志を定め実行する経営リーダーを育成するためのポイント

2022.03.25

激変する事業環境を勝ち抜くためにも、経営の中核を担う経営リーダーには、多様なステークホルダーを巻き込み、高い成果を挙げることが求められています。グロービスでは、ステークホルダーを巻き込むカギの一つが「志(こころざし)」であると考え、志を持つ経営リーダー育成を進めています。

 

本コラムでは、志を育成する研修を企画・運営してきた筆者の経験を踏まえ、志を持つ経営リーダー育成のためのポイントを解説します。

志とは何か? なぜ経営リーダーに志が必要か?

皆さんが志と聞いて、頭に浮かぶものは何でしょうか。思い、使命、信念、自分を動機づけるものなど、頭に浮かぶものはさまざまだと思いますが、本コラムでは下記二つの志を総称した定義とします。

■小志:一定の期間、人生をかけてコミットできるようなこと(=目標)

■大志:一生涯を通じて達成しようとするもの(≒人生の目的)

(グロービス経営大学院著、“志を育てる”、2011年を参考に筆者加筆)

上記書籍では、実例をベースに小志(=目標)を積み重ねることが大志(≒人生の目的)に繋がると記されています。小志と大志で時間軸や難易度は異なるものの、志は人生の目的・一定期間の目標と言えるでしょう。

それではなぜ、経営リーダーに志が必要なのでしょうか?筆者は、2つの観点で必要と考えます。1点目は経営リーダー自身にとって必要であるという観点、2点目はステークホルダーを巻き込むために必要という観点です。一つずつ見ていきましょう。

 

1点目:志は、自分自身をリードするために必要

経営リーダーがリードするのは、他人ではなくまず自分自身です。

志とは、自身が何を大事にし、何を達成しようとしているかを明確にしたものです。そのような志は、経営リーダーがぶつかるであろう(大きな)困難を乗り越えるための、原動力になります。

 

2点目:志は、社内外のステークホルダーを巻き込むために必要

志は自分だけでなく、ステークホルダーを巻き込むためにも欠かせません。仮に能力が同じ場合、「会社や組織から言われたことを理由に行動するリーダー」と、「志(目的・目標)を明確に語り、周囲に働きかけながら行動するリーダー」では、後者の方が周囲の巻き込み度合いを高め、成果を挙げることは容易に想像がつくでしょう。

志が必要な理由は上記で確認しましたが、当然ながら志の内容も重要です。

志は自律性(自分で決めることができることの範囲や深さ)と社会性(自分ではなく社会のために)の二軸に分けて整理することができます(図1)。

図1:志の2つの方向性

図1:志の2つの方向性(引用:GLOBIS 学び放題、”志を育てる”、Section8、2022年2月に内容確認)

自律性が高く社会性も高い「自分が決めたみんなのための志」は、会社や組織から押し付けられたものではありません。経営リーダー自らが、内発動機を持って取り組む志(目的・目標)であり、かつステークホルダーの共感を呼び、結果として巻き込む力に差が生まれます。

そのため、リーダーは定めた志を磨き続け、自律性と社会性を高め続ける必要があるのです。

経営リーダーが志を定めるための4つのステップ

では、志を持った経営リーダーをどのように育てればいいのでしょうか。そこでのポイントは、志を「持つ」から始めるのではなく、志を「定める」から始めることです。定めるという言葉からは、既にあるものを明確にする、というニュアンスが想起されるのではないでしょうか。

ここでは、志を定めるためのステップとして、1. Wantを明確にする、2. Shouldの理解を深める、3. 志を定める、4. 志をアップデートする、を解説します。

 

1. 経営リーダーのWantを明確にする

まずすべきは、Wantの明確化です(図2)。経営リーダーは自身の内面と向き合い、Want(個人的に大事にしている価値観、やりたいことなど)を明確にするために、言語化に取り組みます。

図2:志を定めるステップその1

図2:志を定めるステップその1

その際に重要なことは、Should(会社の存在意義・方向性や、自分がやるべきこと・求められる役割)を一旦横に置き、自分の内面や過去・現在に向き合うことです。仮に、自身と向き合ってすぐにWantを明確に言語化できなくても、内側にWantの種は必ずあります。自身の経験を振り返り、感情のアップダウンや大事にしていたことに向き合い、言語化していきます。

 

2. Shouldの理解を深める

次にShouldの理解を深めます(図3)。経営リーダーの志は、組織の中で実行すべき目標として、企業の理念・ミッションと繋がっていることが重要です。

図3:志を定めるステップその2

図3:志を定めるステップその2

 

理解を深める例として、経営トップとの対話の場を持つ、自社の歴史(成功と失敗、社会に貢献してきたことなど)を振り返る。また、自社の製品やサービスが使われている顧客を訪問、対話し自社の提供価値を実感するなどにより、自社が目指すもの、社会的な意義・意味の理解を深めることも良いでしょう。

 

3. 志を定める

次に、志を定めるステップです(図4)。WantとShouldの重なりや関連性から、経営リーダーが本心から組織の中で成したい目的・目標を決めます。

図4:志を定めるステップその3

図4:志を定めるステップその3

ここで注意したいのは、自社と関連の薄い個人的目標を、志として定めないことです。個人的目標であれば、組織の中で実行する必要性が薄いからです。

戦略実行を担う経営リーダーが、自分の本心から自社の理念・ミッションを体現し、周囲に影響力を発揮している状況は、目指す姿の一つです。また、企業としては意図的にその状況を創るべきとも言えます。

 

4. 志をアップデートする

定めた志を磨き続けなければならないことは、前述のとおりです。では、志を磨くためにはどうすればいいのでしょうか。

方法の1つとして、周囲からフィードバックをもらうことが有効です。定めた志を基に日々行動し、結果や周囲のフィードバック(新たなインプット)を得て、更に次の行動を起こす。そのことが定めた志への自身の共鳴度・納得感の向上や、自分が心からやりたい志へのアップデートに繋がります。また、視座を上げ、視野を広げるための能力開発などの場や経験が、志のアップデートに繋がることも加えておきます。

志を持つ経営リーダー育成の難所と解決策

最後に、志を持つ経営リーダー育成の難所と解決策を見ていきましょう。

難所1. 一人で考える「だけ」では自己認識は深まりにくい

皆さんも過去(例えば就職/転職活動時)に、内省や自己分析が難しいと感じた経験があるのではないでしょうか。自分一人だけでは、あいまいな問いに延々と向き合ってしまい、思ったように自己認識が深まりません。また、常に忙しさを抱える経営リーダーにとっては、自身に向き合う時間を取ることも容易ではありません。

解決策1. 周囲と対話する

解決策の一つは、心理的安全性が確保された場での周囲との対話です。他者から質問をもらい考えを深め、答える中で、自身の考えに気付きます(オートクライン効果*)。また、他者との対話の中で自他の差を認識し、自己認識が深まりやすいという効果もあります。そのような場は、経営リーダーの自己認識を深める助けとなるでしょう。

*オートクライン効果:コーチング用語で、自分が話した言葉(内容)を自分で聞くことによって、自分が考えていたことに気づくことを意味する

 

難所2. 強い役割意識から、Shouldを志と勘違いしてしまう

経営リーダーが今のポジションにいる理由の一つとして、これまで組織で挙げてきた実績があります。であるが故に、自身の役割・責任の全うに尽力する方は多いでしょう。また、これまでの「組織人」としての経験から、自分のやりたいこと・思い(Want)を社内で表現することが苦手な方が、一定数いるのも事実です。

結果としてShould(求められること・役割)が自身の志であると思いこみ、半ば無意識的に「会社から与えられた役割を愚直に実行する」リーダーになる可能性があるので、注意が必要です。

解決策2. 思考と行動を繰り返しながら、志を認識・アップデートする機会をデザインする

「志を定めるステップ」にも記載しましたが、志は定めた後に磨き続ける必要があります。志の実現のために、日々行動し、周囲からフィードバックを得ます。その中で、Shouldと志の違いに気づき、定めた志のアップデートに繋がると筆者の経験からも言えます。

一方、忙しい経営リーダーが自覚的に、自発的にそのサイクルを回す難易度は高いと言えます。そのため、人事/経営企画などの部門が、それらの場(研修など)を企画することも有効となるでしょう。

最後に

激変する事業環境において、経営リーダーはこれまで以上に多様なステークホルダーを巻き込み、成果を挙げることが求められます。そのカギの一つが、「志」です。多忙な経営リーダーにとって容易なことではありませんが、志を定めることは必ずや経営リーダー自身の力にもなります。本コラムが、経営スキルに加え、志を持つ経営リーダー育成の参考になると幸いです。

執筆者プロフィール
風間 信宏 | Nobuhiro Kazama
風間 信宏

グロービス経営大学院 経営研究科経営専攻修了
学位:経営学修士(MBA)(成績優秀修了者)
大学卒業後、富士ゼロックス株式会社に入社し、国内外での複合機及びソリューションのセールス及びマーケティング業務に従事。
グロービスに転じた後は、人材・組織開発コンサルタントとして、大手企業を中心に、経営リーダー育成、経営課題提言のアクションラーニング、新規事業立案などのプロジェクト企画・実行支援などに従事している。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。