いきなりHRBPに任命された人がまず押さえておきたいこと

2021.07.13

近年のビジネス環境の加速度的な変化に伴い、あらゆる業界・業種・業務において、変化に対応し生き残るための改革が迫られています。

 

人事部門の変革も、待ったなしです。最近は「戦略人事」の実践と、「HRBP(HRビジネスパートナー)」の配置を進める企業が、筆者のクライアント企業にも増えています。

 

本コラムでは、HRBPとは何か? 今までの人事と具体的に何が違うのか? HRBPに任命されたら何をすれば良いのか? などについて解説します。

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HRBP(HRビジネスパートナー)とは? 従来の人事とは何が違うのか?

昨今のビジネス環境には、我々が経験したことの無い変化(技術革新やグローバル化、多様性の進展など)が生じています。そのため先行きの予測が困難であり、VUCA(Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(不透明))の時代とも称されます。新型コロナにより社会やビジネスの環境が一変したことで、VUCAの時代を痛感した方も多いのではないでしょうか。

VUCAの時代に企業が成長を目指すには、新しい考え方や手法を柔軟に取り入れることが不可欠であり、それは人事部門も例外ではありません。環境変化に合わせて企業が戦略やビジネスモデルを変更していく中で、人事のあり方も変化が求められているのです。

 

人事の新しいあり方の1つが、デイビッド・ウルリッチ教授が提唱した「戦略人事」です。戦略人事とは、”ビジネス上の戦略に人材経営戦略と方法を関係づけること”と定義されています(引用:デイビッド・ウルリッチ著、”MBAの人材戦略(日本語)”、日本能率協会マネジメントセンター、1997年、P.15)。

言い換えれば戦略人事とは、経営戦略と人・組織を連携・連動させ、競争優位を目指そうとすることです。

 

戦略人事と共によく使われる言葉として、「HRBP(HRビジネスパートナー)」があります。HRBPとは、戦略人事を実現・実行する役割を担う人や、人事の一機能のことを一般的に指します。戦略人事とHRBPの関係性は、図1のように表せます。

 

図1:戦略人事とHRBPの関係性

図1:戦略人事とHRBPの関係性

 

HRBPのミッションは「経営陣のパートナーとしてビジネスを共に成長させること」です。このミッションを果たすには、経営戦略と人事戦略を連動させる必要があります。

なぜHRBPの必要性が高まっているのか?

HRBPの必要性が高まっている理由は、「戦略の不実行」が大きな課題感として認識されつつあるからです。実際、弊社クライアント企業の経営陣の多くは、”作った戦略が思い通りに実行されないこと”に悩んでいます(引用:”経営戦略は良いのに、企業が成長しない理由”、Business Network Lab、2021年7月に内容確認)。

 

作った戦略を実行するには、組織や人を変化・成長させ、戦略を実行可能なレベルにまで引き上げる必要があります。

しかし従来の人事部門は、採用や労務管理などの機能を果たすことに最適化しています。そのため、経営に直結する視点で組織開発や人材育成を考えられる専門家も、そのためのポジションもありません。結果、組織開発・人材育成は経営者が自ら考え、リーダーシップを発揮して推進する以外に方法がありませんでした。

 

変化が緩やかな時代であれば、それで対応できていたかもしれません。しかし急速な変化が起き続ける現代において、人・組織の専門家が不在のままでは、多忙な経営者の手が回らなくなることは目に見えています。

だからこそ経営戦略と人事戦略を連動させ、人・組織の面から経営目標の達成を支援するHRBPが今、求められているのです。

HRBPに求められる役割・能力とは?

HRBPにはどのような役割が期待され、どのような能力が求められるのでしょうか。

1. HRBPに求められる役割

HRBPの役割を一言で表すならば、社内人事コンサルタントです。

具体的にHRBPに求められる業務は、

・自社を取り巻く経営環境を把握した上で、

・何が経営課題なのか、戦略実行における人・組織上の重要課題は何か、を特定し、

・課題解決のためのストーリーやアクションを導出する

ことです。

2.HRBPに求められる能力

社内人事コンサルタントであるHRBPには、基礎的な人事に関する知識の他に、3つの能力が求められます。1:自社ビジネスと戦略に対する深い理解、2:高い課題特定・解決能力、3:他者を巻き込み前に進めるファシリテーション力、です。

それぞれの詳細を見ていきましょう。

 

1:自社ビジネスと戦略に対する深い理解

HRBPは経営陣のパートナーです。彼らと対等にディスカッションするには、基礎的な経営リテラシーは必要条件。その上で、自社が置かれる経営環境や業界動向、自社ビジネスの特徴や戦略の方向性などを、経営者と議論できるよう把握しておく必要があります。

 

具体例を見てみましょう。

A社は人材育成業界において、eラーニングを主力商品として成長してきました。eラーニングの特徴はその手軽さ。PCとインターネット環境さえあれば、必要な教育を社員1人あたり数万円で提供できます。そのため不景気で研修費削減の傾向が強まる中でも、A社の商品はさまざまな業界・企業からニーズがあり、右肩上がりで成長を続けていました。

しかし時がたち、事業を取り巻く環境に変化が生じました。たとえば動画配信プラットフォームの台頭。eラーニングに近しい内容の動画を、いつでもどこでも無料で見られるようになってしまったのです。そのためeラーニングの価値は下がり、A社の業績も悪化の一路を辿ってしまいました。

 

このような場合、人事の皆さんならどのような打ち手を考えるでしょうか?

業績が好調であれば、現場のニーズ(例:営業パーソンを〇人採用する)に応えていれば、人事担当者は十分に職責を果たせていたでしょう。しかし業績が悪化している状況であれば、手遅れになる前に手を打つ必要があります。

たとえば、「今後自社がどのような状況を迎える可能性があるのか」、「自社の人・組織の強みを活かして、どのようにビジネスモデルを変化させるのか」などを、HRBPは経営陣と議論せねばなりません。そのため、自社ビジネスと戦略に対する深い理解が求められるのです。

 

2:高い課題特定・解決能力

社内人事コンサルタントとして、高い課題特定・解決能力も求められます。

たとえば先ほどのA社が、企業向けの人材育成に関する動画配信プラットフォームを手掛けることになったとしましょう。新規事業に携わる専門のチームを組成する必要があります。皆さんなら、リーダーやメンバーをどのように選出し、社内に説明して異動してもらいますか? 

また、仮に社内に適切な人材がいなければ、社外から採用する必要があるため、上司に予算や業務配分を相談せねばなりません。更に「外部から採用した人をリーダーには任命しない」という慣習が社内にあるならば、経営陣や現場を説得する必要があるでしょう。

 

このようなニュートラルな視点をもって課題特定と解決にあたることが、HRBPには求められているのです。

 

3:他者を巻き込み前に進めるファシリテーション力

HRBPには、議論を通じてステークホルダーを巻き込み動かす力(=ファシリテーション力)が求められます。なぜならHRBPには計画策定に加え、実行と成果の創出までが求められるからです。

 

実行と成果の創出を果たすには、多様なステークホルダーから意見や意欲を引き出し、合意形成を図りながら物事を押し進める推進力が不可欠です。HRBPのステークホルダーは、役員や事業部門長、現場のマネージャーやメンバー外部のパートナー企業などに加え、OD&TD、CoE、OPsも含まれます(図2)。

図2は現在、多くのグローバル企業の標準型となっている人事モデルです。HRBPは事業部門の一部として配置され、ビジネスリーダーや従業員を支援します。一方コーポレート部門にはOD&TD、CoE、Opsの3つの人事機能が存在し、HRBPの業務を支えます。

図2:標準的なグローバル企業における人事の4機能モデル (引用:”Works vol.133”、リクルートワークス研究所、2015年、P.7)

図2:標準的なグローバル企業における人事の4機能モデル (引用:”Works vol.133”、リクルートワークス研究所、2015年、P.7)

このようにHRBPには、多様なステークホルダーが存在します。それぞれのステークホルダーと議論し、意見をまとめて合意形成を図り、物事を進めていくための高度なファシリテーション力が、HRBPにとって不可欠です。

 

補論:人事領域に関する専門知識の必要性について

HRBPは、人事領域に関する専門知識を有している必要があるでしょうか。筆者の見解としては、先述した3つのスキルに比べると優先順位は下がります。

 

確かにHRBPとして経営陣と議論する際、人・組織の専門家の立場から意見を求められる場合があります。しかし必要なのは、ビジネスの深い理解や洞察に基づき、問題提議や解決策の方向について提案を行うことです。具体的な施策については、必ずしも1人で考える必要はありません。

たとえばCoE。CoEは人事領域の専門部署であり、個別課題(採用、労務管理、報酬制度など)に特化した専門家が在籍して、HRBPの活動を下支えします。HRBPはCoEのメンバーに加え、社外の専門家やコンサルタント、企業のサポートを得ながら、適切な解決策を導くよう、立ち回ればいいのです。

HRBPに任命されたらまず押さえておきたいことは?

皆さんがもしHRBPとして配置されたら、何から手をつければよいでしょうか? 
まずすべきは、以下の2点です。

 1. 役員や事業部門長が実現したいと考えているビジョンやゴールを確認する

 2. 自社が今後どのように競争優位性を高めて成長していくのか、戦略を検討してみる

中期経営計画などを通じて戦略の方向性や方針が公開されていても、改めて、自ら考え仮説を持つことが大切です。なぜならば、HRBPは役員や事業部門長の部下ではないからです。ニュートラルな視点を持ったコンサルタント的な立場での意見を、常に持つ必要があります。

 

続いて、以下の3点についても検討しましょう。

 3. 戦略を実行するにはどのような組織・人材が必要なのかを考える

 4. 現状とのギャップを認識する

 5. ギャップをどのように埋めるのかを検討する

ここでは、以下のような論点が考えられます。

・組織としてどのような能力を開発しなくてはならないのか

・その組織能力を獲得し定着させるには、どのような組織構造や評価制度・育成体系が必要か など

組織を構成・維持する要素を1つ1つ検討し決定・遂行していくことが、戦略の実行を支援しビジネスの成長につながると考えます。

 

以上を施策の検討プロセス上に配置すると、図3のようになります。

図3:HRBPが押さえるべきポイント

図3:HRBPが押さえるべきポイント

 

HRBPが特に力を入れるべきは、リーダー育成、特に次世代を担う経営人材の育成です。変化の激しい現代においては、経営をリードできる人材が社内にいるかどうかが、企業の競争優位性そのものとなり得ます。優秀なリーダー(例:経営に対してオーナーシップを持つ、各部門や事業を牽引できる、など)を常に輩出し続ければ、企業は強固な体制を維持できるのです。

最後に

変化の激しい時代だからこそ、新たな経営戦略に沿って人・組織を牽引できるリーダーの重要度が増し、そのようなリーダーを育成できる人事が求められています。すなわち、人事が経営戦略実現の成否を握っているといっても過言ではありません。

これまでの人事は、経営を支援する立場だと考えられていたかもしれません。しかしこれからの人事は、ビジネスを主体的にリードしていくという意思を持つ必要があります。その中でもHRBPは、自らを従業員のロールモデル、すなわち経営に対してオーナーシップを持ち事業を牽引できるリーダー足るよう、努めることが求められます。

ぜひ本コラムを参考に、事業をけん引するリーダーとなるための一歩を踏み出してみてください。

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執筆者プロフィール
広瀬 由衣 | Yui Hirose
広瀬 由衣

大学卒業後、大手外食企業に入社し店舗マネジメントに従事。その後、企業内大学に配属となり、研修インストラクターや各種トレーニングマニュアルの企画・製作に携わった。
また、戦略インサイト本部に異動後はPOSデータなどを元に新商品の需要予測やプロモーションの効果分析を担当した。グロービス入社後は企業の経営人材育成や組織開発に関する提案・支援を行っている。グロービス経営大学院、経営学修士(MBA)修了。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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