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DXを成功に導く3つの組織特徴

2024.02.16

日本においてDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が語られるようになってから5年以上が経過しましたが、多くの企業がその実現に向けて悪戦苦闘しています。皆さんの会社でも様々なチャレンジが行われているのではないでしょうか。今回のコラムでは、組織のデジタルシフトを支援する中で私自身が感じた、“DXを実現できている企業の3つの特徴”についてお伝えします。

1.DXによって目指したい姿(ビジョン)が組織内に明確な言葉で伝わっている

「皆さんの会社が目指しているDXとはどのような状態を実現することでしょうか?」
「社会・顧客など、様々なステークホルダーに対してどのような価値を創出・提供したいでしょうか?」
この問いに対する明確な答えが組織内に浸透している企業はまだ少数ではないでしょうか。
多くの企業で様々なITツールが導入され、DX人材育成が活発化するなど、重要な第一歩を踏み出しているのを感じます。一方で、それらの取り組みの目的が明確になっておらず、社員の意識も高まりきらない状況をよく目にします。世の中でDXという言葉は一般的になりましたが、企業において自分が実践するものだというリアリティは多くの社員が持てていません。リアリティがなく、自分事として捉えることが難しいが故に、学ぶ機会はあってもなかなか行動に移らないのが実態だと思います。
DXというキーワードは、自社が身を置く産業・業界の特性によって捉え方は様々です。だからこそ、自社が目指すDXはどのようなものなのか?そこに向けて今どのレベルにあるのか?を組織のリーダーが発信し、具体的なアクションの解像度を高めることで、共通認識を作っていくことがスタートとして重要です。その上で、必要な戦略・組織のあり方を決定するのがよいでしょう。

2.段階的にDXを実現するステップを描き、小さな実践の促進・定着を図っている

目指したい姿が定まったら、実現に向けたステップを描いていきます。ここではDX実現に向けた取り組みを、社員の自発性を促すことで上手く進められている企業に共通するステップを紹介します。

ステップ1:デジタルを活用した価値創出に手触り感を持ってもらう

まずは社員自身がデジタルによる価値創出を体験し、その可能性にワクワク感を得ることで主体者としての意識を醸成することがスタート地点であるように思います。DXというとプログラミングのイメージから高いハードルを感じてしまい、特に文系社員は他人事として距離を置いてしまう方も多いのが実態です。そのため、まずはデータを活用することでどんな価値を生み出すことができるのかを体感する場を作ることや、現場のチームで小さな実践(例えば、ノーコード開発ツールを活用してチームの生産性向上アプリを作ってみる等)を簡単にスタートできるような支援ツールを導入することをお勧めします。認識されているハードルを下げ、あくまでデジタルは価値創出のツールにすぎないということを感覚で理解してもらうことが重要です。

ステップ2:武器を与え小さな実践の加速を支援する

小さな実践が始まったタイミングで組織として本格的に支援を行います。具体的には、新たな学びの機会の提供や実践を支援するアドバイザーの用意、リソース不足の解消などです。これらの支援は、内製する場合もあれば、外部パートナーを活用する場合もあります。意識すべきは、スタートした取り組みを決して放っておかないことです。多くの社員は自発的な実践に自信を持てません。特に、経験したことのないデジタルを活用した実践においては、関心が示されないことや、成果が出ないことへの不安から継続が難しくなります。そのうちチャレンジが消えてしまい、実践のハードルがさらに上がっていくでしょう。組織として取り組みに関心があることを示し続け、支援の仕組みを担保していくことが重要です。

ステップ3:小さな実践を学習に繋げ、組織として評価することで促進する

小さな実践のほとんどは短期的に組織にインパクトを残すことは少ないでしょう。一方で、これらの取り組みが組織変化を促すキッカケにもなり得ます。ある企業は社員による小さな実践の目的の一つを「自社のDXを進めるための学びの獲得」と明言しており、その貢献を評価する仕組みを構築していました。
短期的な成果のみを追わず、社員のDXにおけるチャレンジを学習の機会として評価するというメッセージを明確に出すことで、実践における自信を持たせることができていました。このような活動が広く組織に伝播することで、全体の変化に繋がります。

3.DXを阻む2つの対立をマネジメントする組織・人材を配置している

小さな実践がキッカケとなり組織が少しずつDXを進めていく中で、最大の障壁となるのが関係者間における対立です。デジタルを前提とした新たなビジネスモデル・組織を構築していくためには、従来とは大きく異なる方針を取っていく必要があります。ここでは、DXを進める過程で起こりがちな2種類の対立を考えます。

・事業部内における対立(縦の対立)

DXを進めていく上では、まず「デジタル戦略を構想する人材(ビジネス系)」と「デジタルサービスを実装する人材(テクノロジー系)」の確保が必要です。この2タイプはチームとして連携を取っていくことになりますが、多くの場合プロジェクトの途中でコンフリクトが発生します。両者は、大きな構想段階では同じ目線で合意しているように見えますが、プロジェクトが進むにつれて優先順位の考え方や実装の意義における認識のズレが浮き彫りになってきます。このズレを最初の段階ですべて解消しておくことは現実的ではないため、2タイプの間に入り、適宜翻訳機能を果たす役割を持った第3の人材を育成または採用し、配置しておくことができるかが重要なポイントになります。この人材は、プロジェクトの状況を俯瞰的に捉え、提供する価値起点で両者の関係を取り持つことや、プロジェクトの方向性についての意思決定を主導する役割を担います。

・事業部間の対立(横の対立)

DXとは組織全体の取り組みであり、事業部間での連携が必要になるケースもあります。その際に、特に対立が起こるのは既存主力事業と新規(デジタル)事業の組織です。多くの場合、新規事業には多額の初期投資が必要であり、短期的な利益は望めません。既存事業で稼いだ利益が投資の原資となることも多く、既存事業側からの不満が募ります。また、新規事業側は、既存事業のルールや反発によって事業の推進力を削がれ不満を募らせます。
新たにデジタルを前提に事業を進めていく上では、その性質の違いから別組織を作るべきではありますが、一方で、完全に切り離してしまうことにはリスクがあります。DXを実現するには必要データの取得・活用が必須であり、そのためにはヒトやカネのリソースも必要です。これは新規事業を担う組織単体で確保することは難しいでしょう。また、既存事業においてもデジタル化は必須の時代であり、組織全体として学習のサイクルを回していく必要もあります。組織全体の変化に繋げるために、別組織にして完全に切り離すのではなく、互いのリソースを活用できる状態にしておくことをお勧めします。

ある企業はこれらの対立問題に対して、部門内(縦のライン)や部門間(横のライン)の関係を取り持ち、DXを推進するプロフェッショナル集団を組織に設置し、上手く機能させることで変革を加速させています。部門内においては、事業部長のパートナーとして戦略を議論すると共に、サービス実装を任される社員と具体的なシステムの議論を実施することで要件の擦り合わせを行います。部門間においては、横串で各事業部のDXの取り組みを管理・支援することで学習装置となり、集約した知見や好事例を組織全体に展開することでDXを推し進めます。
こういったプロフェッショナル集団の設置においては、メンバー選定と組織のフォロー体制が重要です。デジタルに専門性を持ちながらもビジネスに高い感度を持つ人材を、越境者として選定・育成していきます。一方で、希少な人材でもあるため、多くの場合は外部のパートナーや専門人材を巻き込みながらチームを組成しています。

生成AIの急速な進化に伴い、今後はますますデータの取得・活用が競争優位性の源泉になっていくことは間違いありません。そのような環境下で新たな価値を生み出し生き残っていくための重要な論点として、デジタル組織としての能力強化が挙げられます。多くの企業で、どのような組織を意図を持って作っていくのかが問われています。急には変われないからこそ、今から計画的に変革に向けたチャレンジをしていくことが重要なのではないかと思います。本コラムが、DXを推進されるにあたっての論点整理や、社内関係者の合意形成・促進の一助になれば幸いです。

グロービス・コーポレート・エデュケーションマネージャー 尾花 宏之

グロービス・コーポレート・エデュケーション
マネージャー

尾花 宏之 / Hiroyuki OBANA

大学在学時、コンシューマー向けのデジタルプラットフォーム事業を自ら立ち上げ運営。
その後、銀行にて企業に対する融資・投資支援や再生コンサルティング(事業・財務計画の策定)を経験。
2015年にグロービス参画。現在はチームマネジメントを行うと共に、大企業の経営課題解決を目的とした人・組織領域におけるコンサルティングやデジタルを活用した事業開発のアドバイザーとして複数のプロジェクトに伴走している。同時に講師として、経営戦略や財務会計の領域を中心に登壇。

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