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組織のOSをアップデートできるか~意思決定層に女性を増やすための4つのポイント

2026.07.07
組織のOSをアップデートできるか~意思決定層に女性を増やすための4つのポイント


前回のコラムでは、女性リーダー候補の「心のブレーキを外し、心理的な温度を上げる」ためのアプローチについてお伝えしました。しかし、現場で奮闘する人事の方からは、次のような切実な声もよく伺います。

「制度も整え、研修も実施して、本人の意欲も高めてきた。それでも、女性の管理職登用が思うように進まない」「女性社員比率は高まり、若手では活躍しているが、上の階層にいくと壁がある」

なぜ、このギャップは生まれるのでしょうか。それは、女性活躍推進は「女性本人への働きかけ」や「制度の拡充」だけでは解決できず、社会や企業の構造的な「OS(オペレーティングシステム)」そのものをアップデートしていく必要があるからです。そのOSを書き換えるための最重要の鍵、それが「経営の意思決定層に多様性が担保されていること」です。

経営の意思決定層に女性がいることの意味

経営陣に女性がいることと企業業績の相関は、複数の研究によって示されています。マッキンゼーの調査では、経営幹部チームのジェンダー多様性が上位25%の企業は、下位25%の企業と比較して、平均以上の収益性を達成する可能性が39%高いことが示されています。(McKinsey & Company, “Diversity matters even more: The case for holistic impact” (December 2023))

さらに、COVID-19のような外部環境の急激な変化に対して、女性が複数存在する取締役会の方が「組織のレジリエンス(変化対応力)」が高まるという研究もあります。女性はこれまで組織の中で少数派としての経験を持つことが多く、その多様な視点が環境変化への適応力に寄与する可能性が指摘されています。多様性は、単なる社会的要請ではなく、意思決定の質を高める強力な「経営資源」なのです。

「アンラーン(学習棄却)」に伴う痛みを乗り越えられるか

それでも女性リーダーの登用が進まないのは、組織に根付いた“前提”そのものの見直しが求められるからです。これまでの評価基準、暗黙のうちに共有されてきたリーダー像、さらには過去の成功体験を手放す「アンラーン(学習棄却)」が欠かせません。

そしてアンラーンには、多くの場合「痛み」を伴います。「これまでエースとされてきた人材が評価されなくなるのではないか」「自分たちの成功体験が否定されるのではないか」といった不安が生じるため、総論では「女性リーダー登用」に賛成していても、実際の配置や評価の場面になると慎重論が強まり、変革が進みにくくなるのです。だからこそ、女性活躍推進は人事領域に閉じず、経営トップが向き合うべき中核テーマとなります。こうした痛みを乗り越えながら、着実に意思決定層への女性登用を進めている企業には、4つの共通点があります。

1. トップがコミットを明確にし、数字目標から逃げない

「女性管理職比率〇%」といった数値目標を掲げると、現場から「数合わせではないか」という反発が出ることがあります。しかし、多様性を組織に機能させるためには、実は「数」が重要な意味を持ちます。

「トークン理論」で言われるように、マイノリティは数が少ないほど「ステレオタイプを当てはめられやすい」、「マジョリティへの同化圧力を受けやすい」といった状況に置かれます。一方で、その割合が3割(あるいは取締役会で2名以上)を超えると、こうした影響は緩和され、本来の力が発揮されやすくなると言われています。つまり「数」は、多様性を機能させるための絶対的な前提条件なのです。経営トップが「なぜ自社の未来にこの数が必要なのか」を自らの言葉で語り、逃げずにコミットメントを示すことが不可欠です。

2. リーダー要件を見直し明文化する

リクルートホールディングスでは、「2030年度までに、グループ全体ですべての階層におけるジェンダーパリティを実現する」という目標を掲げています。同社は創業当初から多様性を重視してきた企業ですが、2021年のデータ分析によって、管理職候補者の選出や育成に男女差が存在することが明らかになりました。

その背景にあったのが、「管理職とはこうあるべき」という過去の成功体験に基づく無意識のバイアスです。例えば、「時間や場所を問わず緊急対応できること」「強いカリスマ性で周囲をぐいぐい引っ張ること」といった暗黙の要件が残っていると、無意識のうちに男性が選ばれやすく、女性が候補から漏れてしまう構造が起こりやすくなります。そこで同社では、目指す組織の将来像から逆算し、未来に必要な管理職の能力や要件を事業長自らが議論し、明文化する取り組みを行いました。その結果、基準のバイアスが取り除かれ、女性の管理職候補者が1.7倍、男性も1.4倍に増加(2022年9月末時点)し、候補者層そのものが大きく広がりました。

3. 機会均等を徹底し、リーダー選抜プロセスを透明化する

武田薬品工業(以下タケダ)では、2015年3月末時点で4%だった日本の女性管理職比率が、2025年3月末時点では21.2%(見込み)まで上昇しています。また、グローバルでは43%まで大きく向上しています。現在、タケダ・エグゼクティブチームでは17名中10名を女性が占め、日本事業トップにも初めて女性が就任しました。

この変化を支えたのが、「機会均等の徹底」です。同社では「管理職以上のポジションでは、必ず男女1名以上の候補者を選出する」「適任の女性がいない場合は、ポジションを空席のまま維持する」という運用を徹底してきました。重要なポストが空席になることは、現場にとって短期的な「痛み」を伴います。しかし、その痛みがあるからこそ、「本気で次の多様な候補者を育てなければならない」という強い推進力が生まれるのです。
同社は2023年に日本における女性リーダーシップ開発プロジェクトを終了しました。これは、女性活躍推進を“特別施策”としなくても、機会平等と基準の明確化を徹底することで、多様な人材が自然に登用される組織へ近づいたことを示す象徴的な事例と言えるでしょう。

4. 組織全体で「無意識バイアス」を自覚し、体験する

多様な人材が活躍できる組織づくりの第一歩は、組織の誰もが持ちうる「無意識バイアス」の存在を自覚することです。現在は、自身が持つバイアスを可視化する様々なツールがあります。これらを経営チーム等で活用し、「自分の認識はどのような前提で作られているのか」を対話することは非常に有効です。

さらに効果的なのは、「体験」を通じてマイノリティの立場を理解することです。例えば、前述のリクルートホールディングスのグループ会社では、管理職が育児と仕事の両立を疑似体験する「育ボスブートキャンプ」というプログラムを実施していました。タケダでも、育児・介護・家族の病気などの多様な状況を追体験できるプログラムが開発されています。マジョリティ側にいる人が意図的にマイノリティの立場を体験することで、自分にとっての「当たり前」を疑い、相手が違和感を言語化する難しさを肌で理解することができます。バイアスは知識だけでなく、こうした体験と対話を通じて少しずつ更新されていくのです。

多様性を活かすための「強固な軸」

ダイバーシティ・マネジメントの本質は、単に違いを認めることではありません。むしろ重要なのは、「組織として多様であってはならない大事な軸」を明確にすることです。

ブレない強固な軸(求心力)があるからこそ、その他の領域で大胆に多様性(遠心力)を受け入れ、活かすことができる。このバランスこそが、変化に強い組織を生み出します。

多様性を意思決定に活かす取り組みは、女性のための支援策ではなく、経営そのものの再設計です。痛みを伴うアンラーンを経て、より強く、よりしなやかな組織へと進化していく。そうした挑戦そのものだと再定義することが、「女性活躍推進」のテーマに向き合っていくうえでも重要な姿勢だと強く感じています。

株式会社グロービスグロービス・コーポレート・エデュケーションマネジャー 池田 絵美

株式会社グロービス
グロービス・コーポレート・エデュケーション
マネジャー

池田 絵美 / Emi IKEDA

京都大学経済学部卒、グロービス経営大学院(MBA)修了。大学卒業後、リクルート入社。法人営業経験の後、人事に異動し、次世代経営者育成プログラムの策定・実行などに携わる。その後、株式会社グロービスに転じ、大阪のコーポレートソリューションチームにて組織責任者として、製造・製薬業をはじめとする多様な業界の人材育成・組織開発のコンサルティング活動に従事する。講師としてはリーダーシップ・人材マネジメント領域を中心に活動。

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