- DXの実現
テクノロジーとビジネスの両輪で、真の価値創造ができる組織へ。「デジタル開発人財」の要件定義と育成に挑む
NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部様では、「お客様価値創造本部」をキーワードに掲げ、顧客である製造業の企業を通じて、社会課題解決につながる価値を生み出す組織へ成長することを目指しています。同本部で実施した「デジタル開発人財検討プロジェクト」(以下、本プロジェクト)を企画・運営した製造ITイノベーション事業本部 企画部長の安藤 督様、同本部 企画部 方式技術担当 部長の千葉 重人様、同本部 企画部 事業企画担当 課長の本村 達也様、同本部 企画部 事業企画担当 主任の武田 萌絵様にお話を伺いました。(役職はインタビュー当時)
はじめに:本プロジェクトの概要
NTTデータ様は日本を代表するシステムインテグレーションを生業とする企業です。しかしながら、近年の企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の潮流の中、社員一人一人に求められるケイパビリティや仕事の進め方も、従来のシステムをしっかり作るということをベースとしたものに加えて、自ら価値を創造するということを前提としたものを新たに獲得していく必要に迫られていました。
このような環境変化を背景に、製造ITイノベーション事業本部は、従来のトラディショナルな人財定義を見直し、DXに必要となる新たな人財定義にチャレンジするとともに、その人財定義をベースとした新たな育成プログラムについて検討することとなりました。グロービスも本プロジェクトに参画し、同本部における「デジタル開発人財」の要件定義と育成体系の見直し、育成施策を実行しました。
「デジタル開発人財」の要件定義では、同本部の人財を3つのタイプに分け、それぞれの個別要件、ならびに3タイプの共通要件を言葉に落とし込みました。次に、この定義に則って育成体系を構築。そして、定義した共通要件を満たすために、顧客起点で提供価値を構想することを目的とした育成施策を行いました。
インタビュー:プロジェクト実施の経緯
プロジェクト前に抱えていた問題意識
本村さん:昨今のビジネス環境の変化をふまえ、我々製造ITイノベーション事業本部は「お客様からシステム開発を受託するSIerのままでは生き残れない」という問題意識がありました。お客様の当社への期待が、“QCD(品質=Quality、コスト=Cost、納期=Delivery)を守り、要件通りにシステムを納品する”だけでなく、“お客様のビジネスの成長・変革に貢献するパートナーである”ことに変わってきています。これは、ビジネスとデジタルが融合している時代環境によるものでしょう。
千葉さん:開発手法のトレンドも、長期間のプロジェクトから短期間のスクラムチーム体制へと変化しています。この変化によって、メンバーに求められるスキルやレベルも多様化しました。長期間のプロジェクトでは開発期間中に技術スキルをキャッチアップし、顧客を理解する時間もありますが、スクラムチームは準備期間がほぼないまま開発に突入するため、チームが立ち上がる時点でこれらのスキルや知識が前提条件として求められます。そのため、メンバーは普段から新しい技術情報を取り入れ、顧客への提供価値を短期間で考えなければなりません。
これらの社内外の変化をふまえ、当本部のメンバーがテクノロジーとビジネスの両方を理解し、お客様とビジネスの議論ができる人財になる必要性が高まりました。メンバーにとっては、学ぶ領域が大きく拡大したうえに、技術革新が速い時代においては成長するスピード感も求められます。こうした背景をふまえながら、当本部における「デジタル開発人財」の要件をアップデートすることになりました。
武田さん:当初、本プロジェクトは社内メンバーだけで立ち上がったのですが、途中から外部の力をお借りすることにしました。理由は、内部のメンバーだけで人財要件などを検討した場合、それが市場からみて十分妥当であるのかという視点を失いがちであったからです。この状況を打破するために、外部に進め方から相談したいと考え、検討を始めました。
最終的なパートナーとしてグロービスさんとご一緒することを決めたのは、人財要件の定義から育成体系の構築、そして育成施策までを一気通貫で対応していただける点に魅力を感じたからです。具体的な育成施策までを実行し、これまで求められてきたこととの違いを体感することで、社内関係者からも納得してもらえるのではないかという期待もありました。
プロジェクトで目指していたゴール
本村さん:当本部におけるデジタル開発人財の要件を定義し、その要件をもとにした育成体系を構築して、育成施策を設計・実施するところまでを、9か月間で行いました。
最初の3か月で人財要件を定義し、それを踏まえた育成体系を構築しました。育成体系の構築にあたっては既にある自社にある研修プログラムを活かすとともに、新たに必要な施策がどのようなものなのかも検討していきました。その後の半年で、必要と判断した育成施策の具体的な内容の検討・実行をお願いしました。最終的には創り上げた人財要件・育成体系が組織に浸透することが重要です。そこに至るまでは、中・長期的な浸透活動を継続していく必要がありますが、まずは人財要件から育成施策まで整合性の取れたものを形にしていきたいと考えていました。
プロジェクトの主な内容
実施において大事にした点
千葉さん:人財要件をグロービスさんと議論する中で、スキルだけでなくマインドをしっかり定義する重要性を痛感しました。当初、マインド部分はスキルで補うという考えのもと、スキル面を中心に人財像を社内で描いていたんです。そうすると、職種ごとに個別なテクニカルスキルばかりに着目してしまい、全体の共通要件をなかなか見出せず、施策に落とし込む際のイメージも持てずに悩んでいました。
我々が今の環境変化を乗り越えてお客様により良い提案をするためには、新しい情報を能動的に調べて自らを成長させていかなければならないのですから、まずはマインドが重要であるとグロービスさんが気づかせてくれました。
その後は、どのようなマインドやスキルが必要なのか、具体的な人財要件の言葉を紡ぐことに注力しました。週に2~3回、3時間ずつ社内で議論を重ね、グロービスさんとも定期的に議論していましたので、人財要件が完成するまでの道のりはとても長く感じましたね。いったん言葉に落としても、人によって解釈が異なるため、そのたびに、定義から考え直す作業を何度も行いました。まさに産みの苦しみです。
グロービスさんには、デジタル開発人財の共通要件と職種ごとの個別要件を洗い出す検討プロセスや考える視点、言葉の落とし込みに伴走いただいて大変助かりました。できあがったものを見返しても、やはりマインド面の要件も言葉にして定義することが重要だったと感じます。
私がこの活動に参画しはじめたのは、ちょうど人財定義とそれに必要なケイパビリティを当社メンバーとグロービスさんで洗い出した時点で、ここから人財育成施策(研修プログラム)を作っていこうというときでした。私としてはメンバーが取り組んできた内容については、肯定的でぜひ進めていこうと思っていた反面、当初、研修プログラムの内容を聞いたときは、正直どうだろう、と思っていたのが本音です。理由としては、結局、研修プログラムに落とし込んでしまうと、一般的な「カスタマージャーニー」に関する座学のプログラムとあまり変わり映えしないような気もしたからです。
この点に関しては、グロービスさんと率直に意見交換を行いました。私たちが求めるものは、“これからの当社のビジネスにとって必要なケイパビリティが何なのか”を社員に腹落ちさせ、しっかりと今後の自身の行動様式にも影響を与えていくことであり、単なる研修プログラムではない、という点について深く検討を行えたと思います。
結果として、私どもの本部の中期の戦略方針の理解に関するコンテンツや、現場の最前線で活躍するシニアマネージャークラスの対談セッションなども盛り込むことにより、より社員に対して納得性のあるプログラム構成となったのではないかと思っています。
実施してのご感想
安藤さん:正直にいえば、この人財定義という共通のコンセンサスをつくり、そこから必要なケイパビリティ、育成施策を考えていくというアプローチが正しかったのかは、私自身まだ判断できていません。理由は、人財像を定義しようということになると、どうしても抽象度の高い議論になりがちで、それを文言に落としたとしても、人それぞれで理解の仕方が異なってくるからです。
そういう意味においては、人財定義で終わることなく、重要なフォーカスとしてマインドの変革を施策にまで落とし込んで実行したというのは現実的な選択であったかな、と思っています。そのような進め方を一緒になって進めてくれたグロービスさんはさすがだな、と思いました。
受講後のアンケートを確認しても、大半の人からポジティブな評価が寄せられており、有意義な活動にできたと考えています。
参加したメンバーからは、行動が変わりつつある人も出てきました。中には新たな業務ポジションの問い合わせもあったほどです。こうして能動的にアクションを取るメンバーの期待に応えるためにも、単発の育成施策で終わらせず、もっと実務と連動させていく必要があると感じました。
千葉さん:私も、施策を継続していくことが大切だと考えています。企画者として、社員のモチベーションを焚きつけてマインドを変革していく重要性を、本プロジェクトを通して強く感じましたね。
本プロジェクトは、旧来のSIerからの脱却を目指し、人財要件の見直しから育成施策まで一気通貫で変革を進めたチャレンジングな取り組みです。プロジェクトメンバーの方々は、業績が好調の中でも強い危機感と当事者意識でプロジェクトを牽引されました。ご自身がビジネスの最前線に立ち、顧客から求められている価値の変化を最前線で感じられていたからだと思います。
私も、前職はSIer業界で仕事をしていたためよくわかりますが、現状、旧来のSIerとしての仕事で手一杯だったり、目先のビジネスが堅調に成長していたりすると、新たな価値を創る活動に時間を投資できなかったり、優先順位を下げてしまいがちです。ただ、こうした環境でも、新たなケイパビリティを獲得するための一歩を踏み出せるかどうかが求められています。まさに本プロジェクトは、旧来のSIerから脱却するための一歩を踏み出し、組織全体の変革を後押しする非常に重要かつ価値ある施策だと感じています。
業界を牽引するNTTデータ様の取り組みは、SIer業界全体に対し、大きな影響を与えるため、我々にとっても非常にやりがいのあるものでした。今後も、NTTデータ様の更なる進化を後押しする存在として、伴走させていただきたいと思っています。
本プロジェクトは「新たな人財要件を起点に社員の意識を変えていきたい」とご相談をいただき、スタートしました。
約9か月間、人財要件の定義から育成施策の展開を伴走させていただく長期の取り組みとなりましたが、参画いただいた皆さん全員が強い想いでプロジェクトを推進してくださったことで良い取り組みになったと感じています。
人財要件の定義では、目指していく「デジタル開発人財」とはどのような価値を提供して活躍している状態なのかを行動レベルで具体化し、そこから重要な要件を抽出していきました。社内のヒアリング結果を踏まえて何度も議論を繰り返し、言葉の表現ひとつひとつに拘りを持って取り組んでいただきました。
このアウトプットをいかに組織に浸透させていくかが次のチャレンジとなります。
また、育成施策として100名以上の方々に研修を行いました。多くの方が「今よりもさらにお客さまへの価値貢献の範囲を広げていきたい」という想いのもと新たな学びを得ることに積極的で、高いポテンシャルを感じたのが印象的です。
DXというキーワードが注目されて結構な時間が経過していますが、多くの企業が変革の糸口を掴めずに悩んでいると感じます。NTTデータ様にはリーディングカンパニーとして、さらなるDX推進の中心になっていただくことを期待していますし、引き続き私もしっかりと伴走していきたいと思っています。
弊社の担当者がいつでもお待ちしております。