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事業創造と人材育成を両立させる仕組みづくり ~人事部門と新規事業部門の共創~

三菱電機株式会社 名古屋製作所 2023.05.30

三菱電機株式会社 名古屋製作所様は、同社の中核事業であるFA(Factory Automation:生産ラインの自動化・省力化を担うシステム)事業を牽引する製作所です。国内トップクラスのシェアを誇るFA事業がありながらも、次の成長を担う新規事業を生み出し続けるために「イノベーション人材養成講座」を実施しています。本プロジェクトを企画・運営している同社の総務部 研修課長 神保茂雄様、研修課 専任 菅澤景子様、開発部 事業戦略グループマネージャー 田中哲夫様にお話を伺いました。(所属・役職はインタビュー当時)

※本インタビューは、以前ご紹介した事例「新規事業創出を通じて『未来を創る人・組織を、創る。』三菱電機様の取り組み」の後継として、同社が人事部主催で実施したプログラムです。

はじめに:本プロジェクトの概要

三菱電機株式会社 名古屋製作所様は、既存事業のFA事業が好調でありながらも、次世代の中核となる新規事業の創出にチャレンジしています。

特に、新規事業を継続的に生み出せる人材育成や組織風土改革に注力しており、2021年度より「イノベーション人材養成講座」(以下、本プロジェクト)を実施。受講者は7か月間、新規事業立案プロセスや思考法を学び、実際に新規事業のプランを検討します。本プロジェクトは研修課が企画・運営し、最終的に事業プランが採択された場合は事業戦略グループが事業化に向けて継続検討する連携を取っていることも大きな特徴です。

インタビュー:プロジェクト実施の経緯

プロジェクト前に抱えていた問題意識

神保さん:

当社のFA事業は現在好調ですが、製品にはライフサイクルがありますので、この状況が永遠に続くわけではありません。継続的に成長するためには新たな事業が必要だと考え、トップダウンでさまざまな取り組みをしてきたものの、長年にわたって新規事業の創出に苦戦してきました。

総務部 研修課長 神保 茂雄様
田中さん:

これまでの名古屋製作所の組織は、製品ごとのビジネスユニットに分かれており、担当製品の垣根を越えて人材が交流することがほとんどありませんでした。この縦割りの文化を打破し、新たな取り組みをする横串組織として、2018年、全国の製作所に先駆けて事業戦略グループが発足しました。経営陣も組織変革と新規事業創出にコミットメントしています。

菅澤さん:

事業戦略グループでは、グロービスさんと一緒にアクセラレータープログラムを開催するなど、新規事業を生み出すための施策を継続的に行っています。そこに人材育成面から事業創出の後押しをしたいと考えました。

本プロジェクトのパートナーにグロービスさんを選んだのは、これまでに実施いただいた「アクセラレータープログラム」や「デザイン思考研修」を通して、大きな信頼を寄せていたからです。組織変革や新規事業立ち上げの知見が豊富で、我々の要望に対して真摯に対応してくださるとの期待があったので、今回もお力添えいただくことにしました。

プロジェクトで目指していたゴール

菅澤さん:

新たな事業アイデアを生み出し続け、事業化に繋げることがゴールですが、新規事業は簡単にできるものではありませんから、まずは新規事業立ち上げの知識・スキル・マインドを持った人を継続的に育成し、母集団として増やしたいと考えました。

受講者は、各部門から、新規事業の創出に適任だと思われる人材、これから部門内で新規事業創出の中心的な役割を担ってもらいたい人材を選抜してもらいました。役職や年代などは指定しなかったものの、結果として非管理職の若手・中堅層が多くなりました。

神保さん:

本プロジェクトを通して人を育て、組織を変革していくことも目指しています。単に新規事業を立ち上げるだけであれば、他社から買ってくるなどの方法もあるかもしれません。ですが、継続して新規事業を立ち上げられるようにするには、組織風土から変える必要があると思うのです。

田中さん:

そして、我々事業戦略グループが本プロジェクトに参画しているのは、プロジェクトから生まれた新規事業プランを、実際の事業化に繋げていくためです。人材育成が主なゴールでありながら、実際の事業創出にも活かしていくことも、本プロジェクトが目指すもうひとつのゴールとしました。

<本プロジェクトの狙い>

プロジェクトの主な内容

実施において大事にした点

田中さん:

新規事業のテーマ領域を、あらかじめ明確に設定しました。当社が長年にわたってトップシェアをいただいているFA分野と、異なる技術・市場のものを掛け合わせた新事業を生み出したいと考えたのです。我々が持つコア技術を活かしてイノベーションを起こすことを目指しました。

菅澤さん:

また、人材育成を主眼に置きながらも、事業戦略グループとの連携を深め、最終的に継続検討する案件をひとつでも増やすための工夫も積み重ねています。

そのひとつに、事業プランへの評価方法の改善が挙げられます。本プロジェクトの最終回では事業プランの発表を行い、一つひとつの案件に対して継続検討するかを社内の評価者が決めます。初年度は評価の際に既存事業ベースでの評価視点が入り、厳しい評価結果となってしまったため、次年度は、顧客の困りごとを深く捉えられているか、長い時間軸で見て事業成長が期待できるかなど、新規事業開発ならではのポイントを意識して評価してもらうようにしました。

この改善にあたっては、講師の大崎さんからも評価者の方々へ「改善点を指摘するフィードバックばかりではなく、受講者が本プロジェクトでの成果を前向きに捉え、これから先の活動に繋がるよう、“フィードフォワード”の意識で評価していただきたい」とおっしゃっていただいたのが印象に残っています。

研修課 専任 菅澤 景子様

実施してのご感想、受講者の変化

菅澤さん:

本プロジェクトは、インターバルの期間にも課題が出されるなど、受講者への負荷は大きいです。それだけ、受講者が大きく成長するプロジェクトであるとも感じました。

各部門から選抜された受講者が毎回のセッションで講師に鼓舞され、チームで事業プランを練り上げながら成長し、真剣さも増していく様子を目の当たりにしました。普段の業務では触れる機会に乏しかった知識を得て、視野を広げていく姿は、他の研修ではなかなか見られないものです。

神保さん:

本プロジェクトでは、社外に出て、事業アイデアの顧客となりうる人にヒアリングする課題が設けられています。お客様から直接話を聞いて潜在課題を見つけることは、特にエンジニア職の受講者にとっては、これまでにない経験だったと思います。

菅澤さん:

お客様へヒアリングを重ねていく過程で、受講者の変化を特に大きく感じましたね。エンジニアは自分達の技術を起点に物事を語りがちですが、お客様が抱えている課題から事業を考えられるようになっていくのです。この点は、期待以上の変化でした。

田中さん:

私は、2021年度に受講者として参加しました。社外へのインタビューにあたっては、講師がその方法やコツを詳しく教えていただいたおかげで、行動に移しやすかったように思います。また、コロナ禍でリモート会議が一般化したため、社外の方であってもオンラインでカジュアルに時間を取ってもらいやすくなったことにも助けられました。

他の受講者を見ていても、こうした行動を積み重ねていく中で自主性が芽生え、チームビルディングも積極的にするような意識に変わっていったように思います。

そして、具体的な成果の芽も出始めています。2022年度は、発表された事業プランのうち3件を事業戦略グループで継続検討することになりました。事業戦略グループはPoC(実証実験)のための開発費をもらっている部門ですので、スピード感をもってPoC(実証実験)に着手できることも強みです。

開発部 事業戦略グループマネージャー 田中 哲夫様

今後の展望

今後の展望

田中さん:

本プロジェクトを2年間続けてきて、新規事業プランを考える過程で、受講者がつまずきやすいポイントが見えてきました。それらのポイントを乗り越えられるとプランを具体化しやすくなるので、次回以降、グロービスさんと相談しながらフォローしていきたいと考えています。

菅澤さん

2023年度は受講者の理解がよりスムーズに進むよう、各セッションのブラッシュアップをする他、改善を2つ加えようと思っています。1つ目は人選方法です。これまでは各部門からの選抜制でしたが、興味関心がある人、意識の高い人にも参加してもらえるよう、公募制も併用することにしました。先日、事業戦略グループが主催する社内イベントで田中からも本プロジェクトを紹介したところ、さっそく数名から応募がありました。これは嬉しい出来事でした。

そして、2つ目の変更点は、会場を社外に移すことです。オフィスの外に出て、普段の作業服ではなく私服で参加してもらうことで、環境的にも気分的にも日常とは異なる状態で、より新たなアイデアが創出されやすくなるのではと期待しています。

さらに今後に向けては、事業戦略グループから本プロジェクトへサポートメンバーとして入っていただいたり、プロジェクトと人事異動を連動させたりするなど、組織が活性化する仕組みも取り入れていきたいですね。成果を生み出すカギは、研修課と事業戦略グループの連携だと考えています。

なお、研修課では各事業部門とのコミュニケーションを重視しており、年1回、各ビジネスユニット長に人材育成の課題や要望をヒアリングしています。加えて、部門だけでは解決が難しい課題も幅広く聞かせてもらいながら、これからも事業に寄り添った総務部門として人材育成ができるよう尽力したいと思います。

神保さん:

当社は今、組織変革が必要です。人材育成と並行して多様性の推進などさまざまな取り組みを行い、新たな提案をしやすい風土に変えていきたいと考えています。また、本プロジェクトの受講者だけがスキルとマインドを磨いても、新規事業が継続的に生まれる組織にはならないと思います。将来的には、全国で事業所の垣根を越えた連携ができると嬉しいですね。

田中さん:

名古屋製作所の変革を実現するために、事業戦略グループとしては、活動内容をもっと社内外に発信していかなければならないと思っています。2023年4月には、我々のグループで検討していた新規事業アイデアの専任部門が立ち上がるという大きな成果も生まれました。今後、こうした成果や本プロジェクトの継続的な取り組みを、社内外のイベントなどを利用して伝えていく予定です。

社員に新たな取り組みを知ってもらい、組織に健全な危機感を醸成することは、FA事業が好調なうちにやるべきだと考えています。利益が出ていなければ、新規事業への投資はできませんから。事業戦略グループとしては、これからも新しい提案をどんどん行い、積極的に発信を続け、新事業を立ち上げる風土を作り上げていきたいと思います。

三菱電機 名古屋製作所 事務局様と弊社講師、及びコンサルタント
担当コンサルタントの声
本田 龍輔

新規事業立案をテーマとした研修・プロジェクトは多くの企業が取り組まれていると思います。一方で、その多くは、最終回で経営陣に提言して終わり、という仕立てになっているのではないでしょうか?これでは、せっかく良い事業プランが出来上がっても、どの部署が受け取り手になるのか、はっきりしないまま立ち消えてしまいます。

三菱電機の皆さんと取り組んでいる本プロジェクトは、人材育成を担う研修課と新規事業創出を担う事業戦略グループが上手く連携し、プログラムのゴールを新規事業創出の仕組みと連動させていることが大きな特徴です。事業化に向け、継続検討できるかがゴールになるため、アウトプットに求められる期待値は高いですが、その分、受講者の皆さんも本気で取り組んでいただいています。

コンサルタントとしては、三菱電機の皆さんのような新規事業創出と育成を両立させる仕組みをより、多くのクライアントへ波及させていきたいと考えています。こうしたプロジェクトを通して、意欲のある新しい世代の方が、どんどんチャレンジできるような組織風土を創っていければと思います。

粟井 祐介

この取り組みに参加された皆さんは、プロジェクト期間中、「顧客が抱える本質的な課題は何か」「その課題解決に繋がる事業アイデアになっているか」「その事業アイデアは市場に受け入れられ、スケールするか」そして「事業プランの評価者を説得できるか」といった問いに、仲間と共に真摯に向き合い続けました。

普段顧客と対話する機会が限られているエンジニアの方々も多く参加されましたが、検討した事業アイデア案を片手に、潜在的な顧客へのインタビューを重ねることで、事業仮説の確度を着実に向上させていきました。何度もビジネスモデルを見直したチームや、実証実験の協業先を見つけ、明確なPoCの概要を提示したチームもありました。

このように市場に晒されるという経験を通じて、事業アイデアの内容も当初は「自分たちがやりたいこと」が中心だったものが「顧客の課題解決に繋がること」へと変化しました。この過程で、既存ビジネスの慣性に引っ張られてしまうという難所も克服できたと思います。工数的な負荷が少なくない活動でしたが、自分達が次の事業の柱になり得るビジネスを創る、という当事者意識と責任感が、その原動力になっていたのではないでしょうか。

三菱電機様のように、事業が好調な中でも健全な危機感を持ち続け、継続的な成長を目指して事業創出に意欲的に取り組む姿勢は、新規事業開発を進める他の企業にとっても有益な示唆となる貴重な事例だと考えています。今後も、三菱電機様の事業を創る人・組織を創る取り組みをパートナーとして伴走し、“Changes for the Better”の実現に貢献して参ります。

担当ファシリテーターの声
大崎 司

大企業を支えられるだけの新規事業はすぐには産まれない、だからこそ、FA事業が好調な今、新規事業創出に積極的に取り組まれる姿勢や、新規事業部門と人事部門が連携しながら事業創出と人材育成を両立する仕組みを構築し、単年で終わることなく改善しながら継続されていることは、素晴らしいと思います。

参加する受講者も本気で学び、本気で事業を創りにいく。評価者も、事業「育成」の視点で受講者と「ともに考え」「未来を創る」姿勢を大切に、勝機を見出し、勝ち戦へのシナリオに導けるようなフィード・フォワードのコメントをする。ヒリヒリしますが、前向きなエネルギーに満ちた場に関わりつつ、受講者・評価者の成長と、0→1が産み出される瞬間に立ち会えることは、ファシリテーター冥利に尽きます。

FAとその周辺領域は、まだまだ日本企業が世界No.1になれる領域です。そして、三菱電機名古屋製作所様は、間違いなく非常にいいポジションにいます。本取組から、世の中の労働集約的な「不」や産業構造的な「不」を抜本的に変え、世界No.1になれる事業が産み出せるよう、引き続き私もしっかり伴走していきたいと思っています。

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