アンケート結果だけでは分からない、管理職研修の見直し方
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見直したい管理職研修3つのパターン
皆さんの会社では、どのような方法で研修の評価・見直しを行っていますか? 受講生アンケートや上位職へのヒアリングなどを参考にすることも多いのではないでしょうか。
しかし、参加者アンケートでは「成功」したかに見えても、実は研修として成功しているとは言えない管理職研修があります。パターンは主に以下の3つです。
- 当初は役員の肝入りでスタート、でも今となっては現場の課題とズレている
- 知識欲は満足、でも実践するには何かが足りない
- 現場に影響が少ないよう配慮した1泊2日の設計、でも実りは少ない
以下、それぞれの事例と見直しのポイントを見ていきましょう。
1:当初は役員の肝入りでスタート、
でも今となっては現場の課題とズレている
研修には企業独特のこだわりが出るものです。まして「管理職研修」という、マネジメントの共通認識を形成する場では、経営層の思い入れの強いテーマや方法論が盛り込まれることもあります。
このこだわりは、企業の組織文化や一体感の醸成につながる大切な要素です。しかし一方で、このこだわりが、研修の効果や有用性の検証をお座なりにさせてしまってはいないでしょうか。「役員の方針だから」という理由だけで継続していると、現場が抱える課題から次第に乖離していく危険があります。
A社では長年、「管理職層のやり切る力」を養う目的で、管理職研修においてリーダーシップやコミュニケーション強化を主とした研修を実施していました。「やり切る力」の強化については役員から継続的な組織の課題として指摘されていたため、これまで研修内容に異論が出ることはありませんでした。
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しかし育成担当者が改めて、「やりきる力とは何か」に関心を持ち詳細を確認すると、役員からは「事業環境や自社戦略に照らした具体的な実施計画が提出されない」「実行段階に置いて、競合を意識した戦術が行われているとは言い難い」(だから、やり切ることが出来ない)という声が出てきました。
確かに、役員の肝いりで研修をスタートした当初は、上司・部下間のコミュニケーション課題が「チームでやり切る」ことを妨げる原因の1つであったようです。しかしながら、数年の間に組織改編があったこと、またこれに伴う役職者の若返りなどで、直近ではむしろ個のスキル不足に焦点が当たるようになっていました。
改めて管理職研修の内容を検討した結果、従来のリーダーシップやコミュニケーションを主とした内容から、経営戦略やマーケティングといったスキル強化を中心とする構成に見直すに至りました。
「従来通り」に疑問を持ち都度「管理職研修の目的」に立ち返ること、今求められる力とは何か、そのために最適な打ち手とは何かを考え続けることが必要です。
2:知識欲は満足、でも実践するには何かが足りない
受講生が研修において習得を期待される力を養うためには、受講生のレベルに応じた適切なステップや内容の設計が必要です。優秀な人材が集まる企業では、要望もハイレベルになりがちですが、研修での学びを実務で実践出来る状態を目指すならば、知識欲を満たすだけでなく、原理原則を理解し行動として実践に繋げる研修設計を行う必要があります。
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B社では、管理職研修の最後に、今後自らが目指す姿や目指す組織のあり方について提言を行っていました。しかしながら、その提言において「プレイヤーの目線が強く残り、広く組織課題に目が向けられていない」「論点のヌケモレが多く、意見を論じる際の根拠が乏しい」といった状況がありました。
管理職研修としては、期間3・4カ月程度をかけて月に1回の1泊2日を繰り返す、比較的長期に渡るプログラムです。研修の内容も経営戦略や財務も取り入れる充実したもので、受講生からも「わかりやすい研修だ」と高い満足度を得ていました。
では、なぜ上記のような事象が頻繁に起きてしまったのでしょう? 研修時の状況も踏まえて原因を考えたところ、思考体力が十分でない、事象を構造化して整理することに慣れていない、よって事象に対する解釈が深まらないといった傾向が見出されました。そのため、知識のインプットは得意でも、自らの考えを提言(アウトプット)することには課題が残っていたのです。そこで、応用科目のみならず論理思考や課題解決など、思考プログラムを取り入れて研修設計を見直しました。
このように、参加者の状況を踏まえ、基礎からステップを踏んだ設計により、期待されるアウプットが引き出せるよう工夫することが重要です。
3:現場に影響が少ないよう配慮した1泊2日の設計、でも実りは少ない
研修の設計には、費用や日数の制限がつきものです。「事業部の反対により日程は増やせない。しかし効果を高めたい」という育成担当者様も多いものと思います。もちろん目的に対して一定の学習時間は必要ですが、例え制約があっても諦めず、あの手この手で補完することが重要です。
C社では、役員から期待される「当社の管理職ならこのくらいはできてほしい」というレベルに合わせて、ハイレベルな内容で管理職研修を1泊2日で実施していました。実際、受講者アンケートは「新しい知識を得られた。学びが多かった」など満足度は高かったのです。しかし、同時に、研修講師からは毎回「少しレベルに無理があるのでは。これでは身につきませんよ」とコメントされていました。
レベルの高さは譲れず、かといって丁寧に積み上げたくても1泊2日の期間を延ばせない。人事部が考えたのは、管理職研修前に自己啓発の受講を義務づけ、知識レベルで底上げする方法でした。
制約があってもあきらめず、目的の達成に向けてより良い方法はないかと常に見直すことが重要です。
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まとめ:管理職研修は、
研修の目的と意図を明確にして見直す
筆者はこれまで、製薬、精密機器、食品、IT、エネルギーまた広告と、多様な業界の人材育成に携わる機会を頂きました。その中で、上記のようなご相談を頂く度にお伝えをするのが、「今回の管理職研修の実施目的は何か」「育成に込められた企業としての意図は何か」という点に立ち返ってはいかがか、ということです。
各社ともに、育成のご担当者様は、総じて「受講生に実りある学びの機会を提供したい」という、熱い想いを持って育成施策の立案に取組まれています。しかし一方で、時に研修に対する受講生からのアンケート数値や一部の生の声といった「言語化され表面的に見えているもの」に敏感になりすぎでは、と感じることもあります。そのため、今回紹介したような、アンケート等には現れづらい問題点への対応が後手に回っているように見えることもありました。
もちろん、アンケート数値や生の声をしっかりと把握し、研修の振返りの材料とすることも重要です。しかしながら、人材の育成を担い、ひいては組織の成長を預かる育成担当者として「何のために行う研修か」「研修を通じて、受講生にどのような気づきや行動を促したいのか」という企業側の意図(場合によっては言語化されづらく、表面的には見えにくいもの)にしっかり目を向け、その上で育成施策の見直しを進めることが求められていると考えます。
企業としての意図を持って研修(≒育成)を行う。この実現に向けて、育成担当者の皆様とともに歩んでいければ幸いです。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。