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第12回G1経営者会議「生成AI時代における経営者のリーダーシップ」

2024.07.25

本レポートは、2023年11月23日グロービス東京校で実施された「第12回G1経営者会議」における、第1部全体会「生成AI時代における経営者のリーダーシップ」の内容をダイジェスト形式でご紹介いたします。なお、本セッションの動画はこちらからご確認いただけます。

[登壇者]
■ 冨山 和彦氏 (株式会社経営共創基盤(IGPI) IGPIグループ会長 / 株式会社日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役社長)
■ 髙橋 誠氏 (KDDI株式会社 代表取締役社長 CEO)
■ 松尾 豊氏 (東京大学大学院工学系研究科 教授)
■ モデレーター:秋山 咲恵氏 (株式会社サキコーポレーション ファウンダー)

生成AIは、どう取り込むかの段階に

さまざまな分野で話題を席巻している生成AIだが、現在の企業経営にも大きな影響をもたらし始めている。今回のセッションでは、生成AIの現状や見えてきた応用の仕方、世界での動き、日本企業における活用や可能性について、各界のリーダーが語り合い、密度の高い議論を展開した。

日本は生成AIに積極的な国の一つ。それでもセッションの冒頭、モデレーターを務める秋山氏が来場者に確認すると、利用している企業は半数程度だった。これに対して冨山氏は、既に利用を躊躇しているような状況ではないと言い切った。「生成AIは人類史上、農業革命、産業革命、情報革命に続くほど革命的な事象だ。これを取り込まない企業は淘汰されてしまうだろう」。冨山氏はChatGPTなどの生成AIの登場でホワイトカラー、少なくとも中・下流ホワイトカラーの仕事は数千万人単位で消滅すると予想する。冨山氏自身、ある調査業務を例に、部下に対応させることが激減したことを語る。また、実際に導入した企業のトップである髙橋氏は、管理職が業務を進めるときにテニスの「壁打ち」練習のようにやりとりする、技術者がプログラミングで利用する、CS部門がオペレーターの訓練として使っているなどの例を紹介した。

生成AIの浸透は速く、広範囲である。松尾氏はこの一年だけで生成AIに極めて多くの発展、変化が起こっていることを述べた。日本は従来になく速いペースで対応しているが、海外諸国の関心も非常に高い。海外の大学では既に、生成AIの有料プランを利用できる環境にいる学生とそうでない学生に発生する格差をどう埋めるかといった具体的な議論がなされている。もはや、生成AIを入れるか入れないかの議論ではなく、どのように入れるか、そのときの制度やルールメイキングが議論される時代である。

冨山氏は世界の動向を見る視野が必要だと語る。一般に最先端技術が普及するとき、まずトップクラスの研究者がコードを開発し、これを公的な規制が追っていくが、各国での進展は、最終的にはグローバルに収斂されていくからだ。これまでの政策形成プロセスについては松尾氏が紹介した。日本を議長国とする2023年のG7広島サミットを受け、広島AIプロセスという国際的な政策の枠組みが設定された。各国で見ると、アメリカの場合は大統領令からトップダウンで入る。ただNIST(米国立標準技術研究所)が、生成AIの安全性などを査定、結果を政府と共有するため、何らかの規制は実施されることになる。EUではEU議会がAI ACT(欧州AI 法)を定めた。日本は審議会が多いなどの課題があり、ガラパゴス化の懸念もあるが、アメリカは広くて拠点が分散していること、EUは規制が厳しいことを念頭に置くと、日本のチャンスは大きい。イノベーションを重視しつつ、国際標準から外れないようにすることが重要である。

生成AIと共存し企業経営に活かす

では企業経営者は、生成AIを活用するためにどうすればよいのか。髙橋氏は、現在の生成AIの状況はインターネット黎明期のイメージに似ていることを指摘し、まずは入れてみることが重要だと語る。「大切なのは『日本発』に執着し過ぎないこと。日本人は付加価値創造が得意なので、グローバル・スタンダードをいち早く取り入れ、そこに日本人の良さを付加するべきだ」。一方、冨山氏はスタートアップ企業への期待を述べた。「人間の創造性はルールを超えて発揮される。しかもまだルールが曖昧な領域では、世界中の人々がさまざまな挑戦をしてくる。そうなるとリスクを取ってチャレンジしやすいスタートアップが力を発揮する」。

さらに松尾氏は「各ビジネスドメインでのLLM(大規模言語モデル)の活用は今、水面下でさまざまな試みがなされている。インターネット同様、初期には予想もしなかった斬新なサービスがこれから登場してくるはずで、遅れをとらないようにしていくことが重要である」と語る。一方、生成AIの課題や危険性についても議論があった。生成AIのハルシネーション(誤った内容、もしくは真偽を確認できない内容の回答を生成すること)について、生成AIに無謬性、完全性を求める人間の本質的な性向を指摘する。生成AIやLLMを完璧なものとして神格化するのではなく、人間が知恵を絞りながら活用できるフィールドを早くつくることが重要である。

また、生成AIは現在、ChatGPTをはじめとする汎用型(万能型)を前提に議論されているが、将来は専門分化していくと思われる。髙橋氏は、事業では業態別、利用別にファインチューニングして使うことになるため、生成AIが嘘をつく(誤回答する)ことも減ると見る。松尾氏は今後、生成AIはインターネット同様、公共財となっていくが、そうなるとセキュリティへの配慮が一層必要で、それが性能向上の足を引っ張るという問題を指摘した。ここで、来場していたシェイン・グウ 氏(Google DeepMind 研究員・マネージャー 兼 東京大学客員准教授)が、近年の生成AIの潮流を解説した。LLMに期待できる役割として、推論、プログラミング、クリエイティブな発想目的や分野による使い分けなどを挙げた。LLMを人間の価値観に合わせてファインチューニングするには真に質の高いデータが必要であり、経営者がすべきこととして「何をどう決断したかについて、思考を言語化し、データとして記録すること」だと提言した。

社会構造や人々の働き方を激変させることを視野に

今後、生成AIが従来の社会や雇用のあり方に与える影響についても活発な意見が交わされた。かつては生産手段と言えば工場設備などだったが、個人が生成AIを使いこなせる時代になると、一人ひとりの人間が生産手段となり、よりパワーアップされた人的資本となる。つまり今以上に従業員の重要度、価値が高まり、ときには株主以上の力も持つようになるかもしれない。

また日本企業は、社内でローテーション人事を実施しながらスーパージェネラリストを育てようとする志向が強いが、生成AIの時代では、専門スキルに対して報酬を提供するジョブ型が適している。経営者は生成AIが代替する部分と人間が価値を創造する部分を設計し、それに応じた雇用や報酬体系から考える必要が出てくるだろう。

今、日本ではホワイトカラー系人材は余剰となる一方、エッセンシャルワーカーは危機的に不足している。生成AIはこの状況を加速させることもあれば、課題の解決に役立つ場合もある。鍵となるのは、どのような問いを立て、何を決断するか。経営リーダーには、社会に与える根本的なインパクトを意識しつつ、生成AIを利用する姿勢が必要になるだろう。

[第12回G1経営者会議 開催概要]
■開催日:2023年11月23日
■会 場:グロービス経営大学院 東京校 / オンライン開催(Zoom)
■対象者: 企業の経営者、取締役または執行役員

※G1経営者会議とは「日本経済の中枢を担う企業経営者たちが集い、議論し、学び、行動するためのプラットフォームをつくりたい」という思いから始まりました。
第12回の統一テーマは「世界で勝てるテクノベート経営~生成AI等の活用」です。

※本記事に掲載のご所属・お役職はご登壇当時のものです

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