管理職研修のテーマ選びで欠かせない「3つの視点」

2023.04.28

昨今、管理職の育成強化が課題になっています。テレワークやフレックス勤務など働き方の変化によって、従来のマネジメント手法が通用しなくなりつつあるためです。しかし、いざ課題解決のために研修を企画しようにも、関係者の間で意見が分かれ、結果的に昨年と同じテーマになることも少なくありません。

 

なぜ、かくもテーマが定まらないのでしょうか。もしかすると、関係者の間でテーマ選定に必要な視点が揃っていないからかもしれません。本コラムでは管理職研修のテーマ選びで欠かせない「3つの視点」をご紹介します。

執筆者プロフィール
太田 昂志 | takashi ota
太田 昂志

DX推進・内製化支援を行うテックカンパニーにて最高人事責任者(CHRO:Chief Human Resource Officer)として戦略人事全般を管掌する。同時に、公的機関や急成長スタートアップの経営・人事アドバイザーとして事業開発や組織変革等を支援する。グロービスでは論理思考・人事組織系科目の教鞭を執る他、教育プログラム開発も担う。
大阪大学人間科学部卒業、グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(成績優秀者表彰)。


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第1章 
管理職研修の不動の2大テーマは
「マネジメント」「リーダーシップ」!

管理職は経営と現場をつなぐ重要な存在です。では、その能力開発の手段である管理職研修は、どんなテーマで実施されているのでしょうか。

HR総研が実施した「人材育成『管理職研修』に関するアンケート調査」によると、2017年から2021年までのトップ2は変動していません。1位は「マネジメント」、2位は「リーダーシップ」です。一方で、3位以下はその年によって順位の入れ替わりが起こっています(図1)。

図1 管理職研修の内容の推移(2017年~2021年)

図1 管理職研修の内容の推移(2017年~2021年)

管理職にとって、上位2つの「マネジメント」「リーダーシップ」は必須の能力です。一方で、3位以下の内容が年によって変わっているのは、そのときの経済・社会状況によって求められる能力が異なるからでしょう。これは企業単位(自社)でも同じです。そのとき自社を取り巻く状況によって、優先的に習得すべき能力は違ってきます。

では、管理職研修のテーマはどう選べば良いのでしょうか?

第2章 
管理職研修のテーマは
「Why-What-How」で選ぶ

管理職研修のテーマを選ぶための3つの視点をご紹介します。どんな目的のために(Why)、どんな人材要件に対して(What)、テーマをどう設定するのか(How)の3つです(図2)。このWhy-What-Howの視点に沿って、管理職研修のテーマを検討していきます。それぞれ見ていきましょう。

図2 テーマ選びに欠かせない3つの視点「Why-What-How」

図2 テーマ選びに欠かせない3つの視点「Why-What-How」

2-1. Why:どんな目的で研修を行うのか?

まず押さえたいのは「目的(Why)」です。「何のために管理職研修を行うのか」という目的を明確にしましょう。例えば新任管理職研修だと、「組織を円滑に運営するために必要な知識を習得する」などです。

参考:新任管理職研修の基本的な役割(見直しシート付)

このとき、関係者の間で「自社を取り巻く環境変化に対する認識」がずれてしまうことがあります。例えば、「顧客ニーズが多様化・高度化を極めている」「新興企業の台頭によって、業界がディスラプト(破壊)されつつある」などです。認識がずれている状態のままだと、「何のために研修を行うのか」という目的が定まらず、話が一向にまとまりません。

では、具体的にどんな点に関して認識を揃えておくと良いのでしょうか。

押さえるべき点は様々ありますが、例えば3Cというフレームワークで整理し、認識を揃えておくと良いでしょう。3C分析とは、市場・顧客(Customer)と競合(Competitor)の観点からKSF(Key Success Factor:事業を成功させるための必要条件)を見つけ出し、自社(Company)の戦略に生かす分析をするためのフレームワークです(図3)。

例えば、「市場・顧客の変化は?」「競合の変化は?」「自社の変化は?」などの問いを立てて、関係者の目線を揃えておくことが望ましいでしょう。

図3 3C分析

図3 3C分析

2-2. What:どんな人材要件に対して行うのか?

研修の目的が明確になったら、次に押さえたいのは管理職の「人材要件(What)」です。

人材要件とは、職務遂行に必要な能力(知識・スキル、マインド)や人物像などを明確にしたものです。あるべき姿と言い換えても構いません。例えば、マネージャーの人材要件であれば、「戦略実行に向けて、実行計画を課に落とし込みながら、同時に部下の成長を引き出す行動が期待されている。そのためには計画立案力と組織牽引力が必要である」といったものです。

さて、こうした人材要件定義はどのように行うのでしょうか。詳細は「人材育成・組織開発プログラムを企画する3ステップ」に譲りますが、ここで人材要件定義の手順を簡単にご紹介しておきます。

まず自社の戦略を踏まえて「あるべき組織像」を考え、組織として共通で持ちたい「軸」(指針)を決めます。次いで、その軸をもとに、管理職に期待する役割を定めます。最後に、その役割を全うするのに必要な「行動」「知識・スキル」「マインド」の3つの枠組みで整理するのです(図4)。

図4 人材要件定義の枠組み

図4 人材要件定義の枠組み

こうして人材要件を定義していきますが、実際やろうとすると、なかなか骨の折れる仕事です。さらに、苦労して作った後、少しでも変更しようものなら、関係各所と再び合意形成を図らなければなりません。結果、現場でよくありがちなのが「そもそも人材要件を明文化していない」「5年前から人材要件が変わっていない」「社内で統一されたものがなく、部門やチームによって個別に作って運用している」などです。

ただ、人材要件を定義するのは大仕事だからと逃げていると、一向に戦略は実行されません。なぜなら、描いた戦略を実現するためには、実行を担う人材が必要だからです。そして、その人材を育成するためには、まず「どんな人材が必要なのか」という人材要件から定義しなければ、何も始まりません。管理職研修の企画においても、そもそもどんな人材を育てたいのかを言語化しておきましょう。

2-3. How:テーマをどう設定するのか?

さて、人材要件が明確になったら、いよいよ研修のテーマ選びに入っていきます。

ここでよくやりがちなのが、いきなり管理職に求められる知識・スキルやマインドを並べ、その中から研修のテーマを選ぼうとすることです。これではなかなか議論がまとまりません。

すべての知識・スキルやマインドをたった数日の研修でカバーするのは困難です。また、なかには研修ではなく、日々の業務の中で身に付くものもあるはずです。従って、まずやるべきは、管理職がこれまで必要な能力を身に付ける機会があったかを整理し、不足している点を特定することです。その際、OJT(業務経験)、Off-JT(研修をはじめとする学ぶ機会)に分けて考えてみると良いでしょう(図5)。

図5 人材要件に対して不足している点を特定する

図5 人材要件に対して不足している点を特定する

こうして不足する能力を特定できたら、ようやくテーマが決まる・・・というわけではありません。ここでもう一段深く考察する必要があります。

というのも、能力不足が一向に解消されなかったのには何か理由があるからです。それなのに「〇〇が足りていない」「だからそれを研修で補おう」とするのは間違いです。なぜ、それらの能力はこれまで身に付けられなかったのかを考えます。その上で、それらのうち、本当に研修で取り組むべきものはどれかと絞り込んでいくのです。

例えば、自社の管理職に足りてない能力は「イノベーション力(社内外のアイデアを有機的に結合させ、新しい価値を創造する力)」だとしましょう。ここで「よし、研修のテーマはイノベーション力だ!」とならずに、なぜこれまでその力が身に付けられなかったのか、という問いを立てます。すると、例えば「前例のない新しいアイデアが言いにくい風土がある」「失敗やチャレンジがなかなか許容されない」など原因がいくつか思い付くはずです。

さて、ここで挙げたいくつかの原因は、管理職本人によるものでしょうか。いずれも管理職というより、組織そのものの問題が大きいのではないでしょうか。もしそうなら、これを研修で解決するのは間違いです。それよりも、例えば組織風土にテコ入れをすべきです。

上記はあくまで一例で、単純に管理職が「イノベーションを起こす方法を知らない」ということもあります。その場合は研修が解決策になりえますが、改めて大事なのは「足りない能力を、いきなり研修テーマにしない」ということです。こうして本当に研修で取り組むべきテーマを絞っていくのです。

第3章 
能力は、階段状ではなく、
網の目状のように色々と絡み合って成長する

さて、取り組むべきテーマが定まったら、最後に改めて確認しておきたいことがあります。それは「そのテーマは単独で成立するものかどうか?」という点です。

近年、成人発達理論において、「ダイナミックスキル理論」が注目されています。この理論によると、人の能力は多様な要因の影響を受けて動的に成長するものとされています。つまり、能力は階段のように1ステップずつ成長するのではなく、網の目のように相互に絡みつつ成長するものであるということです。

例えば、管理職研修でよくテーマに挙がる「マネジメント力」の習熟について考えてみましょう。マネジメント力とは、経営資源である「ヒト・モノ・カネ」を管理することで、組織の成果を最大化する力のことを言います。

この「マネジメント力」を習得するには、組織の成果を最大化するための「リーダーシップ発揮の行動プロセス」―「目標を設定し、計画を策定し、計画を実行する」方法を押さえておく必要があります。また、ヒト・モノ・カネの3つの経営資源を扱うため、「経営資源」に対する深い理解もなければなりません。つまり、マネジメント力は、さまざまな要素があって初めて成立するのです(図6)。

図6 マネジメント力を支える要素(例)

図6 マネジメント力を支える要素(例)

このように今回のテーマが単独で成立しそうかどうかも確認しましょう。その際、もしそのテーマに影響する他の能力を管理職が有していなければ、研修メニューに組み込むことも検討すべきです。「学んだは良いが、現場に戻ったときに使えない」という事態にならないように、最後に全体像を整理しておくことが大事です。

第4章 
管理職研修は、
戦略実現のための組織・人づくりの手段

管理職研修は、企業の成長や発展に欠かせないものです。言い換えると、戦略実現のための組織・人づくりの手段であるといっても良いでしょう。だからこそ、テーマ選定は安易に前例踏襲で決めたり、そのときに流行っているテーマに飛びついたりしないようにしましょう。

ただ、テーマ選びの方法はわかっても、いざやってみると、発想が膨らまなかったり、逆にまとまらなかったりすることもあるでしょう。そのときは一人で考え込まずに、所属部内で話し合ってみたり、実際に現場で活躍している管理職にヒアリングしたりするのも手です。また、外部パートナーから他社事例も共有してもらいながら、壁打ちしてもらうのも有効です。

目的を押さえ、人材要件を明確にし、足りない能力を特定した上で、選んだテーマで企画した研修であれば、きっと管理職の成長や企業の発展・発展に寄与するものになるはずです。

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管理職研修の企画を事例で紹介! 行動につながる研修企画のポイント

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。