役員研修

VUCA時代における経営者(取締役・執行役員)への研修の必要性と企画のポイント

日経225企業
取引実績

88 %
2024年4月グロービス調べ

企業内研修
有益度

4.6 5段階
評価
2024年3月「テーラーメイド型プログラム」を除く平均値

導入
企業数

3,300 社/年

受講
者数

43.8 万名/年

外部環境の変化が激しい今だからこそ、経営者に学んでいただくことの価値が高まっています。次世代経営人材の発掘・育成の重要性が増す中で、経営者(取締役・執行役員)への研修の企画や継続的な実施に悩む方も多いのではないでしょうか。本コラムでは経営者への研修の本質的な目的や、研修企画としてテーマに挙がりやすい「意思決定の軸」について解説します。

コラムに関連するお役立ち資料はこちら 次世代リーダー育成の事例~選抜研修編~

経営者(取締役・執行役員)への研修とは

経営者(取締役・執行役員)への研修は、自社の取締役・執行役員を対象に、既存の発想をアップデートし、自身の判断軸や人間的魅力を磨き込む場です。幹部として求められる知識やスキルを身につけ、自らの判断軸や人間的魅力を向上させることを目指します

経営者(取締役・執行役員)への研修が必要な背景

経営者(取締役・執行役員)への研修が必要な背景には、企業を取り巻く経営環境の加速度的な変化があります。コロナ禍のように予測不能な変化も多く、今までの勝ちパターンでは上手く行かなくなったと感じる方も多いのではないでしょうか。

将来の予測が困難な状態を、VUCA(変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity))と言います(図1)。

図1:VUCAの時代

VUCAの時代と言われる昨今は、どれだけ精緻な予測・分析を実施しても、想定外の事態が次々と発生します。加えて飛躍的なテクノロジー進化も、VUCAを後押しします。テクノベート(テクノロジー+イノベーション)により、従来のビジネスモデルを駆逐する新たなビジネスモデルが日々構築されているからです。

このような経営環境下において、経営者(取締役・執行役員)は、何を考えればよいのでしょうか? 大切なことのひとつに、自身をアップデートしていくことが挙げられます。環境変化に耐え、乗り越えられるだけのスキル・マインドを、経営陣が身に付ける必要があるのです。

経営陣の方々が自身をアップデートする機会は、大きく2つに分けることができます。日常における業務活動と、非日常での活動です。

日常業務においては、情報収集のアンテナを高めることは効果的です。例えば新たな人との接点を増やす、新しい会合の場に積極的に参加してみる、などです。VUCAの時代においては新しい情報リソースを確保して、最新情報を常にインプットすることは非常に有効です。

一方で普段の業務の中だけでは、日常の慣性に引っ張られ、大きな変化を乗り越えるヒントは得られにくい、ということもあります。その場合は意図的に日常業務を離れ、自身の思考特性などを冷静に振り返る機会を設ける必要があるでしょう。多忙な経営者(取締役・執行役員)であれば、半強制的に日常業務から引きはがすことが必要になり、そのための選択肢のひとつが研修となります。

経営者(取締役・執行役員)への研修内容

経営者(取締役・執行役員)への研修ではさまざまなテーマが扱われます。ここでは代表的な5つをご紹介します。

  • 経営に関わるビジネス知識
  • 自分がすべきことを知る
  • 法務・企業統治
  • 多様な学問(リベラルアーツ)
  • 社会課題

経営に関わるビジネス知識

前項で述べた通り、経営者(取締役・執行役員)は自分の専門分野以外に経営に関わる幅広い知識を身につけることが重要です。具体的には、経営戦略、マーケティング、ファイナンス、アカウンティング、リーダーシップなどが該当します。例えば財務担当役員との対話の場では、ファイナンスの知識・スキルが十分でなければ、対等かつ生産的な議論を交わすことは難しいでしょう。経営に関するリテラシーは最適な経営判断に不可欠のため、積極的に補うことが求められます。

自分がすべきことを知る

グロービスでは、自分のすべきことを知ることを「使命の自得」とお伝えすることがあります。使命の自得は、責任感や目的意識を高め、経営者(取締役・執行役員)として成果を挙げるのだという覚悟を、より強固なものにします。結果として、困難・不利な状況であってもあきらめず(=判断軸の磨き込み)、乗り越えるための原動力(=人間的魅力の磨き込み)を得ることができます。

法務・企業統治

法務・企業統治(コーポレートガバナンス)は、自身の経営判断に法務リスク・コンプライアンスリスクが含まれていないかを見極めるために学ぶ必要があります。法務では、適切な会社運営をするために必要な法律知識を身につけます。企業統治では、企業が健全な経営をしているかをチェックするための仕組みや運営方法、監督体制などを整備するプロセスについて学びます。経営者(取締役・執行役員)の判断は企業と株主に対して高度な法的責任が伴うため、これらの知識が十分でないと、自身の判断によりで法的制裁を受けるリスクが高まります。

多様な学問(リベラルアーツ)

人文科学、社会科学、自然科学などの幅広い学問分野のことをリベラルアーツと呼びます。リベラルアーツを学ぶことは、多角的な視点で考え、より良い決断をするための助けとなります。リベラルアーツの重要性は各所で指摘されており、学ぶことでさまざまなメリットがあると言われています。例えば、多様な文化に触れることで自分の知らない世界があると気づくきっかけとなったり、異なる分野の考え方やイマジネーションを取り入れることで、イノベーションの促進につながったりします。

社会課題

2024年現在、SDGs、気候変動、人権問題、DX、D&Iなどさまざまな社会課題があります。これらを認識し、企業としてどのように対応するかを判断することも経営者(取締役・執行役員)の役割です。重要なのは、社会課題に対する考えやスタンスを事前に整理しておくことです。社会課題への対応は多様なステークホルダーの思惑が絡むため、その意思決定やその後の推進も複雑になりやすいためです。

経営者(取締役・執行役員)への研修の目的

経営者(取締役・執行役員)が企業の持続的な成長をリードし、複雑化する経営環境に適切に対応するために、研修は重要な役割を担っています。その目的は主に以下の3つです

  • 既存の発想をアップデートし判断軸を磨き込む
  • 多様なステークホルダーを巻き込む力を強化する
  • 経営全般のリテラシーを向上させ全社的な視点を養う

既存の発想をアップデートし判断軸を磨き込む

経営者(取締役・執行役員)の主な役割のひとつが、企業の方針や戦略の決定を通じて組織の成長を促すことです。しかし変化の激しいVUCA時代において、将来の経営環境を正確に予測することは困難です。そのため経営者(取締役・執行役員)は既存の発想に捉われず、常に新しい視点や知識を取り入れていくことが必要です。ものの見方や知識をアップデートしていくことで、自らの判断軸も更新され、確固たるものとして磨き込まれます。その結果、より適切な意思決定ができるようになります。

多様なステークホルダーを巻き込む力を強化する

一般的に経営者(取締役・執行役員)の役割や責任範囲は広く、その意思決定にはさまざまなステークホルダー(社会、顧客、株主、従業員など)が関与します。異なる視点やニーズを持つステークホルダーを上手く巻き込まなければ、経営者(取締役・執行役員)は成果を挙げることができません。そのために重要なことの1つが、人間的な魅力を向上させることです。コミュニケーション能力などの人間的な魅力を磨き、関係者を引きつけられるようになることで、より多くのステークホルダーを巻き込み、自身の影響力を高めることができます。

経営全般のリテラシーを向上させ全社的な視点を養う

経営者(取締役・執行役員)は企業全体への責任を持つため、自身の専門分野に限らず経営全般に関するリテラシーを向上させる必要があります。経営全般の知識を身につけることで視野が広がり、専門でない部門の状況も正確に把握しやすくなります。各部門の状況を把握することは、リスクの察知や部門間のシナジーの創出のほか、市場やトレンドの変化への素早い対応につながります。結果として、全体の目標達成に向けてより効果的な戦略を立てることが可能になります。

VUCA時代、とくに重要なことは「判断軸を磨き込むこと」

VUCA時代の経営環境下はさまざまな要因が複雑に絡み合い、地政学的・経済学的な危機が定期的に起きています。そのような中、経営者が向き合うべき論点は増えています。

  • どのようにリスクヘッジし、経営資源の配分を行うのか
  • 人口動態が変化し国内需要がシュリンクしていく中で、海外事業を成功してくための勝ちパターンを構築できるのか
  • 飛躍的なテクノロジー進化に対して、自社の構造変革やDXをどのように行うか など

上記のような経営上の重要な各論点について、確固たる意思決定の判断軸を持ち、適切な意思決定を下し、自社が進むべき大きな方向性を決断していくことが、VUCA次代の経営陣には特に重要です(図2)。

図2:VUCAの時代には明確な意思決定の軸が必要

次項では、経営者(取締役・執行役員)が備えるべき判断軸について見ていきましょう。

経営者(取締役・執行役員)が備えるべき、意思決定のための判断軸

不透明・不安定な状況においては、経営者の意思決定の力がいっそう問われます。

皆さんは「意思決定のための判断軸」と聞いた際に、どのようなものを連想しますか? 多くの方は、個人として大切にしたい軸(個々人の価値観をベースにした軸)を想像するのではないでしょうか。

実は経営者(取締役・執行役員)が備えるべき軸は、もうひとつあります。自社ならではの考え方や意思決定プロセスを反映した「企業としての軸」です。

個々人の価値観については、経営者(取締役・執行役員)であれば、自身なりに明確化されている方が多いと思います。しかし各人が持っている価値観は、各々が大切にしたいことの幅が広く自由度が高いため、複数人のベクトルを合わせづらいという懸念があります。

そのため、「企業としての軸」 = 「企業・組織として大事にしたい価値観を踏まえた意思決定の軸」を備え、経営陣で共有しておく必要があるのです。しかし残念ながら、企業としての軸は企業風土・文化に近しいこともあり、多くの企業では明確に言語化されていません。まずは自社ならではの意思決定の軸を、明確に言語化する必要があります。

「企業としての判断軸」を、経営陣で揃えるためのプロセス

ここからは、「企業としての判断軸」を経営陣で揃えるためのプロセスをご紹介しましょう。プロセスは大きく3つ。STEP1:自社の軸の言語化、STEP2:自身の軸の言語化、STEP3:自社の軸と自身の軸との統合です(図3)。

図3:意思決定の軸を揃えるためのプロセス

STEP1:自社の軸の言語化

まずすべきことは、企業としての軸の言語化です。上述のように、意外と多くの企業で、自社の軸 = 自社として大事にしたい価値観を踏まえた意思決定の軸、は組織文化として根付いており、言語化されていないものです。普段行われる言動なので、感覚としてなんとなく掴んでいる、という方も多いのではないでしょうか。

自社の軸を言語化するには、まず、意思決定プロセスを棚卸しすることから始める必要があります。自社の意思決定プロセスであれば、すでに言語化されている場合があったり、まだ言語化されていなくても比較的言語化しやすかったりします。

その後、一般的・合理的な意思決定プロセスと、自社の意思決定プロセスとの差分を抽出し、両者の差分が何か? 差分は何故起きているのか? について考察します。一般的・合理的なプロセスと逸脱する部分にこそ、自社特有の軸が潜んでいるのです。

差分が顕在化された後は経営陣が車座で議論し、自社特有の軸を言語化・共有します。

STEP2:自身の価値観の言語化

続いて、自身の価値観について言語化を行います。例えば、自身がこれまでに行ってきた象徴的な意思決定の事例を振り返ることが効果的です。

自身が意思決定で重視してきたことを考え、個人としての判断軸の特性について理解を深めることで、自身の軸を明確にすることができます。

STEP3:自社の軸と自身の軸との統合

自社特有の軸と自身の軸を言語化した後は、2つの軸の統合が必要です。

価値観を言語化しただけでは、経営の意思決定の軸として確立したとはいえません。個人の軸と自社特有の軸を統合させることで、経営者(取締役・執行役員)として持つべき意思決定の軸を明確にすることができるのです。

経営者(取締役・執行役員)への研修をする上での注意点

最後に、経営者(取締役・執行役員)への研修をより効果的に実施するために、気を付けておきたいポイントを解説します。

  • 経営戦略と整合性を取る
  • 経営者(取締役・執行役員)の現状を適切に把握する
  • 目的と期待するゴールを明確にする

経営戦略と整合性を取る

研修内容が自社の経営戦略や課題と紐づいていることが重要です。研修では「役員の目指すべき姿」を、全社戦略との整合性を取りつつ、関係者と合意形成しながら決めていきましょう。

例えば会社として「グローバルへの進出」を掲げているのであれば、経営者(取締役・執行役員)に期待される役割にも「グローバル進出に向けたスキルがある」などの項目が必要です。この整合性がないと、経営者(取締役・執行役員)は「研修が経営にどう寄与するのか」をイメージできず、研修の実施自体を反対されかねません。

経営者(取締役・執行役員)の現状を適切に把握する

研修を行う前には、経営者(取締役・執行役員)の現状を適切に把握するようにしましょう。経営者(取締役・執行役員)が学び直しの必要性を感じていないケースや、能力開発の機会が他にあるケースでは、研修の実施は不要かもしれません。

そしてあるべき姿と現状のギャップを正確に分析し、そのギャップを埋めるための適切な研修内容を設計するようにしましょう。定期的に経営者(取締役・執行役員)のスキルとパフォーマンスを評価し、必要に応じて研修計画を見直すことも重要です。

目的と期待される効果を明確にする

経営者(取締役・執行役員)は基本的に多忙のため、研修に時間を費やす価値があることを示す必要があります。そのためには研修の具体的な目的と期待される効果を明確にし、参加者と共有して研修の意義を伝えるようにしましょう。人事担当者は経営者(取締役・執行役員)よりも立場が下であることが多く、どうしても研修の企画を進めにくいことがあります。役員研修の目的や便益を理解してもらえるように動くことで、スムーズに企画を進められるようになります。

最後に

本コラムでは、役員研修の目的や内容に加え、経営者(取締役・執行役員)に今後学んでいただきたいポイントとして、「意思決定の判断軸」を取り上げました。個人の判断軸を考えたことがある方は多いかもしれませんが、自社の判断軸との統合まで考えたことのある方は少ないと思います。

大きな環境変化が起きている今だからこそ、経営陣が大きな決断を迫られる機会は、ますます増えていくでしょう。その際に意思決定の軸が揺らいでいては、適切なかじ取りは行えません。本コラムが、皆さまの会社で経営者(取締役・執行役員)への研修を企画する際の一助になれば幸いです。

役員を対象とした合宿型研修の詳細はこちら 知名社中 役員が智と軸を磨き、使命を自得する転機の場

文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

執筆者プロフィール

3,300社以上の実績をもとに
実践性を追求した研修

経験豊富なコンサルタント

企業の戦略を実現できる人材の育成を、
短期~中長期まで段階的に設計してサポートします。

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