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「女性リーダー育成」のリアル――“心のブレーキ”を生む構造をほぐし、組織の未来を創る

女性活躍推進が叫ばれて久しい中、多くの企業が女性管理職比率の向上や次世代リーダー育成に取り組んでいます。しかし、施策を重ねても期待したほど女性管理職が増えない、リーダー候補者がなかなか手を挙げないという声は後を絶ちません。
その背景には、本人の能力や意欲の問題だけではなく、社会の中で無意識のうちに形成されてきたリーダー像や性別役割に関する規範が影響しています。女性リーダー育成を考えるうえでは、まず一人ひとりの中にある「心のブレーキ」と向き合うことが欠かせません。
今回は、その心のブレーキを外し、自分らしいリーダーシップを発揮していくためのポイントについて考えていきます。
現場のリアル ――「鎧」をまとってやってくるリーダー候補たち
「うちの女性メンバーは優秀なのに、リーダーになることには消極的なんです」「背中を押し続けてきたけれど、本当にそれが彼女にとってよいのか分からない」
企業で管理職の方とお話しすると、必ずと言っていいほどこうした悩みを伺います。
一方で、女性リーダー候補の方々の本音に耳を傾けると、「今の管理職のように身を粉にして働くのは無理」「私にはあんなに強く引っ張るカリスマ性はない」という声が聞こえてきます。
決して能力やポテンシャルがないわけではありません。社会的な規範や無意識のバイアスによって、本来の力が「ぎゅっと圧縮された状態」に置かれているのです。
私は複数の企業で「女性リーダー育成」プログラムの講師を担当していますが、受講される方々の多くは、初日に少し緊張した面持ちで「鎧」をまとって会場にいらっしゃいます。「女性」という括りや「リーダー候補」と見られることへの戸惑い。「女性活躍推進」という言葉に対する、「まるで女性が活躍していない前提みたい」「女性だけ優遇するの?」といった複雑なモヤモヤ。頭ではその重要性も、自分への期待も理解している。だからこそ、葛藤を抱えながらも「ふさわしい振る舞いをしなければ」と緊張感を持って参加されているのです。
しかし、心のブレーキを外し、圧縮された状態から解放されるためには、まずその「モヤモヤ」に蓋をしないことが不可欠です。
そのため私はプログラムの冒頭で、自身も同じような葛藤を抱えていたことを率直にお話しします。そして、皆さんが感じている違和感は個人の能力や職場固有の問題ではなく、社会の構造的な問題であることをお伝えし、「モヤモヤしていてOK」「葛藤を感じたままここに参加していい」と呼びかけます。
それぞれがモヤモヤを抱えながら悩んでいる事に気づくと、皆さんの顔からスッと緊張が抜け、ホッとした表情で少しずつ鎧を脱いでくださる。そこからようやく、ご自身の心と向き合う本当の場がスタートするのです。
多様性は「生き残り」を賭けた喫緊の経営課題
「そこまで本人が戸惑うなら、無理にリーダーにしなくてもいいのでは」と思う方もいるかもしれません。しかし、これは単なる数合わせや「Nice to Have」の施策ではなく、組織の生き残りを賭けた喫緊の経営課題です。
日本は2040年に1100万人の労働人口不足が予想されています。さらに、意思決定層が同質的な集団である組織は変化に弱く、『集団浅慮』(古賀史健 著)という書籍でも指摘されている通り、結束力の高さが逆に冷静な判断を妨げ、組織の道を誤らせるリスクを抱えています。組織の構造(OS)をアップデートするために、同質性から脱却し多様な視点を活かすことは、経営として避けて通れないテーマと言えます。
リーダー像を「ほぐして、広げる」2つのアプローチ
では、圧縮された彼女たちの力を解放するにはどうすればよいのでしょうか。最も重要なのは、無意識のうちに縛られている「リーダーは強くて完璧で、困難な場面で一番に対応できなければならない」というステレオタイプなリーダー像を見直し、「ほぐして、広げる」ことです。例えば、自分の強みを活かし、足りない部分はチームで補い合う。育児や介護と両立する上での「ヘルプシーキング(助けを求める力)」も弱さではなく、周囲を活かし協働を促すリーダーシップの一つの形です。そうした認識を腹に落としていくことが重要です。
では、リーダー像を「ほぐして、広げる」うえで、有効なアプローチとはどのようなものでしょうか。
1. 自分の特性を「強み」として活かしきることにフォーカスする
「女性リーダー育成」のプログラムに参加される方々に、「日常の仕事でリーダーシップを発揮していると思うか?」と尋ねると、なかなか手が挙がりません。「少しなら、どうでしょう?」と聞き方を変えてようやくパラパラと手が挙がる、という具合です。
しかし、リーダー候補として選ばれてきた方々ですから、これまでに向き合ってきた仕事の中で、自分の強みを活かして周りに良い影響を与え、周囲を動かしてきた経験はたくさんあります。それでも「リーダーシップを発揮している」という自信や感覚が持てないのは、頭の中にある「リーダー像」と自分が違うと感じており、足りない「課題面」にばかり目が向いてしまっているからです。
これを打破するためには、プログラムの前半で「課題面」に目を向けるよりも、まず自分の強みに着目し、それをどう意図して活かすかに注目するマインドセットへの転換が必要です。
そのために「クリフトンストレングス・テスト(旧ストレングス・ファインダー)」などを用いたワークや対話を通じて、自身の強みを掘り下げていきます。自他の多様な強みとそれを活かしたエピソードに触れるなかで、「自分は既にリーダーシップを発揮してきた」「多様な発揮の仕方があり、異なる強みを持つ人と組み合わせることでよりパワフルになる」という気づきへとつながっていきます。
また、他の受講者の強みやエピソードに触れ、相互理解を深めたうえで、一定期間チームで活動するプロセスを盛り込むことも有効です。お互いの強みを組み合わせて発揮していく体験を、実際に体感することができるからです。
2. 多様なリーダー像に触れる
多様なリーダーへのインタビューを行うフィールドワークに加え、ケースメソッドや読書会などを通して、「多様なリーダーシップの発揮があってよいこと」を腹に落としていきます。
このとき大切なのは「数」と「背景を知ること」です。特定の1~2名ではなく、男女を問わず多様なリーダーに接すること。同時に、活躍しているリーダーの背後にある悩みや葛藤、今の姿に成長していったプロセスに触れていくことが重要です。
また、そうしたリーダーの方々のすべてを手本にしようとするのではなく、対話のなかで感じた「自分自身の素直な感覚」を大切にすることがポイントです。どんなリーダー像に共感するのか、どんな言葉に惹かれたのか、あるいはどんなあり方に違和感を覚えるのか、そうした問いを仲間と対話していきます。同じリーダーに接しても感じ方はそれぞれです。その違いのなかに「自分らしいリーダー像」が見えてくる、このプロセスが鍵となります。
プログラム期間を通じて、自分のありたいリーダー像を言語化し、自分の強みをどう発揮するか、職場での実践も繰り返し行います。こうしたプロセスを通じて、徐々に「完璧でなくとも自分もリーダーになれるかもしれない」「自分らしくリーダーシップを発揮すればいい」という心からの納得へとつなげていくことが大切です。
成長を加速させる「上司の伴走と失敗の許容」
こうした認識のアップデートに加え、もう一つ欠かせないのが上司の伴走です。調査では、3割以上の女性が上司からの説得をきっかけにマネジャーの道を歩み始めていることが分かっています。ただし、マネジャーを担う自信は、小さな挑戦の積み重ねの後からついてくるものです。マネジャーになる前に責任ある仕事やプロジェクトを任せ、「葛藤の中で決断する」経験を積み、それを乗り越えた経験と自信をもつことが不可欠です。「女性だから」「育児中だから」という過剰な配慮で困難な仕事から遠ざけてしまうと、成長の機会を奪い、意欲を削ぐことにもなりかねません。
一方で、本人の思いを無視して組織の都合で期待を押し付けることも空回りにつながります。求められているのは、本人の「コアな願い(仕事の原動力)」に耳を傾ける深い対話を重ね、本人が「やってみてもいいな」と思えるところまで、心理的な温度を上げていく関わりです。
私が講師を務める女性リーダー研修で目覚ましい成長を遂げた受講者の上司の方から、こんなお話を伺いました。
「プログラム期間中は課題が多く大変そうでしたが、学んだことを実践できるよう、あえて彼女に任せる仕事を増やしました。失敗を重ねて成長することもたくさんあります。ですから、『失敗してもいいから、まずは一人でやってみよう』と背中を押し、挑戦できる場面を用意することが、上司としての私の役割だと思っていました」
「思い切って任せ、失敗を許容する姿勢」が、女性リーダー候補の大きな飛躍を生む。そのことを実感した出来事でした。
アイスランドに学ぶ「軽やかさ」と、日本の大きなノビシロ
ここまで女性リーダー育成のリアルな難所と解決へのステップを見てきましたが、最後に一つお伝えしたいことがあります。それは、このテーマを眉間にしわを寄せて深刻に捉えすぎない、ということです。
ジェンダーギャップ指数で16年連続1位のアイスランドも、50年前は「女性は家庭を守るもの」という社会規範が強い国でした。それを打破するきっかけになったのは、「モヤモヤに蓋をせず」「軽やかさ」を持って行動をした人たちでした。2025年にヒットしたドキュメンタリー映画『女性の休日』(原題:The Day Iceland Stood Still)は、約50年前の1975年10月24日、国の全女性の90%が仕事や家事を一斉に休んだ「女性の休日」を題材にした作品です。
一見すると深刻なストライキのようですが、この歴史的行動は「ストライキ」ではなく「女性の休日」と名付けられ、「楽しそう!」「やってみたい!」という前向きで軽やかなエネルギーに満ちていました。
映画に登場する当事者の女性たちの回想インタビューはユーモラスで、「やるの?」「できるの?」から始まり「必ずやる!」と立ち上がり、立場や党派を超えて連帯する姿がポップに描かれています。世の中を動かすのは、いつだって「楽しそう!」「やってみたい!」という明るいエネルギーなのかもしれません。
日本のジェンダーギャップ指数は現在118位ですが、それは裏を返せば、まだ多くの力が眠っている大いなる「ノビシロ」があるということです。女性が自らの意志で一歩を踏み出せるよう、押し付けるのではなく伴走し、組織ぐるみの「世直し」として明るく連帯して向き合っていく。そんなアプローチが、これからの時代には求められるのではないでしょうか。
つづく後編では、意思決定層に女性を増やすための4つのポイントについて解説します。
