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DXを推進するリーダー人材の要件と組織づくりのポイント

2022.11.11

多くの企業が経営戦略に掲げ、その実現に向けて模索中であるDX(デジタルトランスフォーメーション)。かつての企業経営では、ITシステムは外注し社員は本業に専念するパターンが多く見られましたが、デジタル技術の進展が著しい今の時代は、社員が「DX人材」としてデジタル活用の担い手になることが求められています。

今回は、DXを推進する立場であるリーダー人材に焦点を当て、必要なスキルやマインド、リーダーが担う組織づくりについて考えます。

DX人材を育成する前に、考えるべきこと

デジタル技術が飛躍的に進化し、DXは企業成長に不可欠なものとなりました。「社員にデジタル教育をしなければ」とDX人材の育成を急ぐ企業も多いように感じます。

しかしながら、人材の育成に着手する前に考えておきたいことがあります。それは「DXを実現した自社の姿」です。DXによってどのような価値を誰に提供しているのか、どうコストが削減されているのかといった具体的なゴールイメージがないまま人材育成はできません。DXの目的によって、必要な組織体制も人材要件も変わってくるからです。

企業のデジタル化には、以下の3段階があると考えています。

皆さまの企業は、(1)~(3)のどの段階にあるでしょうか。業務フローの一部にデジタルツールを入れ、社内にDX推進部を作るなどの取り組みをしている企業も多く見られますが、これらの施策を個別に進めるだけでは(3)の実現は難しいでしょう。今は(1)や(2)の段階にある企業でも、全社でDXを実現する(3)の姿を明確に描くことで、その実現に向けたスタートラインに立つことができるのです。

DXを推進するリーダーに必要な3つのスキル

自社のDXを前に進めるため、CTOの設置や、ハイレベルな技術力を持つエンジニアの採用に各社が力を入れています。その一方で、具体的に語られないことも多いのが、「DXを推進するリーダーに求められるスキル」です。DXのプロジェクトをリードするリーダーに求められる要件は、以下の3つだと考えます。

DXでどの経営課題を解決するのかを定義する力

デジタル技術を駆使することで、解決したいことを明確に自分の言葉で語れることが重要です。

今、DXを推進している皆さんの中には、急にその立場になってしまい、何から手をつけるべきなのか分からないままプロジェクトに参画している方もいるかもしれません。このような目的が曖昧な時ほど、いったん立ち止まることが必要です。短期的な成果を追い求め、とりあえず既存業務にシステムを導入するといった単発施策を行ったところで進捗が止まってしまう企業は少なくありません。

DXが目的化しないためにも、真の意味でDX化した姿をリーダーが描くことが大切です。自社はどのような課題があり、社会や顧客に対して何をすべきなのかを考え、その手段のひとつとしてデジタル化があることを認識する力がリーダーには求められます。

最低限のデジタルリテラシー

エンジニアでなくとも、最低限のデジタルスキルは必須です。DX推進リーダーは、プロジェクトが始まると、エンジニアと議論しながらシステム要件を決めていく役割を担います。

ところが、デジタルで実現したいことに対し、どの程度の規模の開発が必要になりそうかの土地勘があるリーダーは少ないのが現状だと思います。AIを使ってデータを処理したら何かができるのではないか、というレベル感の理解では、エンジニアと協業して価値を生み出す議論はできません。

よくある失敗例は、ビジネスサイドで確定した要件をエンジニアが確認したら、実現がほぼ不可能な内容だった、といったことです。このような状態に陥らないためには、DX推進リーダーが、システム開発におけるフローチャートを理解できるレベルのデジタルリテラシーをもつ必要があります。

データの蓄積ひとつとっても、どのような技術を使って、どのデータをどう取得していくのか、そのためにどのようなアルゴリズムを構築するのかのイメージが持てるリーダーは、エンジニアからも信頼されます。

完璧なプログラミングでなくとも、どのようなアルゴリズムでデータ抽出や処理がなされるのか、それがサービスとしてどう実装されているのか、実際に手を動かし、仕組みとして理解しておくことは重要です。並行して、最新のデジタル動向にも目を配らせておく必要もあります。

アジャイル型でプロジェクトをマネジメントする力

最後に挙げるのは、アジャイル型を前提としたプロジェクトマネジメント力です。システム開発の手法には、大きく分けると、ウォーターフォール型とアジャイル型があります。
ウォーターフォール型とは、要件定義、基本設計からシステムテストまでの一連の流れにおいて、後戻りがないよう綿密に検証してから次のプロセスに進む考え方です。
アジャイル型とは、システムを実装したらすぐ検証し、スピーディーに改善するサイクルを繰り返す開発手法です。
これまでウォーターフォール型は長きにわたってスタンダードなシステム開発手法でしたが、デジタル技術の進展が著しい近年は、アジャイル型が主流になりつつあります。

社会・顧客に求められるニーズが急速に変化する現代において、半年や1年をかけて完璧なシステムを構築してからローンチする考え方は合わなくなっています。アジャイル型で最低限の機能のみリリースし、顧客の声を取り入れながら改善を積み重ねることで、結果的に顧客に支持されるサービスができあがるのです。

プロジェクトマネジメントもアジャイル型に適応させる必要があるわけですが、多くの企業でその実践が進まない状況に直面しています。そのひとつの理由は、組織に「失敗を許容する文化」がないことにあります。

システム開発において、次のステップに進む前に確実にミスをなくすウォーターフォール型の考え方が定着している組織では、失敗を許容する文化を作っていくことには高いハードルがあります。このハードルを乗り越えるために、DX推進リーダーが今から取り組めることは「失敗を学習に変えていくプロセス」を整備し、浸透させていくことだと思います。
たとえ施策の結果が思うように出なかったとしても、その経験から学べたことをメンバーで議論し合い、組織の成果物とします。また、その議論のプロセスの中でさらなる仮説検証を繰り返し、価値を最大化していく(より良いものに変えていく)体験をしてもらうのです。

これら3つのスキルに加え、関係者を巻き込む力もプロジェクトをマネジメントする上で重要です。DXを推進する場面では、エンジニアやデータサイエンティストといった専門職のメンバーが多くなるため、チームマネジメントの難易度が上がります。多様なメンバーに共通の目的を伝え、理解・共感してもらい、1人ひとりに当事者意識を持ってもらうコミュニケーションが求められます。

こうした要件を持つリーダーを社内に1人でも多く増やすことが、DXの実現には欠かせません。

真のDXとは、組織変革である

「デジタル技術を活用したソリューションが組織の至る所で絶えず生まれている」という真のDXを実現するには、組織風土づくりに腰を据えて取り組む必要があります。DXとは全社の組織変革であるとも言えるでしょう。そのため、経営トップのコミットメントは不可欠です。

組織変革の出発点は、あらゆる職種のメンバーがDXに対する共通認識を持つことだと考えます。特に以下は押さえておきたいポイントです。

そのうえで、デジタル技術を活用して課題が解決される実感を、DX推進部門だけでなく社内の大半のメンバーが持つことを目指すのです。

DXを実現する組織への転換は、その実現までに長い時間がかかるでしょう。
まずは目の前の業務が改善されるデジタイゼーションから始め、現場発の小さな成功体験をつくることが大切です。デジタイゼーションの積み重ねによってデジタル技術を活用することが日常になり、デジタライゼーションにより事業の成長を組織全体が体感し、最終的にDXを実現する組織変革に至るのです。

デジタイゼーションをこれから着手する場合でも、DXを推進するリーダーは最初からDXを見据えて今の施策を実行することが重要です。遠い先のゴールを見て足元の施策を着実に動かす、この2つの視点を持つことでDXを実現する組織に近づいていくのだと考えます。

グロービス・コーポレート・エデュケーションマネージャー 尾花 宏之

グロービス・コーポレート・エデュケーション
マネージャー

尾花 宏之 / Hiroyuki OBANA

大学在学時、コンシューマー向けのデジタルプラットフォーム事業を自ら立ち上げ運営。
その後、銀行にて企業に対する融資・投資支援や再生コンサルティング(事業・財務計画の策定)を経験。
2015年にグロービス参画。現在はチームマネジメントを行うと共に、大企業の経営課題解決を目的とした人・組織領域におけるコンサルティングやデジタルを活用した事業開発のアドバイザーとして複数のプロジェクトに伴走している。同時に講師として、経営戦略や財務会計の領域を中心に登壇。

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