新任管理職研修の内容を決める「2つの役割」「6つの問い」

毎年ボリュームアップする新任管理職研修の教材やカリキュラム。果たして現場の課題や受講者の状況に合っていますか? 管理職の「2つの役割」と「問いかけるべき6つの問い」に照らして、自社の管理職における本質的な課題を確認し、研修の目的やカリキュラムを適切に設定しましょう。

執筆者
奥 康訓

同志社大学商学部卒業、グロービス経営大学院修士課程(MBA)修了。
大手研修サービス会社に入社後、横浜・名古屋・盛岡の3拠点において、企業の人材育成、組織開発のコンサルティング企画営業、プロジェクトマネジメント、チームマネジメントに携わる。

グロービスに入社後は、東海圏の新規のお客様を中心に、企業の人材開発・組織開発サービスの企画・設計に従事。現在は営業法人部門のマネージャーとして、マーケティング企画立案、チームマネジメントとともに、思考系領域の研究グループに所属し、各種コンテンツ・教材の開発および講師を務める。

CHAPTER
01

管理職の役割に悩む新任管理職のつぶやき

「残業はさせるな、生産性を上げろ!」
「予算は増やせないし、人も増やせない、だが目標は達成しろ!」
「部下のモチベーションを上げ、自ら学ぶ人材を作れ!」

管理職になって半年、無理難題を現場に押し付けられているような気がしている。管理職に就任した当初、新任管理職研修を1日受講したが、その後は特に会社からのサポートもないし、上司に相談しても、「まずはお前の思うとおりにやってみろ」と突き放されてしまった。そもそも管理職とは何をしなければならないのか、基本的な型もないので自分のやっていることが良いのかどうかもわかっていない――。

先日、ある企業で管理職になって半年のAさん(38歳)にお悩み相談をされたときの話です。Aさんは非常に優秀なプレーヤーでしたが、管理職となってからはこれまでに自身が積み上げてきた経験が通用しないことが多く、しかもなかなか周囲に相談することもできていないようでした。

こういった話はそれほど珍しいケースではありません。むしろ多くの管理職が自分のことだと共感するのではないでしょうか。

CHAPTER
02

疲弊する管理職と部下

さらに悪いケースでは、このような上司の姿を目の当たりにした若手・中堅社員が、残業代がもらえない上に(場合によっては手取りが下がる)、苦しい思いをしなければならない管理職という仕事に失望し、自社における自身のキャリアに悩んでしまう――。

これが部下のモチベーションを落とす一つの要因となり、自主性を奪い、チーム全体の生産性を落とすという悪循環を引き起こすこともあります。

このような事態を未然に防ぐため、Aさんも受講されているような新任管理職研修を各社実施しているのですが、現場の実態(受講者の状況)と合っておらず、助けにならないという声をよく伺います。

毎年やっていることであるが故にルーティン化しがちなテーマではありますが、環境変化のスピードが速い昨今、改めて今、自社の管理職に必要なものが何かをしっかりと検討していくことが求められているのです。

CHAPTER
03

詰め込み型になりがちな
新任管理職研修のカリキュラム

人事部からのご相談に目を転じれば、新任管理職研修で扱われるトピックは下の図にもあるように多岐にわたっています。

管理職研修の内容(出所:HR総研、人材育成「管理職研修」に関する調査報告、2017年)管理職研修の内容(出所:HR総研、人材育成「管理職研修」に関する調査報告、2017年)

まず「人的管理」の知識として、年に1度か2度は必ずやってくる人事考課のための知識・スキルトレーニングや目標管理、日々の業務の中でも部下から質問の多い労務管理の基礎知識をおさえることが必要となります。

それに加え、リスク管理の重要性が高まっています。情報漏洩リスクの高まりから情報管理関連、異文化理解を含めたダイバシティー・マネジメント、ハラスメント防止やメンタルヘルス。さらには政策的な取り組みとして、女性活躍推進や再雇用やシニア社員への関わり、働き方改革の推進等々、管理職の皆さまに求められていることがここ数年で圧倒的に増えています。

これらのテーマは環境が変わるとどんどんと変化していくため、その都度知識・スキルのアップデートが必要となるのです。

CHAPTER
04

管理職の「2つの役割」と「問いかけるべき6つの問い」

弊社でも、上記のようなテーマで相談を頂くことが多いですが、よくよく話を伺うと、たいていの企業がそれ以前の問題で、「そもそもの役割認識ができていない」「管理職としてどのような行動をとれば良いか理解できていない。具体化できていない」という状態であることがわかってきます。

管理職としての役割認識ができていない状態では、知識を学んでも「べし」「べからず」の個別の規範理解に留まりがちです。規範も重要ですが、やはり管理職として自分の頭で判断できるようになってほしい。そのためには、管理職の役割認識がしっかりしていることが大前提となります。

では管理職に持ってほしい「役割認識」とはどのようなものでしょうか。世の中には様々なマネジメントやリーダーシップに関する考え方がありますが、今日はシンプルに「管理職の2つの役割」と、「問いかけるべき6つの問い」をご紹介します。

4-1. 管理職に求められる基本的な2つの役割

役割1:成果創出
「ビジョン・ゴールの設定」→「計画策定」→「計画実行・改善」というプロセスの中で、人や組織を動かし、結果を出し続けること

役割2:人材育成
成果創出の各プロセスを通じて、適切なアプローチで人材を育成すること

4-2. 管理職の役割認識を測る6つの問い

問い1:我々はどこに向かうのか?なぜそこに向かう必要があるのか?
成果創出する上で、まずやらなければならないのはビジョン(目標)の明確化です。適切なゴールを設定すること、さらに、なぜその目標で、なぜそのゴールなのかを組織やチームの置かれた状況から、しっかりと自分の言葉で説明することができるかどうかです。

問い2:メンバー特性に合わせたアプローチで納得感・共感を生むことができているか?
メンバー一人ひとりの特性(知識・経験や、意欲、性格など)に合わせたコミュニケーションで、ビジョン(目標)・ゴール設定に納得感・共感を取り付け、当事者意識を持って行動してもらえるようにします。

問い3:我々はどの道を歩み、立ちはだかる難所をどうやって超えるのか?
ビジョン(目標)・ゴールに向けて、どのように進むかのシナリオを、ボトルネックや難所の想定も織り込みながら具体的に描くことが求められます。誰が見ても同じように捉えることができるくらいの動画イメージで描くことがポイントです。

問い4:考えるきっかけを作り、自主性を生むような働きかけができているか?
ボトルネックや難所にぶつかった際、すぐに【答え】を与えてはメンバーの能力開発は進みません。メンバー自身が自ら課題に気づくためのヒントを出し、深く考えるきっかけを作ることが重要です。

問い5:メンバーを信頼し、任せることができているか?
状況に応じて適当な自由(=裁量と権限)を与え、最後までやりきるという経験をメンバーにさせることが重要です。その積み重ねこそが成長の源となります。

問い6:現在地を正しく伝え、適切なフォローとフィードバックをかけることができているか?
メンバーに仕事を任せても、活動状況の定期的なフォローとフィードバックは忘れてはなりません。できていないところを責めるのではなく、良い点・悪い点をバランスよく伝え、次に活かせる気づきを引き出すことが重要です。

6つの問いで管理職の役割認識を確認しよう6つの問いで管理職の役割認識を確認しよう

「成果創出」と「人材育成」、言葉にすると当たり前のことではありますが、ベテランの管理職でさえ、自身の日々の活動を上記6つの問いと照らし合わせて具体的に見ていくと、意外とできていないことは多いものです。

CHAPTER
05

自社の管理職の現状を確認し、
適切な研修カリキュラムに

実は、労務管理等の様々な知識も、この6つの問いのどれかを支えるものと位置づけられます。なので、新任管理職にはまずこの2つの役割、6つの問いを「管理職の役割の全体像」としてカリキュラムに組み込み、管理職研修で伝えるのも一案です。あるいは、外部環境や戦略に応じて、これらの中で特に強化したいポイントに絞って新任管理職研修を設計する方法もあります。

いずれにせよ、世の中の流行をキャッチすることも重要ですが、自社の管理職における本質的な課題はどこにあるのか、まずはこの2つの役割、6つの問いに答える形で自社の現状を振り返り、課題を捉えた上で、新任管理職研修の目的や内容を見直してみてはいかがでしょうか。