いている社員こそが成長して強くなる必要があるからです。
西:成長するには、実際に行動して苦労もして、自分で乗り越えた経験を積むことが必要ですね。新規事業は失敗を繰り返すのは当たり前で、予定通りには進まないものですから。ソーシャルデザイン事業本部には、その経験を積める場があると思います。事業と組織をつくる経験を積み、プロジェクトの評価もできるようになると、外部から採用した高度人材ともしっかり融合できると思います。
有山:そうなると、組織内でプロジェクトの「再生産」が可能になり、人をどんどん育成できるようにもなりますね。そこまでを目指すのがこれからの課題です。
弊社の担当者がいつでもお待ちしております。